時代より』(じだいより、原題:: Out of the Ages)は、アメリカ合衆国のホラー小説家リン・カーターがによる発表した短編ホラー小説。クトゥルフ神話の1つで、1975年のアーカムハウスの単行本『Nameless Places』に収録された短編。タイトルはラヴクラフトの『永劫より』(Out of the Eons)のオマージュである。

カリフォルニア州サンティアゴ[注 1]のサンボーン太平洋古代遺物研究所にまつわる連作の一つ。主人公であるブレイン博士の日記の抜粋という体裁をとり、助手ホジキンスや担当医による注記が付け加えられている。

後にシリーズ『超時間の恐怖』 (The Terror Out of Time)に位置付けられる、ゾス神話連作の一つである。『墳墓に棲みつくもの』の続編であり、コープランド教授の研究成果をブレイン博士が受け継いでいる。ゾス神話の連作は、構想段階では2つの作品『スティーヴンスン・ブレインの書類』と『時代より』という構想であった。最終的に、前者は『陳列室の恐怖』として実現する。後者は、本作と同名だが、ブレイン自身が邪神像を現地から持ち帰るというものであった点が異なっている。[1]

ゾス三神および母神イダー=ヤアーの初出作品(クトゥルフの一族も参照)。またラヴクラフトの2作品『クトゥルフの呼び声』『永劫より』の後日談でもある。

あらすじ編集

物語開始以前編集

ムー大陸は崩壊するが、ゾスの魔神たちは死ななかった。旧神の力によって昏睡しながらも生きながら得ており、夢のテレパシーで人間にも影響を及ぼすことができた。「旧神の印」は邪悪なる種族を退けるが、人間には効果がない。それゆえ、封印されている彼らは、人間を信者にすることで封印の門を開かせて解放されようと試みる。コープランド教授は、太平洋の海を隔てた地域同士で類似した神が信仰されている痕跡があることに着目し、クトゥルフの神話に取り憑かれる。

ポナペ沖では、濃霧の中で船舶が消失する事件が頻出していた。1922年には、漁船が「怪物ウミウシ」の群れに襲われるという怪事件が発生する。漁師たちは怪物の口で捕まえられて海に引きずり込まれ、40人以上が命を落とす。生存者も発狂しており「ふぐ!」「うぐ!」といった意味のない言葉や叫びをくり返すようになった。

1928年編集

コープランド教授が精神病院で逝去した2年後の1928年、彼の収集したコレクションがサンティアゴのサンボーン研究所に遺贈され、ブレイン博士が整理を担当することになる。ブレイン博士は、ポナペで発見された「翡翠の小像」に注目する。続いてコープランド教授がムーの古代宗教、特にゾス三神に関心を持ち、禁断の文献を閲覧するために世界中の図書館や研究者とやり取りしていたことを知る。博士は教授の晩年の狂気に嫌気を覚えながら読み進め、資料の中には、航海士ヨハンセンの手記(クトゥルフの呼び声)や、新島浮上を報じる新聞記事(永劫より)、ポナペ沖で船舶に起こった事件(先述)もあった。コープランド教授は「ユッギャ」と記しており、注記参照を辿ると「ザントゥー石板」と「ネクロノミコン」に忌まわしい蟲ユッギャの記述が見つかる。

以降、ブレイン博士の精神状態は急激に悪化する。巨石建造物や異形の生物の悪夢に魘されるようになった博士は、悪夢の内容を記録に残すが、殴り書きや狂ったうわ言といった、読むに堪えないものとなる。ブレイン博士は夢遊病を発症し、夢うつつにユッギャの召喚呪文を唱えようとする。

8月3日の夜、海岸で発狂したブレイン博士が保護される。彼は紙に火をつけて、海へと投げ込んでいた。通りかかった警官により確保されるも、「ユッギャを目撃した」「翡翠像を壊せ。ホジキンスに伝えろ」と切迫しながら訴える。そのとき警官の一人は、謎の生物のような幻覚を見たとも報告する。ブレイン博士は精神病院に収容されるも、完全な神経衰弱に陥っており、「ゆっぐ!」という音を発するのみで一言も喋らない。彼はあの夜に何かを見たと信じ込んでおり、幾度も「自らの眼を潰そうとする」ために、病院側は強制的に拘束して自傷から護る。職場で後任となったホジキンスは、ブレイン博士の手記を入手して担当医に渡す。

主な登場人物編集

ハロルド・ハドリー・コープランド教授
太平洋考古遺物研究の大家。前作『墳墓に棲みつくもの』の主人公。
太平洋に古代文明があったという思想に憑かれた結果、オカルトに傾倒し、最終的には精神病院で狂死する。ムー大陸とゾスの三神に最も関心を抱いていた。
ヘンリー・スティーヴンスン・ブレイン博士
主人公。サンボーン研究所の職員。コープランド教授の遺贈物を調べるうちに、悪夢にうなされるようになる。
コープランド教授とは私的な縁は全くないが、業績を深く尊敬する。『クトゥルフの呼び声』のエインジェル教授の教え子でもある。
アーサー・ウィルコックス・ホジキンス
ブレイン博士の助手。次作『陳列室の恐怖』の主人公だが、本作では出番は少ない。次作冒頭にて、一時的に正気を取り戻したブレイン博士から、小像を公開してはならないと命じられる。
ポナペの小像
高さ19インチ(48センチ)の翡翠像。旧支配者ゾス=オムモグの偶像。コープランド遺贈物の中で、ブレイン博士が最も興味を抱いたもの。

ゾスの神編集

  • ガタノソア - ゾス三神の一。<山上の妖物>。ラヴクラフトの『永劫より』に詳しい。クトゥルフの子としたのは、リン・カーターによるアレンジである。
  • イソグサ - ゾス三神の二。<深淵の忌まわしきもの>。
  • ゾス=オムモグ - ゾス三神の三。<深みにひそむもの>。マルサケス諸島の石造のティキ英語版の「ズォトモゴ」神と、カンボジアの溶岩石の浅浮彫の「ズモグ」神にみられ、8000キロ以上も海を隔てた2地域で、似た名前のほぼ同じ姿の神として伝わっている。
  • ユッギャ - ユグとも。イソグサとゾス=オムモグに仕える種族。白くぶよぶよしたワーム(蟲)。文献「ユッギャ賛歌」に召喚法が書かれている。

収録編集

  • 『クトゥルーの子供たち』KADOKAWAエンターブレイン、立花圭一ほか訳

関連作品編集

ゾス神話群編集

  • 墳墓に棲みつくもの - 連作第1作。仮題『ザントゥー』。コープランド教授の日誌に、ブレイン博士が注記をつけたもの。
  • 陳列室の恐怖 - 連作第3作。旧題『ゾス=オムモグ』。リタイヤしたブレイン博士の仕事を助手が受け継ぐ。
  • 奈落の底のもの - 「ザントゥー石板」第9石板のコープランド翻訳。イソグサと、ユッギャの長「ウブ」が登場する。

他作家作品編集

関連項目編集

トール・ヘイエルダール
ノルウェーの探検家。環太平洋地域の海を隔てた地域同士の文化の類似について、「古代人が海を渡ったからである」と主張し、1947年にペルーからポリネシアまで8000キロの海路を筏で横断してみせた。

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ 架空の地名で、実在のサンディエゴとは異なる。

出典編集

  1. ^ KADOKAWAエンターブレイン『クトゥルーの子供たち』解題【時代より】420ページ。