正鹿山津見神(まさかやまつみのかみ)は、記紀神話に登場する神である。神産み神話カグツチイザナギ[1]によって殺された際に、その屍体から生まれた。日本書紀では正勝山祇[2](まさかつやまつみ/まさかやまつみ/まさかやまづみ)と表記される。

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概要編集


古事記の神産みの段において、伊邪那岐命の妻神である伊邪那美命火之迦具土神を産んだことで陰部に火傷を負い死んでしまう。これに怒った伊邪那岐命は死因となった火之迦具土神を十拳剣天之尾羽張」で斬り殺してしまう。そうして殺された火之迦具土神から神々が新たに誕生した。

火之迦具土神の血が十拳剣の先端から岩に落ちて石折神根折神石筒之男神が生まれた。また、十拳剣の刀身の根本から血が岩に落ちて甕速日神樋速日神建御雷之男神が生まれた。さらに十拳剣の柄の血からは闇淤加美神闇御津羽神が生まれた。

 本項の正鹿山津見神は、火之迦具土神の遺骸から成った神である。古事記においては屍体の各部位から八神の山津見神(正鹿山津見神・淤縢山津見神・奥山津見神・闇山津見神・志芸山津見神・羽山津見神・原山津見神・戸山津見神)が生まれた。

このような、死んだ神から新たな神が生まれる話は死体化生形型説話[3]の類いである。火神である火之迦具土神の説話自体が当時の焼畑耕作民文化が母体となった火の起源説話とされており、その体が多くの火山になり、その血が火山の活動・噴出物を表象しているとしている。その為、正鹿山津見神含めた八神の命名には火山山焼きに関連しているという説がある。

また、正鹿(まさか)は「真坂」で山の坂とする説がある。

古事記編集

 古事記では、殺された迦具土神の頭が成った神として登場する。原文では正鹿山津見神の「山」の後ろに「上」の声注がある。[4]

所殺迦具土神之於頭所成神名。正鹿山上津見神。次於胸所成神名淤縢山津見神。淤縢二字以音

日本書紀編集

 正勝山祇の表記で登場するが、古事記では火之迦具土神の頭から成ったとされるのに対して、日本書紀では頭ではなく腰から成ったと記されている。[5]


一書曰、伊弉諾尊、斬軻遇突智命、爲五段。此各化成五山祇。一則首、化爲大山祇。二則身中、化爲中山祇。三則手、化爲麓山祇。四則腰、化爲正勝山祇。五則足、化爲䨄山祇。是時、斬血激灑、染於石礫・樹草。此草木沙石自含火之緣也。麓、山足曰麓、此云簸耶磨。正勝、此云麻沙柯、一云麻左柯豆。䨄、此云之伎、音鳥含反。


なお、日本書紀で頭から成るのは大山祇(おおやまつみ)[6]であり、古事記においては火之迦具土神からではなく伊邪那岐命と伊邪那美命の間に生まれている。[7]

祀る神社編集

脚注編集

  1. ^ 伊弉諾尊/伊邪那岐命 イザナギノミコト”. デジタル大辞泉. コトバンク. 2016年9月20日閲覧。
  2. ^ 正勝山祇(日本書紀五段一書八)、正勝山祇(陰陽本紀)
  3. ^ 記紀神話における性器の描写――描かれたホトと描かれなかったハゼ――. 学習院大学人文科学論集 / 学習院大学大学院人文科学研究科 [編]. (2015) 
  4. ^ 日本神典三体古事記:原文古訓俗語二十頁、NDLJP:772305/47
  5. ^ 日本書紀巻第一神代上
  6. ^ 古事記では大山津見神(おおやまつみのかみ)の表記で登場している。
  7. ^ 古事記においては腰から成った神はいない。

参考文献編集

  • 倉野憲司『古事記全註釈第二巻上巻篇(上)』(三省堂)1974年8月
  • 倉野憲司『古事記』(岩波文庫) 1963年(改版2007年)
  • 西宮一民校注『古事記(新潮日本古典集成)』(新潮社)1979年6月
  • 戸部民夫『日本神話─神々の壮麗なるドラマ』神谷礼子 画(新紀元社)2003年10月
  • 西郷信綱『古事記注釈第一巻(ちくま学芸文庫)』(筑摩書房)1975年1月
  • 日本書紀30巻本(刊本)NDLJP:2608221
  • 折口信夫『日本書と日本紀と』(青空文庫)1926年
  • 勝俣隆『日本書紀に於ける火の神話についての一考察―「此、草木・沙石の自づからに火を含む縁なり。」の解釈を中心に』(『上代日本の神話・伝説・万葉歌の解釈』おうふう)2017年3月、初出1999年12月