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'''なろう系'''(なろうけい)とは、[[ライトノベル]]・[[漫画]]・[[アニメ]]など、[[日本]]の[[サブカルチャー]]諸分野における[[物語の類型]]の一つである。'''なろう小説'''<ref name="gendai5">{{Cite news |和書|title=現役のラノベ作家が、現在の「なろう系ブーム」を考えてみた(2/5) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-10-13 |author=高木敦史 |authorlink=高木敦史 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67733?page=2 |accessdate=2020-04-17 |publisher=講談社 }}</ref>、'''異世界転生系'''<ref>{{Cite news|和書|date=2019-10-18|title=“なろう系ラノベのパイオニア”「無職転生」2020年にTVアニメ放送! ビジュアル&PV公開 |newspaper=アニメ!アニメ!|publisher=イード |url=https://animeanime.jp/article/2019/10/18/49075.html |accessdate=2020-11-16 }}</ref><ref name="animageplus">{{Cite news|和書|date=2020-06-19|title=『無職転生』2021年放送! 最新ビジュアル&内山夕実らキャスト解禁! |newspaper=アニメージュプラス|publisher=徳間書店 |url=https://animageplus.jp/articles/detail/32051 |accessdate=2020-11-16 }}</ref>とも呼ばれる。
'''なろう系'''(なろうけい)とは、[[ライトノベル]]・[[漫画]]・[[アニメ]]など、[[日本]]の[[サブカルチャー]]諸分野における[[物語の類型]]の一つである。
 
== 定義 ==
各媒体に掲載された「なろう系」の意味に関する記述を挙げる。
; 『デジタル大辞泉プラス』
: web小説投稿サイト『[[小説家になろう]]』の文学賞を受賞してデビューした作家、またその作家の作品。さらに、それらと似た傾向を持つ作家、その作家の作品<ref name="Kotobank">{{Kotobank}}</ref>。
; 『[[4Gamer.net]]』
: 『小説家になろう』というサイトではやっていに投稿される、何の変哲もない主人公が異世界に行く/ある、或いはそこに[[転生]]することで、突如ヒーロー扱いされるといった類の物語の総称<ref name="4Gamer">{{Cite news |和書|title=なぜ今,努力しないで成功する物語がはやるのか?――引きこもりのプロブロガー・海燕氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第17回 |newspaper=4Gamer.net |date=2014-05-10 |url=https://www.4gamer.net/games/236/G023617/20140509083/index_3.html |accessdate=2020-04-17 |publisher=Aetas }}</ref>。
; 『[[日刊工業新聞]]』
: 事故で異世界に転生し、魔術などの特殊能力を得たり現代文明の知識を活用したりして活躍するストーリーが典型<ref name="newswitch">{{Cite news |和書|title=台頭する「なろう」系小説 |newspaper=ニュースイッチ |date=2016-01-01 |url=https://newswitch.jp/p/3121 |accessdate=2020-04-17 |publisher=日刊工業新聞社 |publication-date=2015-06-08 }}</ref>。
; 『現代ビジネス』
: 『小説家になろう』に投稿され、書籍化される[[異世界 (ジャンル)|「異世界」もの]]は、特にサイト名に由来する『なろう系』という呼び方で通称されることがある<ref>{{Cite news |和書|title=「異世界モノ」ライトノベルが、現代の「時代劇」と言えるワケ(1/7) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-09-14 |author=大橋崇行 |authorlink=大橋崇行 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67125 |accessdate=2020-04-17 |publisher=講談社 }}</ref>。
; 『エキサイトニュース』
: 主人公が異世界に転生して、いわゆる“[[チート]]展開”を繰り広げる作品が『なろう系』と呼ばれることも多くあります<ref name="excite">{{Cite news |和書|title=なろう=異世界チートではない! 日本最大級の小説投稿サイト「小説家になろう」投稿作品の多彩な世界 |newspaper=エキサイトニュース |date=2019-10-03 |url=https://www.excite.co.jp/news/article/E1569912350069/ |accessdate=2020-04-17 |publisher=エキサイト }}</ref>。
 
「なろう系」を誰が名付けたかは不明で自然発生的なもので<ref name="KAI-YOU">{{Cite news |和書|editor=[[米村智水]] |title=「小説家になろう」インタビュー 文芸に残された経済的活路 | Vol.3 ネット/テキスト文化が要請した「異世界転生」|newspaper=KAI-YOU.net |date=2019-06-20 |url=https://premium.kai-you.net/article/57 |accessdate=2020-07-13 |publisher=カイユウ }}</ref>、展開が安易だとして揶揄して使われることもある<ref name="Kotobank" />。[[大橋崇行]]は使用に注意が必要だと言い<ref name="gendai">{{Cite news |和書|title=「異世界モノ」ライトノベルが、現代の「時代劇」と言えるワケ(2/7) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-09-14 |author=大橋崇行 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67125?page=2 |accessdate=2020-04-17 |publisher=講談社 }}</ref>、「小説家になろう」ではこの言葉を使ったことはなく<ref name="excite" />、同サイトを運営するヒナプロジェクト取締役の平井幸は「こちらとしては少し不思議な気持ちがしますね。『そういう呼び方になるんだ』という感じです」<ref name="KAI-YOU" />、痛し痒しな思いで「ブランド化されるのは大変ありがたいんですが、他ジャンルで書かれている作者さんの気持ちもありますし、あまりイメージが固定化されるのも困る。『みんなのための小説投稿サイト』を謳う以上、デメリットにも転びかねない言葉として慎重に取り扱っています」と発言している<ref name="excite" />。
 
