海がきこえる
『海がきこえる』(うみがきこえる)は、氷室冴子による小説。また、それを原作として1993年にスタジオジブリが制作したアニメーション作品、及び1995年にテレビ朝日系列で放映されたテレビドラマ[1]。
海がきこえる | ||
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著者 | 氷室冴子 | |
イラスト | 近藤勝也 | |
発行日 | 1993年2月28日 | |
発行元 | 徳間書店 | |
ジャンル | 青春小説 | |
国 |
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言語 | 日本語 | |
形態 | B6判 | |
ページ数 | 271 | |
コード | ISBN 4-19-125064-7 | |
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海がきこえるII アイがあるから | ||
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著者 | 氷室冴子 | |
イラスト | 近藤勝也 | |
発行日 | 1995年5月31日 | |
発行元 | 徳間書店 | |
ジャンル | 青春小説 | |
国 |
![]() | |
言語 | 日本語 | |
形態 | B6判 | |
ページ数 | 271 | |
コード | ISBN 4-19-860287-5 | |
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本項では続編となる小説『海がきこえるII〜アイがあるから〜』(うみがきこえるII あいがあるから)についても述べる。
概要編集
氷室冴子による小説で、徳間書店のアニメ雑誌『月刊アニメージュ』に23回(1990年2月号 - 1992年1月号[注 1])にわたって連載され、のちに単行本として出版された[2][3]。高知を舞台に、地元の男子高校生と東京から転校してきた女子高校生がたどる青春の軌跡を描き、スタジオジブリの映画「魔女の宅急便」のキャラクターデザイナー・作画監督であった近藤勝也[注 2]が挿絵を担当したことも話題となって若い世代を中心にじわじわと人気を集めた[3][4]。雑誌連載で用いられた挿絵は氷室の構想メモをもとに近藤勝也が描いたもので、氷室自身も近藤の挿絵に触発された。そのため、懐かしさやノスタルジーを感じさせる独特の雰囲気のある作品ができたのだという[5]。
アニメ誌に連載されたきっかけは、当時の『アニメージュ』編集部が「アニメ絡みでない、メジャーな作家の作品を載せたい」と考えたことだった。徳間書店の編集者だった三ツ木早苗は、上司だった鈴木敏夫にけしかけられ、ミリオンセラーを連発していた当代の人気作家・氷室冴子に本を書かせてその原作を元にジブリで映像化することを目論んだ[3][6]。当時の氷室はほぼ集英社の専属状態で、少女向け文庫レーベル・コバルト文庫の第一人者だったため、そこに食い込むのは至難の業だったが、三ツ木はジブリを餌にそれを実現した[3][6]。ジブリの『魔女の宅急便』の試写会の際に「この映画と同じようなエンディングの作品を書きたい」と氷室が感想を述べた時に、連載がほぼ決定づけられた[5]。
作品の舞台が高知になったのは、当時、高知の図書館司書たちと交流を持っていて何度か訪れていた氷室が、そこを舞台にした小説を書きたいと考えたため[6]。当初はイラストでストーリーを綴って行こうという話もあり、アニメーターの近藤勝也が挿絵を担当することになった[6]。そして連載中の近藤の描いた絵とのやり取りによって氷室の作品に対する世界観も増幅されていった[6]。作中の高知弁は、氷室が標準語で書いたものを地元の人間に一度きちんとした高知弁にしてもらった後、それをまた高知以外の人にも通じるように氷室が直したため、正確な高知弁ではない[6]。またアニメもそれに準じている[6]。
1993年に単行本化された。その際、作者により一部エピソードが省かれるなどの編集が加えられたため、連載時とは異なる構成となっている[注 3]。同年、挿絵担当の近藤によるキャラクターデザインでスタジオジブリによるテレビアニメが制作された。
1995年、続編として『海がきこえるII〜アイがあるから〜』が書き下ろし単行本として出版された。引き続き、近藤勝也が挿絵を担当している。同年、武田真治主演で主に同作品をベースにしたテレビドラマが制作された。
1999年には『海がきこえる』『海がきこえるII〜アイがあるから〜』が共に文庫本化(徳間文庫)された[注 4]。文庫版の解説はそれぞれ『海がきこえる』を社会学者宮台真司が、『海がきこえるII〜アイがあるから〜』をテレビドラマの脚本家岡田惠和が担当している。
あらすじ編集
海がきこえる編集
高知の高校を卒業した杜崎拓は、東京の大学に進学した。一人暮らしを始めた矢先、同郷の友人から高知の大学に進学したと思っていた武藤里伽子が東京の大学に通っているという話を聞く。荷物の中から見つけた里伽子の写真を見ているうちに、拓の思いは自然と2年前の高校2年の夏の日へと戻っていった。家庭の事情で東京から転校してきた里伽子。彼女は、親友・松野が片思いしている相手という、ただそれだけの存在のはずだった。その年のハワイへの修学旅行までは。
海がきこえるII〜アイがあるから〜編集
大学1年の夏、杜崎拓は故郷の高知に帰省した。その夜開かれたクラス会には思いがけないことにあの武藤里伽子も出席していた。親友・松野と里伽子のわだかまりも解け、気分よく東京に戻った拓の部屋に、年上の女性、津村知沙が入り込み泥酔して寝ていた。不倫の恋に傷ついた知沙、離婚した父とその再婚相手との間で傷つく里伽子。2人の女性に翻弄されながら、拓は東京で初めての冬を迎える。
登場人物編集
主要人物編集
- 杜崎 拓(もりさき たく)
- 主人公。性格は純粋。口が軽く、ぶっきらぼうなことも言うが、どちらかと言えば自分からは行動しない守り型の性格。高校卒業後、東京の大学に進学し、石神井公園の付近にあるアパートに下宿している。実家は高知市五台山。
