歯根嚢胞(しこんのうほう,radicular cyst)は、慢性根尖性歯周炎に続発して発症する顎骨内の嚢胞歯原性嚢胞の一種であり、炎症性嚢胞の一種でもある。根尖性嚢胞とも。 類縁疾患として歯周嚢胞歯根肉芽腫がある。歯牙根尖部及び歯根側方部に形成され、これらはそれぞれ根尖性歯根嚢胞、根側性歯根嚢胞という。

歯根嚢胞
概要
診療科 歯学
分類および外部参照情報
ICD-10 K04.8
ICD-9-CM 522.8

概要 編集

臨床的な所見としては、各年齢層に生じ、根管処置を終えた永久歯の失活歯など生じる。ほとんど無症状に経過し、顎骨を徐々に膨隆させ小指頭程度の大きさにまでになる。細菌感染による急性炎症(二次感染による根尖性歯周炎)を起こさない限り著しい症状を示さない。そのため発見が遅れることがある。

疫学 編集

顎骨内の嚢胞としての発生頻度はいちばん高く、顎嚢胞全体の50~60%を占める[1]。下顎よりも上顎に多い。上顎側切歯上顎中切歯の順に[2]多く生じ、下顎では第一大臼歯、小臼歯の順に生じやすい。好発は20~30歳代[2]。性差なし[2]

原因 編集

歯根肉芽腫などの慢性根尖病変にマラッセ残存上皮が迷入増殖し発症するといわれている。

症状 編集

ほとんど無症状に経過する。大きく成長したものでは羊皮紙様感や波動を認めるものもある[1][2]。二次感染が生じた場合には炎症所見を認める。巨大な歯根嚢胞は、鼻腔底や上顎洞底を圧迫変位させることもある[3]

診断 編集

エックス線写真上では、歯根膜空隙とつながる単房性の透過像がみられる[1][2]。大きなものでは透過像が複数歯に及ぶ場合もある。嚢胞の内容物として黄褐色の粘稠性や漿液性の液体、炎症細胞、剥離上皮細胞、コレステリン結晶が認められる[4]

確定診断のためには嚢胞壁の確認が重要であるため、臨床診断での確定診断は難しい[5]

鑑別 編集

直径10mm以下の小さなものはレントゲンでは歯根肉芽腫と鑑別が困難である[3]。大きなものは他の嚢胞との鑑別を要する。

治療 編集

観血的療法として嚢胞摘出術や開窓術と歯根端切除術を行い、病巣が歯根を大きく含む場合は抜歯を行なう[1]方法が一般的であるが、非観血的治療として、歯内治療法根管治療)により治療する方法も試みられている[5]

脚注 編集

  1. ^ a b c d 森田展雄 著「第8章 顎口腔の嚢胞 2.顎嚢胞 1.歯原性嚢胞 1)歯根嚢胞」、白砂兼光古郷幹彦 編『口腔外科学』(第3版)医歯薬出版東京都文京区、2010年3月10日、300-301頁。ISBN 978-4-263-45635-4NCID BB01513588 
  2. ^ a b c d e 佐藤廣 著「第3章 顎・顎関節の疾患 4.嚢胞および類似疾患 1)歯原性嚢胞 ①歯根嚢胞」、編集 佐藤, 廣白数, 力也; 又賀, 泉 ほか 編『口腔顎顔面疾患カラーアトラス形式』監修 道健一(第1版第2刷)、永末書店京都市上京区、2001年8月23日、182頁。ISBN 4-8160-1099-8 
  3. ^ a b 上村修三郎 著「1章 歯科放射線診断学 II各論 顎骨の病変 1.X線透過性病変 局在するX線透過性病変 1)単胞性あるいは他胞性を示すX線透過性病変 a)歯原性嚢胞 歯根嚢胞」、監修 西連寺永康 編集 淵端孟野井倉武憲岸幹二 編『標準歯科放射線学』(第2版第1刷)医学書院東京都文京区、2000年5月1日、148-149頁。ISBN 4-260-13726-3 
  4. ^ 菅原信一 著「7章根尖部歯周組織の病変 IV.慢性根尖性歯周炎 2.慢性根尖性肉芽性歯周炎 2)歯根嚢胞」、二階, 宏昌伊集院, 直邦下野, 正基 編『歯学生のための病理学』 口腔病理編(第2版第5刷)、医歯薬出版東京都文京区、2003年2月25日、99-101頁。ISBN 4-263-45438-3 
  5. ^ a b 川崎孝一歯根嚢胞の非外科的歯内治療法に関する新考案 : 15年以上の長期経過例からみた研究/A New Rationale for the Nonsurgical Endodontic Treatment of Periapical Cysts : Evaluation Based on a Long-term Clinical Follow-up Examination over 15 Years」『日本歯科保存学雑誌』第49巻第6号、特定非営利活動法人日本歯科保存学会、2006年12月、854-866頁、ISSN 0387-23432010年5月18日閲覧 

関連項目 編集