服飾

人がその身体の上にまとう衣服や装身具、またそれらの組み合わせの様式

服飾(ふくしょく)とは、衣服装飾品のこと[1]。またそれらを身につけた装いのことを意味する[2]。「服装」とほぼ同義で使われることもある[2]。また衣服の飾りのことに限定して使われることもある[2]

洋服和服を着た明治天皇一家。葛西虎次郎画。
APEC2006にてベトナムの民族服アオザイを着た各国首脳

服装(ふくそう)とは、衣服と装飾品などをつけた装い・身なりのことを意味する[3]

普段着(ふだんぎ)とは、ふだん着る衣服のこと[4]。対して、特別な日(ハレの日)に着る衣服のことを晴れ着という[5]

紳士服(しんしふく)とは、成人男性の洋装のこと[6]婦人服(ふじんふく)とは、女性の着る衣服のこと[7]

服飾や服装という用語には主に2つの用いられ方があり、ひとつは衣服・被服などとほぼ同義で用いられ、もうひとつは身体と衣服が一体化した姿(着装姿)、またそれらの一定の組み合わせの様式を指す[8]。本項では主に後者について論じる。

概要編集

服飾は時代民族地域性別年齢階級職業等によって異なり、また着用機会によっても異なる様式が用いられる。それらの様式は禁令服装規定( ドレスコード)やファッション(流行)、あるいは民族主義ナショナリズム等によって強化され、人間社会において、多くの服飾の様式は特定の属性思想等を表現するものとなっている。特に民族服(民族衣装)は、地域の(または亡命者の)自己同一性を表し、文化の独自性を強調し、国家の尊厳の源となる。また、通過儀礼祝祭祝日には特別な衣装が着用される場合も多い。例えば成人式の特別な衣装、新年クリスマス等の特別の晴れ着等である。

服飾は基本は自らの立場・状況、また嗜好に応じた様式が選択されるが、意図的にそれとは違う服飾が着用される場合もある。例えば、自らの立場を隠して活動するための変装、一時的に異なる立場の装いを楽しむ仮装演劇舞台芸術における扮装等である。仮面舞踏会キリスト教文化圏における謝肉祭アメリカ合衆国におけるハロウィン等、特別な衣装として仮装が求められる場合もある。

服飾の変遷編集

 
肥大したパニエを身につけたマリー・アントワネットの肖像

服飾は地域や立場等によって異なるだけでなく、変化していく。小川安朗はその変遷の原則を次の20項目にまとめている[9]

