熱中症(ねっちゅうしょう、heat stroke, sun strokeということが多い)とは、暑熱環境下においての身体適応の障害によっておこる状態の総称である[7]。本質的には、脱水による体温上昇と、体温上昇に伴う臓器血流低下と多臓器不全[8]、表面的な症状として主なものは、めまい失神頭痛吐き気、強い眠気、気分が悪くなる、体温の異常な上昇、異常な発汗(または汗が出なくなる)などがある。また、熱中症が原因で死亡する事もある。特にIII度の熱中症においては致死率は30%に至るという統計もあり、発症した場合は程度によらず適切な措置を取る必要があるとされている。また死亡しなかったとしても、特に重症例では脳機能障害や腎臓障害後遺症を残す場合がある。

熱射病
Clinical thermometer 38.7.JPG
38.7 °C (101.7 °F)を示す体温計
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
集中治療医学[*]
ICD-10 T67.0
ICD-9-CM 992.0
DiseasesDB 5690
MedlinePlus 000056
eMedicine med/956
MeSH D018883
熱疲労
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
集中治療医学[*]
ICD-10 T67.3 - T67.5
ICD-9-CM 992.3 - 992.5
DiseasesDB 5690
eMedicine emerg/236
MeSH D006359

屋内・屋外を問わず高温や多湿等が原因となって起こり得る。湿球黒球温度[注 1]21 - 25℃あたりから要注意になるといわれている。国立衛生研究所の資料によると、25℃あたりから患者が発生し(段階的に増え)、31℃を超えると急増する。

日射病とは違い、室内でも発症するケースが多い。高温障害で、日常生活の中で起きる「非労作性熱中症」と、スポーツ仕事などの活動中に起きる「労作性熱中症」に大別することが出来る。

目次

分類編集

熱中症の重症度分類編集

熱中症の重症度分類(日本神経救急学会による。新潟大学保健管理センターより引用)[9]
分類 症状 対応例 従来の分類
I度
(軽症)
眼前暗黒、気分が悪い、手足のしびれ
四肢・腹筋痙攣こむら返り、筋肉痛、硬直
血圧低下、皮膚蒼白
日陰で休む
水分補給
衣服を緩めるとともに体を冷やす
熱痙攣、熱失神
II度
(中等症)
強い疲労感頭痛吐き気、倦怠感
脱力感、大量発汗、頻脈、めまい下痢
医療機関での治療(輸液)、管理 熱疲労
III度
(重症)
深部体温上昇
脳機能障害による意識混濁、譫妄状態、意識喪失[注 2]
肝臓機能障害・腎臓機能障害
血液凝固障害
救急車で救命医療を行う医療施設に搬送し治療、管理 熱射病

III度熱中症の診断基準は

  • 暑熱への曝露がある
  • 深部体温40℃以上または腋窩体温38℃以上
  • 脳機能・肝臓機能・腎臓機能・血液凝固のいずれかひとつでも異常徴候がある

の3つを満たすもの。血液凝固は体温の過度の上昇によって体タンパク質が壊れ内出血をした結果、内出血を止めるために血液が凝固するために起こる。言い換えれば、熱射病になった後に起こる症状である。

熱中症の種類(国際分類)編集

熱失神 熱痙攣 熱疲労 熱射病
意識 消失 正常 正常 高度な障害
体温 正常 正常 - 39℃ 40℃ -
皮膚 正常 正常 冷たい 高温
発汗 (+) (+) (+) (-)
重症度 I度 I度 II度 III度

病態生理学に基づいた国際分類では下記のような用語が用いられている。

熱失神(heat syncope)編集

原因
直射日光の下での長時間行動や高温多湿の室内で起きる。発汗による脱水と末端血管の拡張によって、脳への血液の循環量が減少した時に発生する。
症状
突然の意識の消失で発症する。体温は正常であることが多く、発汗が見られ、脈拍徐脈を呈する。
治療
輸液と冷却療法を行う。
分類
I度

熱痙攣(heat cramps)編集

原因
大量の発汗後に水分だけを補給して、塩分ミネラルが不足した場合に発生する。
症状
突然の不随意性有痛性痙攣硬直で生じる。体温は正常であることが多く、発汗が見られる。
治療
経口補水液(水1Lに対し砂糖40g、3g)の投与を行う。
分類
I度

