災厄の町』(さいやくのまち、Calamity Town )は、1942年に発表されたエラリイ・クイーンの長編推理小説

災厄の町
Calamity Town
著者 エラリイ・クイーン
発行日 1942年
ジャンル 推理小説
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
形態 文学作品
前作 ドラゴンの歯
次作 フォックス家の殺人
ウィキポータル 文学
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エラリイ・クイーン(作者と同名の探偵)が登場する作品で、架空の町ライツヴィルを舞台にした最初の作品である。

あらすじ 編集

エラリイ・クイーンがライツヴィルで借りた家具付き住宅は、町一番の旧家で地元銀行の頭取が、次女のノーラの結婚祝いとして、自宅の隣に立ててやった家だった。ところが、そのノーラの結婚相手、ジム・ヘイトは、結婚式の前日に姿を消して三年。ところが、そのジム・ヘイトが突然、故郷ライツヴィルに戻ってきた。その一週間後、8月31日に彼は、その帰りを待ち、独身でいた許婚のノーラと結婚し、二人は夫婦となった。そんなある日、ノーラと三女のパットはジムの書斎の準備中、夫の読みかけの本の間に、夫が書いたと思われる未投函の古ぼけた封筒を発見する。ノーラはその手紙を隠したが、エラリイとパットはそれを発見する。日付は、11月28日、12月25日、1月1日、宛名は、ミス・ローズマリー・ヘイト、彼の姉である。そこには妻の病状が悪化と、三通目には妻の死を知らせる文面が載っていた。封筒が挟まっていた本は、エッジカムの『毒物学』。果たして、これは予定された殺人計画なのか、自分はこんなにも愛している夫に殺されるのだろうか。

11月8日、ジム・ヘイトの姉、ローズマリー・ヘイトがライツヴィルにやってくる。ジム・ヘイトは街の居酒屋で飲んだくれて、エラリイとパットが家まで連れ帰る。ジムは、酔っぱらいの戯言として「ぼくの妻、あの女、ちくしょう、憎たらしい妻」「見ていやがれ! ぼくはあの女を始末してやる!」と口走る。警察署長と郡検事もそこに居合わせる。エラリイは、なんとかその殺人事件を事前に防ごうとする。

しかし、手紙に描かれていた通り、11月28日、12月25日とノーラが毒をもられ、1月1日はローズマリーが毒殺される。三通の手紙は果たして、この事件を予告していたのか? あの手紙を書いたのは、本当にジムなのか。そして、彼の三年間の失踪はなんだったのか。

主な登場人物 編集

  • ジム・ヘイト - ライツヴィルに戻ってきた失踪花婿。ノーラの夫となる。
  • ノーラ・ヘイト - ジムの帰りを待つ花嫁。ライト家の次女。
  • ハンター - 2人のために新しく建てられた家を買い取ったボストンの資産家。引っ越しの最中に心臓麻痺で死亡した。
  • ローラ・ライト - ライト家の長女。駆け落ちして、夫に先立たれる。ライト家に帰ることができず郊外に住んで、飲んだくれている。
  • パトリシア(パット)・ライト - ノーラの妹でライト家の三女。活発な十代の娘。
  • ジョン・F・ライト - ライト家の家長。ライツヴィル・ナショナル銀行の頭取。
  • ハーマイオニ―・ライト - ジョン・Fの妻。ノーラたちの母親。
  • タビサ・ライト - ジョン・Fの妹。
  • ローズマリー・ヘイト - ジムの妹だということでライト家に招かれる。
  • エミリーン・デュプレ - ハイト夫妻の隣人。“町の宣伝屋”。
  • フランク・ロイド - レコード新聞社社長。
  • J・C・ペティグルー - 不動産周旋屋。
  • カーメル・ベティグルー - J・Cの娘。パトリシアの友人。
  • ルーディー - ライト家の老家政婦。
  • ヘンリー・クレイ・ジャクソン - ライト家の執事。
  • マイロ・ウイロビー - 産婦人科医。ライト家の娘たちも取り上げた。
  • エリー・マーチン - 判事。痩せて小柄な、眠たげな目とぶっきらぼうな態度の男。
  • クラリス・マーチン - エリーの妻。
  • ロバータ・ロバーツ - 婦人通信員。ジムの無罪を強硬に主張する。
  • カーター・ブラッドフォード - ライト郡の検事。聡明、長身の青年。パトリシアの恋人。
  • ライサンダー・ニューボルド - 裁判長。
  • デイキン署長 - ライツヴィル警察の署長。
  • ブレイディ巡査 - ライツヴィル警察の巡査。
  • ロレンツォ・グレンヴィル- 筆跡鑑定家。目がしょぼしょぼして両ほほがくぼんだ小男。
  • エラリイ・クイーン - 推理作家の名探偵。ライツヴィルの名家であるライト一家から部屋を借り、エラリイ・スミスと名乗って新作執筆に務める。

