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専用計算機(せんようけいさんき)とは特定の用途の計算に特化した計算機である。

概要編集

一般的な汎用のコンピュータ、特にSystem/360(1964)以降に設計された命令セットアーキテクチャを実装しているコンピュータは、あらゆる用途に対応できる半面、計算機としては、高性能なコンピュータが欲される用途である計算科学のように、少々複雑なこともあるが同じ式で表される計算を大量に繰返すなどの用途には、必ずしも性能対価格比的に優れているとは限らない。いわゆるスーパーコンピュータ数値計算の性能だけを特に高めたコンピュータであるが、それでも基本的にはあらゆる数値計算を対象としている点は変わらない。専用計算機は、汎用性を犠牲にして何らかの特定の計算用途に特化することで性能対価格比を高めた、目的を限定した数値計算専用の計算機である(数値計算以外の専用計算機もあるが、多くは数値計算用である)。

発想としては必ずしも新しいわけではない。デジタルコンピュータ以前からあるアナログ計算機はほぼ全てがある種の専用計算機のようなものであるし、Colossusなどの暗号解読のための機械たちもそうである。19世紀に発明されたタビュレーティングマシンパンチカードマシン)も、統計的データの集計などの専用計算機と言えるかもしれない。また前述のように1964年に「360度の用途に対応」としてSystem/360が登場する以前の黎明期のコンピュータは、「科学技術計算用」か「事務処理用」の、どちらかに寄った設計とするのが通例であった(不向きな用途の計算や処理が、不可能というわけではないが、プログラミングや実行効率の点で大きく不利となる)。

Cray-1(1975年発表、1976年出荷)によりHigh-Performance Computing(HPC)という分野が確立された後の例としては、オランダのデルフト工科大学のA.F バッカー達によって1979年から1981年にかけてイジングモデル専用のDISP (Delft Ising System Processor)が開発され、1982年には分子動力学に特化した計算機であるDMDP (Delft Molecular Dynamics Processor)を開発する試みがあり、1990年にATOMSが製作された[1]。アメリカではR.ファインらによってFASTRUNが開発され[1][2]マサチューセッツ工科大学ジェラルド・ジェイ・サスマンのグループによってDigital Orreryが開発された。日本では1980年代にFX型デジタル分光相関器QCDPAXイジングモデル専用のm-TIS(mega-flippable model of Tokyo university Ising Spin machine)、重力多体問題に特化したGRAPEが開発され、2000年代初頭にはDEGIMAが開発された[1][3]。2008年にはD. E. Shaw Researchによってアントンが開発された。特定の用途に特化した仕様なので市場が小さいため、規模の経済の利点を享受出来ず市販品は限定的な普及に留まった[4][5][6]

デジタルシグナルプロセッサや画像処理に特化したGraphics Processing Unit(GPU)も専用計算機の一種といえる。これらの応用は広く、DSPを3Dグラフィックスのジオメトリ演算に使用した例(ナムコのSYSTEM21など)があり、GPUについてはGPGPUは近年発展の著しい分野である。

FPGAによる再構成可能コンピューティングは、暗号化動画の圧縮、伸張、画像処理ニューラルネットワーク処理などの専用回路を、ASICと比較すれば性能は数段以上劣るものの、ASICと違いその場で構成可能である[7][8]。なお一例としてマイクロプロセッサとの比較では、電力当たりの性能を比較した場合、検索処理では約10倍、複雑な金融モデルの解析では実に約25倍もFPGAの方が性能が高いとする報告がある[9]

実例編集

DMDP編集

DMDP (Delft Molecular Dynamics Processor)は1982年にランダのデルフト工科大学のA.F バッカー達によって分子動力学に特化した計算機として開発された[10]

m-TIS編集

m-TIS(mega-flippable model of Tokyo university Ising Spin machine)はイジングモデル専用の計算機で約10万円で作られたが、性能はDISPとほぼ同じだった。ホストコンピュータが計算全体を制御するシーケンサとして働く概念は後のGRAPEに継承された。

DREAM編集

DREAM (Disk REsource Array Machine)は数値流体シミュレーション用の専用計算機

Digital Orrery編集

Digital Orreryは惑星の運行を再現する専用計算機、マサチューセッツ工科大学ジェラルド・ジェイ・サスマンのグループによって開発された。

GRAPE編集

GRAPEは多体問題専用の計算機。1989年9月に最初の GRAPE-1 が完成した。

脚注編集

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  1. ^ a b c 杉本大一郎『手作りスーパーコンピュータへの挑戦 テラ・フロップス・マシンをめざして講談社ブルーバックス、1993年2月20日。ISBN 9784061329560
  2. ^ Srinivas Aluru (2007年). High Performance Computing - HiPC 2007. Springer Science & Business Media. pp. 188. ISBN 9783540772194. 
  3. ^ 近田義広 天文・天体物理若手夏の学校集録 p.9
  4. ^ K&F Computing Research 製品情報 : 科学技術計算向け加速ボード GRAPE-DR
  5. ^ 専用計算機は?
  6. ^ 作るか買うか∼専用計算機に未来はあるか
  7. ^ インテル、FPGA大手のアルテラ買収を完了
  8. ^ 他の可能性は? --- I. FPGA と再構成可能計算
  9. ^ インテル「2兆円買収」で手に入れる3つの未来
  10. ^ Alder, Berni J, ed (2014年). Special purpose computers. Vol. 5. Academic Press. pp. 183. ISBN 9781483266985. 

文献編集

関連項目編集