== 類型 ==
* 主人公がトラック事故に遭い死亡(「トラック転生」と呼ぶ。かつてはよくみられたが2019年にはかなり減少)するなどして、西洋ファンタジー風の異世界に行く<ref name="gendai" /><ref name="animeanime">{{Cite news|和書|author=乃木章 |authorlink=乃木章 |date=2019-6-9|title=もはや様式美? 「異世界転生もの」テンプレートまとめ トラックにひかれる、チート能力に目覚めるetc… |newspaper=アニメ!アニメ! |publisher=イード |url=https://animeanime.jp/article/2019/06/09/46029.html |accessdate=2020-04-23 }}</ref><ref name="P+D">{{Cite web |date=2016-11-17 |url=https://pdmagazine.jp/background/isekai-tensei/ |title=異世界転生ライトノベルの人気の秘密を徹底解剖! |website=P+D MAGAZINE |accessdate=2020-09-14 |publisher=小学館 }}</ref>。
** 「トラック転生」・「転生トラック」と呼び、トラ転、転トラと略される<ref name="P+D" /><ref name="kadobun">{{Cite web |和書|title=世に溢れる“異世界転生チートもの“へ叩きつけられた、名手・恒川光太郎からの挑戦状『ヘヴンメイカー』 |website=カドブン |date=2017-11-30 |author=大森望 |authorlink=大森望 |url=https://kadobun.jp/reviews/194.html |accessdate=2020-11-16 |publisher=KADOKAWA }}</ref>。2009年頃から流行したと思われ<ref name="kadobun" />、かつてはよくみられたが2019年にはかなり減少<ref name="gendai" />。
* 主人公は現代では[[引きこもり|ひきこもり]]や社会人として荒波にもまれ、死亡して異世界に来たため元の世界に帰れなかったり辛い生活を送っていたことから、異世界で第二の人生を歩むことを選ぶ<ref name="niconico">{{Cite news |和書|title=最近アニメ化が多い気がする「なろう系異世界転移作品」の魅力って? 各作品で見られる“お約束”からそのおもしろさを考えてみた |newspaper=ニコニコニュースORIGINAL |date=2019-07-05 |url=https://originalnews.nico/194744 |accessdate=2020-04-17 |publisher= ドワンゴ}}</ref>。
* 主人公は現代では[[引きこもり|ひきこもり]]や社会人として荒波にもまれ、死亡して異世界に来たため元の世界に帰れなかったり辛い生活を送っていたことから、異世界で第二の人生を歩むことを選ぶ<ref name="niconico">{{Cite news |和書|author=セスタス原川 |authorlink=セスタス原川 |editor=[[竹中プレジデント]] |title=最近アニメ化が多い気がする「なろう系異世界転移作品」の魅力って? 各作品で見られる“お約束”からそのおもしろさを考えてみた |newspaper=ニコニコニュースORIGINAL |date=2019-07-05 |url=https://originalnews.nico/194744 |accessdate=2020-04-17 |publisher= ドワンゴ}}</ref>。
* 異世界に行くと主人公がチートといえるような最強の力を神や天使などの存在に与えられ、力を得るために努力する必要がない<ref name="gendai" /><ref name="animeanime" /><ref name="P+D" /><ref name="niconico" />。
* 現代で得た知識、経験、モノや能力を異世界で役立て、現代では常識なことが異世界にはなく人々は驚き、感動をする「知識チート」「内政チート」<ref name="gendai" /><ref name="animeanime" /><ref name="niconico" /><ref name="nomaguti">{{Cite web |和書|title=「小説家になろう」と「物語消費論」 |website=ウェブ表現研究講義用資料 |date=不明 |author=野間口修二 |authorlink=野間口修二 |url=http://nomawebstudy.web.fc2.com/2017_2nd_data1.html |accessdate=2020-09-14 }}</ref>。
* 男性主人公が美人女性たちからよくモテて、[[ハーレムもの|ハーレム]]を築く<ref name="gendai" /><ref name="animeanime" /><ref name="P+D" /><ref name="niconico" /><ref name="nomaguti" />。
** 上記のチートとハーレムを合わせた状態を「チーレム」と呼ぶ<ref>{{Cite news |和書|title=ハマる人続出の異世界アニメ12選!2020年の最新作品から大人気定番の主人公最強、ハーレム系まで厳選 |newspaper=@DIME |date=2020-07-24 |url=https://dime.jp/genre/955030/ |accessdate=2020-04-17 |publisher=DIME }}</ref>。
* モンスターや精霊がいるRPGゲーム的世界、普通に人間にパラメータ、スキルなどゲーム的数値が設定されている<ref name="P+D" /><ref name="nomaguti" />。
* サイトに投稿される作品がかなり多いことから目を引くためにタイトルが長く、内容がそれだけで伝わるようになっている<ref name="animeanime" />。
 
