水銀に関する水俣条約

多国間条約
水俣条約から転送)

水銀に関する水俣条約(すいぎんにかんするみなまたじょうやく、the Minamata Convention on Mercury)は、水銀および水銀を使用した製品の製造と輸出入を規制する国際条約

水銀に関する水俣条約
通称・略称 水銀条約、水俣条約
署名 2013年10月10日 (2013-10-10)
署名場所 日本の旗熊本市
発効 2017年8月16日
寄託者 国際連合事務総長
文献情報 平成29年条約第18号
言語 アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語
主な内容 水銀および水銀化合物の人為的な排出および放出から人の健康および環境を保護する
条文リンク 平成29年6月23日付官報号外第134号
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略称は「水銀条約」「水俣条約」。

概要 編集

地球規模の水銀および水銀化合物による汚染や、それによって引き起こされる健康、および環境被害を防ぐため、国際的に水銀を管理することを目指すものである。

2013年からは日本国政府が主導して、発展途上国で水俣病のような水銀による健康被害や環境汚染が起きていることから、悪化を防ぐために一定量以上の水銀を使った製品の取り引きなどを国際的に規制する目的で採択させた条約。

2013年1月19日ジュネーブで開かれた国際連合環境計画(UNEP)の政府間交渉委員会にて、名称を「水銀に関する水俣条約」とすることを日本政府の代表が提案し、全会一致で名称案を可決した。

条約は熊本県で2013年10月7-8日の準備会合を経て、2013年10月10日に採択され、92ヶ国(含むEU)が条約への署名をおこなった[1]

発効は50か国が批准してから90日後とされており、2017年5月18日に発効の要件の50以上の国で締結されたため[2]、同年8月16日に発効した[3][4]

第5回締約国会議が2023年11月3日に閉幕し、直管蛍光灯の製造と輸出入を27年末までに禁止(使用と販売は許可)、水銀を使用したボタン型電池や化粧品、水銀含有触媒を使用するポリウレタンについても25年末までに製造や輸出入を禁止、水銀で汚染された廃棄物の基準値を15PPMとすることで同意した[5]

経緯 編集

締約国 編集

 

2019年6月10日現在で、128か国(欧州連合を含む)が署名し、うち109か国(欧州連合を含む)が締結している[6]

