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年縞(ねんこう、: varve)とは、長い年月の間、湖沼などの底に堆積した土などの層が描く特徴的な縞模様の湖底堆積物のこと[1]年縞堆積物(ねんこうたいせきぶつ)とも称される。英語の varve に対して、国際日本文化研究センター(日文研)の安田喜憲名誉教授がつけた訳語である。

湖底には春から夏はプランクトンの死骸、また珪藻が繁殖して堆積することで白い色の層ができる、また秋から冬は粘土鉱物が堆積することにより黒い色の層が湖底に積みあがっていく。この白と黒のバーコード状の縞模様が1つの組み合わせで1年を表す。これは樹木年輪と同様で1対の縞模様が1年の時間単位を表すことで、精度の高い環境変動のデータを得ることができる。

目次

年縞の特徴編集

年縞の中を解析すれば花粉やプランクトン、火山灰黄砂などが含まれているため、過去の気温水温などの気候変動を年単位で分析することが可能である。堆積物の量や内容で自生していた周辺の植生の変化、洪水地震の回数、またその周期などの精度の高い変化過程の正確なデータが得られる。

なお、地層では、地表に露出する部分を中心に侵食作用や地殻変動、人間による開発の影響を受けることから、必ずしも水平方向には連続していない。また、年縞のよう1年周期での積層にはなっていないため、これらの点においても年縞での年代測定は精度が高く有効である。

世界の年縞編集

日本での年縞編集

水月湖の年縞編集

水月湖は、福井県三方上中郡若狭町にある三方五湖の一つで、面積4.06km2(五湖中最大)、周囲9.85km、最大水深38.0mの汽水湖である。水月湖は水深が深く湖内に直接流れ込む大きな河川がないため、その流入などで湖底の堆積物がかき乱されることがないため、年縞が1枚ずつきれいに積み重なっている状態が保たれている[3]。また、湖底に酸素がないため生物がほとんど生息しないことで、年縞がありのまま残っていたこと。さらに好条件となった背景には湖周辺の断層の影響で、湖の底面が堀下がる沈降現象が続いており、湖底に毎年堆積物が積もって湖が埋まらないという特異な条件が揃っており、水月湖の年縞は現在では「奇跡の堆積物」と呼ばれる。

この水月湖の調査は1991年(平成3年)から開始された[4]。2006年(平成18年)に始まったボーリング調査では湖底の堆積物は70m以上の深度まで及ぶため、技術的に1本の連続した試料として掘り出すことが不可能であった。このため、最終的に別々な4カ所の穴からそれぞれ長さ1m程度のコア(芯)を掘り出し縞模様のパターンマッチング(採取場所の異なる複数の短いコアを連続にする為の作業)を行い1本の土の層に復元する事で総延長70mにも及ぶコアが掘削された。これは過去約16万年分の連続した土を採取できたこととなり、その1mmの抜けもない完全連続したこのコアサンプルは「SG06」(水月湖06年の略号)と呼ばれる[5]。以降、日本、イギリスドイツなどの共同研究チームが分析を進めて放射性炭素14炭素12の比率を調べることで、最終氷期以降の[6]の11,200年- 52,800年前にわたる過去約5万年間の放射性炭素年代測定を行ない、その研究成果を学術雑誌サイエンス』誌に発表した。過去に例を見みない、誤差が約5万年で170年程度という精度の高さから、この水月湖の年縞からのデータは2012年(平成24年)7月13日にフランスユネスコ本部で開催された世界放射性炭素会議総会(International Radiocarbon Conference)で地質学的年代決定での事実上の世界標準となった[7][8]。水月湖の年縞を基準として、放射性炭素年代測定の結果を西暦に当てはめるこの国際較正曲線を「IntCal13」と呼称している[9]

世界的な気候変動の変遷[5]・メカニズム解明[10]、大陸から飛来する風砂塵[11][12]、日本海で生じた津波[13][14]、周辺地域の地震研究[15][14]など様々な分野の研究に用いられ、今後も他分野への利用が期待されている[4]


一ノ目潟の年縞編集

一ノ目潟(いちのめがた)は、秋田県男鹿市にある直径600m、最大水深44.6m、面積0.26km2[16]の火口湖である。2007年(平成19年)7月26日には国の天然記念物となっている。一ノ目潟もまた水月湖と同様に水深が深く、流入流出河川がない。一ノ目潟の調査は2006年(平成18年)と2011年(平成23年)に実施された。過去3万年にわたる日本海東縁部の大規模地震活動の履歴を詳細に復元できる資料とされている[17]