ジャンルとしてはゲーム的ファンタジー世界へ現代人が行く[[ロー・ファンタジー]]である<ref>{{Cite news |和書|title=声優・羽多野渉「今の時代を下敷きにすることで、リアリティが増す」SF小説というジャンルの在り方に言及 |newspaper=TOKYO FM+ |date=2021-03-16 |url=https://tfm-plus.gsj.mobi/news/SsgYeMozps.html?showContents=detail |accessdate=2021-04-03 |publisher=ジグノシステムジャパン }}</ref>。異世界に行く登場人物がこれらの展開の作品を知っており、そこに溶け込んでいく<ref>{{Cite web |date=2015-10-04 |author=水鏡子 |authorlink=水鏡子 |url=http://smaki0624.php.xdomain.jp/www/thatta01/that329/midare.htm |title=みだれめも 第215回 「なろう系」小説について |website=THATTA |publisher=THATTA ONLINE |accessdate=2021-04-03}}</ref>。2019、2020年時点で上記のよくある展開二世代以上前で、下記の細分化されたジャンルや異世界に行かず最初からファンタジー世界舞台の現地主人公が浸透している<ref name="bunka">{{Harvnb|子どもの文化|2020|p=14}}</ref><ref name="MAGKAN">{{Cite web |和書|title=シュッとした噺【第十三回】株式会社ヒナプロジェクト 取締役 平井幸さん|website=MAGKAN |date=2019-08-01 |url=http://kansai.mag-garden.co.jp/2019080101 |accessdate=2020-09-20 |publisher=マッグガーデン関西事業部 }}</ref>。
 
主人公は[[魔法使い]]が多く、剣士はほとんどいないのは鍛錬を積んで最強になる[[体育会系]]な展開は読者が嫌い、不良や陽気なキャラクターといえる体育会系は主人公にならず、ゲーム好き、[[おたく|オタク]]、無職などが好まれ、陰気なキャラが[[リア充]]になるのが共感される<ref name="animeanime" /><ref name="niconico" /><ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方。なろう、ラノベでウケない5つのジャンル。書いてもまず人気が出ません! |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-09-22 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/09/22/45656/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。
最初から主人公が冷遇されている場合も目立ち、そこから成り上がって見返すジャンルは「ざまぁ」と呼ばれ<ref name="nomaguti" />、「ざまぁみろ」を略したもので2014年頃からみられるようになり、2015、16年頃には下記の悪役令嬢ものの中の婚約破棄作品の一要素で、スカッとするタイプの悪役令嬢ものを意味していたが、2017年後半頃から独立したジャンルとなっていった<ref name="moemee">{{Cite news |和書|title=なろう最新の流行「ざまぁ系」って一体どんなジャンル? 検証まとめ |newspaper=moemee |date=2020-08-11 |url=https://moemee.jp/?p=11051 |accessdate=2020-09-20 |publisher=弘洋 }}</ref>。傾向としては転生や転移ではないことが多く、主人公は実力のある冒険者や勇者パーティのメンバーでお荷物のように思われていたため、あるとき見限られたり裏切られる、気に入らないなどでパーティを追放される<ref name="moemee" />。だが実は主人公には特別な力があり追い出された後に最強の存在として頭角を現す<ref name="moemee" />。追い出したパーティは没落してしまい、戻ってきて欲しいと頼むが地位を確立した主人公は相手にしない<ref name="moemee" />。追放した側の描写も多く、主人公が成長するのではなく脇役の転落物語である<ref name="moemee" />。
 
=== 細分化されたジャンル ===
主人公は[[魔法使い]]が多く、剣士はほとんどいないのは鍛錬を積んで最強になる[[体育会系]]な展開は読者が嫌い、不良や陽気なキャラクターといえる体育会系は主人公にならず、ゲーム好き、[[おたく|オタク]]、無職などが好まれ、陰気なキャラが[[リア充]]になるのが共感される<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方。なろう、ラノベでウケない5つのジャンル。書いてもまず人気が出ません! |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-09-22 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/09/22/45656/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。
最初から主人公が冷遇されている場合も目立ち、そこから成り上がって見返すジャンルは「追放もの」<ref>{{Cite journal |和書|author=ちゆ |authorlink=バーチャルネットアイドル ちゆ12歳 |title=ちゆ12歳のひとりエッチ 第112回 最近の「復讐もの」雑感 |date=2020-10-08 |publisher=キルタイムコミュニケーション |journal=二次元ドリームマガジン Vol.112 |page=897 }}</ref>「ざまぁ」(「ざまぁみろ」の略)<ref name="nomaguti" /><ref name="moemee">{{Cite news |和書|title=なろう最新の流行「ざまぁ系」って一体どんなジャンル? 検証まとめ |newspaper=moemee |date=2020-08-11 |url=https://moemee.jp/?p=11051 |accessdate=2020-09-20 |publisher=弘洋 }}</ref>と呼ばれ、2014年頃からみられるようになり、2015、16年頃には下記の悪役令嬢ものの中の婚約破棄作品の一要素で、スカッとするタイプの悪役令嬢ものを意味していたが、2017年後半頃から独立したジャンルとなっていった<ref name="moemee" />。傾向としては転生や転移ではないことが多く、主人公は実力のある冒険者や勇者パーティに所属、その中でお荷物のように思われていたため、あるとき見限られたり裏切られる、気に入らないなどでパーティを追放される<ref name="moemee" />。だが実は主人公には特別な力があり追い出された後に最強の存在として頭角を現す<ref name="moemee" />。追い出したパーティは没落してしまい、戻ってきて欲しいと頼むが地位を確立した主人公は相手にしない<ref name="moemee" />。追放した側の描写も多く、主人公が成長するのではなく脇役の転落物語である<ref name="moemee" />。また、そのような追放、不遇ものの[[オンライン小説]]は「本当は才能がある」という前フリであり、才能があるかないかは相対的なことが前提で、快感を得たり劣等感を持つのではなく、各々の多様性を住するべきであるという考えもできる設定だが、冒頭で主人公を馬鹿にした周辺キャラクターを後で「ざまあ」と嘲笑するための道具扱い程度の作品も少なくないと[[飯田一史]]は指摘している{{Sfn|飯田|2021|p=243}}。
 