条約の締約国と批准した日
国・地域名 署名日 批准(承認・受諾・加入)日
  アフガニスタン 2017年5月2日(加入
  アルバニア 2014年10月9日
  アンゴラ 2013年10月11日
  アンティグア・バーブーダ 2016年9月23日(加入
  アルゼンチン 2013年10月10日 2017年9月25日
  アルメニア 2013年10月10日 2017年12月13日
  オーストラリア 2013年10月10日
  オーストリア 2013年10月10日 2017年6月12日
  バングラデシュ 2013年10月10日
  ベラルーシ 2014年9月23日
  ベルギー 2013年10月10日 2018年2月26日
  ベナン 2013年10月10日 2016年11月7日
  ボリビア 2013年10月10日 2016年1月26日
  ボツワナ 2016年6月3日(加入
  ブラジル 2013年10月10日 2017年8月8日
  ブルガリア 2013年10月10日 2017年5月18日
  ブルキナファソ 2013年10月10日 2017年4月10日
  ブルンジ 2014年2月14日
  カンボジア 2013年10月10日
  カメルーン 2014年9月24日
  カナダ 2013年10月10日 2017年4月7日
  中央アフリカ 2013年10月10日
  チャド 2014年9月25日 2015年9月24日
  チリ 2013年10月10日 2018年8月27日
  中国 2013年10月10日 2016年8月31日
  コロンビア 2013年10月10日
  コモロ連合 2013年10月10日
  コンゴ共和国 2014年10月8日
  コスタリカ 2013年10月10日 2017年1月19日
  コートジボワール 2013年10月10日
  クロアチア 2014年9月24日 2017年9月25日
  キューバ 2018年1月30日(加入
  キプロス 2014年9月24日
  チェコ 2013年10月10日 2017年6月19日
  デンマーク 2013年10月10日 2017年5月18日(承認
  ジブチ 2013年10月10日 2014年9月23日
  ドミニカ共和国 2013年10月10日 2018年3月20日
  エクアドル 2013年10月10日 2016年7月29日
  エルサルバドル 2017年6月20日(加入
  エリトリア 2017年6月21日(加入
  エスワティニ 2016年9月21日(加入
  エチオピア 2013年10月10日
  欧州連合 2013年10月10日 2016年5月18日(承認
  フィンランド 2013年10月10日 2017年6月1日(受諾
  フランス 2013年10月10日 2017年6月15日
  ガボン 2014年6月30日 2014年9月24日(受諾
  ガンビア 2013年10月10日 2016年11月7日
  ジョージア 2013年10月10日
  ドイツ 2013年10月10日 2017年9月15日
  ガーナ 2014年9月24日 2017年3月23日
  ギリシャ 2013年10月10日
  グアテマラ 2013年10月10日
  ギニア 2013年11月25日 2014年10月21日
  ギニアビサウ 2014年9月24日 2018年10月22日
  ガイアナ 2013年10月10日 2014年9月24日
  ホンジュラス 2014年9月24日 2017年3月22日
  ハンガリー 2013年10月10日 2017年5月18日
  アイスランド 2018年5月3日(加入
  インド 2014年9月30日 2018年6月18日
  インドネシア 2013年10月10日 2017年9月22日
  イラン 2013年10月10日 2017年6月16日
  イラク 2013年10月10日
  アイルランド 2013年10月10日 2019年3月18日
  イスラエル 2013年10月10日
  イタリア 2013年10月10日
  ジャマイカ 2013年10月10日 2017年7月19日
  日本 2013年10月10日 2016年2月2日(受諾
  ヨルダン 2013年10月10日 2015年11月12日
  ケニア 2013年10月10日
  キリバス 2017年7月28日(加入
  クウェート 2013年10月10日 2015年12月3日
  ラオス 2017年9月21日(加入
  ラトビア 2014年9月24日 2017年6月20日
  レバノン 2017年10月13日(加入
  レソト 2014年11月12日(加入
  リベリア 2014年9月24日
  リビア 2013年10月10日
  リヒテンシュタイン 2017年2月1日(加入
  リトアニア 2013年10月10日 2018年1月15日
  ルクセンブルク 2013年10月10日 2017年9月21日
  マダガスカル 2013年10月10日 2015年5月13日
  マラウイ 2013年10月10日
  マレーシア 2014年9月24日
  マリ 2013年10月10日 2016年5月27日
  マルタ 2014年10月8日 2015年8月18日
  マーシャル諸島 2019年1月29日(加入
  モーリタニア 2013年10月11日 2015年8月18日
  モーリシャス 2013年10月10日 2017年9月21日
  メキシコ 2013年10月10日 2015年9月29日
  モナコ 2014年9月24日 2014年9月24日
  モンゴル 2013年10月10日 2015年9月28日
  モンテネグロ 2014年9月24日
  モロッコ 2014年6月6日
  モザンビーク 2013年10月10日
  ナミビア 2017年9月6日(加入
  ネパール 2013年10月10日
  オランダ 2013年10月10日 2017年5月18日(受諾
  ニュージーランド 2013年10月10日
  ニカラグア 2013年10月10日 2014年10月29日
  ニジェール 2013年10月10日 2017年6月9日
  ナイジェリア 2013年10月10日 2018年2月1日
  北マケドニア 2014年7月25日
  ノルウェー 2013年10月10日 2017年5月12日
  パキスタン 2013年10月10日
  パラオ 2014年10月9日 2017年6月21日
  パナマ 2013年10月10日 2015年9月29日
  パラグアイ 2014年2月10日 2018年6月26日
  ペルー 2013年10月10日 2016年1月21日
  フィリピン 2013年10月10日
  ポーランド 2014年9月24日
  ポルトガル 2018年8月28日(加入
  韓国 2014年9月24日
  モルドバ 2013年10月10日 2017年6月20日
  ルーマニア 2013年10月10日 2017年5月18日
  ロシア 2014年9月24日
  ルワンダ 2017年6月29日(加入
  サモア 2013年10月10日 2015年9月24日
  サントメ・プリンシペ 2018年8月30日(加入
  サウジアラビア 2019年2月27日(加入
  セネガル 2013年10月11日 2016年3月3日
  セルビア 2014年10月9日
  セーシェル 2014年5月27日 2015年1月13日
  シエラレオネ 2014年8月12日 2016年11月1日
  シンガポール 2013年10月10日 2017年9月22日
  スロバキア 2013年10月10日 2017年5月31日
  スロベニア 2013年10月10日 2017年6月23日
  南アフリカ共和国 2013年10月10日 2019年4月29日
  スペイン 2013年10月10日
  スリランカ 2014年10月8日 2017年6月19日
  セントクリストファー・ネイビス 2017年5月24日(加入
  セントルシア 2019年1月23日(加入
  パレスチナ 2019年3月10日(加入
  スーダン 2014年9月24日
  スリナム 2018年8月2日(加入
  スウェーデン 2013年10月10日 2017年5月18日
  スイス 2013年10月10日 2016年5月25日
  シリア 2014年9月24日 2017年7月26日
  タイ 2017年6月22日(加入
  トーゴ 2013年10月10日 2017年2月3日
  トンガ 2018年10月22日(加入
  チュニジア 2013年10月10日
  トルコ 2014年9月24日
  ツバル 2019年6月7日(加入
  ウガンダ 2013年10月10日 2019年3月1日
  アラブ首長国連邦 2013年10月10日 2015年4月27日
  イギリス 2013年10月10日 2018年3月23日
  タンザニア 2013年10月10日
  アメリカ合衆国 2013年11月6日 2013年11月6日(受諾
  ウルグアイ 2013年10月10日 2014年9月24日
  バヌアツ 2018年10月16日(加入
  ベネズエラ 2013年10月10日
  ベトナム 2013年10月11日 2017年6月23日(承認
  イエメン 2014年3月21日
  ザンビア 2013年10月10日 2016年3月11日
  ジンバブエ 2013年10月11日

