寡頭制の鉄則(かとうせいのてっそく、: ehernes Gesetz der Oligarchie: iron law of oligarchy)とは、一定規模以上の社会集団において、少数者による多数者に対する支配が必然的に実現されるというもので、ドイツの社会学者ロベルト・ミヒェルス(ロベルト・ミヘルス)によって提唱された概念である。

理論成立の背景 編集

ミヒェルスは学生時代より社会主義運動へ傾倒し、無階級の平等社会実現を目指して活動をしていたが、彼が参加したドイツ社会民主党(SPD)が、当時(20世紀初頭)において最も民主的とされ、革命によって真の平等社会を実現するとしながら、指導の名の下で少数の党幹部による党員の組織化・支配が行われている状況を目の当たりにすることになる。そのような中で、彼はいかなる組織・集団においても少数者支配(寡頭制化)は避けられない現実だという結論を導き出すことになった。

ミヒェルスの寡頭制理論は、ガエターノ・モスカヴィルフレド・パレートマックス・ヴェーバーなどの政治学者社会学者によって示されたエリート論・組織 (社会科学)論の影響の下で、SPDでの経験とヨーロッパにおける他の社会主義政党・労働組合などの大衆組織の研究を通じて定式化された。

彼の政党・大衆組織の研究は『現代民主主義における政党の社会学』(1911)としてまとめられ、発刊後数多くの批判を受ける一方で、「パレートの法則」とならぶエリート論として大きな注目を集めて高い評価を得ることとなった。

理論の概要 編集

  • あらゆる組織・集団共同体団体)は、規模が拡大すれば必ず少数の指導者による支配が実現される。
  • 組織・集団は、目的を実現するために多数の成員を集め、社会における発言権を強化しようとする。
  • 成員が増加して規模が拡大していくにつれて、巨大な組織・集団の運営が複雑化・専門化していく(官僚制化)。
  • 一般の成員は、複雑化・専門化した組織・集団を管理する技能を持たないため、少数の指導者たちに運営を任せ、依存するようになる。
  • このことが少数の指導者たちが強大な権限を確保させ、一般成員の支配を可能とする。
  • そして指導者たちは、地位を保持するために、自らを批判する者たちを排除しようとする(このことをミヒェルスはボナパルティズムと呼んでいる)。指導者らは、自らが一般の成員から選ばれたことを根拠にして、自らが民主制に則っていると主張する。そのうえで、批判する者を「反民主的」ないし「反体制的」「社会転覆を画策している」などのように中傷する。
  • さらに一般成員からの批判に対しては、指導者が辞意を表明して組織崩壊を暗示させることにより批判をねじ伏せ、その地位を強化していく。
  • たとえ、一般成員の批判によって既存の指導者たちが辞任に追い込まれても、結局は指導部が入れ替わるだけで、本質的に寡頭制のしくみ自体は変わることがない。

以上の事柄は、巨大化した組織・集団が目的を実現するためには強い団結と統一した集団行動が必要不可欠となり、その結果一般成員(大衆)は、少数の指導者に強大な権限を与え、それに服従しなければならなくなるということを示している。つまり、民主主義・平等社会実現のために、組織・集団内において民主主義平等主義を捨て去らねばならないということである。

したがって、少数者による支配はあらゆる組織・集団において貫徹される不可避の鉄則となるというのが、ミヒェルスの寡頭制理論の概要である。

参考文献 編集

  • ロベルト・ミヘルス(森博、樋口晟子訳)『現代民主主義における政党の社会学-集団活動の寡頭制的傾向についての研究』(木鐸社)
Robert Michels, Zur Sociologie des Parteiwesens in der modernen Demokratie - Untersuchungen über die Oligarchischen Tendenzen des Gruppenlebens. (1957) ISBN 4833200058