熱疲労(heat exhaustion)編集

原因
多量の発汗に水分・塩分補給が追いつかず、脱水症状になったときに発生する。
症状
症状は様々で、直腸温は39℃程度まで上昇するが、皮膚は冷たく、発汗が見られる。
治療
輸液と冷却療法を行う。
分類
II度

熱射病(heat stroke)編集

かつては高温多湿の作業環境で発症するものを「熱射病」、日光の直射で発症するものを「日射病(sun stroke)」と言い分けていたが、その発症メカニズムは全く同じものであり、最近では「熱射病」に統一されつつある。

原因
視床下部の温熱中枢まで障害されたときに、体温調節機能が失われることにより生じる。
症状
高度の意識障害が生じ、体温が40℃以上まで上昇し、発汗は見られず、皮膚は乾燥している。
治療
死の危険性のある緊急事態であり緊急入院で速やかに冷却療法、人工透析、輸液を行う。
分類
III度

原因編集

環境編集

  • 前日より急に温度が上昇した日。
  • 温度がそれほど高くなくても多湿であれば起こりやすい(なぜなら、汗による蒸散ができず、体内の熱を発散できなくなるため)。
  • 涼しい室内で作業をしている人が、急に外に出て作業した場合(暑さに慣れていないため)。
  • 作業日程の初日 - 数日間が発症しやすい。
  • 安全上薄着になる事が不可能な工事現場、製造業、災害救助現場[10][8]、長時間にわたる屋外でのスポーツや行動、屋内でも防具や厚手の衣服での行動[11]
  • 時間帯 - 統計的にかかりやすい時間帯は、午前中では10時頃、午後では1時から2時頃に発症件数が多い、
  • 季節 - 梅雨明け後、7月、そして特に8月に多い。ただし「涼しい環境で」「練習を始めて間もない短時間」「軽い運動」でも熱中症は発生する[12]
  • サウナ[13]
  • 水温と気温の合計が65℃を越えるプール[14]
  • 学校管理下
    • 東京都教育委員会の資料によると、学校管理下においては、運動部活動によるものが72.1%で最も多く、次いで「体育的行事」が12.9%[15]
    • スポーツの種類別に着目すると、学校管理下の運動部活動では野球が最も多く[16]、次いでサッカーテニスの順に多い、とされた[15]。なお男女別に見てみると、男子では野球、サッカー、テニスの順であるが、女子ではテニスが最も多く、次いでバスケットボール、さらに次いでバレーボールソフトボールが並ぶ[15]
  • 屋内競技における熱中症の発生頻度が最も高いのが剣道であり、死亡に至る前に医療機関を受診している例は年間数百件と推定されている[17]

専用施設ではなく空調設備も無い学校の部室や稽古場等では、夏場になると室温が高くなり練習量の多寡とは関係無く熱中症が発生しやすくなる。

事故事例

素因編集

  • 5歳以下の幼児
  • 65歳以上の高齢者
  • 肥満
  • 脱水傾向にある人(下痢等)
  • 発熱のある人
  • 頭熱足寒の人…下が冷え、知らぬ間に体の芯が冷え切って発汗による体温調節が出来ないため、上半身が高温になり、脳細胞が40℃以上になると機能しなくなり、熱中症で倒れる[18]
  • 睡眠不足[19]
  • 遺伝的素因…「CPT-2」と呼ばれるエネルギー代謝・産生に関係する酵素に特定のSNPをもつと、40℃以上の高体温でのエネルギー代謝(ATP生産)がうまくいかなくなり細胞の機能不全に繋がる。インフルエンザ脳症も同様のSNPで発症しやすい[20]
  • 予防策に関する知識が不十分な事による死亡事故も発生している[12]

予防編集

根本的には環境温度を熱中症を発症する温度以下にすることである。しかし、熱中症を発症の危険性がある温度環境下で過ごす場合は、人に対する対策が必要である。

厚生労働省による『H27熱中症予防リーフレット』[21]などによれば、下記の例が予防策として上げられている。

暑さを避ける。
  • 屋内では、扇風機、エアコンで温度を28℃以下に調整する。
  • 遮光カーテン、簾(すだれ)、打ち水などにより室内に侵入する熱を軽減する。
  • 屋外(外出時)では、日傘、帽子の利用。
  • 通気性、吸湿性、速乾性の良い衣服の着用。
  • 危険性の高い時間帯の外出を抑制する。
  • 保冷剤、水、冷たいタオルなどで身体を冷やす。
こまめに水分補給をする。
  • 室内、室外問わず喉の渇きを感じなくても水分、塩分、経口補水液など補給をする。食塩補給源の例として、梅昆布茶、味噌汁[22]、梅干し、煎餅、食塩を含んでいる飴など。但し、電解質を含まない水分だけを補給した場合、低ナトリウム血症を起こす事がある。