- 武藤 里伽子(むとう りかこ)
- ヒロイン。両親の家庭問題で、5年生(高校2年生)の8月に東京から母親の実家のある高知に引っ越してくる。容姿端麗で学業成績ならびにスポーツも優秀だが、人付き合いは苦手。転校生でありながら土佐弁をあからさまにバカにしたり、クラス活動にも参加しないため、友人は小浜裕実一人のみ。松野が想いを寄せる。高校卒業後、地元の高知大学を受験し合格したが、実は密かに東京の女子大を受験し進学していた。
拓の地元の同級生編集
- 松野 豊(まつの ゆたか)
- 拓の親友。密に里伽子に恋している。あることがきっかけで拓と絶交状態になっていたが、高校卒業後の夏休みに帰郷した拓と和解した。高校卒業後、京都の大学(アニメでは「京都の国立大学」)に進学した。
- 小浜 裕実(こはま ゆみ)
- 里伽子の友人。6年生(高校3年生)のクラス替えの際、たまたま席が隣で里伽子と仲良くなった。お嬢様育ちで、周りは里伽子が「女王さま」なのに対してその「侍女」という印象を少なからず受けていた。高校卒業後、神戸の女子大に進学した。のちに「里伽子に利用されていたみたいな感じする」とアサシオに打ち明けている。
- 山尾 忠志(やまお ただし)
- 太った体格で郷土が誇る関取の名にちなんで「アサシオ」と綽名されている。密に裕実に恋している。飲兵衛。開業医のひとり息子で、高校卒業後、なりたくもない医者になるために東京の私立医大へ進学した。
- 清水 明子(しみず あきこ)
- 拓の高校時代のクラスメイトで、拓曰く典型的なクラス委員長タイプ。とあることでクラスの女子数人が里伽子を吊し上げした際のリーダー的存在。高校時代は里伽子を嫌っていたが、高校卒業後の夏休みに高知で里伽子と偶然再会し、和解した模様。
東京の人々編集
- 岡田(おかだ)
- 東京時代の里伽子のクラスメイト。元恋人でプレイボーイ。里伽子との再会時には、里伽子の友達と付き合っていた。ジャニーズ事務所にスカウトされても不思議ではないハンサムぶりで、拓は「ジャニーズ岡田」と呼称している。
- 津村 知沙(つむら ちさ)
- 拓の大学の先輩で長身の美人。津村知沙に関わったことで拓は東京で偶然に里伽子と再会することとなる。続編で拓は里伽子と知沙の両者に悩まされることになる。
- 田坂 浩一(たさか こういち)
- 拓の大学で同学部だが学科が異なる先輩。拓が定期的に通う書店でアルバイトをしている。あることがきっかけで「リハビリ」中にある知沙と付き合いながら彼女を支えている。
書誌情報編集
小説編集
単行本
- 『海がきこえる』徳間書店、1993年、ISBN 4-19-125064-7
- 『海がきこえるII アイがあるから』徳間書店、1995年、ISBN 4-19-860287-5
文庫本
- 『海がきこえる』徳間文庫、1999年、ISBN 4-19-891130-4
- 『海がきこえる 新装版[注 5]』徳間文庫、2022年、ISBN 978-4-19-894759-0
- 『海がきこえるII アイがあるから』徳間文庫、1999年、ISBN 4-19-891131-2
関連書籍編集
イラスト集編集
- 近藤勝也『僕が好きなひとへ 海がきこえるより』徳間書店、1993年、ISBN 4-19-555171-4
アニメ関連編集
- 『海がきこえるフィルムBOOK』徳間書店、1993年、ISBN 4-19-720163-X
- 『スタジオジブリ絵コンテ全集 8 海がきこえる』徳間書店スタジオジブリ事業本部、2001年、ISBN 4-19-861438-5
- 『スタジオジブリ作品関連資料集Ⅳ』徳間書店、1996年12月31日、ISBN 4-19-860628-5
テレビドラマ関連編集
- 『海がきこえるCOLLECTION』徳間書店、1995年、ISBN 4-19-860416-9
スペシャルアニメ編集
海がきこえる | |
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ジャンル | 青春 |
アニメ | |
原作 | 氷室冴子 |
監督 | 望月智充 |
脚本 | 中村香 |
キャラクターデザイン | 近藤勝也 |
音楽 | 永田茂 |
アニメーション制作 | スタジオジブリ若手制作集団 |
製作 | 徳間書店 日本テレビ放送網 スタジオジブリ |
放送局 | 日本テレビ系 |
放送期間 | 1993年5月5日 - 5月5日 |
話数 | 全1回 |
映画 | |
配給 | スタジオジブリ |
封切日 | 1993年12月25日[4] |
上映時間 | 72分46秒12コマ |
その他 | 同時上映「そらいろのたね」「なんだろう」[注 6] |
テンプレート - ノート | |
プロジェクト | アニメ・映画 |
ポータル | アニメ・映画 |
『海がきこえる』(うみがきこえる、英題:Ocean Waves)は、日本テレビ開局40周年記念番組として放送されたアニメ作品[3]。同題の小説を原作に、スタジオジブリが初のテレビ向け作品として制作した[4][8]。1993年5月5日(こどもの日)に90分間のスペシャルアニメとして日本テレビで放送された後、一部の日本テレビ系列局でも放映された[3]。テレビ放映後にはいくつかの映画館でも上映され、2016年には限定2館の上映ながらアメリカでも劇場公開された[9][10]。キャッチコピーは「高知・夏・17歳 僕と里伽子のプロローグ。」
芸術文化振興基金助成事業の一環として制作され、第31回(1993年度)ギャラクシー賞で奨励賞を受賞している。
あらすじ編集
高知の進学校から東京の大学に進学した杜崎拓は、吉祥寺駅のホームで武藤里伽子に似た女性を見かける。だが、里伽子は高知の大学へ行ったのではなかったのか?初めての夏休み、同窓会のために帰省する飛行機の中で、拓の思いは自然と里伽子と出会ったあの2年前の夏の日へと戻って行った。季節外れに東京から転校して来た里伽子との出会い、ハワイへの修学旅行、里伽子と2人だけの東京旅行、親友と喧嘩別れした文化祭。ほろ苦い記憶をたどりながら、拓は里伽子との思い出を振り返っていく。