女性主人公として[[乙女ゲーム]]世界の主人公の敵役に転生してしまう「悪役令嬢」があり<ref name="excite" />、ゲーム世界に転移転生するタイプの派生として誕生、敵役なことから本来のヒロインとは能力や設定は真反対で身分や財力は高いため攻略対象の王子の婚約者、嫁候補有力であることが多く、美しいが冷たい印象、可愛げはないかむしろマイナス、完璧主義で他人に厳しい点が挙げられる<ref name="friday">{{Cite news |和書|title=アナ雪とも共通点が? 運命に立ち向かう「悪役令嬢」人気のワケ |newspaper=FRIDAY |date=2020-02-07 |url=https://friday.kodansha.co.jp/article/82346 |accessdate=2020-04-17 |publisher=講談社 }}</ref>。物語のテーマはヒロインが誰かと結ばれると悪役令嬢は身分を失ったり国外追放、死刑などゲームシナリオ通りの破滅にどう抗うかで、ヒロインよりも素敵な男性と結ばれて立場も優位に立つパターンや、ゲームシナリオとして存在する恋愛、破滅の[[フラグ (ストーリー)|フラグ]]をどうやって折っていくかのヒロインの恋愛を支えるパターンに主に分けられ、両方とも転生前のゲーム攻略知識で破滅を回避する<ref name="friday" />。ヒロインは猫を被っており他者を陥れることや<ref name="nijidori1">{{Harvnb|二次元ドリームマガジン|2020|p=923}}</ref>、海外ドラマの「[[後宮]]」もののような女性同士のギスギスしたマウンティング合戦や貴族の権力闘争を描く作品も存在する<ref>{{Cite news |和書||author=飯田一史|authorlink=飯田一史|title=「転生もの」作品は主人公の「欲求・動機」の違いに注目するとおもしろい! 最新アニメ化3作品を比較 |newspaper=M-ON! Press |date=2020-5-18 |url=http://www.m-on.press/whatsintokyo/0000254717?show_more=1 |accessdate=2020-07-23 |publisher=エムオン・エンタテインメント }}</ref>。女性主人公作品には恋人との結婚話がなくなる運命に立ち向かう「婚約破棄」ものもある<ref name="excite" />。
'''世界観の特徴'''
*[[勇者]]、[[魔王]]がいる<ref name="nomaguti" />。
*主人公は冒険者が利用する[[ギルド]]で活動、チンピラに絡まれたり受付嬢と仲良くなる<ref name="nomaguti" />。
*ギルドがない場合は王立、国立学園に入学、エリートたちのなかで主人公が活躍<ref name="nomaguti" />。
*王族、貴族は中世からルネサンス期の西洋風、王や皇帝がいて貴族が権力を持つ<ref name="nomaguti" />。
*[[獣人]]、[[亜人]]といった半獣が暮らし、ハーレム入りするか好敵手になる<ref name="nomaguti" />。
*現代では世界的にファンタジー作品においてあまり描かれない[[奴隷]]の存在<ref name="nomaguti" />。
 
悪役令嬢のようなポジションのキャラクターが実際の乙女ゲームでよく登場していたわけではなく、なろう系で独自に発展したスタイルで<ref>{{Cite news|和書|author=細谷正充|authorlink=細谷正充|date=2020-4-17|title=悪役令嬢もの人気作「はめふら」の魅力は主人公の“人タラシ”にあり? 『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』評|newspaper=リアルサウンドブック|publisher=blueprint |url=https://realsound.jp/book/2020/04/post-539632.html |accessdate=2020-04-23 }}</ref><ref>{{Cite news|和書|author=泉信行|authorlink=泉信行|date=2020-6-5|title=悪役令嬢ものの変化球? 『外科医エリーゼ』人気の秘密を探る|newspaper=リアルサウンドブック|publisher=blueprint |url=https://realsound.jp/book/2020/06/post-563129.html |accessdate=2020-06-05 }}</ref>、本来の乙女ゲームで主人公に卑怯な真似をするのは端役であり、悪役といえたり破滅の最後を迎えるようなことはほとんどなく、敵役は最終的に和解して友達になり、本当は善人で良い子なヒロインより魅力的なこともある<ref name="gentosha">{{Cite news |和書|title=老害BBAオタクとして言っておきたい「悪役令嬢」案件について |newspaper=幻冬舎plus |date=2020-06-27 |author=カレー沢薫 |authorlink=カレー沢薫 |url=https://www.gentosha.jp/article/15903/ |accessdate=2020-07-13 |publisher=幻冬舎 }}{{Registration required}}</ref>。乙女ゲームを知らない人にも悪役令嬢をわかりやすくするために実際には登場しないような悪役らしい存在を出している可能性があり、同ゲームで一番の常識人はヒロインでも男キャラでもなく悪役令嬢のようなキャラだとの指摘がある<ref name="gentosha" />。
2018年頃からインターネット上で、なろう系に登場する異世界が「ナーロッパ」と呼ばれるようになり、それは[[コンピュータRPG]]の『[[ドラゴンクエストシリーズ|ドラゴンクエスト]]』『[[ファイナルファンタジーシリーズ|ファイナルファンタジー]]』のような西洋風ファンタジーな世界で食べ物や身分制度は現実と似ているようだが魔法があるのに農業、技術、文化が遅れていて、ファンタジーとしても設定が緻密ではない<ref name="gendai2">{{Cite news |和書|title=「異世界モノ」ライトノベルが、現代の「時代劇」と言えるワケ(3/7) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-09-14 |author=大橋崇行 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67125?page=3 |accessdate=2020-04-17 |publisher=講談社 }}</ref>。理由は筆者の多くがアマチュアなためであると考えられている<ref name="gendai2" />。
 