運動時における予防策として日本体育協会により下表の様な「熱中症予防の為の運動指針」が掲げられている。

熱中症予防の為の運動指針 日本体育協会(2013)による[23][24]
湿球黒球温度
(WBGT)
湿球温度(℃) 乾球温度(℃) 中症予防のための運動指針
31 - 27 - 35 - 運動は原則中止 特別の場合以外は禁止。
特に子供の場合は中止すべき。
28 - 31 24 - 27 31 - 35 厳重警戒
激運動中止
激しい運動や持久走などは避ける。
積極的に休憩を取り、水分補給。
体力の無い者、暑さに慣れていない者は運動中止。
25 - 28 21 - 24 28 - 31 警戒
積極的休憩
積極的に休息をとり、水分補給。
激しい運動では、30分おきぐらいに休息。
21 - 25 18 - 21 24 - 28 注意
積極的水分補給
死亡事故が発生する可能性がある。
熱中症の兆候に注意。運動の合間に水分と塩分を補給。
- 21 - 18 - 24 ほぼ安全
適宜水分補給
通常は熱中症の危険は小さいが、適宜水分補給を行う。
市民マラソンなどではこの条件でも要注意。

治療編集

現場での措置編集

  • 最も重要な事は身体を冷やすことで、直射日光のある場所から日陰・木陰に移動させ衣服をゆるめ安静にさせる[25]。太い血管のある首、両脇、足の付け根の冷却が効果的[26]。また、体表面に水を付け気化熱を利用し体温を下げる方法もある。
  • 意識が明瞭ならば、0.1 - 0.2%の食塩水、経口補水液、スポーツドリンクなどで水分を補給するが、スポーツドリンクでは糖分が多く電解質が不足する[22]。但し、意識混濁の場合は口に入れたものが気管に入るおそれがあるので中止する[27]。更に、糖分の多いスポーツドリンク風清涼飲料水を大量に飲んだ場合は、ペットボトル症候群を発症する危険性がある。
  • 痙攣、意識不明や混濁症状を呈する場合は直ちに現場から緊急要請を行い、速やかに1にある応急措置を行ってから救急搬送し医療機関での治療を必要とする[25]
  • 水分の自力補給が行えない場合は、医療機関での診察が必要である[22]
  • 水分の自力補給が行えても、手足の痺れ、吐き気、疲労感などの症状が解消しない場合は、医療機関での診察が推奨される[27]

鑑別疾患編集

鑑別が必要な疾患として注意が必要なのは糖尿病高血圧の既往歴を有する場合で、低血糖発作心筋梗塞脳梗塞などの血管梗塞の症状を誤認し適切な対応が遅れる例が報告されている[28]

医療機関における治療編集

全身の冷却が行われるが、応急処置として体表面体温の低下の為に冷却輸液、氷嚢や蒸散冷却、胃洗浄などが用いられ、同時に血液中の電解質バランスを正常にするための輸液、人工透析も行われる。

2015年に日本救急医学会から『熱中症診療ガイドライン2015』[22]が発表され、ガイドラインに沿った治療が行われる。前述「熱中症の重症度分類」表 II度とIII度は医療現場での対処が行われ、中枢神経症状、肝・腎機能障害、血液凝固異常などの臓器障害を呈しているならば入院治療が必要となる[29]。更に、基礎疾患の既往、服用薬歴、意識レベル、自力歩行の可否、食事の摂取状況など様々な視点から治療方針の判断が行われる。特に、III度重症患者では短時間で深部体温を平常体温にまで下げる必要があるため、水冷式のジェルパッド、心停止後症候群治療時に使用される低体温療法用装置、血管内冷却カテーテルが用いられ[30]、有効性が報告されている。

