武道会 (ロンドン)

ロンドンの日本武道の道場

武道会(ぶどうかい、The Budokwai[1][2])は、イギリスロンドンにある柔道などの日本の武道の道場であり、ヨーロッパ最古の日本武道の道場である[1][3]

武道会の正面
地図
地図

1918年に小泉軍治によって創設され[4][5][6]、当初は柔術剣道やその他の日本武道を教えていた[1]

名称とシンボル 編集

この道場の正式名称は"the Budokwai (The Way of Knighthood Society)"であるが[7]、通常は単に"the Budokwai"(武道会)と呼ばれる。武道会という名称は創設者の小泉軍治によるもので、これを英語に訳したのが"The Way of Knighthood Society"である[1][2]

武道会のシンボルマークは、青色のの花の上に漢字の「武」を象ったものを白で描いたものである。小泉は「武道の修行の目的は戦いを止めることである」として、「」と戦いを意味する「」を組み合わせたこの文字を選んだと述べている[8]

歴史 編集

小泉軍治は、柔道剣道をはじめとする日本の武道をイギリスの一般市民に教える道場として武道会を創設した[9]。小泉はロンドン・シティ・オブ・ウェストミンスターヴィクトリア英語版に道場を開設し、1918年1月26日に12人の会員で発足した。これがヨーロッパ初の日本武道の道場となった[2][10][1][11]

最初の36名の会員は日本人であり、初めてイギリス人が入会したのは同年3月だった。60人目の会員として初のイギリス人女性が入会した[12]。小泉が初代会長、谷幸雄が柔道の初代師範となった。

1920年7月、嘉納治五郎講道館柔道創始者)がアントワープオリンピックに選手団長として向かう途中で武道会を訪れ、小泉と谷に講道館2段位を与えた。嘉納に同行していた会田彦一は、2年間イギリスに滞在して武道会で指導した[8][10]。田辺という日本人会員が初段に昇格し、武道会生え抜きの初の有段者となった。1918年から1968年まで、毎年5月11日に定例の演武会を開催し、その後は不定期に開催した。

武道会は、イギリス国内とヨーロッパの柔道組織の形成に貢献した。小泉は、イギリス国内とヨーロッパの柔道組織を設立するという自身のアイデアについて武道会に委員会を設けて検討し、1948年に武道会のジョン・バーンズ会長がヨーロッパの全ての柔道・柔術道場を武道会主催の会議に招聘した。1948年7月24日、ロンドンのインペリアル・カレッジ・ユニオン英語版で開催されたイギリスの柔道道場の会議において、イギリス柔道協会が設立された。国際会議は1948年7月26日と28日に開催され、オーストリア、イギリス、オランダ、イタリアの4か国とオブザーバーのフランスが参加した。武道会のトレヴァー・レジェット英語版が会議の議長に選出され、武道会が起草した会則が提出された。会則の修正と議論の後、全会一致でヨーロッパ柔道連盟が結成された[13][14]

1953年、イギリスに留学した講道館の川村禎三(当時六段)が指導に当たった。1954年9月、武道会はロンドン・サウスケンジントンのギルストンロード4番地に移転した[2]。開場式には駐英日本大使が参列し、川村に対して投げ技をかけた。1960年代には、日本空手協会との提携により、1963年の全日本チャンピオンである榎枝慶之輔をはじめとする多くの日本人指導者が武道会で指導にあたっていた。同時期に合気道の指導も開始された。1964年に柔道がオリンピック種目になり、柔道が国際的に発展するのに伴い、武道会における柔道の指導はスポーツ柔道と競技柔道に重点が置かれるようになった。イギリス初の柔道オリンピックチームの一員だったブライアン・ジャックスシド・ホーア、トニー・スウィーニーは武道会の会員だった[8]

活動 編集

2017年現在、武道会では柔道空手合気道ブラジリアン柔術ピラティス・メソッド本體楊心流、乳幼児のためのアクティビティなどのクラスを運営している。柔道の指導は毎日行われており、年齢や柔道経験に応じた様々なクラスが開催されている[15]

運営 編集

武道会は非営利団体で、会員は正会員、準会員、名誉会員で構成されている。正会員のみがクラブに対する財政的責任と議決権を持ち、正会員は45名までとなっている。現在の執行委員会の会長はピーター・ブルーウェットである[7][16]

著名な会員 編集

武道会の会員には多くの著名人がいる。1936年3月、サラ・メイヤーは日本人以外の女性として初めて柔道の有段者となった。メイヤーは1920年代に武道会で柔道を始めた後、1934年に武道会からの紹介状を持って日本に渡り、柔道の修行に励んでいた[17]ニール・アダムスブライアン・ジャックスアンジェロ・パリジレイモンド・スティーヴンスなど、多くの柔道オリンピック代表選手が武道会の会員だった。カイリー・ミノーグサイモン・ル・ボンミック・ジャガーヤスミン・ル・ボンガイ・リッチーなどの著名人の会員もいる[18][19]。武道会で柔道のトレーニングを受けたスポーツ選手には、ブラジリアン柔術チャンピオンのホジャー・グレイシー[20]や陸上選手のセバスチャン・コーなどがいる。元外務大臣のウィリアム・ヘイグは、定期的にセバスチャン・コーと武道会で柔道のトレーニングを行っている[19]