「悪役令嬢」を冠した作品は2009年に『[[悪役令嬢ヴィクトリア]]』([[菅原りであ]]、小学館)が発表されているが、オンライン小説でも転移転生でもない{{Sfn|二次元ドリームマガジン|2020|p=921}}<ref>{{Cite web |和書|date=2018-01-09 |url=https://sai-zen-sen.jp/editors/blog/kuga-saga-taidan1.html |title=『日本のメイドカルチャー史』上・下巻刊行記念 久我真樹・嵯峨景子対談(1/3) |website=最前線 |publisher=星海社 |accessdate=2021-02-23}}</ref>。「小説家になろう」では2012年2月に開始した『[[悪役令嬢後宮物語]]』があり、転移転生ではないが後続の悪役令嬢作品に影響を与えたとみられる<ref name="nijidori2">{{Harvnb|二次元ドリームマガジン|2020|p=924}}</ref>。記念碑的な作品として2013年から連載開始した『[[謙虚、堅実をモットーに生きております]]!』があり、同作では少女漫画世界の意地悪な悪役令嬢に転生したことに主人公が気付き、破滅を回避しようとするストーリーで「小説家になろう」では女性向け作品が不利だと思われていた中で書籍化されていないながら2017年まで累計ランキングで2位に位置していた{{Sfn|少女小説ガイド|2020|p=226}}。以前から『[[シンデレラ]]』の主人公の姉、『[[小公女]]』のラビニア、『[[キャンディ・キャンディ]]』イライザ、かつての[[少女漫画]]にはヒロインをいじめるキャラクターはいるが、シンデレラの姉は失明するパターンがあるものの、ラビニアやイライザは大きな罰を受けない{{Sfn|二次元ドリームマガジン|2020|p=922}}。乙女ゲームの悪役令嬢としてnumanは『[[AMNESIA]]』のリカ(イッキルート)<ref>{{Cite news|和書|date=2020-05-30|title=『はめふら』でも注目。“悪役令嬢” はなぜ人気?正統派ヒロインとは違うハイブリッドな魅力【キャラクター分析:カタリナ編】(page 6) |newspaper=numan|publisher=乙女企画 |url=https://numan.tokyo/anime/9YHYe?page=6 |accessdate=2020-11-16}}</ref>、凶悪ではなく当て馬感が強いとしながらも『[[ワンド オブ フォーチュン]]』のシンシア・ウィットフォードを挙げている<ref>{{Cite news|和書|date=2020-05-30|title=『はめふら』でも注目。“悪役令嬢” はなぜ人気?正統派ヒロインとは違うハイブリッドな魅力【キャラクター分析:カタリナ編】(page 7) |newspaper=numan|publisher=乙女企画 |url=https://numan.tokyo/anime/9YHYe?page=7 |accessdate=2020-11-16}}</ref>。悪役令嬢に負けずにヒロインが男性と結ばれるハッピーエンドはよくあるが、悪役令嬢作品は負ける立場であったキャラを主人公として運命に守られた強大な存在である本来のヒロインに立ち向かう[[お約束]]へのカウンターともいえる{{Sfn|二次元ドリームマガジン|2020|pp=922-923}}。ただ、[[バーチャルネットアイドル ちゆ12歳|ちゆ]]は従来のヒロインは貧困の中で労働にも励む健気な存在だが悪役令嬢作品の主人公は身分が高くてもメイドや平民にも優しい違いはあるが、立場は異なってもお約束の域を出ていないことが多く、悪役令嬢作品の裏表あるヒロインのせいで冤罪により誤解されつつも本当のことを分かってくれている男性キャラの存在というよくある展開は『キャンディ・キャンディ』とあまり変わらず、濡れ衣によりピンチになるキャラは別でも主人公補正が移ったたけでベースは同じであると指摘<ref name="nijidori1" />、表面は新しくみえてもその実は古典的であるとしている<ref name="nijidori2
女性主人公として[[乙女ゲーム]]世界の主人公の敵役に転生してしまう「悪役令嬢」があり<ref name="excite" />、ゲーム世界に転移転生するタイプの派生として誕生、敵役なことから本来のヒロインとは能力や設定は真反対で身分や財力は高いため攻略対象の王子の婚約者、嫁候補有力であることが多く、美しいが冷たい印象、可愛げはないかむしろマイナス、完璧主義で他人に厳しい点が挙げられる<ref name="friday">{{Cite news |和書|title=アナ雪とも共通点が? 運命に立ち向かう「悪役令嬢」人気のワケ |newspaper=FRIDAY |date=2020-02-07 |url=https://friday.kodansha.co.jp/article/82346 |accessdate=2020-04-17 |publisher=講談社 }}</ref>。物語のテーマはヒロインが誰かと結ばれると悪役令嬢は身分を失ったり国外追放、死刑などゲームシナリオ通りの破滅にどう抗うかで、ヒロインよりも素敵な男性と結ばれて立場も優位に立つパターンや、ゲームシナリオとして存在する恋愛、破滅の[[フラグ (ストーリー)|フラグ]]をどうやって折っていくかのヒロインの恋愛を支えるパターンに主に分けられ、両方とも転生前のゲーム攻略知識で破滅を回避する<ref name="friday" />。海外ドラマの「[[後宮]]」もののような女性同士のギスギスしたマウンティング合戦や貴族の権力闘争を描く作品も存在する<ref>{{Cite news |和書||author=飯田一史|authorlink=飯田一史|title=「転生もの」作品は主人公の「欲求・動機」の違いに注目するとおもしろい! 最新アニメ化3作品を比較 |newspaper=M-ON! Press |date=2020-5-18 |url=http://www.m-on.press/whatsintokyo/0000254717?show_more=1 |accessdate=2020-07-23 |publisher=エムオン・エンタテインメント }}</ref>。悪役令嬢のようなポジションのキャラクターが実際の乙女ゲームでよく登場していたわけではなく、なろう系で独自に発展したスタイルで<ref>{{Cite news|和書|author=細谷正充|authorlink=細谷正充|date=2020-4-17|title=悪役令嬢もの人気作「はめふら」の魅力は主人公の“人タラシ”にあり? 