予後編集

重度の熱中症になった場合、深部体温が上がって高発熱状態になった段階で徐々に脳細胞が死滅するとされる。仮に救命できたとしても、間脳視床下部に存在する体温調節中枢に永久的な障害を残す場合もある。もしも体温調節中枢に障害が残ると、以後、極端な高温や低温に対する耐性が低くなってしまう。この他、幻覚、視力低下構音障害吃り、呂律が回らない)、運動障害意識障害、肝機能低下、痙攣、等の後遺症が残った例もある[31]

疫学編集

日本では、年々増加傾向にある[32]

  • 2007年の死亡者は904名だった[32]との報告もあるが、調査を行った機関により数値のバラツキがある事が報告されている[33]
  • 6 - 9月の熱中症による救急搬送者数(全国)[34]
    • 2010年 56,119名
    • 2013年 58,729名

発症者を年齢層別で見てみると65歳以上の人が半数以上で、年齢が高いほど発症率が増している[8]

年齢帯ごとに発生が多い場所(特徴的な場所)は次のとおり。

  • 7 - 18歳:学校(特に運動中)[32]
  • 19 - 39歳および40 - 64歳:屋外での作業中を中心とするが比較的多様な場所で発生[32]
  • 65歳以上:自宅(居室)[32]

なお日本において、熱中症については厚生労働省[35][36]文部科学省環境省[37]でそれぞれ指導・対策が公表されている。

熱帯地方編集

高温多湿地域であるギニア出身のオスマン・サンコンは「熱中症」に該当する症状はギニアで聞いたことがなく、日本に来て初めて知った[38]

インドでは南部を中心に、毎年、熱中症による死者が数百人の規模で発生する。2015年5月、テランガーナ州アーンドラ・プラデーシュ州では過去20年来最悪の熱波に襲われ、1,800人以上の死者を出した[39]

ペットの熱中症編集

イヌは汗腺が少ないため特に5月から10月にかけて熱中症にかかりやすいとされている[40]。散歩の際には地面から体までの距離が人よりも近く舗装道路からの反射熱がイヌに大きな影響を及ぼすため注意が必要とされている[40]

脚注編集

  1. ^ 1954年、アメリカ合衆国サウスカロライナ州パリスアイランド海兵隊新兵訓練所にて、服装や装備の厳しい制約や訓練に加えて同地区は湿度が高く、熱中症リスクを事前に判断するためWBGT(Wet-Bulb Globe Temperature“湿球黒球温度”)を用いた暑さ指数の測定を導入。
  2. ^ 関連項目として「意識障害」も参照可。

出典編集

  1. ^ Marx, John (2006). Rosen's emergency medicine: concepts and clinical practice. Mosby/Elsevier. p. 2239. ISBN 978-0-323-02845-5. 
  2. ^ “Hypothermia therapy after traumatic brain injury in children”. N. Engl. J. Med. 359 (11): 1179–80. (September 2008). doi:10.1056/NEJMc081418. PMID 18788094. 
  3. ^ a b “Temperature management in acute neurologic disorders”. Neurol. Clin. 26 (2): 585–603, xi. (May 2008). doi:10.1016/j.ncl.2008.02.005. PMID 18514828. 
  4. ^ a b Laupland KB (July 2009). “Fever in the critically ill medical patient”. Crit. Care Med. 37 (7 Suppl): S273–8. doi:10.1097/CCM.0b013e3181aa6117. PMID 19535958. 
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  6. ^ Sharma HS, ed (2007). Neurobiology of Hyperthermia (1st ed.). Elsevier. pp. 175–177, 485. ISBN 9780080549996. https://books.google.com/books?id=Vk1UTlmEwrQC&pg=485#v=onepage&q=hyperpyrexia%20core%20temperature&f=false 2016年11月19日閲覧. "Despite the myriad of complications associated with heat illness, an elevation of core temperature above 41.0°C (often referred to as fever or hyperpyrexia) is the most widely recognized symptom of this syndrome." 
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  8. ^ a b c 三宅康史:熱中症の予防対策 (PDF)
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  10. ^ 職場における熱中症による死傷災害の発生状況 厚生労働省 平成26年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」を公表します (PDF)
  11. ^ 学校の管理下における熱中症死亡事例の発生傾向”. 日本スポーツ振興センター. 2013年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年9月27日閲覧。
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関連項目編集

外部リンク編集