日本の裁判所
日本の裁判所(にほんのさいばんしょ、英語: Court in Japan)とは、日本国の統治機構の中で司法権を担う機関である(日本国憲法第76条)。
日本国憲法下の裁判所編集
司法権の帰属編集
日本国憲法では集団的多元主義の観点からイギリスやアメリカと同じく行政訴訟を民事訴訟の一種として司法裁判所の権限としており[1]、これにより裁判権の統一を図っている[2]。
最高裁判所と下級裁判所編集
日本においては、日本国憲法第76条の「すべて司法権は、最高裁判所および法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」との規定により、裁判所が司法権を行使する国家機関とされる。裁判所の構成は裁判所法(昭和22年法律第59号)に定められる。
裁判所法によれば、裁判所は、全国に一つの最高裁判所(最高裁)と下級裁判所からなる。最高裁判所は、全国にただ1か所、東京都に設置される(6条)。下級裁判所には、高等裁判所(高裁)、地方裁判所(地裁)、家庭裁判所(家裁)、簡易裁判所(簡裁)がある。下級裁判所の裁判官は、高等裁判所の長たる裁判官を高等裁判所長官とし、その他の裁判官を判事、判事補及び簡易裁判所判事とする(同条)。なお、53条以下にて裁判官以外の裁判所の職員について規定している。
高等裁判所には支部を置くことができ(裁判所法22条)、地方裁判所・家庭裁判所には支部または出張所を置くことができる(同31条、31条の5)。2005年(平成17年)4月には、知的財産権に関する事件を専門的に取り扱う裁判所として知的財産高等裁判所(知財高裁)が、東京高等裁判所の「特別の支部」として設置された。
2006年(平成18年)4月現在のそれぞれの数は以下の通り。
- 最高裁判所:1庁
- 高等裁判所:8庁(支部:6庁、知的財産高等裁判所:1庁)
- 地方裁判所:50庁(支部:203庁)
- 家庭裁判所:50庁(支部:203庁、出張所:77庁)
- 簡易裁判所:438庁
- 高等裁判所:8庁(支部:6庁、知的財産高等裁判所:1庁)
特別裁判所の設置と行政機関による終審裁判の禁止編集
日本国憲法では、特別の事件や人を裁判の対象とする特別裁判所は、設置することができないと定める(憲法76条2項)。この規定は、平等原則や司法の民主化、法の解釈の統一などを、その趣旨とする。なお、家庭裁判所のように、特定の種類の事件を扱う裁判所であっても、通常の裁判所の系列に属する下級裁判所として設置される裁判所は、特別裁判所にあたらないと解されている[3]。
また、憲法は「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」とも定めた(同条項)。この規定の趣旨も、特別裁判所の設置禁止と同様である。この点、終審としてではなく前審として行うのであれば、行政機関が裁判(行政審判)を行うこともできると解釈されている。独占禁止法に基づく公正取引委員会の審決、国家公務員法に基づく人事院の裁定、行政不服審査法に基づく行政機関の裁決、特許庁の拒絶査定不服審判などは、この例である。
最高裁判所編集
最高裁判所の構成編集
最高裁判所は、最高裁判所長官(1名)と最高裁判所判事(14名)の計15名の裁判官により構成される(裁判所法5条)。
最高裁判所の権能編集
最高裁判所の権能として、裁判権、規則制定権、司法行政権等がある[4]。
- 裁判権
- 最高裁判所は、上告および訴訟法において特に定める抗告(特別抗告)について裁判権を有する(裁判所法7条)[4]。
- 規則制定権
- 最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律および司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する(憲法77条)。
- 司法行政権
下級裁判所編集
下級裁判所は、法律によって設置された裁判所で、審級関係および司法行政上の関係において、最高裁判所の下位にある裁判所の総称である。
高裁には支部を置くことができ、地裁・家裁には支部または出張所を置くことができる。なお、現在置かれている地裁・家裁の支部はすべて地家裁支部とされ、出張所は家裁出張所とされている。地裁に出張所が1つもないのは、「法廷は、本庁または支部で開く」との規定が別にあり、法廷が無いと地裁では裁判ができないからである。
東京高等裁判所管内編集
高等裁判所1(知財高裁1)、地方裁判所・家庭裁判所11(地家裁支部45、執行センター1、家裁出張所16)、簡易裁判所107(分室1)
高等裁判所 | 地方裁判所・家庭裁判所 | 簡易裁判所 |
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大阪高等裁判所管内編集
高等裁判所1、地方裁判所・家庭裁判所6(地家裁支部22、地裁執行部1、家裁出張所4)、簡易裁判所57(分室1)
高等裁判所 | 地方裁判所・家庭裁判所 | 簡易裁判所 |
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名古屋高等裁判所管内編集
