本人訴訟(ほんにんそしょう)とは、弁護士などの訴訟代理人を選任せずに訴訟を行うことをいう。

概要編集

日本の民事訴訟法は、弁護士強制主義を採用していないことから、第一審から最高裁まで本人訴訟をすることができる。

本人訴訟の申立てに際して、本人自ら訴状等を作成することも、司法書士に訴状等の作成を依頼することも可能である。

本人訴訟のメリット編集

弁護士への依頼費用がかからない
本人訴訟のメリットとして、印紙等実費以外に訴訟にかかる費用が発生しないことが挙げられる。弁護士に依頼した場合には、最低でも10万円以上の費用がかかる。請求額が少ない場合は、依頼費用のほうが高くなることもあり得る。
また、請求金額のほうが高い場合でも必ずしも勝訴できるとは限らず、勝訴しても賠償金を回収できるとは限らない。そのため請求額が少額である場合は、本人訴訟を選んだほうがメリットは大きい。
自分の言いたいことを主張できる
自分自身で証拠を選別し、主張は書面で伝えられる様に作成し、裁判官に自分の考えをそのまま伝えられる。弁護士に任せずに、自分自身で主張したい場合には本人訴訟という選択肢もある。ただし、自分のしたい主張をすることで、法律的に不利になるケースもあるため注意が必要になる。

本人訴訟のデメリット編集

法的な主張を理解しにくい
裁判で主張を通すためには、法的な理由をもとに主張しなければならない。しかし、一般人が訴訟をする場合には法的な主張を理解しにくく、不利になるケースがある。
訴訟の過程において裁判所から、一定程度のアドバイスがなされなくは無いが、中立性の観点から限定的なものとなる。裁判官のアドバイスは、あくまで「裁判の進行がスムーズになることを目的としたもの」に限られる。
適切な対応ができない
裁判においては、専門的な手続きや対応をせまられる場面がある。適切な対応ができないと不利になりかねず、正しい書式で提出しないと資料や証拠を受け付けてもらえない可能性もあるため、注意が必要である。
また、主張立証が法的に無意味であったり混乱しているものも多く、争点がかみ合いにくいことから裁判所においても敬遠しがちであり、裁判所から弁護士に相談することを勧めるケースも少なくない。仮に、後から弁護士等の代理人を選任したとしても、すでに結審した訴訟の取り消しはできないため、手遅れになるケースも存在する。
証拠の取捨選択を間違うおそれがある
裁判に勝訴するためには、主張の裏付けとなる証拠が必要になる。法的に重要な証拠を見逃してしまったり、自分に有利になると考えて提出した証拠が相手に有利に働いたりする場合もある。
冷静に対応できない
訴訟において弁護士が間に入らないため、冷静な判断ができなかったり、冷静な意見を述べられなかったりする。不用意な発言をして、それを相手に利用されてしまう場合がある。
手間とストレスがかかる
本人訴訟のマニュアル本を数冊読んだり、裁判所などに足を運んだり、証拠を提出用にまとめたり、それをファイリングしたりする場合にも、自分でやろうとすると非常に手間と時間がかかる。また、一人で裁判を最後まで戦い抜くことは、非常にストレスがかかることも重要な点である。
仕事を休む必要がある
訴訟は平日にしか開かれないため、出廷に際して勤務先を休むなどの対応が必要になることも少なくない(勤務先を休業してもしなくても、勝訴すれば、一定額の出廷日当を相手方に負担させることはできる)。代理人がいれば、急用でどうしても出廷できない場合にも任せることができる[1]
勝率が下がる
下記の節で説明しているとおり、弁護士がいるときに比べて、本人訴訟の場合には勝率が大きく下がる。140万円以下の低額な請求については本人訴訟するメリットはあるが、それ以上の請求については予算があるならば弁護士を雇うほうが望ましいと言える。

