流星バースト通信

流星バースト通信(りゅうせいバーストつうしん、: meteor burst communicationsMBC)とは流星のため発生する電離電子による電波の反射[1]を利用した通信法である。流星による反射は流星散乱meteor scatter, MS)と呼ばれる電波伝播モードの一種であり、見通し外通信ができる。送信にバースト信号(短い信号)が用いられるため利用する信号の観点から流星バースト通信と呼ばれるが、伝播の観点からは流星散乱通信と呼ばれる[2]アマチュア無線では流星散乱通信と呼ぶことが多い。通信利用でなく流星に関連した電波の反射を流星の観測に利用すれば流星電波観測となり、反射のレーダー観測を行えば高層大気の観測方法となる[3]

概要編集

宇宙塵大気圏への突入の頻度は多いため平均して10秒に1.5秒間の通信が可能である[4]。長所としては通信システムが簡単であるため安いコストで見通し外通信ができ、傍受がしにくく秘匿性が高いので多地点からのテレメトリー収集に適している[5]。短所としては伝送に遅れが生じること、大量のデータの伝送には向かないこと、短時間ではあるが100Wほどの比較的大きな送信出力を必要とすることがある[5]

使用周波数は流星に関連した反射の能率から40-50 MHzが選ばれることが多い。アマチュア無線では50 MHzバンドで行われることが多い。ヨーロッパのアマチュア無線で144 MHzを主に使用しているのは周波数規制と歴史上の理由である[6]

テレメトリー収集システムは沖ノ鳥島の気象観測[7]、米国のSNOTEL[8]気象データ収集システムなど多数の構築例がある[9]

デジタル信号を使う場合には反射が利用できる時間が短いため月面反射通信と同じく信号処理ソフトウェアに工夫を凝らす必要がある[10][11]

High Speed Meteor Scatter(HSMS)としてSSB[要曖昧さ回避]音声または高速のモールス符号通信HS-(CW[要曖昧さ回避])が行われてヨーロッパでは144 MHzバンドのHS-CWが盛んだった時期がある[6]。その後K1JTにより開発されたWSJTソフトウェアの普及によりデジタル信号の交信が北米で主流となった[12]

歴史編集

  • 1929年 長岡半太郎による流星と電波通信の関連の報告[13]
  • 1953年 流星散乱へアマチュア無線家の興味が高まる[14]
  • 1960年代 ロケットで酸化アルミニウム硝酸セシウムを散布して反射波により電波情報を得る実験が米国南西部で実施され1時間の反射が得られた[15][16][17]
  • 1969年アマチュア無線局JA5EMMなどにより流星散乱を利用した通信方法を提案。日本を南北に分け、毎分の1 - 30秒送信、31 - 0秒受信するものであった。
  • 1971年8月26日 鹿児島宇宙センターから硝酸セシウム、アルミニウム粒、硝酸ナトリウム計8.1 kgがK-9 M-33ロケットにより高度117 kmに、またバリウムが高度240 kmに散布された。光学観測では雲が300秒間、短波(HF)の反射は13分間観測された[18]
  • 1977年8月12日 アマチュア無線局相互(ウェールズGW4CQT - ウクライナUW6MA)による432 MHzでの3,101 kmの通信[14]
  • 2001年から3年間、南極観測隊により通信実験が実施された[19][20][21][22]
  • 2006年 東京都立航空工業高等専門学校による流星バースト生成粉塵散布衛星の提案[23][24]
  • 2020年8月12日 ペルセウス流星群によりライセンスフリー無線局(デジタルコミュニティラジオ142,146MHz帯)いぶり4233北海道室蘭市→ナガサキYU106長崎県島原市間1452kmの1way通信成功。