解説編集
スタジオジブリ制作の長編作品の中では唯一、劇場用ではなくスペシャル番組用のテレビアニメとして制作された作品[2][8]。しかし、制作側は「映画」という認識だったため、地上波放送のテレビの画面アスペクト比が4:3の時代だったにも関わらず、劇場並みの16:9のビスタサイズで制作された[11]。テレビCMやチラシやマスコミ向けのパンフレットなどが制作されただけで、ほかの劇場映画として作られたジブリ作品のような大掛かりなプロモーションは行われなかった[9]。テレビ放映は収益性が低いことを理由に、その後、同様の企画は実現していない[注 7]。また東小金井に移されたスタジオジブリ新社屋で制作された初めての作品でもある。
ジブリ内の若手作家を育成する目的で、鈴木敏夫プロデューサーが宮崎駿に「社内の若手スタッフに何か1本制作を任せてみてはどうだろうか」と提案して実現した企画[3][注 8]。その後のジブリを背負って立つ若手クリエーターたちを中心に制作された[2][4][8][注 9]。そのためジブリとしては宮崎駿や高畑勲が全く関わらない初めての作品となり、ジブリ作品の中で異質なイメージを与える要因のひとつとなっている[8]。
スタッフは、キャラクターデザインと作画監督に原作小説のイラストも担当した近藤勝也、のちに『ゲド戦記』『コクリコ坂から』などのジブリ映画の脚本を手掛けるようになる徳間書店の編集者だった丹羽圭子(中村香)[注 10]、宮崎駿作品の背景を多く手掛けた男鹿和雄を師と仰ぐ美術監督の田中直哉らが参加。
監督には、外部から『魔法の天使クリィミーマミ』『めぞん一刻』『きまぐれオレンジ☆ロード』などで高い評価を受け、細やかな人物表現と克明な日常表現の演出で定評のあった望月智充が招聘された[2][3][8][注 11]。
配役はベテラン声優の中からテープオーディションで決められた[15]。ヒロインの里伽子役は、鈴木敏夫プロデューサーの強い推薦により、小劇団で活動していた坂本洋子が選ばれた[15][16][注 12]。歴代スタジオジブリ作品の中で、唯一男性の専業声優(飛田展男)が主人公を演じている作品であり、またヒロイン以外の脇を固めるキャストもほぼ専業声優で占められていることも、ジブリ作品としてはきわめて異例である[注 13]。
方言指導は、高知県出身で土佐弁に堪能な点を見込まれ、望月の要望で女生徒の一人として参加した島本須美と、同じく高知出身の渡部猛が務めた[16]。また前述のとおり、高知以外の地域の人にも意味が通じることを優先したため、実際の高地弁とは若干異なっている[6]。
制作当初、鈴木敏夫の要望で主題歌は中島みゆきの『傷ついた翼』の使用が検討されていたが、楽曲使用料の問題でヒロイン役の坂本洋子の楽曲「海になれたら」が使用された[12][15]。
実質72分間[注 14]という短い作品であるため、原作とはストーリー展開や構成、設定の一部が異なっている[8]。
1995年公開のスタジオジブリ作品『耳をすませば[注 15]』は、同作の脚本・絵コンテ・製作プロデューサーを担当した宮崎駿が『海がきこえる』に触発されて制作に乗り出したものであるとされ、同じ若者の恋愛物をぶつけてきたことについて近藤勝也は「ジブリの恋愛物と言えば『海がきこえる』ではなく『耳をすませば』を皆が連想するようにしたかったのでは」と推測している[12]。また、2011年公開の宮崎駿企画のスタジオジブリ作品『コクリコ坂から』とは脚本とキャラクターデザインが共通であるなど非常に密接な関係がある[2][18]。
制作編集
制作前、主なスタッフによる高知でのロケハンが行なわれた。その時点で作品内容から画面処理などの突っ込んだことまでスタッフ同士で話し合い、監督の望月智充は誰の出した意見でも良いと思えばどんどん作品に取り入れて行った。その雰囲気は制作現場まで引き継がれた[19]。メインスタッフ間でかなり活発な議論が交わされ、普段ならあまり作品内容に踏み込まない美術や色指定も準備段階から参加し、彼らの意見もストーリーに反映されるなど、それまでのジブリ作品には見られない展開があった[20]。特に小説連載時から原作に関わっていた近藤勝也は自身の中に彼なりのイメージが出来上がっており、最も積極的に発言し、表現上のみならず制作上でも大胆な提案を行うなど、議論をリードした[21][注 16]。望月は「絵に描かれると説得力があるので、自分は全体のまとめ役のような形になった」と言っている[19]。一方、近藤は「自分が抑えたのは点としてのシーンで、それを線として作品にしたのは望月だった」と証言している[19]。
短い放送時間の中で原作のエピソードを全て描ききるのは困難だと考えた望月は、原作の前半部(高校生編)か後半部(大学生編)のどちらか一方のアニメ化を希望していた。そして作監の近藤、制作プロデューサーの高橋望、脚本を手がけた中村香を交えた話し合いの結果、高校生編を中心に大学生編の一部を加えた内容でストーリーを構成することが決まった[9]。作品の舞台は主に高知での中高一貫校時代に限定され、大学進学後の話は冒頭とエンディングに登場するのみでほとんど描かれなかった[注 17]。
作品の舞台は南国高知、そして季節はほとんど夏ということで、美術と色彩設計の課題は光と影の強烈なコントラストをどう表現するかということだった[23]。色指定の古谷由実は、近藤の提案で各キャラごとに「順光」「逆光」「ノーマル」の3パターンを作り、その色の組み合わせでのコントラストの表現に挑戦した[23]。そして現実の季節ではなく場面のイメージを優先した結果、大部分のシーンが夏だった高知ではなく、5月の東京・成城の場面に最も光と影のコントラストを強く出している[23]。そして高知の場面は、夏でもさわやかな感じが基調だった[23]。