波根湖の年縞編集

東郷池の年縞編集

脚注・出典編集

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  1. ^ 第10回環境サイエンスカフェ 7万本の縞模様と70万粒の花粉-水月湖の土が語る気候変動7万年の歴史 P.4 (PDF) (2013年6月26日時点のアーカイブ) - 日立環境財団(現・日立財団)HP
  2. ^ 「水月湖 年縞」ハンドブック”. 福井県. 2018年5月13日閲覧。
  3. ^ 中川毅 『人類と気候の10万年史』 講談社、2017年、90頁。ISBN 978-4-06-502004-3
  4. ^ a b 安田喜憲、「年縞環境史による国際貢献」 学術の動向 2010年 15巻 1号 p.1_46-1_59, doi:10.5363/tits.15.1_46
  5. ^ a b 中川毅、「水月湖年縞堆積物が示唆する気候変動の原因論」 日本地球化学会年会要旨集 2014年度日本地球化学会第61回年会講演要旨集 セッションID:3D06 , doi:10.14862/geochemproc.61.0_234
  6. ^ 北川浩之、中村俊夫、福沢仁之、「水月湖湖底・年縞堆積物のAMS-<14>^C年代」 名古屋大学加速器質量分析計業績報告書 1995年 6巻 p.27-42, doi:10.18999/10.19999/sumrua.6.27
  7. ^ 第10回環境サイエンスカフェ 7万本の縞模様と70万粒の花粉-水月湖の土が語る気候変動7万年の歴史 P.12-P.21 (PDF) (2013年6月26日時点のアーカイブ) - 日立環境財団(現・日立財団)HP
  8. ^ 日本人の活躍で5万2800年前まで遡れる年代目盛りが完成 - Scienceが会見(2012年10月23日時点のアーカイブ) - マイナビニュース、2012年10月22日。
  9. ^ 福井県と立命館大学による研究等に関する基本協定を締結~世界で最も正確な年代測定の世界標準スケールである水月湖年縞の研究を推進させる~立命館大学(2019年2月16日閲覧)。
  10. ^ 北川淳子、「気候変動メカニズム解明の鍵となる水月湖年縞堆積物の高精度な環境変動記録 (特集 「世界標準時計」となった水月湖の年縞と気候変動)」 環境管理 52(9), 26-29, 2016-09, NAID 40020960101
  11. ^ 鈴木克明,多田隆治,中川毅 ほか、「福井県水月湖堆積物中の砕屑物起源推定と寄与率変動復元」 日本地質学会学術大会講演要旨 第120年学術大会(2013仙台)セッションID:R22-O-17, doi:10.14863/geosocabst.2013.0_329
  12. ^ 長島佳菜,鈴木克明,入野智久 ほか、「水月湖堆積物が記録するアジアダスト輸送の十年スケール変動」 日本地球化学会年会要旨集 2015年度日本地球化学会第62回年会講演要旨集 セッションID: 1D12, doi:10.14862/geochemproc.62.0_67
  13. ^ 山田和芳,齋藤めぐみ,原口強, ほか、「地震津波検出計としての湖沼年縞堆積物の有効性」 日本地理学会発表要旨集 2012年度日本地理学会春季学術大会 セッションID:627, doi:10.14866/ajg.2012s.0_100039
  14. ^ a b 齋藤めぐみ,山田和芳,リチャード・スタッフ ほか、「水月湖ボーリングコアを用いた天正地震(AD1586)前後の湖底堆積物の分析」 地学雑誌 2013年 122巻 3号 p.493-501, doi:10.5026/jgeography.122.493
  15. ^ 福沢仁之、「湖の地層が語る古地震史 : 地層からの解析方法」 日本地質学会学術大会講演要旨 第104年学術大会(97'福岡)p.35-, doi:10.14863/geosocabst.1997.0_35
  16. ^ 文化遺産オンライン
  17. ^ 安田喜憲ほか「男鹿半島、一の目潟マール堆積物の湖沼年縞と過去100年間の自然災害・人間活動史 (PDF) 」 - 公益財団法人国土地理協会、2011年8月26日。

関連項目編集

外部リンク編集