整理解雇(せいりかいこ)とは、解雇の種類の中の「普通解雇」に属するもので、法律上の用語ではなく、裁判での判例により浮上してきた労働慣例での用語である。事業を継続することが困難な場合に行う人員整理としての使用者からの労働契約雇用契約)の解除のことを指す。

意義編集

労働慣習で狭義の意味での「整理解雇」の目的は、事業の継続が思わしくないことを理由に再建策(リストラ)を行なわれなければならないのであるが、その中の人員整理について行うことで、事業の維持継続を図ることである。一般に普通解雇や懲戒解雇は、従業員側にその理由があるが、整理解雇は会社側の事情にもとづくものである。

この用語や定義ができたのは、過去の判例の積み重ねによる「整理解雇の四要件」によるものであり、法律や規則の正式な用語ではないが、その後の実務に大きな影響を及ぼしている。そのため使用者が単に事業が思わしくないだけの理由で解雇しようとしても認められないことがある。終身雇用制や年功序列賃金を前提としてきた日本型雇用慣行において、落ち度のない従業員を経営上の理由で辞めさせる整理解雇は、雇用に関する労働者の期待を裏切るものであり、その生活や将来設計に大きな影響を及ぼす。そのため、使用者側には厳格な法的制約が課せられる。

整理解雇を行うに当たっては、まず一般的な解雇の手続きとして、常時10人以上の労働者を使用する事業場については就業規則に「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」について記載しなければならない(労働基準法第89条)ため、整理解雇に関する事項を就業規則に明記しなければならない。そのうえで、「整理解雇の四要件」を満たす必要がある。

整理解雇においては、相当数の労働者が同時に解雇される場合が多く、社会的にも大きな影響が生じる。使用者は、30人以上の雇用変動が生じる場合に、事前に厚生労働大臣大量離職届を届け出なければならない(実際の届出先は都道府県労働局長。労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第27条)。もっとも大量離職届は雇用促進政策との関係で設けられた公法的義務であり、私法上の解雇を法的に制限するものではない。

整理解雇の四要件編集

整理解雇の要件について東洋酸素事件(東京高昭和54年10月29日)で以下の四要件が示された。

  1. 人員整理の必要性
    余剰人員の整理解雇を行うには、削減をしなければ経営を維持できないという、企業経営上の高度な必要性が認められなければならない。
    人員整理は基本的に、労働者に特別責められるべき理由がないのに、使用者の都合により一方的になされることから、必要性の判断には慎重を期すべきであるとする。
  2. 解雇回避努力義務の履行
    期間の定めのない労働契約においては、人員整理(解雇)は最終選択手段であることを要求される。
    例えば、役員報酬の削減、新規採用の抑制、残業制限、希望退職者の募集[1][2]、配置転換[3]出向等により、整理解雇を回避するための経営努力がなされ、人員整理(解雇)に着手することがやむを得ないと判断される必要がある。
  3. 被解雇者選定の合理性
    解雇するための人選基準が合理的で、具体的人選も合理的かつ公正でなければならない。例えば勤務成績を人選基準とする場合、基準の客観性・合理性が問題となる。
    人件費削減の方法として、人件費の高い労働者を整理解雇するとともに、他方では人件費の安いほぼ同数の労働者を新規に雇用し、これによって人件費を削減することは、原則として許されない(泉州学園事件、大阪高判平成23年7月15日)。
    正社員に先んじて有期雇用の労働者を人員整理の対象とすることを、判例は肯定するが(日立メディコ事件、最判昭和61年12月4日)、有期雇用であっても解雇法理は適用されるので、これらの者にも四要件に準じた判断は必要である[4]
  4. 手続の妥当性
    整理解雇については、労働者に帰責性がないことから、使用者は信義則上労働者・労働組合と協議し説明する義務を負う。労働協約等に解雇協議条項が存在するかどうかにかかわりなく要求される。特に手続の妥当性が非常に重視されている。例えば、説明・協議、納得を得るための手順を踏まない整理解雇は、他の要件を満たしても無効とされるケースも多い。