『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』評|newspaper=リアルサウンドブック|publisher=blueprint |url=https://realsound.jp/book/2020/04/post-539632.html |accessdate=2020-04-23 }}</ref><ref>{{Cite news|和書|author=泉信行|authorlink=泉信行|date=2020-6-5|title=悪役令嬢ものの変化球? 『外科医エリーゼ』人気の秘密を探る|newspaper=リアルサウンドブック|publisher=blueprint |url=https://realsound.jp/book/2020/06/post-563129.html |accessdate=2020-06-05 }}</ref>、本来の乙女ゲームで主人公に卑怯な真似をするのは端役であり、悪役といえたり破滅の最後を迎えるようなことはほとんどなく、敵役は最終的に和解して友達になり、本当は善人で良い子なヒロインより魅力的なこともある<ref name="gentosha">{{Cite news |和書|title=老害BBAオタクとして言っておきたい「悪役令嬢」案件について |newspaper=幻冬舎plus |date=2020-06-27 |author=カレー沢薫 |authorlink=カレー沢薫 |url=https://www.gentosha.jp/article/15903/ |accessdate=2020-07-13 |publisher=幻冬舎 }}{{Registration required}}</ref>。乙女ゲームを知らない人にも悪役令嬢をわかりやすくするために実際には登場しないような悪役らしい存在を出している可能性があり、同ゲームで一番の常識人はヒロインでも男キャラでもなく悪役令嬢のようなキャラだとの指摘がある<ref name="gentosha" />。[[荻原魚雷]]はこの手の異世界ものにおいて男は最強、女は苦境な設定が好まれ、悪役令嬢ものに共通するのは自立願望でヒロインが同性に気を使うのも現代を反映しているとみている<ref>{{Cite web |和書|title=異世界においてなぜ男はチート、女は悪役令嬢に転生するのか |website=QJWeb クイックジャパンウェブ |date=2020-02-20 |author=荻原魚雷 |authorlink=荻原魚雷 |url=https://qjweb.jp/journal/8279/2/ |accessdate=2020-09-14 |publisher=とうこう・あい }}</ref>。恋人との結婚話がなくなる運命に立ち向かう「婚約破棄」ものも存在する<ref name="excite" />、
" />。
 
[[吉田尚記]]は2020年に投稿サイトの検索単語上位3つが悪役令嬢、ざまあ、婚約破棄であることに触れてから「令嬢、つまりリア充で地位を成し遂げた者は邪悪な者である」と事実かも知れないが幻想があり、令嬢が婚約破棄されたのをみて溜飲を下げており、従来の異世界転生ものは自分がギリギリ投影されていたが、2000年頃は普通の男子高校生が転生していたのが変化していき、筆者にすら読者層がよくわからないサイレントマジョリティが読むようになったのが自分とは関係ないこのジャンルで、自らはもういい、先がないのは見えているからせめてうまくいっている人たちが悲惨な目に遭うのを見たい欲望に駆られており、[[宇野常寛]]はワイドショーや週刊誌、SNSで行われている自分より甘い汁を吸っているような人にスキャンダルが起こったときに石を投げて溜飲しているのと同じだと言い、吉田も同意した<ref name="planets">{{Cite web |和書|title=【特別対談】 〈世間〉に呑み込まれず〈社会〉につながるアプローチを実践していくために|吉田尚記×宇野常寛 |website=PLANETS |date=2020-11-04 |url=http://wakusei2nd.com/archives/series/%E3%80%90%E7%89%B9%E5%88%A5%E5%AF%BE%E8%AB%87%E3%80%91-%E3%80%88%E4%B8%96%E9%96%93%E3%80%89%E3%81%AB%E5%91%91%E3%81%BF%E8%BE%BC%E3%81%BE%E3%82%8C%E3%81%9A%E3%80%88%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%80%89%E3%81%AB |accessdate=2020-11-16 |publisher=PLANETS }}</ref>。
== 論考 ==
=== ストーリー展開 ===
異世界を舞台にした作品はなろう系のヒット以前にも存在するが、[[ライトノベル]]のジャンルで異世界へ行く場合がほとんどなのは前例がなく、他のライトノベル以上に厳密なルールがある<ref>{{Cite web |和書|title=ライトノベルのルールと文法――“萌え系”小説の「お約束」とは? |website=P+D MAGAZINE |date=2019-03-29 |url=https://pdmagazine.jp/background/light-novel-rule/ |accessdate=2020-09-14 |publisher=小学館 }}</ref>。なろう系テンプレートストーリーの形成は、『[[ゼロの使い魔]]』をベースにして、転生する主人公だけをオリジナルキャラクターにした作品などの[[二次創作物|二次創作]]に端を発したとされる<ref name="KAI-YOU" />。二次創作が「小説家になろう」で後に制限された後も、その文化はサイトに残り続けて人気作が現れればそれとよく似た作品が投稿されることになり<ref name="gendai3">{{Cite news |和書|title=なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?(1/4) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-04-19 |author=津田彷徨 |authorlink=津田彷徨 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64174 |accessdate=2020-04-19 |publisher=講談社 }}</ref>、[[津田彷徨]]は筆者が似せているのではなく和歌の[[本歌取]]のように解釈による二次創作文化が根底にあり、それを専門的な能力、知識がなくても補助ソフトがあればゲーム制作が可能なことを例に「[[ツクールシリーズ|ツクール]]的作品作り」だと言い、話を書くときにで参考になる様々なパーツが共有されているのである<ref>{{Cite news |和書|title=なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?(2/4) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-04-19 |author=津田彷徨 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64174?page=2 |accessdate=2020-04-19 |publisher=講談社 }}</ref>。