池間湿原

日本の沖縄県宮古島市にある湿原

池間湿原(いけましつげん)は、沖縄県宮古島市宮古列島池間島の中心部にある湿原である。池間島湿原と呼ばれることもある。また、地元ではイーヌブー[1][2]ユニムイ[3]とも呼ばれる。

池間湿原
池間湿原の展望台からの眺め

歴史 編集

かつての池間島は東西2つの島に分かれており、その間には南北に延びる細い水路があった。16世紀初めに、この地域を支配した「四島の主」[注 1]が水路の北側に2つの島を結ぶ石橋を架けた。年月が経つにつれて石橋の周囲に砂が堆積して2つの島はつながって、水路は南側に口を開けた細長い入り江になり、「イーヌブー」(「北の入り江」の意)と呼ばれるようになった。この入り江の面積は約60haあったとされる[4]

1924年大正13年)から1934年昭和9年)にかけて、干拓のために入り江の入口に二重に干拓堤防が造成され、約47haが干拓されて約20haの干拓地が形成された。堤防で区切られた入り江の残りの部分は汽水の沼地となった。これらの干拓の対象となった区域は、「ユニムイ」(砂盛)と呼ばれた。現在の池間小学校・池間中学校のグラウンドはこの干拓地に築かれたものである[5]

さらに、1963年(昭和38年)から1982年(昭和57年)にかけての池間漁港の工事の際に、浚渫した土砂で入口付近が埋め立てられ、入り江は外海と完全に遮断されて淡水化した[6][7]

自然 編集

 
 
池間湿原

38haの広さを有する沖縄県で最大の湿原である。日本の重要湿地500に選定されるとともに、2011年11月1日には「池間鳥獣保護区」として島全体が国の鳥獣保護区に指定されている[注 2][8][9]

岸辺には木造の観察小屋が設けられていたが、老朽化したため、2009年に鉄骨造の展望台に建て替えられた。これに合わせて、湿原にアクセスする道路や駐車可能なスペースも整備されている。

近年、水草の繁茂や周辺の陸地からの土砂の流入により陸地化が急速に進み、湿原の面積は次第に小さくなっており[10]、湿原の保全・再生が大きな問題となっている。また、腐植土の堆積や抽水性の水草・外来植物の繁茂等により、環境の劣化が進んでいる。環境省では2019年8月から6年計画で堆積物を浚渫し、水域を拡大する事業を実施する計画である[11]

鳥類 編集

ガンカモ類、サギ類等の渡り鳥の餌場、休憩地になっている。

ヒドリガモマガモカルガモハシビロガモオナガガモシマアジオオバンアオサギ等が代表的な鳥類であり、サンカノゴイムラサキサギ等の珍しい鳥も見られる。ムラサキサギについては繁殖も確認されている[12]

また、迷鳥として国の天然記念物であるヒシクイ[13][14]サカツラガン[4][13]マガン[13]ホオジロガモ[15]ソデグロヅル[16]の飛来も確認されている。

魚類・甲殻類 編集

外来種淡水魚であるテラピアグッピーが繁殖している。また、オカガニが生息しており、5-10月の満月前後にはゾエア幼生を海に放すために大群が周回道路を横断する姿が見られる[17]ヤシガニも棲息している。

昆虫 編集

水生昆虫が豊富であり、以下の種が確認されている[18]

  • トンボ - リュウキュウベニイトトンボ、ムスジイトトンボ、タイワンウチワヤンマ、アオビタイトンボ、アメイロトンボ
  • アメンボ - セスジアメンボ
  • ゲンゴロウ - チビコツブゲンゴロウ、ヒメフチトリゲンゴロウ、コガタノゲンゴロウ、トビイロゲンゴロウ
  • ガムシ - コクロヒラタガムシ、クロヒラタガムシ

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ ここでの「島」(シマ)は集落の意味で、「四島」とは狩俣、島尻、大神、池間の4つの集落を指す。
  2. ^ なお、国の鳥獣保護区となる前は、沖縄県の鳥獣保護区であった。

出典 編集

  1. ^ 宮古毎日新聞 (2012年10月11日). “渡り鳥を呼び寄せる「池間湿原」構想”. 伊良波盛男. http://www.miyakomainichi.com/2012/10/41033/ 
  2. ^ 宮古新報 (2012年7月14日). “池間湿原を活性化資源に・ワークショップ”. http://miyakoshinpo.com/news.cgi?no=6193&continue=on 
  3. ^ 宮古毎日新聞 (2010年10月30日). “仲地邦博さん(54歳)/「宮古野鳥の会」会長”. http://www.miyakomainichi.com/2010/10/8830/ 
  4. ^ a b 琉球新報 (1997年12月9日). “池間湿原にサカツラガンが飛来”. オリジナルの2014年8月23日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140823083809/http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-90394-storytopic-86.html 
  5. ^ 池間島について NPO法人いけま福祉支援センター
  6. ^ 宮古毎日新聞 (2005年4月27日). “ぺん遊ぺん楽 - イーヌ、ブー”. 砂辺達男. http://www.cosmos.ne.jp/~miyako-m/htm/penyu/penyu050427.htm 
  7. ^ 池間島 池間湿原
  8. ^ 国指定池間鳥獣保護区指定計画書 (PDF) 環境省、2011年11月1日
  9. ^ “きょうから鳥獣保護区/与那覇湾・池間島”. 宮古毎日新聞. (2011年11月1日). http://www.miyakomainichi.com/2011/11/25638/ 
  10. ^ 琉球新報 (1999年11月13日). “陸地化が進む池間湿原”. オリジナルの2014年8月22日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140822010239/http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-95924-storytopic-86.html 
  11. ^ “野鳥の飛来環境整備へ/環境省”. 宮古毎日新聞. (2019年7月17日). http://www.miyakomainichi.com/2019/07/121909/ 
  12. ^ ムラサキサギ せっせと子育て/平良市の池間湿原 琉球新報、2003年6月16日
  13. ^ a b c 探鳥地ガイド 池間島(池間島湿原) 琉球文化アーカイブ
  14. ^ 琉球新報 (2006年1月14日). “湿原舞う姿に歓声 愛好家ら探鳥会楽しむ 池間島”. オリジナルの2009年12月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20091203102954/http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-10182-storytopic-5.html 
  15. ^ 琉球新報 (1998年3月7日). “池間島にホオジロガモ飛来”. オリジナルの2014年9月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140912094710/http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-92587-storytopic-86.html 
  16. ^ 琉球新報 (2012年1月10日). “ソデグロヅル飛来 宮古で初確認”. オリジナルの2012年1月10日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120110210508/http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-186087-storytopic-5.html 
  17. ^ 琉球新報 (2005年6月25日). “海岸目指し大移動 1周道路ぞろぞろ 放卵のオカガニ”. オリジナルの2009年12月10日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20091210093104/http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-3544-storytopic-5.html 
  18. ^ No.475 池間島湿原と周辺サンゴ礁 日本の重要湿地500・環境省

外部リンク 編集

座標: 北緯24度55分55秒 東経125度14分35秒 / 北緯24.93194度 東経125.24306度 / 24.93194; 125.24306