美術監督の田中直哉はロケハン直後に最も早く準備室入りし、近藤の唯一の相談相手としてストーリーの構成や作品の方向性に至るまで深く関わった[23]。物語の基本的な構成は脚本第一稿からあまり変わっていないが、オープニングとラストシーンだけは最後まで揉めた[23]。そのオープニングの駅での再会シーンの一部に田中のアイデアが採用された[23]。その他、里伽子と対立する高知の女生徒の代表として清水明子をもっと前面に出すように最初に提案したのも田中だった[23]。本来の領分である美術では、冷たくない暖かみのある透明感のようなものを出したかったという[23]。また実在する高知や東京の風景が作中に登場するが、写真そのままのように見えてもトレースしたわけではなく、一度自分の中でイメージにして描いているという[12]。
絵コンテを描いたのは監督の望月だが、画面作りにおいては近藤の果たした役割も大きい[19]。短い制作期間で作画の質と統一感を保つため、近藤は望月のコンテを全カット清書して、独自の"作画用コンテ"を創り出した。このコンテにより、ラフ原画の段階から演技の統一を図り、あとで作監修正する時の手間を省こうとした[19][24][注 18]。近藤はまた、実写に肉薄できるリアルな演技を求め、望月のコンテの構図に合わせてスタッフ同士で演技してカメラで撮影し、そこからラフ原画を起こすということもやった[22]。ロケハン時の写真も使えるものはそのままショットの背景原画として拡大コピーし、背景作業の簡便化も図った[9][25]。どんな作品にでも使える方法ではないが、リアリティを要求される『海がきこえる』なら可能だというのが近藤の主張だった[22]。そして近藤はポイントとなるシーン別にイメージボードを絵コンテの形にして提出することもあり、望月は自分の演出にあう形にしてそれを取り込んで行った[21]。一方、望月はアフレコ、ダビングなども担当し、この2人の二人三脚が制作の中心となった[19]。
望月の演出としては、大学生の現在と中学・高校時代の思い出をカットバックで見せる手法や、それぞれのキャラクターの目線で風景を切り取るカット割り、そしてラストシーンを活かすために全編に渡ってフィックス(固定撮影)となっているカメラワークなどが独特である[2][26]。またキャラクターの演技や感情表現も他のジブリ作品に対してあえて抑えたものにしてある[12]。
制作終盤、望月は激務によるストレス[注 19]で十二指腸潰瘍を患い、1992年10月末に出血による貧血で倒れて入院。2日後には現場復帰したものの、病院で点滴を受けながら作品完成を迎えた[9][12][25]。
テレビ放映・劇場公開編集
放送日 | 放送時間 | 視聴率 |
---|---|---|
1993年5月5日(初放送) | 16:00 - 17:30 | 17.4% |
2011年7月15日 | 19:00 - 20:30 | 7.2% |
1993年5月5日の本放送は関東ローカルで、祝日ではあったものの、夕方4時からという早い時間の放送だった[27]。しかし、この時間帯では異例の17.4%という高い視聴率を記録した[28][29]。その後、関東地方以外では、日本テレビ系列の各地方局の独自の判断により、5月8日から7月14日にかけて最終的に全13局で放送された[注 20]。
2011年7月15日には日本テレビ『金曜ロードショー』枠で約18年2ヶ月ぶりにテレビで再放送された[注 21]。他のスタジオジブリ作品とは異なり、この枠で放映されるのはこれが初めてであった[28]。また一部の系列局で遅れ放送はされたものの本放送は関東ローカルで夕方の時間帯だったため、ゴールデンで全国放送されたのも完成以来初のことだった[28]。通常の金曜ロードショーの枠で放映するには90分間(正味72分間)と尺が短いため、映画『コクリコ坂から』の公開を記念した日本テレビ『金曜特別ロードショー』として時間を延長して『ゲド戦記』とともに放映される2部構成の形が採られた[注 22]。また、冒頭に「この作品には、未成年の飲酒・喫煙シーンがありますが、原作の作品性、原作者の意図を尊重しオリジナルのまま放送いたします。」とのテロップが入れられた。
テレビ放映以外に、劇場でも公開された。上映は主に第七藝術劇場(大阪府、1993年10月9日 - 22日)、山形フォーラム(山形県、同年11月13日 - 26日)、中野武蔵野ホール(東京都、同年12月25日 - 1994年1月14日)といったミニシアター系の映画館で行われた[9]。2016年12月28日から4Kリマスター版がアメリカのニューヨークとロサンゼルスの映画館2館で劇場公開された[10]。
批評編集
鈴木敏夫は「宮崎・高畑には絶対に作れない作品。彼らにしか描けないものがちゃんと描けている」と絶賛している[8]。
スタジオジブリの一部年長者には作品の若者たちの描写は「優柔不断で脆弱すぎる」と不評だったが、プロデューサーを務めた高橋望は「その脆弱さこそ現代の若者そのものであり、現代的な若者の人間関係を形にしたいという企画当初の目論見はスタッフワークも含め、充分成功した」と語っている[23]。ただし、そこでとどまってはいけないとも言っている[23]。
社会学者で映画評論家の宮台真司は、宮崎駿との対談において「『耳をすませば』よりも『海がきこえる』の方がより現実的な女子中高生の描写ができている」と発言し、二人の間で論争となった[30][注 23]。また宮台は望月智充・近藤勝也・高橋望の3者へのインタビューも行っている[33]。
声の出演編集
- 主要人物
- その他
スタッフ編集
製作 | 徳間康快、氏家齊一郎 | |
製作補 | 山下辰巳 | |
原作 | 氷室冴子 | |
脚本 | 中村香 | |
キャラクター設計 作画監督 |
近藤勝也 | |
原画 | 近藤喜文、篠原征子、森友典子、河口俊夫、大谷敦子、遠藤正明、清水洋、山川浩臣、古屋勝悟、中山勝一、安藤雅司、吉田健一、小西賢一、芳尾英明、稲村武志、磯光雄、広田麻由美[34]、吉野高夫 | |
動画チェック | 舘野仁美、中込利恵、藤村理枝 | |
動画 | 手島晶子、佐藤伸子、柴田和子、大村まゆみ、北島由美子、山田憲一、長嶋陽子、横山和美、野田武広、粉川剛、岡田妙智子、笹木信作、中村勝利、小野田和由、井上博之、斉藤昌哉 柴田絵理子、松瀬勝、東誠子、山浦由加里、椎名律子、末田久子、真野鈴子、槇田喜代子、太田久美子、安達昌彦、堀井久美、坂野方子、松島明子、岩柳恵美子 | |