日本 編集

日本は、2013年(平成25年)10月10日に署名した後、2015年(平成27年)3月10日に条約の承認を求める議案を水銀による環境の汚染の防止に関する法律案と大気汚染防止法の一部を改正する法律案とともに第189回国会へ提出[7][8][9]した。

条約の承認を求める議案は、2015年5月12日に衆議院[7]で、5月22日に参議院[10]でそれぞれ満場一致で承認された。条約を実施するための2法は、2015年5月26日に衆議院[8][9]で、6月12日に参議院で[11][12]それぞれ満場一致でに可決され成立した。両法とも条約が日本国について効力を生ずる日から施行されている。

2016年(平成28年)2月2日には、受諾書を寄託した[13]

EU 編集

2017年11月5日、欧州連合(EU)理事会は水銀に関する水俣条約を締結する決定を採択した[14]。2017年11月5日に署名したのは21の加盟国である(クロアチア、キプロス、ラトビア、ポーランドは2014年9月24日、マルタは2014年10月8日に署名済)[14]

内容 編集

この条約の主な内容

前文 編集

この条約の締約国は、水銀が、その長距離にわたる大気中の移動、人為的に環境にもたらされた場合の残留性、生態系における生物蓄積能力並びに人の健康及び環境への重大な悪影響を理由として、世界的に懸念のある化学物質であることを認識し、効率的かつ効果的な一貫した方法で水銀を管理するための国際的行動を開始する。

序論 編集

第一条 目的 この条約は、水銀及び水銀化合物の人為的な排出及び放出から人の健康及び環境を保護することを目的とする。

第二条 定義

供給及び貿易:水銀の供給源および貿易 編集

第三条 水銀の供給源及び貿易   鉱山からの水銀産出の禁止、水銀の貿易に関しては条約で認められた用途以外の禁止

製品と製造プロセス:水銀添加製品、水銀使用製造プロセス、締結国の要請による除外 編集

第四条 水銀添加製品

第五条 水銀又は水銀化合物を使用する製造工程

第六条 要請により締約国が利用可能な適用除外

人力小規模金採掘 編集

第七条 零細及び小規模の金の採掘   水銀が不法に使用されないようにする

大気への排出、水及び土壌への放出 編集

第八条 排出 附属書Dに掲げる発生源の分類に該当する発生源からの排出を規制するための措置を通じ、水銀の大気への排出を規制し削減する。

第九条 放出 この条約の他の規定の対象となっていない発生源からの水銀の土壌及び水への放出を規制しは削減する。

  石炭・石油等を燃焼させた排ガスの規制・排水の規制

保管、廃棄等 編集

第十条 水銀廃棄物以外の水銀の環境上適正な暫定的保管   環境上適正な保管

第十一条 水銀廃棄物 有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約の関連する定義は、バーゼル条約の締約国に関し、この条約の対象となる廃棄物について適用する。

第十二条 汚染された場所

  • 水銀汚染された場所を特定し評価するための戦略を策定する。
  • 汚染された場所がもたらす危険を減少させるための措置は、水銀による人の健康及び環境に対する危険性の評価を取り入れ、環境上適正な方法で行われる。
  • 締約国会議は、汚染された場所の管理に関する手引であって、次の事項に関する方法及び取組方法を含むものを採択する。
    • 場所の特定及び特性の評価
    • 公衆の関与
    • 人の健康及び環境に対する危険性の評価
    • 汚染された場所がもたらす危険の管理に係る選択肢
    • 効果及び費用の評価
    • 成果の検証