脚注 編集

  1. ^ a b c d e Budokwai: The history of the Budokwai (c. 2005). Retrieved on 25 February 2010.
  2. ^ a b c d Fromm, Alan; Soames, Nicolas (1982). Judo: The Gentle Way. Routledge. pp. 8. ISBN 9780710090256 
  3. ^ Schilder, J. Dick (1969年4月). “Geesink back to fight as his views of retirement are stymied”. Black Belt (Active Interest Media, Inc) (Vol. 7, No. 4): pp. 10. https://books.google.com/books?id=PM4DAAAAMBAJ&pg=PA10&dq=budokwai+oldest&hl=en&sa=X&ei=FtkzUerMEKfU0QWFkYCgAQ&ved=0CC8Q6AEwAA#v=onepage&q=budokwai%20oldest&f=false 2013年3月3日閲覧。 
  4. ^ Tsumura, K. (1966): "He died a Samurai's death: Two world Judo leaders defend the honour of G. K. Koizumi, Founder of British Judo, who took his own life." Black Belt, 4(6):48–50.
  5. ^ Itoh, K. (2001): The Japanese community in pre-war Britain: From integration to disintegration (pp. 27–28). Surrey, UK: Curzon. (ISBN 0-7007-1487-1)
  6. ^ Walker, S. (c. 2005): Gunji Koizumi (1885–1965) Archived 2016-03-03 at the Wayback Machine. Retrieved on 25 February 2010.
  7. ^ a b CONSTITUTION RULES AND REGULATIONS (UPDATED TO 2005 AGM)”. The Budokwai. 2013年2月28日閲覧。
  8. ^ a b c The History of the Budokwai”. The Budokwai. 2013年2月27日閲覧。
  9. ^ Watson, Brian N. (2008). Judo Memoirs of Jigoro Kano. Trafford Publishing. pp. 178. ISBN 9781425163518 
  10. ^ a b Takahashi, Masao (2005). Mastering Judo. Human Kinetics 1. pp. 4. ISBN 9781450408769 
  11. ^ Schilder, J. Dick (1969年4月). “Geesink back to fight as his views of retirement are stymied”. Black Belt (Active Interest Media, Inc) (Vol. 7, No. 4): pp. 10. https://books.google.com/books?id=PM4DAAAAMBAJ&pg=PA10&dq=budokwai+oldest&hl=en&sa=X&ei=FtkzUerMEKfU0QWFkYCgAQ&ved=0CC8Q6AEwAA#v=onepage&q=budokwai%20oldest&f=false 2013年3月3日閲覧。 
  12. ^ Cortazzi, Hugh (Ed.) (2012). Britain and Japan: Biographical Portraits, Volume 4. Routledge. ISBN 9781136641473. https://books.google.com/books?id=S6z2b44ksNUC&pg=PT305&dq=kendo+budokwai&hl=en&sa=X&ei=DMorUbq-BqO60QW41IHQDA&ved=0CDkQ6AEwAg 
  13. ^ Thomas A. Green, Joseph R. Svinth (2003). Martial Arts in the Modern World. Greenwood Publishing Group. pp. 175–177. ISBN 9780275981532. https://books.google.com/books?id=CayyJJg0KIsC&pg=PA175&dq=budokwai&hl=en&sa=X&ei=4kkvUZCOH62W0QWJ9YDgCQ&ved=0CDwQ6AEwAg#v=onepage&q=budokwai&f=false 
  14. ^ Fromm, Alan; Soames, Nicolas (1982). Judo: The Gentle Way. Routledge. pp. 9. ISBN 9780710090256 
  15. ^ The Budokwai”. The Budokwai. 2013年3月7日閲覧。
  16. ^ Thomas A. Green, Joseph R. Svinth (2003). Martial Arts in the Modern World. Greenwood Publishing Group. pp. 173. ISBN 9780275981532. https://books.google.com/books?id=CayyJJg0KIsC&pg=PA175&dq=budokwai&hl=en&sa=X&ei=4kkvUZCOH62W0QWJ9YDgCQ&ved=0CDwQ6AEwAg#v=onepage&q=budokwai&f=false 
  17. ^ Series Producer Ben Southwell, Director Andy Hall, Producer Andy Hall, Executive Producer Michael Poole (24 February 2013). "Everybody was Kung Fu Fighting: The Rise of Martial Arts in Britain". Timeshift. シーズン12. Episode 9. 該当時間: 19:43 – 22:00. BBC. BBC Four
  18. ^ Lane Fox, Harriot (2 September 2006), “Bye George, the party's over”, The Daily Telegraph (London), https://www.telegraph.co.uk/property/3352304/Bye-George-the-partys-over.html 2013年2月28日閲覧。 
  19. ^ a b Bryony Gordon (16 October 2002), “Tired of the gym? Belt up for judo”, The Telegraph (London), https://www.telegraph.co.uk/health/dietandfitness/4712011/Tired-of-the-gym-Belt-up-for-judo.html 2013年2月28日閲覧。 
  20. ^ Snowden, Jonathan; Shields, Kendall (2010). The Mma Encyclopedia. ECW Press. ISBN 9780710090256. https://books.google.com/books?id=lzdXP08P1pkC&pg=PT364&dq=budokwai&hl=en&sa=X&ei=Qa4zUbrjF8eK0AWq3oCICw&ved=0CC8Q6AEwADge 

関連項目 編集

外部リンク 編集

座標: 北緯51度29分12秒 西経0度10分50秒 / 北緯51.48667度 西経0.18056度 / 51.48667; -0.18056