  1. 環境順応 - 服飾は自然環境気候等)や社会環境政治体制経済状態・宗教戦争の有無等)に順応したものになる。
  2. 内因優越 - 自然環境や社会環境(特に規制等)による外因性の変化の力と、快適性や新奇性、美しさ奢侈等を求める内因性の変化の力は、しばしば対立し、長期的には内因性の変化が優越する(長期的には禁令が破られることや、制服が簡略化する等)。
  3. 優勢支配 - 服飾は文化発達の程度が高い集団から低い集団に伝播する(古代日本における服飾制度の移入等)。一方で政治的に優勢となった新興集団は、伝統的集団の服飾を打倒する(ゲルマン民族の大移動によるローマ風の服飾から現在の洋服の祖型への変化、サン・キュロット等の革命における服飾の変化等)。
  4. 模倣流動 - 新形式や改変された形式の服飾は模倣によって伝播普及(流動)し、旧来の形式を置き換える。模倣には上位・優勢にある集団の模倣、機能面に着目した模倣、過去の形式のリバイバル集団心理による追随的な模倣、創意を加味した創造的な模倣等がある。同一集団内で特定の形式が伝承される場合がある一方で、特定の形式が一時的に模倣され広がる流行もある。集団内の流行は、雑誌やテレビなどのメディアによって増幅される。流行した服飾が普及し、固定すると、社会的強制力を持つ風俗慣習となる。
  5. 漸変慣化 - 意識的に強制をしなくても服飾は漸変する。また、人間の慣れによって漸変は容易に受け容れられる(スカートがだんだん短くなってミニスカートが一般的となった等)。人為的な急変は刺激が強すぎるため社会に定着しにくい。
  6. 逆行変化 - 複雑化・簡素化、重層化・軽装化、肥大・縮小等の逆方向の変化が交互に繰り返される。実用的な服飾は、権威をあらわす等のために装飾が増え、重くなり、形式化し、礼装へとなる。形式的で装飾的な服飾は、窮屈なため簡易的になり軽装化する。
  7. 競進反転 - 特徴的な形態が流行しはじめると、集団内の競争により、その形態の変化が急激に進行し極端な形に至る(下襲クリノリン等の長大化、コルセットの極端化、露出や薄着の極端化等)。形態の変化は極点に至ると時に不経済あるいは不健康・不衛生な状態にもなり、批判も起き、流行は反転する。その形態は伝統的服飾として温存されたり、もとの形式に復帰、退化したり、別の形態へ転換したり、あるいは単に消滅する。
  8. 表衣脱皮 - 表衣がなくなり、下着だったものが表衣化する(十二単から小袖への移行、背広の下着だったワイシャツが表衣になる等)。
  9. 形式昇格 - 簡素な服飾が複雑化し、常用の服飾が礼装となり、庶民の服飾が貴族に取り入れられる(庶民の服飾であった直垂の武家の礼装化、古代ローマにおけるダルマティカの正装化等)。
  10. 格式低下 - 礼装が簡略化されたり、上流階級の服飾を下位の人々が着用することで格式が失われる(高位者のみに許された色・地質が庶民にも用いられるようになる等)。
  11. 系列分化 - 長く使われる形式がだんだん細分化される。同系列でより簡略なものが生まれたり(直垂からの大紋素襖の分化)、使用者の階級毎に分化したり、用途別に分化したりする(さまざまなコート等)。
  12. 不用退化 - はじめは実用的な機能のあったものが不要になると退化し、単に装飾として残ったり、省略され、消滅したりする(背広の袖のボタンラペルの切り込み等)。
  13. 無縁類同 - 隔絶した無縁の地域・時代において、自然環境や文化水準の類似、あるいは人間の人体構造や普遍的心理により、よく似た服飾が発生する(下襲トレーンチョピン高下駄チャードルはんこたんな等)。
  14. 性別対立 - 形状や色彩によって性差が表現されるが、平和で富裕な時代、あるいは上流貴族の間では性差の対立が大きく、戦乱下や困窮した時代、また下層庶民の間では対立が小さい傾向がある。その一方で、服飾の流行、また機能的な理由から、男装を女性が、あるいは女装を男性が借用する性別転換もしばしば起きる。また性別の対立を利用した異性装も行われる。
  15. 融合消化 - 在来の服飾に外来の要素が取り込まれ、融合(在来の要素と外来の要素がほぼ対等に混合する、十字軍遠征の影響によるブリオーの変化等)、消化(外来要素が解体されて在来服飾の新形式発生を促す、南蛮文化の影響を受けた軽衫の普及等)、混成(それぞれの形式がそのまま混ぜて着られる、羽織山高帽の服装等)したり、あるいは併存(洋服和服の併存等)する。
  16. 停滞残存 - 山間部離島部など文化の流入が少ない地域には昔からの服飾が残ることがある。洋服を現代の服飾の主流とするならば、各地の民族服は全て停滞残存の例と解釈し得る。
  17. 孤立爛熟 - 孤立しかつ安定した環境下で、特定の形式が独自に発展し爛熟する(クレタ文明の服飾、江戸時代の日本の服飾等)。
  18. 不変定着 - 服飾の流動の中で数十年から数百年の間、服飾がほとんど変化せず、風俗として定着することがある(各地の民族服等)。
  19. 礎型復帰 - 人体の構造・生理、また人間の心理に適応した基本的な服飾形式(礎型)に反復的に復帰する。
  20. 国際同化 - 交通・通信の発達により国際的な交流が活発になると、全世界的な服飾の共通化が起こる。

衣装編集

衣装(いしょう)はもともとは衣裳と書き、上半身に着用する「衣」(きぬ)と下半身に着用する「裳」(も)からきた言葉で、中世まではほぼ着衣の総称として用いられた[10]近世に入り、演劇などの舞台衣裳や晴れ着としての用法が主となった[10]。表記は、熟語の意味の類似性から「衣装」への書き換えも定着した[10]。衣装は、英語ではコスチュームに相当する[11]コスチューム(costume)とは、特定の地域、時代、民族に特有な服装のこと(民族衣装)、また、舞台や舞踏会仮装などに着用する衣装のことを意味する[12]。そのような衣装を着た演劇や映画バレエなどの歴史劇時代劇のことをコスチューム・プレイと呼ぶ[13]。単に服装の意味で使われることもある[14]

