循環小数
循環小数(じゅんかんしょうすう、recurring decimal, repeating decimal)とは、ある桁から先で同じ数字の列が無限に繰り返される小数のことである。繰り返される数字の列を循環節という。
より細かく、小数第一位から循環が始まる類を純循環小数(pure recurring decimal)、小数第二位以降から始まる類を混合循環小数 (mixed recurring decimal) といい、混合循環小数は冒頭の有限小数とそれ以降の循環小数の二つに分離して考えることができる[1]。
循環節編集
十進法で最も簡単な循環小数として 13 = 0.3333… がある。これは小数点以下「3」が無限に続くので、この循環節は 3 である。循環節は長さが最小で最初のものをとるとし、つまりこの例では「33」や「333」でなく「3」とする。循環節の末尾が 0 になることもある。例えば、十進法の 2633 = 6427 = 2.370370… においては、循環節は「37」ではなく「370」となる。
循環節の先頭は、小数第二位以降に来る場合もある。例えば、十進法の 5108 = 0.04629629… の循環節は、小数第三位からの「629」となる。
同じ数に対してでも、何進法で表示するかによって表示は変わる。例えば、23 を二進法の小数で表すと、0.101010… であり、循環節が 10 の循環小数である。他にも、六進法の 15 = 0.1111… であり、循環節が 1 の循環小数である。二十進法の 4B (十一分の四) = 0.7591G7591G… であり、循環節が 7591G の循環小数である。
有限小数も循環小数の一つであり(後述)、例えば六進法の 15 = 0.20000… や十進法の 14 = 0.250000… なども、「0」を無限に繰り返す循環小数である。ただし、有限小数になって循環節が 0 だけになる場合は、「0」を明記する必要はない。
他の小数との比較編集
有限小数編集
有限小数も循環小数として表すことができる。つまり有限小数は循環小数(無限小数)の特別な場合と見ることもできる。ただしその循環小数表示は一意でない。一般に、正の実数について、有限小数は二種類の循環小数で表せ、逆に、二通りに小数表示できるのはその一方が有限小数である場合に限る。
一つには、循環節は 0(0桁という意味でなく、繰り返し単位が「0」)と考えることができる。もう一つは、有限小数の(0 でない)末尾を 1 減らし、それよりあとの位を全て「基数 − 1」にするというものである。
例えば、1 は 1.0000… と表せ、これは循環節が 0 の循環小数である。一方、末尾の 1 を 1 減らして 0 にし、それよりあとを全て 9 にした 0.999... に等しいとも考えられる。これは循環節が 9 の循環小数となる。
0.9999… = 1 は以下のように証明できる。
- x = 0.9999…とする。
- 10x = 9.9999…
- 10x − x = 9.9999… − 0.9999…
- 9x = 9
同じく、十二進法の 13 は小数表示が 0.4 であるが、これは 0.4000… ということであり、循環節が 0 の循環小数である。一方、0.3BBB… とも考えられ、これは循環節が B(十一)の循環小数となる。
同様に、二十進法の 15 も通常 0.4 と表すが、これは 0.4000… ということであり、循環節が 0 の循環小数である。一方、0.3JJJ… とも考えられ、これは循環節が J(十九)の循環小数となる。
有理数が有限小数表示を持つのは、十進法表示なら、分母の素因数が 2, 5 のみであるときに限る。一般の N進法表示では、分母の素因数が N の素因数になっていることである。例えば、十八進法なら分母の素因数が 2, 3 のみであるときである。
無理数編集
小数部分が循環しない小数は循環小数より多く存在し、これを無理数という[2]。例えば円周率や2の平方根が挙げられる。有理数は循環小数で表せ、逆に、循環小数で表せる実数は有理数に限る[3]。
表記法編集
循環節を明示する表記法がいくつかある。一つには、循環節が繰り返される様子を、循環節の首位と末尾のそれぞれの上に点を付けて表す方法である。例えば 1.2345345… では、循環節は 345 であるため
と表す。他に、循環節を上線または下線で指定したり、括弧ではさんで指定する方法もある。例えば、1.2345, 2.2234 や 2.2(234) といった表記である。
循環節は整数部にかかってはならない。つまり、10011 = 9.09090… = 9.09 を 9.0 としたり、100011 = 90.9090… = 90.90 を 90 としてはならない。