ルーツの1つに『[[ハリー・ポッターシリーズ|ハリー・ポッター]]』が人気となったことを挙げる向きもある<ref name="gendai4">{{Cite news |和書|title=村上春樹とラノベのあいだ 〜新作『騎士団長殺し』を楽しむ前に(2/3) |newspaper=現代ビジネス |date=2017-02-27 |author=さやわか |authorlink=さやわか |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/51036?page=2 |accessdate=2020-07-23 |publisher=講談社 }}</ref>。[[野間口修二]]は大半がよくあるパターン通りでいいという気楽さにより、かつて以上の量の趣味で書かれた[[長編小説]]を形成しているとの見方を示した<ref name="nomaguti" />。平井幸は二次創作との類似を指摘し、一次創作で読者があまり納得できない、こうすればよかったと思って作り上げた主人公の動きがなろう系異世界作品で、MAGKANは主人公の名前を自由に設定可能な[[ドリーム小説]]に通ずる部分も感じられるとしている<ref name="MAGKAN" />。また平井はネット小説がゆえに流行を取り組むのが早く、文章が読みやすいようにサイト運営側や筆者が調整しやすいことも挙げた<ref name="MAGKAN" />。
 
[[ヒーロー文庫荻原魚雷]]([[主婦はこ友インフォス]])編集者高原秀樹は異世界ものが多数な理由として「読者キャラクターて男は最強、女は苦境な設定好まれファンタジーRPG悪役令嬢もような世界で活躍に共通するというは自立願望でヒロイン感情移入しやすい同性に気を使う現代を反映れません」ている分析したみている<ref>{{Cite newsweb |和書|title=ヒーロー文庫:“異世界においてろう系”ブぜ男はチムで躍進 注目ト、女は悪役令嬢に転生する新鋭ラノベレーベルの裏側 |newspaperwebsite=まんたんQJWeb クイックジャパンウェブ |date=20142020-1102-1420 |author=荻原魚雷 |authorlink=荻原魚雷 |url=https://mantan-webqjweb.jp/articlejournal/8279/2/20141114dog00m200052000c.html |accessdate=2020-309-714 |publisher=MANTANとうこう・あい }}</ref>。
 
=== 世界観の特徴 ===
上記のようなよくある展開は「[[御都合主義]]」「設定やストーリーが被りがち」「いかにもアニメやゲーム的で努力や葛藤が不必要」「現実を描写していない」、現実では冴えない男が異世界転生でチート級の大活躍で複数の女性に好意を向けられる展開であるため無双する主人公が「俺TUEEE系」と揶揄されたり否定的にもみられるが<ref name="gendai4" /><ref>{{Cite news|和書|author=まにょ|authorlink=まにょ|date=2017-2-19|title=“異世界転生”アニメはなぜ増えた? 『ソードアート・オンライン』以降のWeb小説ブーム(2/2)|newspaper=リアルサウンド映画部|publisher=blueprint |url=https://realsound.jp/movie/2017/02/post-4134_2.html |accessdate=2020-06-05 }}</ref>、[[海法紀光]]は「なろう系のチートというのは、多くの場合『世界をハックする物語』なのだ。うまいハックが重要なのであって、『努力』や『向上心』は付随条件でしかなく、時に邪魔でさえある」と指摘した<ref name="careerconnection">{{Cite news |和書|title=ご都合主義の異世界転生ラノベ「なろう系」が人気 小説を「早解き動画」感覚で楽しむ人が増えている!? |newspaper=キャリコネニュース |date=2017-07-30 |url=https://news.careerconnection.jp/?p=38918&page=2 |accessdate=2020-04-17 |publisher=グローバルウェイ }}</ref>。ライターの[[さやわか]]は現実を描写していないこと自体は欠点ではなく、アニメやゲームの人気のをみるに日本の人気コンテンツの特徴がそれだと肯定した<ref name="gendai4" />。作中に登場するギルドは『[[ソード・ワールドRPG]]』の冒険者の酒場のように[[テーブルトークRPG]]がルーツとみられるが、先述の悪役令嬢と同じくなろう系のテンプレート設定の多くはルーツがはっきりとせず、なんとなく自然発生的に形成されてよくあるパターンになったが明確なさきがけはとなる作者はおらず、[[お約束]]だけが存在するのである<ref name="nomaguti" />。似た作品ばかりで飽きないのかとの指摘にライトノベル作法研究所(以下「ラ研」)はなろう系をコーラに例え、定番ドリンクで以前から飲んでいても飽きず、風味を変えてもコーラというベースは変わらず、他に変わった味を出しても売上でコーラにはかなわないからだとしている<ref>{{Cite web |和書|title=ラノベにはオリジナリティはまず必要とされない!テンプレと流行がすべて |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-09-27 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/09/27/45717/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。そして掲載サイトがファミリーレストラン、なろう系がそこで出される定番料理やハンバーガーチェーン店のハンバーガーのように時間をかけて口に合うように最適化され、人気要素以外のよく知らないジャンルに読者が惹かれない<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方。40人以上のプロ作家に取材した創作ノウハウまとめ。プロへの道はたった1日これだけ読めばOK! |date=2019-06-25 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/06/25/44223/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。
* [[勇者]]、[[魔王]]がいる<ref name="nomaguti" />。
* 主人公は冒険者が利用する[[ギルド]]で活動、チンピラに絡まれたり受付嬢と仲良くなる<ref name="nomaguti" />。
* ギルドがない場合は王立、国立学園に入学、エリートたちのなかで主人公が活躍<ref name="nomaguti" />。