提示される謎 編集

  • 進行中の殺人

特記事項 編集

  • 裁判所でエラリイが、「犯人たりうる最重要容疑者」として、とんでもない人物の名前をあげる。
  • エラリイのライツヴィル来訪が8月で、事件発生は10月。事件が防止できず、解決までその後さらに7ヵ月もかかっている。

作品の評価 編集

  • ハヤカワベスト100・51位
  • EQアンケート22位
  • エラリー・クイーン・ファンクラブ会員40名の採点による「クイーン長編ランキング」9位[1]
  • 作者自身が選ぶベストスリー(本作品と『チャイナ橙の謎』『中途の家』、「番外」に『九尾の猫』)[2]

日本語訳書 編集

  • 初出『宝石』1950年3月号 (妹尾アキ夫 = 訳)に抄訳掲載。
  • 本作品は、現在は早川書房の日本語版翻訳権独占作品となっている。
出版年 タイトル 出版社 文庫名等 訳者 巻末 ページ数 ISBNコード カバーデザイン 備考
1950年4月 災厄の町 新樹社 ぶらっく選書 6 妹尾韶夫 316
1955年7月15日 災厄の町 早川書房 ハヤカワ・ポケット・ミステリ185 妹尾韶夫 261
1960年10月21日 ライツビルの殺人事件 新潮社 新潮文庫
白色帯[日本語訳 1] 111F
能島武文 解説 能島武文 444 パラフィン紙装 白色帯
1972年8月 世界ミステリ全集 3
エラリイ・クイーン
早川書房 世界ミステリ全集 青田勝 エラリイ・クイ−ンについて座談会 835 [日本語訳 2]
1975年10月15日 災厄の町 早川書房 ハヤカワ・ポケット・ミステリ185 青田勝 316
1977年1月30日 災厄の町 早川書房 ハヤカワ・ミステリ文庫HM 2-12 青田勝 解説 青田勝 401 978-4-15-070112-3 北園克衛
2014年12月5日 災厄の町〔新訳版〕 早川書房 ハヤカワ・ミステリ文庫HM 2-51 越前敏弥 訳者あとがき、
解説 クイーンの最高傑作 飯城勇三
513 978-4-15-070151-2 カバーデザイン:albireo、
カバーイラスト:三宅瑠人

注釈(日本語訳) 編集

  1. ^ 当時の新潮文庫の分類では、日本、外国の「探偵・時代小説」。
  2. ^ 青田勝 = 訳の「エジプト十字架の秘密」、「災厄の町」、「最後の女」を収録。

映画 編集

戯曲 編集

  • 戯曲『災厄の町(CALAMITY TOWN (based on the novel CALAMITY TOWN by Ellery Queen))』 - 2016年にカナダカルガリー Vertigo Theatreで舞台化された。脚本は劇作家・作家で、『エラリー・クイーン 創作の秘密:往復書簡1947 - 1950年』(飯城勇三=訳、国書刊行会 2021年6月、ISBN 978-4336071866)や『Unusual Suspects:Selected Non-Fiction』(Perfect Crime Books 2020年6月、ISBN 978-4336071866)の著者ジョゼフ・グッドリッチ(Joseph Goodrich)。「カルガリー劇評家賞 最優秀新作脚本部門」を受賞した。日本語訳は、『ハヤカワ・ミステリマガジン』2021年3月号(No.745)に越前敏弥の翻訳で掲載されている。

脚注 編集

  1. ^ 『エラリー・クイーン Perfect Guide』(株式会社ぶんか社、2004年)に掲載。
  2. ^ EQ』(光文社)1978年創刊号「対談:エラリー・クイーンvs松本清張」