衣装(コスチューム)をデザインする人のことを衣裳デザイナー(衣装デザイナー、コスチュームデザイナー)と呼ぶ[15][16][17][18]

様々な衣装編集

舞台衣装編集

 
インドの演劇芸術、ヤクシャガナ (Yakshaganaで使われる衣装

演劇映画テレビドラマ等では服装(衣裳・衣装・コスチューム)は非常に重要な要素である。衣装は、役者が演じる役の年齢、性別、職業、階級、人柄、更には演じられる時代、地理的場所、および日時、季節や天気についての情報さえも与える。また、様式化され誇張された舞台衣装によって人物の性格を強調することも行なわれる。

英語では、ステージ・コスチューム(stage costume)、シアトリカル・コスチューム(theatrical costume)と呼ぶ[19]舞楽狂言においては装束と呼ぶ[19]

民族衣装編集

ダンス衣装編集

en:Dance costume

コスプレ衣装編集

 
2006年のブリストル・ルネサンス・フェアで衣装を着た演者

コスプレ用の衣装のことで、「COS衣装」「コス」などと略記されることもある。

花嫁衣装編集

花嫁衣装とは、結婚式の際に花嫁が着用する衣装のこと[20]。和装では白無垢打掛姿で、頭には角隠しをかぶるのが一般的である[20]。洋装の場合はウェディングドレスと呼ばれ、頭にはベールを伴うのが一般的である[20]。婚礼衣装[21]

晴衣装編集

晴衣装とは晴れ着のこと[22]。晴れ着とは、ハレの日に着る衣服のこと[23]

収納用品編集

ことわざ編集

馬子にも衣装[24]
馬を引いて人や荷物を運んでいた者をかつて馬子と呼んでおり、身分も低く服装も粗末であった。そのような者でも服装(外面)次第で立派にみえるということ。似たような意味のことわざに「切株にも衣装」[25]、「人形にも衣装」[26]がある。

衣装の関連項目編集

脚注編集

  1. ^ 精選版 日本国語大辞典. “服飾”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月2日閲覧。
  2. ^ a b c 「服飾」『ファッション辞典』文化出版局、1999年、63頁
  3. ^ 精選版 日本国語大辞典. “服装”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月2日閲覧。
  4. ^ 精選版 日本国語大辞典. “不断着・普段着”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月3日閲覧。
  5. ^ 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ). “晴れ着”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月3日閲覧。
  6. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. “男子服”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月3日閲覧。
  7. ^ 精選版 日本国語大辞典. “婦人服”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月3日閲覧。
  8. ^ ブリタニカ百科事典「服装」
  9. ^ 小川安朗『服飾変遷の原則』文化出版局、1981年。
  10. ^ a b c 精選版 日本国語大辞典. “衣装・衣裳”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月2日閲覧。
  11. ^ 「いしょう[衣裳、衣装]」『ファッション辞典』文化出版局、1999年、58頁
  12. ^ 精選版 日本国語大辞典. “コスチューム”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月2日閲覧。
  13. ^ 精選版 日本国語大辞典. “コスチュームプレー”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月2日閲覧。
  14. ^ 「コスチューム」『ファッション辞典』文化出版局、1999年、60頁
  15. ^ 衣裳デザイナー(コスチュームデザイナー)になるには”. エスモードジャポン. 2022年8月2日閲覧。
  16. ^ コスチュームデザイナー(舞台衣装・ウェディング)”. 文化服装学院. 2022年8月2日閲覧。
  17. ^ 衣装デザイナー”. バンタンデザイン研究所. 2022年8月2日閲覧。
  18. ^ 衣装デザイナーになるには”. 東京服飾専門学校. 2022年8月2日閲覧。
  19. ^ a b 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ). “舞台衣装”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月4日閲覧。
  20. ^ a b c ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. “花嫁衣装”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月4日閲覧。
  21. ^ 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ). “婚礼衣装”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月5日閲覧。
  22. ^ 精選版 日本国語大辞典. “晴衣装・晴衣裳”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月4日閲覧。
  23. ^ 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ). “晴れ着”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月4日閲覧。
  24. ^ ことわざを知る辞典. “馬子にも衣装”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月5日閲覧。
  25. ^ 精選版 日本国語大辞典. “切株にも衣装”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月5日閲覧。
  26. ^ 精選版 日本国語大辞典. “人形にも衣装”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年8月5日閲覧。

関連項目編集

外部リンク編集