分数表現との関係編集
無限小数は、厳密には極限の概念を用いて定義される。特に、循環小数が表す数は無限等比級数、すなわち等比数列の和の極限と見なすことができ、ゆえに有理数である。例えば、
である。
一般には、冒頭の循環していない有限小数部分を分離し a とおき、循環部分の循環節の部分だけ取り出した小数部分を b、循環節の長さを n とすれば
となる。ところで、級数部分の総和は
であるから
となることが分かる。この方法をロバートソン (J.Robertson, 1712-1776) の方法という[1]。
やや厳密さに欠ける説明として、以下のようなものがある。
- x = 2.423423423…
とおく。両辺を1000倍すると、「1000倍すると小数点は3桁右に移動するから」
- 1000x = 2423.423423…
辺々引くと「循環部分が打ち消しあって」
- 999x = 2421
となる。よって、x = 269111 が分かる。「 」の主張が正しいことが曖昧であるが、無限等比級数の値の計算と同等であることからこの計算は正当化される。
循環節の長さ編集
素数の逆数編集
2 と 5[4](一般には、基数の約数たる素数)以外の素数 p の逆数の循環節の長さは、p − 1 の約数である。有限小数の循環節の長さを1とするなら、2 と 5(基数の約数たる素数)もこの条件を満たす。
このことは、1p の循環節の長さが k であることと、10k ≡ 1 (mod p) が同値であることから、初等的な群論より導かれる。
これがちょうど p − 1 となるような素数 p は、小さな順より(2を除いて)
- 7, 17, 19, 23, 29, 47, 59, 61, 97, …(オンライン整数列大辞典の数列 A1913)
である。このような p に対する 1p の循環節は、巡回数となる。例えば、17 の循環節 142857 や、117 の循環節 0588235294117647 は巡回数である。
素数を、逆数の循環節の長さが奇数のものと偶数のものに分けると、23 が偶数、13 が奇数である(より厳密な表現では、N 以下の素数について数え上げた場合の N → ∞ への極限がその比率となる)。
一般の有理数編集
10 と(一般には基数と)互いに素な自然数 n の逆数の循環節の長さは、カーマイケルの定理のλ関数を用いた場合、たかだか λ(n) 桁である。また有理数を整数倍したり、分母 n に対して基数に含まれる素因数を掛けた場合、循環節の長さが増すことはない。
N進法による差異編集
- 必ず循環小数になる例
- N進法表示において、1N − 1 の小数は必ず 0.1111… になる。九進法だと 18 が 0.1111… になり、十進法だと 19 が 0.1111… になる。
- 乗算表の最後に来る (10-1)2 の逆数は、整数第二位に来る数が抜けて、(10-1)桁の循環小数になる。例えば、六進法だと「五五・四六一」なので52の逆数は 141 = 0.01235… となり、4が抜けて循環節は5桁になる。九進法だと「八八・七九一」なので82の逆数は 171 = 0.01234568… となり、7が抜けて循環節は8桁になる。
- 複数桁で一の位が1の数を逆数にすると、循環小数になる。例えば、十二進法だと 131 = 0.03A85232B…になり、十六進法だと 121 = 0.07C1F…になる。
- 循環節が短くなる例
循環節の短さは、10-1 並びに 10n-1 を素因数分解した時にどんな数が来るかによって決まる。
循環節の求め方編集
定義に則った方法編集
最も素朴には、充分な桁数の小数表記を求め、その繰返し周期を見つける。同様に、有限小数の桁数も、素因数分解した時の大きい方の冪指数によって決まる。
ただし、同じ数字の並びが表れてもより長い周期の一部かもしれない(たとえば 1212123⁄9999999 = 0.1212123 の循環節を 12 と求めてしまうかもしれない)ので、循環節の長さの上限を事前に知っておかなければならず、それだけの桁数まで求めて初めて、循環節を求められる。上限としては#一般の有理数にて挙げたものがあるほか、素因数分解の手間をかけたくなければ「分母 - 1」が使える。
<例1>
十進数の 13456 の循環節は、素因数分解すると3456 = 27×33 なので、7桁の後に3桁の循環節が来る。よって、13456 = 0.0002893518… となる。
一方で、十進数の 3456 は六進数だと 24000 だが、素因数分解すると 24000 = 211×33 となるので、分子が 34で、116桁 = 7桁の有限小数になる。よって、124000 = 0.0000213 となる。