作画協力 | アニメトロトロ、OH!プロダクション、スタジオコクピット、グループどんぐり、JCスタッフ、マッドハウス | |
美術監督 | 田中直哉 | |
背景 | 久村佳津、山川晃、太田清美、武重洋二、長縄恭子、黒田聡、伊奈涼子、田村盛輝、吉崎正樹、太田大 | |
特殊効果 | 谷藤薫児 | |
色彩設計 色指定 |
古谷由実 | |
仕上検査 | 大城美奈子、小野暁子 | |
仕上 | 立山照代、小川典子、井関真代、守屋加奈子、大附沢幸恵、森奈緒美、坂本洋子 スタジオキリー 森沢千代美、工藤百合子、中里友美、向井文江、吉田解子、粉井常隆 スタジオぴえろ福岡分室 | |
撮影監督 | 奥井敦 | |
撮影 | 旭プロダクション 谷口久美子、梅田俊之、薮田順二、榊原広、長谷川洋一、石井ゆり子 | |
音楽 | 永田茂 | |
音響制作 | オーディオ・プランニング・ユー | |
音響制作デスク | 小澤恵 | |
音響監督 | 浦上靖夫 | |
整音 | 大城久典、柴田信弘 | |
音響効果 | 横山正和 | |
方言指導 | 渡部猛、島本須美 | |
録音スタジオ | APUスタジオ | |
タイトル | 道川昭 | |
編集 | 瀬山武司 | |
編集助手 | 足立浩 | |
演出助手 | 村田和也 | |
制作担当 | 川端俊之 | |
制作デスク | 田中千義、西桐共昭、伊藤万実子 | |
制作進行 | 有富興二、大塚浩二、伊藤裕之 | |
制作事務 | 山本珠実 | |
広報 | 立柗典子 | |
プロデューサー補佐 | 山田尚美 | |
協力 | 高知東宝の前田幸恒さんをはじめ地元有志のみなさん | |
現像 | IMAGICA | |
企画協力 | アニメージュ編集部 | |
アニメ制作 | スタジオジブリ若手制作集団 | |
プロデューサー | 横尾道男、堀越徹、前田伸一郎、高橋望 | |
チーフプロデューサー | 荒川進、奥田誠治 | |
エグゼクティブプロデューサー | 尾形英夫、和田仁宏、鈴木敏夫 | |
絵コンテ 監督 |
望月智充 |
エンディングテーマ編集
関連商品編集
映像ソフト編集
タイトル | 規格 | 規格品番 | レーベル | 発売日 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
『海がきこえる』 | LD VHS |
TKLO-50101 TKVO-60561 |
徳間書店 | 1993年6月25日 | |
ジブリがいっぱいコレクション 『海がきこえる』 |
VHS DVD |
VWSZ-8026 VWDZ-8026 |
ブエナ ビスタ ホーム エンターテイメント | 1999年7月23日 2003年8月8日 |
本編の後に新たに「芸術文化振興基金」のロゴが挿入された。 VHSビデオは「ジブリがいっぱいCOLLECTION」シリーズとして再発売された際に15万本を出荷した[35]。 DVDには特典映像「あれから10年 ぼくらの青春」収録された[8]。 |
『海がきこえる』 | Blu-ray | VWBS-8234 | ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン | 2015年7月17日 | BD化にあたり、4K解像度でフィルムをスキャンする4Kデジタル・リマスターによりマスターを作成[3]。 2015年時点までにスタジオジブリが制作していた長編作品としては、最後にBlu-ray化された。 |
『海がきこえる』 | DVD | VWDZ-7354 | ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン | 2022年4月20日 | 公開時のクオリティを再現した、より高画質な本編映像を収録した《デジタル・リマスター版》。本編ディスク+特典ディスクの2枚組だが、特典映像は従来通り。劇場ポスターのキーアートで統一したパッケージ・デザイン。 |
音楽編集
タイトル | 規格 | 規格品番 | レーベル | 発売日 |
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『海がきこえる サウンドトラック』 | CD CD(再発) |
TKCA-70064 TKCA-71142 |
ANIMAGE RECORDS | 1993年5月1日 1997年4月21日 |
備考編集
- エンディングで、吉祥寺駅のプラットホームにて拓が別のホームで電車を待つ里伽子を見つけるシーンがあるが、拓の側のプラットホーム向かいにある映画館(吉祥寺東亜会館)の壁に1992年7月18日公開のスタジオジブリのアニメ映画『紅の豚』の広告看板が取りつけてあることから、時代背景は1992年[注 25]であることが解かる。
- 作中、高校時代の文化祭のロングショット内で、『紅の豚』の主人公ポルコ・ロッソが席に座って丼物らしき物を食べているシーンで登場している(ただし、後ろ姿なので顔は見えない)[注 26]。
- ジブリ作品『平成狸合戦ぽんぽこ』の中盤、街の店の外に『海がきこえる』のポスターが登場する。また同作品の終盤で、正吉が駅の階段を駆け上がっているシーンの途中に里伽子らしき女子高校生が登場する[36]。
- ジブリ作品『耳をすませば』の前半、月島雫が京王線向原駅(架空の駅)で電車に乗り着席した際、ホーム反対側に拓と里伽子と思われる高校生が登場する[5]。
テレビドラマ編集
海がきこえる〜アイがあるから〜 | |
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ジャンル | テレビドラマ |
原作 | 氷室冴子 |
脚本 | 岡田惠和 |
演出 | 中野昌宏(テレビ朝日) |
出演者 |
武田真治 佐藤仁美 |
音楽 | 長谷部徹 |
エンディング | The Name of Love 『MerryXmasが言いたくて』 |
国・地域 | 日本 |
言語 | 日本語 |
話数 | 全1話 |
製作 | |