本人訴訟したほうが良いケース編集

請求金額が少額である場合
一般に、請求金額が100万円以下だと裁判による費用対効果が低く、仮に勝訴して賠償を勝ち取れても赤字になってしまうため、弁護士に相談しても弁護を請けてもらえない場合が多い。簡易裁判所で行われる140万円以下の請求であれば、本人訴訟を検討したほうがいい。
60万円以下であれば「少額訴訟」という方法もあるが、「控訴ができない」などのデメリットも存在するため法律知識のない素人には向いていない面もある。借金の返金請求など単純なケースであれば、「支払督促」などの選択肢もある。
地方裁判所で行われる140万円以上の請求になってくると、内容も複雑になり長期化する場合が多い。請求額が高額な場合や、弁護士に依頼することで獲得する賠償額を増やすことができそうな場合には、弁護士を雇うことを前向きに検討すべきである。
訴訟内容がシンプルな場合
「貸した金を返してほしい」「滞納している家賃を払ってほしい」など、訴訟内容がシンプルな場合には短期間で終わることが予想されるため、本人訴訟でも問題がない場合が多い。こうしたケースでは相手もお金がなく、弁護士を雇うことは少ない。
証拠が揃っている場合
契約書・請求書・メール文書などのしっかりした証拠が揃っており、損害金額や契約日時などが明確であり、被告からの反論の余地がない場合も、本人訴訟する場合の条件と言える。

本人訴訟の割合編集

日本の民事訴訟の特徴として、海外に比べて「本人訴訟の割合が高い」ことが挙げられる。高等裁判所でも7.9%が双方ともに本人訴訟で、原告・被告のいずれにも弁護士がついた事件は高裁でも6割にとどまっている。

地方裁判所の民事事件(通常訴訟)21万2490件 (2011年度)
  • 双方代理人あり … 30.0%
  • 原告本人訴訟 …… 4.1% (被告にのみ弁護士)
  • 被告本人訴訟 …… 43.4% (原告にのみ弁護士)
  • 双方本人訴訟 …… 22.6%
簡易裁判所の民事事件(通常訴訟)55万798件 (2011年度)
  • 双方代理人あり … 2.8%
  • 原告本人訴訟 …… 3.9% (被告にのみ弁護士)
  • 被告本人訴訟 …… 34.3% (原告にのみ弁護士)
  • 双方本人訴訟 …… 58.9%
少額訴訟の民事事件(通常訴訟)1万2754件 (2011年度)
  • 双方代理人あり … 0.4%
  • 原告本人訴訟 …… 2.9% (被告にのみ弁護士)
  • 被告本人訴訟 …… 7.9% (原告にのみ弁護士)
  • 双方本人訴訟 …… 88.8%

本人訴訟の勝率編集

2010年の統計によると、案件ごとに内容はさまざまで単純比較はできないものの、弁護士がついた方が勝訴できる可能性は上がることが分かる。下記に「原告の勝率」を挙げる。

  • 双方代理人あり … 67.3%
  • 原告本人訴訟 …… 32.4% (被告にのみ弁護士) … 勝率 34.6%ダウン
  • 被告本人訴訟 …… 91.2% (原告にのみ弁護士) … 勝率 24.2%アップ
  • 双方本人訴訟 …… 67.0%

著名な本人訴訟による事件編集

関連書籍編集

本人訴訟をする場合には、下記に挙げるような素人向けのマニュアル本を一読して、最低限の法律知識・訴訟ルール・進行上の決まりごとなどを一通り学んだ上で、訴訟に望むことが望ましい。

  • 三浦和義『弁護士いらず : 本人訴訟必勝マニュアル』太田出版、2003年。
  • 石原豊昭、石原輝、平井二郎、國部徹『訴訟は本人でできる』自由国民社、2010年7月。ISBN 978-4426109813
  • 街中利公『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる! 』Kindle版、2018年。
  • 橘玲 『臆病者のための裁判入門』文春新書 2012年。

脚注編集

[脚注の使い方]
  1. ^ 急病や親の葬式などの「顕著な事由」があれば延期の手続きを取ることは可能であるが、「急な出張」といった程度では認められない。

関連項目編集

注釈編集