高等裁判所1(高裁支部1)、地方裁判所・家庭裁判所6(地家裁支部20、執行センター1、家裁出張所6)、簡易裁判所42
高等裁判所 | 地方裁判所・家庭裁判所 | 簡易裁判所 |
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広島高等裁判所管内編集
高等裁判所1(高裁支部2)、地方裁判所・家庭裁判所5(地家裁支部18、家裁出張所8)、簡易裁判所41
高等裁判所 | 地方裁判所・家庭裁判所 | 簡易裁判所 |
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福岡高等裁判所管内編集
高等裁判所1(高裁支部2)、地方裁判所・家庭裁判所8(地家裁支部42、家裁出張所17)、簡易裁判所82
高等裁判所 | 地方裁判所・家庭裁判所 | 簡易裁判所 |
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仙台高等裁判所管内編集
高等裁判所1(高裁支部1)、地方裁判所・家庭裁判所6(地家裁支部29、家裁出張所10)、簡易裁判所51
高等裁判所 | 地方裁判所・家庭裁判所 | 簡易裁判所 |
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札幌高等裁判所管内編集
高等裁判所1、地方裁判所・家庭裁判所4(地家裁支部16、家裁出張所12)、簡易裁判所33
高等裁判所 | 地方裁判所・家庭裁判所 | 簡易裁判所 |
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高松高等裁判所管内編集
高等裁判所1、地方裁判所・家庭裁判所4(地家裁支部11、家裁出張所4)、簡易裁判所25
高等裁判所 | 地方裁判所・家庭裁判所 | 簡易裁判所 |
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裁判の手続と運用編集
裁判の様子の撮影・録音は、戦後しばらくの間は認められていたが[注 2]、カメラマンが裁判長の制止を無視する等の乱暴な取材が横行したことを受け、法廷の秩序が乱されるとして、刑事訴訟では法廷内の撮影等を裁判所の許可制とする刑事訴訟規則第215条が1949年1月1日に施行され、若干の例外を除いてほぼ全国的に開廷中だけでなく開廷前についても写真撮影を許さないこととなった[6][7]。また、民事訴訟については同様の趣旨の民事訴訟規則第11条が1956年に施行された[8]。
1987年12月に「裁判長の許可」「裁判官着席後で開廷前の2分以内[注 3]」「刑事法廷は被告人不在」「撮影方法は法廷後方から裁判長席を正面とする」「取材は記者クラブ加盟社の代表取材でスチールカメラ、ビデオカメラ各1人ずつ」「照明や録音は認めない」などを条件に一部緩和された[9]。
なお、被告人が凶器をもって法廷内で暴れるといった事件が立て続けに起こったことを受けて、2017年に最高裁は金属探知機による所持品検査を積極的に取り入れるよう全国の裁判所に通知し、全国18か所の裁判所が来庁者の所持品検査を開始した[10]。
写真撮影は許されないが人間の手によるスケッチは禁止されていないため、マスコミでは画家に傍聴させることで法廷内の様子を絵で伝える手法が一般化した。このような画家は「法廷画家」と呼ばれる。
大日本帝国憲法下の裁判所編集
大日本帝国憲法(明治憲法)では、司法権は天皇に属する権限とされ、裁判所は「天皇ノ名」において司法権を行使することとされていた(57条)[2]。
行政訴訟についてはフランスやドイツと同じく行政権の所管とし、行政事件を専門に扱う行政裁判所が設置されていた[11]。また、特別裁判所の管轄に属する事件を法律で定めることができるとし(60条)、司法裁判所とは別に特別の身分を有する者または事件の裁判を管轄する特別裁判所が設置されていた[1]。そのため、外地の法院、軍法会議、皇室裁判所などの特別裁判所が存在していたが日本国憲法の施行により廃止された[2]。
脚注編集
注釈編集
出典編集
- ^ a b 石川晃司著『国民国家と憲法』三和書籍、2016年、179頁。
- ^ a b c d 石川晃司著『国民国家と憲法』三和書籍、2016年、178頁。
- ^ 最高裁判所大法廷判決昭和31年5月30日刑集10巻5号756頁
- ^ a b 石川晃司著『国民国家と憲法』三和書籍、2016年、184頁。
- ^ 野中ら著『憲法II(第4版)』有斐閣、2006年、232頁。
- ^ 高橋和之・長谷部恭男・石川健治「憲法判例百選Ⅰ 第5版」(有斐閣)158・159頁
- ^ 野村二郎「日本の裁判史を読む事典」(自由国民社)91・92頁
- ^ 高橋和之・長谷部恭男・石川健治「憲法判例百選Ⅰ 第5版」(有斐閣)158頁
- ^ 野村二郎「日本の裁判史を読む事典」(自由国民社)184頁
- ^ “岡山の裁判所 来庁者の所持品検査 10月から、金属探知機を設置”. 山陽新聞. (2019年9月24日) 2020年5月4日閲覧。
- ^ 石川晃司著『国民国家と憲法』三和書籍、2016年、178-179頁。