プロデュース | 黒田徹也、森川真行ほか |
制作 | テレビ朝日 |
製作 | ホリプロ |
放送 | |
放送局 | テレビ朝日系列 |
放送国・地域 | 日本 |
放送期間 | 1995年12月25日 |
放送時間 | 20:00 - 21:48 |
回数 | 全1回 |
特記事項: クリスマスドラマスペシャル |
『海がきこえる〜アイがあるから〜』は、同題の小説を原作としたテレビドラマ。1995年12月25日の月曜日20:00 - 21:48にテレビ朝日系列でクリスマスドラマスペシャルとして放映された。
概要編集
主演には『海がきこえる』のファンで、この作品がテレビドラマ初主演となる武田真治が起用された。小説『海がきこえる』を原作にドラマ化する予定だったが、企画段階で「22歳(放映当時)の武田真治が中高生を演じることに無理がある」ということが問題となった。しかし続編の『海がきこえるII〜アイがあるから〜』が出版されたことにより、そちらの内容をベースに大学進学後の話をメインとすることで解決した[37]。設定は原作とは大きく異なっている。
当初、里伽子役となる女優は未定であった。さらには「里伽子脇役論」も出るなど混乱していたが、当時20回目を迎えたホリプロタレントスカウトキャラバン(以下、TSC)で、TSC史上初の試みとなる「コンテスト兼ドラマヒロインの選考」として、里伽子役を公募するに至った。TSC史上最多(当時)の応募総数となる43723人が、書類審査を経て約4000人に、さらには地方予選を経て候補者は14人に絞られた。14人は千葉県長生郡一宮町での厳しい合宿を経て、6人が最終候補として残った。そして厳正なる審査の結果、佐藤仁美がグランプリを獲得し、里伽子役に抜擢された。なお、このときの審査員特別賞は新山千春が受賞した[37]。
ロケーションには出演者見たさに多数のギャラリーが殺到し、撮影が思うようにいかないこともあった[37]。
テレビ放映後にビデオ化(1996年)されたが、DVD化はされていない。
あらすじ編集
東京の大学に進学を決めた拓は、路面電車のホームで友人の松野に「お前な絶対女で苦労するタイプや」と告げられて見送られる。東京での慣れない一人暮らしを送る中、アルバイト先の先輩の田坂に海はどちらの方向かを尋ね、海の存在が感じられないと嘆く。そんなある日、新宿駅のホームで高知大学に行ったはずの里伽子を見かける。慌てて松野に電話をかけると、里伽子が東京の大学に行ったことを知らされ、「知らなかったのはお前だけや」と言われてしまう。高校時代の思い出がよみがえってきて、拓は『電話の向こうから海がきこえた』とつぶやいた。後日、大学でたまたま知り合った知沙に強引にバイトを押し付けられ、松野の「お前は一生女に振り回される」という言葉を思い出す。そしてそのバイト先で偶然里伽子と再会を果たす。
キャスト編集
- 杜崎 拓(もりさき たく)
- 演 - 武田真治
- 主人公。高知で生まれ育ったが、里伽子に「いつも傍観者で行動を起こさない」と言われたことで東京の大学に行くことを決意する。
- 武藤 里伽子(むとう りかこ)
- 演 - 佐藤仁美
- 両親の離婚で高3の2学期に東京から母親の実家である高知に転校してきた。母親には高知大学に行くと言っておいて勝手に東京の大学を受験して上京。
- 津村 知沙(つむら ちさ)
- 演 - 高岡早紀
- 拓の大学の先輩。既婚男性と不倫中で、付き合ったり別れたりを繰り返している。
- 田坂 浩一(たさか こういち)
- 演 - 袴田吉彦
- 杜崎のバイト先の先輩。元駅伝の選手で実業団から誘われるほどだったが、怪我で断念。知沙が不倫しているのを知りながら付き合っている。
- 大沢 正太(おおさわ しょうた)
- 演 - 石田純一
- 知沙の不倫相手。
- 大沢 みのり(おおさわ みのり)
- 演 - 鈴木保奈美
- 大沢の妻。画家。
- 松野 豊(まつの ゆたか)
- 演 - 林泰文
- 拓の友人。高知大学に進学し、将来の夢は地元の青年団の団長になること。
- 神野 美香(じんの みか)
- 演 - 中村あずさ
- 里伽子の父親の再婚相手で義理の母。現在妊娠中。里伽子とは表面上は仲良く付き合っている。
- 杜崎拓の母
- 演 - 榊原るみ
- 神野美香の母
- 演 - 田島令子
- 大学教授
- 演 - 栗本慎一郎
- シェフ
- 演 - 大河内浩
- 小林千香子
- 高田裕子
- 石原宏美
- 新井祐美
- 松山幸次
- 嶋村薫
- エミリー・バレス
- 鈴木昭生
- 工藤和美
- 小山内雄
- 三宅正信
- 土屋貴司
- 小林直樹
- 神秀明
- 大杉真也
- 栃本光子
- 山中亜季子
- 斉藤彩子
- 平本貴子
- 吉野響子
- 上村淑子
スタッフ編集
- 原作 - 氷室冴子(『海がきこえる』、『海がきこえるII〜アイがあるから〜』)
- 脚本 - 岡田惠和
- 音楽 - 長谷部徹
- TD - 末廣健二
- 撮影 - おおいしひろひさ、深野雄一
- 照明 - 生形浩司
- 録音 - 吉田隆
- VE - 香山達也
- 編集 - 石井由美子
- 映像編集 - 白水孝幸
- 選曲 - 合田豊
- 効果 - 橋本正二
- MA - 井上学
- 美術制作 - 上村正三
- デザイン - 荒川淳彦
- 美術進行 - 柴田慎一郎
- 装飾 - 安野正志、高島寿生
- 大道具 - 渡辺修
- 衣裳 - 能澤宏明
- スタイリスト - 扇子大介、齋籐真喜子
- メイク - 稲垣正昭、金具光惠
- 持道具 - 渡辺義子
- 演出補 - 近藤杉雄、小池哲夫
- 制作担当 - 松本洋二
- 製作主任 - 富田幸弘
- 記録 - 磯野友佳恵
- 企画担当 - 井圡隆
- スチール - 谷尚樹
- 広報 - 太田正彦
- タイトルバック - 小林一
- 方言指導 - 澤田誠志
- ロケーションコーディネイト - 安楽匡弘
- プロデューサー - 黒田徹也(テレビ朝日)、森川真行・堀義貴・大健裕介(ホリプロ)
- 演出 - 中野昌宏(テレビ朝日)
- 制作 - テレビ朝日、ホリプロ
主題歌編集
- The Name of Love「Merry Xmasが言いたくて」