資金・技術支援 編集

第十三条 資金及び資金供与の制度 自国の政策、優先度及び計画に従い、この条約の実施を意図する各国の活動に関する資金を提供することを約束する。

第十四条 能力形成、技術援助及び技術移転

普及啓発、研究等 編集

第十五条 実施及び遵守に関する委員会

第十六条 健康に関する側面 危険にさらされている人々や被害を受けやすい人々を特定し、保護するための戦略及び計画の作成及び実施を促進する。

第十七条 情報の交換

第十八条 公衆のための情報、啓発及び教育

第十九条 研究、開発及び監視

第二十条 実施計画 この条約の義務を履行するために実施計画を作成し提出する。

第二十一条 報告 この条約を実施するためにとった措置や効果について報告する。

第二十二条 有効性の評価 締約国会議は、定期的にこの条約の有効性を評価する。

第二十三条 締約国会議、第二十四条 事務局、第二十五条 紛争の解決、第二十六条 この条約の改正、第二十七条 附属書の採択及び改正、第二十八条 投票権、第二十九条 署名、第三十条 批准、受諾、承認又は加入

第三十一条 効力発生 この条約は、五十番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の日の後九十日目の日に効力を生ずる。

第三十二条 留保 この条約には、いかなる留保も付することができない。

第三十三条 脱退、第三十四条 寄託者、第三十五条 正文

以上は仮訳より

実生活への影響 編集

日本国内において生活するうえで影響があるのは、蛍光灯や乾電池など水銀が使われた製品(第4〜6条)である。

蛍光灯・CCFLについて 編集

規制対象となるのは以下の蛍光ランプである。[15]

  • 30 W以下の一般照明用コンパクト蛍光ランプ(CFL)で、水銀封入量が5 mgを超えるもの
  • 一般照明用直管蛍光ランプ(LFL)で、
    • (a) 60 W未満の3波長蛍光体を使用したもので、水銀封入量が5 mgを超えるもの
    • (b) 40 W以下のカルシウムハロ蛍光体を使用したもので、水銀封入量が10 mgを超えるもの
  • 一般照明用の高圧水銀ランプ(HPMV)
  • 電子ディスプレイ用冷陰極蛍光ランプ(CCFL及びEEFL)で、
    • (a) 長さが500 mm以下の小サイズのもので、水銀封入量が3.5 mgを超えるもの
    • (b) 長さが500 mmを超え1500 mm以下の中サイズのもので、水銀封入量が5 mgを超えるもの
    • (c) 長さが1500 mmを超える大サイズのもので、水銀封入量が13 mgを超えるもの

乾電池について 編集

乾電池は水銀0使用(水銀を原材料としては使っていないという意味、水銀がまったく含まれていないという意味ではない)がほとんどであるが、アルカリボタン電池、輸入された電池、家庭などで出てくる昔の電池には水銀が使われている可能性がある。そのため地元の最終処分場の環境や清掃工場の焼却炉を守るため注意が必要である。

脚注 編集

  1. ^ 水銀に関する水俣条約の概要環境省
  2. ^ 原篤司、池上桃子 (2017年7月2日). “水銀規制、改めて訴え 「水俣条約」発効記念行事に20カ国以上”. 朝日新聞 (朝日新聞社): p. 朝刊 熊本全県版 
  3. ^ 「水俣病は終わってない」 患者女性が被害訴え 水銀規制条約発効”. 産経ニュース. 産経デジタル (2017年8月17日). 2020年10月6日閲覧。
  4. ^ 水銀に関する水俣条約外務省
  5. ^ 蛍光灯、27年末で製造禁止 水銀規制の水俣条約会議”. 日本経済新聞 (2023年11月4日). 2023年11月4日閲覧。
  6. ^ 国際連合. “United Nations Treaty Collection Chapter XXVII 17 . Minamata Convention on Mercury”. 2019年6月10日閲覧。
  7. ^ a b 日本国衆議院. “水銀に関する水俣条約の締結について承認を求めるの件”. 2019年6月10日閲覧。
  8. ^ a b 日本国衆議院. “水銀による環境の汚染の防止に関する法律案”. 2019年6月10日閲覧。
  9. ^ a b 日本国衆議院. “大気汚染防止法の一部を改正する法律案”. 2019年6月10日閲覧。
  10. ^ 日本国参議院. “水銀に関する水俣条約の締結について承認を求めるの件”. 2019年6月10日閲覧。
  11. ^ 日本国参議院. “水銀による環境の汚染の防止に関する法律案”. 2019年6月10日閲覧。
  12. ^ 日本国参議院. “大気汚染防止法の一部を改正する法律案”. 2019年6月10日閲覧。
  13. ^ 日本国外務省 (2016年2月9日). “「水銀に関する水俣条約」の受諾書の寄託”. 2016年4月4日閲覧。
  14. ^ a b EU、水銀に関する水俣条約の批准準備を完了”. 駐日欧州連合代表部. 2018年10月23日閲覧。
  15. ^ 一般社団法人日本電球工業会「水銀に関する条約の制定について」

参考文献 編集

関連項目 編集

外部リンク 編集