<例2>
十進数の 1891 の循環節は、891 = 34×11 なので、3-4と111の循環節の長さを掛けたものになる。十進数では3-4は32桁、111 は2桁の循環節なので、32×2 = 1810桁の循環小数になる。よって、 1891 = 0.001122334455667789… となる。
一方で、十進数の 891 は十八進数だと 2D9 で、素因数分解は 2D9 = 34×B となる。10 = 2×32なので、1B の循環節は1010桁に対して、3-4は 4桁ではなく2桁に縮まり、2桁の後に1010桁の循環節が来る。よって、12D9 = 0.0069ED1B834G… となる。
筆算編集
割り算を筆算で求めれば、余りに同じ数が現れた時点で、繰り返しに入ったことがわかる。例えば、十進法の 17 を小数表示する場合、次のような計算を行う。
0.142857 7 ) 1.000000 7 30 28 20 14 60 56 40 35 50 49 1
これ以降は同じ計算の繰り返しとなるので、17 = 0.142857 であることが分かる。この例では、1 を 7 で割った商と余りを計算することを繰り返している。
別のN進法でも、筆算によって循環小数が現れる。六進法の 141(= 5-2 = 十進法の 125)を筆算で小数表示する場合、次のような計算を行う。
0.01235 41 ) 1.00000 41 150 122 240 203 330 325 1
これ以降は同じ計算の繰り返しとなるので、141 = 0.01235 であることが分かる。この例では、整数を 41 で割った商と余りを計算することを繰り返している。
被除数が1以外の場合も、同じように筆算で循環小数が現れる。割り切れる例も併載する。例として、被除数を 28、除数を 33とする。
十六進法の 100 ÷ 1B(28 ÷ 33、十進法だと 256 ÷ 27)
9.7B425ED097B 1B ) 100.00000000000 F3 D 0 B D 1 30 1 29 70 6C 40 36 A0 87 190 17A 160 15F 100 F3 D0 BD 130 129 7
被除数が除数より大きい例だが、整数部分を含めて「97B」が2回現れているので、これ以降は同じ計算の繰り返しとなり、100÷1B = 9.7B425ED09 となり、小数部分は9桁の「7B425ED09」が繰り返されることが分かる。この割り切れない「0.7B425ED09」を分数化すると、十六進法で D1B、十進法で 1327 となる。
六進法の 1104 ÷ 43(六進冪指数だと 212 ÷ 33、十進法だと 256 ÷ 27)
13.252 43 ) 1104.000 43 234 213 21 0 13 0 4 00 3 43 130 130 0
小数部分が3桁の「252」で終わって、1104÷43 = 13.252 となる。割り切れる小数「0.252」に相当する六進分数 2521000 は、十六進法で 68D8、十進法で 104216 となり、既約分数にすると六進法で 2143、十六進法で D1B、十進法で 1327 となる。
一般に、a を b で割る筆算では、ある整数を b で割った商と余りを計算することを繰り返すが、b で割った余りは 0 から b − 1 の b 通りしかないため、余りが 0 になって計算が終わるのでなければ、必ずどこかで同じ余りが出現して同じ計算の繰り返しとなる。ゆえに、有理数を小数表示すると循環小数になる。この方法では循環節の長さの上限を事前に知っておく必要はないが、「分母 − 1」以下であることがこれによりわかる。
素数の逆数の場合編集
基数に素因数として含まれない素数 p の逆数に対しては、循環節を m 桁とすると 10m - 1 は p で割り切れ、商が循環節となるので、p - 1 の約数それぞれに対し 10m - 1 が p で割り切れるかを試せばよい。m が小さい順に試せば、計算量を節約できる(たとえば 1⁄3 = 0.333… に対しては 3 (m = 1) も 33 (m = 2) もこれを満たすので、小さい順でなければならない)。
脚注編集
- ^ a b 吉田武 『新装版オイラーの贈物』 東海大学出版会、2010年、14頁。ISBN 978-4-486-01863-6。
- ^ 小平邦彦 2003, pp. 14-15.
- ^ 小平邦彦 2003, p. 5.
- ^ 循環節 県立松戸高等学校 広川久晴
参考文献編集
- 小平邦彦『軽装版 解析入門Ⅰ』岩波書店、2003年4月22日。ISBN 4-00-005192-X。