関連商品編集
映像ソフト編集
タイトル | 規格 | 規格品番 | レーベル | 発売日 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
『海がきこえる〜アイがあるから〜』 | VHS | TKVO-61160 | 徳間ジャパンコミュニケーションズ | 1996年6月21日 |
ロケーション編集
ここでは原作やアニメの構想、ドラマの撮影で使われた主な場所を挙げている。
高知編集
特記なき場合はすべて高知市内。
- 高校:原作に登場する拓たちが通う高校は高知の私立土佐高校がモデルになっているが、アニメの校舎の外観は高知追手前高校がモデルとなっている。ただし更衣室のシーンなど一部は原作同様私立土佐高校がモデルになっている[注 27]。
- 天神大橋:拓が松野に学校へ呼び出されたときに渡った橋。鏡川に架かる。橋名は南西に位置する潮江天満宮に由来する。
- 帯屋町:アニメで度々登場した高知市内のアーケード街。よさこい祭りのメイン街道でもある。
- 五台山:拓の実家のある地区。護国神社や竹林寺が近くにあり、小高い丘になっている。
- 高知城:原作では拓と里伽子が、アニメでは拓たちがライトアップされた高知城を見上げるシーンがある。
- 高知空港(南国市):拓と里伽子が東京へと旅立つ際利用した空港であり、拓が帰郷した際に松野と再会した場所。2002年6月に円形ソファーが撤去され、また2003年11月に空港名が「高知龍馬空港」と愛称化された。
- 久礼港(高岡郡中土佐町久礼):アニメでのみ登場。拓と松野が高知空港で再会後、同窓会の直前までいた場所。実際、堤防の先は山側を望んでおり、夕日はその山側に沈んでいる。
- 新青柳橋:アニメでは拓たちが久礼港の堤防から望んでいるという設定であるが、実際は五台山地区にある。
- 四万十川(四万十市など):アニメージュ連載版では拓と里伽子、松野と知沙の4人が泳ぎ、ドラマでは川に架かる勝間沈下橋で拓と里伽子、田坂と知沙が川遊びやデートを楽しんだ場所。また『海がきこえるII〜アイがあるから〜』では拓と里伽子、松野が近くの食堂で鰻丼を食べた。
- 桂浜:ドラマの各所で度々登場し、ラストシーンも桂浜で撮影された。ドラマのメインキャラクター5人全員が訪れた。
東京編集
- 石神井公園(練馬区):拓が大学進学後、下宿しているアパートが公園付近にある設定。そのモデルとなった建物は取り壊され、現在では別の建物が立地している。原作とアニメの冒頭に登場。
- 羽田空港(大田区):拓が同窓会に出席するために高知へ帰郷した際に、また拓と里伽子の東京旅行の際に利用した空の玄関口。アニメ放送後の1993年9月には新国内線ターミナルビル(第1旅客ターミナルビル)が完成。また2004年12月には第2旅客ターミナルビルが供用を開始し、旧羽田空港ビルは完全に撤去されてしまった。
- 浜松町駅(港区):東京モノレールとJR山手線との接続駅。
- 成城(世田谷区):里伽子がもともと住んでいた街。拓と共に父親に会いに行った。北口を出てすぐのところには里伽子の父親の住むマンションが現存する。
- 成城学園前駅(世田谷区):拓と里伽子が、里伽子の父親の住むマンションへ行く際に下車した駅。アニメ放送当時は橋上駅舎であったが、2002年3月〜6月にかけて上下線とも地下化されてしまい、当時の面影はまったくなくなっている。
- ホテルセンチュリーハイアット東京(現・ハイアットリージェンシー東京)(新宿区):アニメでは東京で拓と里伽子が宿泊したホテル。1階にはアニメでモデルとなったBoulogne(ブーローニュ)というティールームがあったが、2009年4月にCAFFÈとして全面改装されたため、当時の面影はなくなった。
- 吉祥寺駅(武蔵野市):アニメ冒頭と終盤でのみ登場。拓が里伽子と再会した駅。拓がいたのは1・2番ホーム、里伽子がいたのは3・4番ホームである。2010年3月から約4年間行われた改良工事により、現在では当時の面影は薄れてしまっている[39]。また駅ビル「吉祥寺ロンロン」も開業以来、初めて本格改修され、2010年4月1日には「アトレ吉祥寺」としてリニューアルオープンした[40]。
脚注編集
注釈編集
- ^ 1991年2月号は未掲載。
- ^ のちのアニメ化の際にはキャラクターデザイナー・作画監督を務めた。
- ^ 拓と里伽子が高知城前でキスするシーン、拓と里伽子、松野と知沙が四万十川へ泳ぎに行くシーンなどが省かれた。
- ^ 文庫本化の際、時の流れにより現実と小説にギャップが生じたため、時代に合わせてセリフや作中に登場するヒット曲が変更される(Winkから安室奈美恵へ)など、作者により修正が加えられた。
- ^ 氷室冴子のデビュー45周年を記念して、徳間書店の復刻レーベル・トクマの特選!より刊行されたもの。近藤勝也のカラーイラスト34点が収録され、巻頭には『月刊アニメージュ』2008年8月号に掲載した口絵イラストが使われた。また装丁デザインは川谷康久、あとがきは酒井若菜が担当[7]。
- ^ いずれも日本テレビ四十周年キャンペーン用に、スタジオジブリが制作したアニメーション[4]。
- ^ のちに鈴木敏夫は「スタジオジブリ史上最も予算の回収に苦労した作品である」と回顧している[12]。
- ^ 当時、宮崎は『紅の豚』の制作を終えたものの次回作の着想を見い出せず、心ここにあらずの状態で、「今なら認めるのではないか」と判断した鈴木が切り出した話だった[12]。
- ^ クレジット上では、制作は「スタジオジブリ若手制作集団」と記載されている[8]。命名は宮崎駿[13]。
- ^ 本作品では本名の丹羽圭子ではなく中村香と言うペンネームを用いている[14]。
- ^ 実は本作品以前から望月は「海がきこえる」のアニメ化企画を何度も鈴木プロデューサーのもとに持ち込んでいたが、実現することはなかった。その経緯もあって、監督選考の際に望月が推挙されることになった。また、彼が過去に『めぞん一刻 完結篇』『きまぐれオレンジ☆ロード あの日にかえりたい』などの劇場作品の監督を手がけ、青春期の男女の恋愛模様を瑞々しく描写する手腕を高く買われてきた若手演出家であることも起用の背景の一つにあった[5][9]。