脚注編集

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  1. ^ 流星の電波観測について”. 流星群電波観測国際プロジェクト. 2005年10月23日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2008年11月4日閲覧。
  2. ^ スポラディックE層の発生原因が流星であるという説があるが現在広い支持は得ていない。
  3. ^ 中村卓司の研究紹介”. 京都大学生存圏研究所. 2007年4月30日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2008年11月4日閲覧。
  4. ^ What is 流星バースト通信?”. 沼津工業高等専門学校 電子制御工学科 長沢正氏研究室. 2007年8月26日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2008年11月4日閲覧。
  5. ^ a b 流星バースト通信”. ハイテクリサーチ株式会社. 2016年9月13日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2008年11月4日閲覧。
  6. ^ a b 高速CWによる流星散乱通信の概要
  7. ^ 沖ノ鳥島の気象観測
  8. ^ NRCS National Water and Climate Center | SNOTEL Data & Products
  9. ^ 沼津高専 長澤研究室
  10. ^ オンライン・ソフトウェア集
  11. ^ WSJT - FSK Meteorscatter by K1JT
  12. ^ WA5UFH, "Digital Meteor Scatter Equals Maximum Fun" QST, April 2007:pp.45-47
  13. ^ METEOR BURST COMMUNICATIONS: AN ADDITIONAL MEANS OF LONG-HAUL COMMUNICATIONS
  14. ^ a b Meteor Scatter
  15. ^ James Bamford, Body of Secrets: Anatomy of the Ultra-Secret National Security Agency, ISBN 0-385-49908-6 
  16. ^ 初めて人工電子雲がロケットで作成されたのは米国の1956年の実験による(Rosenberg & Golomb p.397)。
  17. ^ 1960年代にはカナダでも硝酸セシウム散布が7 inch HARP gunロケットシステムで行われた(7 inch HARP Gun)。
  18. ^ 堤四郎, 竹屋芳夫, 黒田託三「搭載用セシウム雲発生弾の開発とそのロケット実験 (宇宙科学研究(特集))」『東京大学宇宙航空研究所報告』第8巻第1号、東京大学宇宙航空研究所、1972年3月、 74-86頁、 ISSN 05638100NAID 110000197233
  19. ^ 福田明, 椋本介士, 吉廣安昭, 中野啓, 大市聡, 長澤正氏, 山岸久雄, 佐藤夏雄, 門倉昭, YANG Huigen, YAO Mingwu, ZHANG Sen, HE Guojing, JIN Lijun「南極における流星バースト通信実験」『電子情報通信学会技術研究報告. SANE宇宙・航行エレクトロニクス』第103巻第636号、電子情報通信学会、2004年1月、 7-12頁、 ISSN 09135685NAID 110003288451
  20. ^ 椋本介士, 福田明, 吉廣安昭, 中野啓, 大市聡, 長澤正氏, 山岸久雄, 佐藤夏雄, 門倉昭, YANG Huigen, YAO Mingwu, ZHANG Sen, HE Guojing, JIN Lijiun「南極における流星バースト通信を用いたデータ伝送実験について」『電子情報通信学会技術研究報告. SANE宇宙・航行エレクトロニクス』第103巻第636号、電子情報通信学会、2004年1月、 13-18頁、 ISSN 09135685NAID 110003288452
  21. ^ 長澤正氏, 椋本介士, 福田明, 吉廣安昭, 中野啓, 大市聡, 山岸久雄, 佐藤夏雄, 門倉昭, YANG Huigen, YAO Mingwu, ZHANG Sen, HE Guojing, JIN Lijun「トーン信号伝送による南極大陸の流星バースト通信路の観測実験について」『電子情報通信学会技術研究報告. SANE宇宙・航行エレクトロニクス』第103巻第636号、電子情報通信学会、2004年1月、 19-24頁、 ISSN 09135685NAID 110003288453
  22. ^ 福田明, 椋本介士, 大市聡, 中野啓, 吉廣安昭, 長澤正氏, 山岸久雄, 佐藤夏雄, 楊恵根, 何国経, 金力軍「第45次南極地域観測隊における流星バースト通信によるデータ伝送実験」『電子情報通信学会論文誌. B, 通信』第90巻第2号、電子情報通信学会、2007年2月、 199-207頁、 ISSN 13444697NAID 110007378954
  23. ^ 流星バースト生成粉塵散布衛星の提案(2007年10月31日時点のアーカイブ
  24. ^ スペースシャトルSTS-60STS-63ではODERACS実験で直径2・4・6インチのアルミニウム球と1.74および5.255インチの金属ワイヤが地上のHaystack X-bandレーダー校正のためヒッチハイカー装置から放出されたが再突入の観測は行われていない。

参考資料編集

関連項目編集