1~3については使用者が立証責任を負い、4については手続の不備について労働者が立証責任を負う(山田紡績事件、名古屋地判平成17年2月23日(最高裁で確定))。

整理解雇はこの要件にすべて適合しないと無効(不当解雇)とされる。もっとも近年の裁判では四要件を厳格に運用することは少なく、人員整理の必要性のみで判断する場合や、それに加えて配置転換や手続の妥当性を考慮に入れて判断している場合が多く、四要件をすべて満たさなくても解雇が認められている裁判も多い。四要件が確立される根拠となった過去の判例には大企業を舞台としたものが多く、必ずしも中小企業の実情に即しているとはいえなかった。多くの中小企業では、「配置転換したくても職場がない」「一時帰休させるほどの企業体力がない」など、大企業のように段階的な雇用調整を行う余裕がないため、いきなり退職勧奨や指名解雇に踏み込まざるを得ないのが実情である。また終身雇用・年功序列が崩れつつある現状では、要件の解釈はかなり変わっている。四要件を総合的に考慮した結果、相当と認められれば解雇を有効とする、すなわち四つの「要件」ではなく、「要素」として捉える判例も増えている。現状としては、企業の経営判断を尊重して司法審査を控え、各企業の経営や雇用の実態を踏まえて、四要件の充足を従来よりも緩やかに認める流れに傾きつつあるといえる(ナショナル・ウエストミンスター銀行事件、東京地平成12年1月21日など)。ただし、これらの傾向が整理解雇の全面的な規制緩和をもたらしているわけではなく、近年においても厳格な四要件を堅持している判例もある(九州日誠電気事件、熊本地判平成16年4月15日、東亜外業事件、神戸地判平成25年2月27日など)。こうした裁判所の姿勢は、中小企業にもできるだけ大企業と同様の努力をしてもらう作用を営んでいる。

反対に、人員整理の必要性に疑いがある、同じ職務で解雇された者とそうでない者がおり判断の理由が明らかでない、期間を定めた契約の途中解雇で理由が不当な場合など、裁判所は使用者の恣意的な解雇をチェックする姿勢は堅持し、解雇の合理性が疑われる場合は解雇が認められていない

全員解雇の場合編集

事業廃止により全従業員を解雇する場合、人選は問題とならず、また経営方針そのものを司法審査するのは容易ではない点で上記の事例と異なる。

この場合にも四要件を適用するもの(上記、東洋酸素事件、山田紡績事件等)と、四要件とは別の判断枠組みで判断するもの(三陸ハーネス事件、仙台地決平成17年12月15日・労働経済判例速報1924号14頁)とがある。三陸ハーネス事件では、

  1. 使用者がその事業を廃止することが合理的でやむを得ない措置であったか
    • 使用者が倒産あるいは倒産の危機にある場合に比べて、単なる経営戦略上の事業廃止は必要性が低いと判断される。
  2. 労働組合又は労働者に対して解雇の必要性・合理性について納得を得るための説明等を行う努力を果たしたか
    • 解雇に当たって労働者に再就職等の準備を行うだけの時間的余裕を与えたか
    • 予想される労働者の収入減に対し経済的な手当を行うなどその生活維持に対して配慮する措置をとったか
    • 他社への就職を希望する労働者に対しその就職活動を援助する措置をとったか

等の諸点に照らして解雇の手続が妥当であったといえない場合には、当該解雇は解雇権の濫用として無効であるとされる(本件では事業廃止の必要性と手続の妥当性を認めて解雇は有効と判断した)。会社自体が消滅する場合であっても、労働組合や当事者との協議といった手続きを取らせることには意味があり(上記四要件の4.については全員解雇であっても基本的に妥当する)、その観点から解雇の有効性を判断することは必要である。

脚注編集

  1. ^ あさひ保育園事件(判昭和58年10月27日)では、希望退職の募集をしなかったことを理由の一つとして解雇を無効とした。
  2. ^ ホクエツ福井事件(名古屋高金沢支判平成18年5月31日)では、8~10名の希望退職者を募った結果6名の希望退職者及び解雇者をもって同時期の指名解雇を終了させた事案について、この希望退職者募集は「解雇を回避するために十分に有効なものであったとはいい難い」として、「整理解雇手続が相当なものであったとは認められない」とした。
  3. ^ シンガポール・デペロップメント銀行事件(大阪地判平成12年6月23日)では、支店独自に採用された労働者が、当該支店の閉鎖により整理解雇された事案について、別支店への転勤が不可能ととして解雇を有効とした。
  4. ^ みくに工業事件(長野地諏訪支判平成23年9月29日)では、「準社員」を「会社との結び付きの面でも、正規社員と全く同一ではないもののこれに準じた密接な関係にあるものと解され、解雇の相当性判断に際しては、正規社員と同様に判断するのが相当である」として「準社員であったことを解雇の対象者として選定した事情として合理的なものと認めることはできない。」として解雇を無効とした。

関連項目編集