- ^ 彼女がヒロインを演じていた『モモ』(ミヒャエル・エンデ原作)の舞台を観劇して決めたという。
- ^ 主要人物を演じた声優陣の中で専業声優でないのは武藤里伽子役の坂本洋子のみ。
- ^ 当初の予定ではさらに短い50分間程度だった。
- ^ 同作の監督を務めた近藤喜文は、本作前半の主人公の家の食事シーンの作画を担当している[17]。
- ^ 原作との深い関わりはもちろんだが、『天空の城ラピュタ』以降のほとんどのジブリ作品に参加し、本作でも作画の中心メンバーであった[22]。
- ^ そのために津村知沙など大学で出会う人物は一切登場せず、また連載時の原作には掲載されているキスシーンも描かれていない。
- ^ 近藤は望月の絵コンテをさらに細かくコマ割りして演技をつけた第2の絵コンテを描き、それをそのまま拡大コピーしてレイアウトに使用できるようにして作監作業の負担を軽減した[22]。
- ^ 本作品と同時期にOVA作品『ここはグリーン・ウッド』を掛け持ちで作業していたため。
- ^ 読売テレビ(関西地方)では6月13日(日)に放送された[27]。
- ^ それまでも再放送の話は何度かあったが、尺の問題などがあって実現しなかったという[28]。
- ^ 1日で2作放送するのは長い金曜ロードショーの歴史の中でも異例のこと。
- ^ この件について、宮台はのちに『宮崎駿の新作アニメは「ジジババ向き」!?』というタイトルで後日談を書いている[31][32]。
- ^ a b c ただし、エンディングテロップには氏名だけがクレジットされている。
- ^ フィルムBOOKの182頁には「9月」と記載されている。
- ^ フィルムBOOKでは143頁2コマ目の右下端。
- ^ 現在は新校舎に建て替えられたため、当時の更衣室もなくなったものと思われる[38]。
出典編集
- ^ “『氷室冴子とその時代』レビュー:誰より少女の自立を願っていたのに、少女小説家の“レッテル”に悩んだ作家の苦悩”. サイゾーウーマン= サイゾー (2020年2月19日). 2020年3月11日閲覧。
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- ^ a b c d アニメージュ8月号 2008.
- ^ a b c d e f g h 【第十二回】Animage 40th Anniversary Memories(ゲスト:三ツ木早苗) (インターネット番組). 株式会社コネクトハーツ. (2018年12月10日)
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- ^ a b c d e f g h i “帰ってきた買っとけ! DVD – 第95回:高知生まれの人が特に身悶える恋愛物語 夏の帰省の必需品!? 「海がきこえる」”. AV Watch. インプレス (2003年8月12日). 2020年3月16日閲覧。
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- ^ a b おかだえみこ「月報 2001年10月「海がきこえる」作品論」『スタジオジブリ絵コンテ全集8 海がきこえる(付録)』、徳間書店スタジオジブリ事業本部、2001年10月1日。
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- ^ a b c d “制作プロデューサー・高橋望の発言(午前11:49)”. ツイッター. 2020年3月16日閲覧。
- ^ “制作プロデューサー・高橋望の発言(午後0:25)”. ツイッター (2011年7月15日). 2020年3月16日閲覧。
- ^ 「コンビニだらけの"最低の風景"だって美しく描きたい」『月刊views(ヴューズ)』、講談社、1995年9月、62-66頁。
- ^ 『ヤングチャンピオン』、秋田書店、1995年8月22日。
- ^ 宮台真司「世紀末の作法∼終ワリナキ日常ヲ生キル知恵∼」、メディアファクトリー、1997年。
- ^ 宮台真司・石原英樹・大塚明子「アニメと〈関係性〉とは背反するか? ∼スタジオジブリ・インタビュー」『サブカルチャー神話解体 少女・音楽・マンガ・性の30年とコミュニケーションの現在』、PARCO出版、1993年、205-208頁。
- ^ 【訃報】イラストレーターの広田麻由美さん死去 「ティアリングサーガ」 「トラキア776」のキャラデザ
- ^ 『進化するアニメ・ビジネス―世界に羽ばたく日本のアニメとキャラクター』日経BP、2000年、47頁。ISBN 4-8222-2554-2。
- ^ アニメージュ3月号 2004.
- ^ a b c 『海がきこえるCOLLECTION』(徳間書店、1995年)
- ^ 土佐中学校・高等学校 ホームページメニュー「新校舎」を参照。
- ^ 武蔵野市ホームページ
- ^ PDF 株式会社アトレのホームページよりプレスリリース
参考文献編集
外部リンク編集
- 海がきこえる - スタジオジブリ公式サイト
- 海がきこえるのホームページ
- 海がきこえるを歩く
- 海がきこえる (アニメ) - 日本映画データベース
- 海がきこえる (アニメ) - allcinema
- 海がきこえる (アニメ) - KINENOTE
- 海がきこえる (アニメ) - 文化庁日本映画情報システム
- 海がきこえる (アニメ) - MOVIE WALKER PRESS
- 海がきこえる (アニメ) - 映画.com
- Ocean Waves - オールムービー(英語)
- Ocean Waves - IMDb(英語)
- 海がきこえる (アニメ) - ドラマ詳細データ - ◇テレビドラマデータベース◇
- 海がきこえる (ドラマ) - ドラマ詳細データ - ◇テレビドラマデータベース◇
- 海がきこえる - ウェイバックマシン(2011年6月28日アーカイブ分) - 金曜ロードショー(2011年7月15日放送分)