* 王族、貴族は中世からルネサンス期の西洋風、王や皇帝がいて貴族が権力を持つ<ref name="nomaguti" />。
* [[獣人]]、[[亜人]]といった半獣が暮らし、ハーレム入りするか好敵手になる<ref name="nomaguti" />。
* 現代では世界的にファンタジー作品においてあまり描かれない[[奴隷]]の存在<ref name="nomaguti" />。
 
2018年頃からインターネット上で、なろう系に登場する異世界が「ナーロッパ」と呼ばれるようになり、それは[[コンピュータRPG]]の『[[ドラゴンクエストシリーズ|ドラゴンクエスト]]』『[[ファイナルファンタジーシリーズ|ファイナルファンタジー]]』のような西洋風ファンタジーな世界で食べ物や身分制度は現実と似ているようだが魔法があるのに農業、技術、文化が遅れていて、ファンタジーとしても設定が緻密ではない<ref name="gendai2">{{Cite news |和書|title=「異世界モノ」ライトノベルが、現代の「時代劇」と言えるワケ(3/7) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-09-14 |author=大橋崇行 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67125?page=3 |accessdate=2020-04-17 |publisher=講談社 }}</ref>。理由は筆者の多くがアマチュアなためであると考えられている<ref name="gendai2" />。世界観の作り込みが甘く、作品の粗を誤魔化す言い訳に利用されているだけではないかとも批判されているが{{Sfn|宮永|2020|p=26}}、[[宮永忠将]]はこれには的外れな批判もあり、15世紀のイギリス舞台の歴史小説でジャガイモを出すのはいけないが、そうではない架空のファンタジー世界を作る上で中世ヨーロッパとは違うという批判は雑で、研究者によって中世ヨーロッパの考えが違い、時代が同じでも地域差が大きく、部分的に取り出して批判するのはそれ自体の足場がなく、中世ヨーロッパの各時代の寄せ集めでファンタジー世界を作り上げるとっかかりとしては妥当で、簡単に受け入れられるナーロッパは日本の誇るべき発明だと肯定<ref name="miyanaga">{{Harvnb|宮永|2020|p=27}}</ref>、そして中世前期のヨーロッパの生活は結構過酷で共感できる世界観にも乏しいからである{{Sfn|宮永|2020|p=111}}。ただし、理性的や物理的にありえないことと混ぜるのは駄目で、戦場で弓兵部隊が最前線、重装備の敵と相対して戦うような戦争の常識としてありえないようなことは作品を損なうため、避けるべきだとしている<ref name="miyanaga" />。
出版社がネット掲載作品を書籍化するのはサイトで人気が高いものを選ぶため内容が偏り、掲載サイトはノンジャンルであるはずだが評価されるには流行に乗るか少ない可能性に賭けて人気を確立させるしかなく、なろう系が足枷になって自由度が低くになってしまっており、[[山口直彦 (情報工学者)|山口直彦]]はテンプレートの中で創意工夫を楽しみ、[[定型詩]]や様式美的な楽しみ方があるのも否定しないが、埋もれた作品を発掘、磨いて世に出す出版社の本来の仕事も忘れず、書籍とネット文化が対立することなくお互い刺激し合う関係になってほしいと進言した<ref>{{Cite web |和書|title=第2回 なろう作家のひとりごと |website=WEB青い弓 |date=2020-06-11 |author=山口直彦 |authorlink=山口直彦 (情報工学者) |url=http://yomimono.seikyusha.co.jp/senryakuspinoff/spinoff02.html |accessdate=2020-09-14 |publisher=青弓社 }}</ref>。
 
== 歴史 ==
大橋崇行は、パターン化された展開を踏まえて誰でも手軽に小説を書くことができるとし、「異世界」に飛ばされた主人公が持つ能力は筆者の得意分野を活かして他作品と差別化できる部分であるものの、寄席の興行の[[大喜利]]のように組み合わせによってどう進むかという点で楽しまれるとみている<ref name="gendai2" />。その一方で大橋は、小説投稿サイトにおいて利用者の中でコミュニティが形成され、受け手送り手両方が外へ出ていくことが難しくなり強固な形で進展するパターン化したものから外れると読まれ難くなるが、同ジャンルの筆者と読者との間の凝集性が今までの小説より緊密になり、異世界ものが広まった1つの要因だとみている<ref>{{Cite news |和書|title=「異世界モノ」ライトノベルが、現代の「時代劇」と言えるワケ(4/7) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-09-14 |author=大橋崇行 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67125?page=4 |accessdate=2020-04-17 |publisher=講談社 }}</ref>。また、大橋はなろう系が現代の[[時代劇]]であるとしており、時代劇の舞台である[[江戸時代]]の街は史実とは異なる上に展開がパターン化されている点から、後世に形成された理想的なファンタジー世界であるパターン化された異世界だと考え、想像力の源が現代ではゲーム的な世界だとすると異世界が理解がしやすいと分析した<ref>{{Cite news |和書|title=「異世界モノ」ライトノベルが、現代の「時代劇」と言えるワケ(6/7) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-09-14 |author=大橋崇行 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67125?page=6 |accessdate=2020-04-17 |publisher=講談社 }}</ref>。ざまぁ作品についてmoemeeは異世界に行くのが起承転結の承だが、ざまぁで起で、追放した側が自業自得な結果となり、主人公が無視や適当にあしらったり情けをかけることもあるが、それよりも見下していた相手に縋り付く無様な姿が最大の「ざまぁ」ポイントで読者にカタルシスを与え<ref name="moemee" />、『[[水戸黄門]]』『[[半沢直樹]]』のような[[勧善懲悪]]ストーリーで、その手の作品で悪人の悪事がどうやってバレるのか、屈辱を受けるのかが楽しみな人も多いとみられ、その点では流行して当然のジャンルといえるかもしれないとする<ref>{{Cite news |和書|title=なろう最新の流行「ざまぁ系」って一体どんなジャンル? 検証まとめ - Part 2 |newspaper=moemee |date=2020-08-11 |url=https://moemee.jp/?p=11051&page=2 |accessdate=2020-09-20 |publisher=弘洋 }}</ref>。
===前史===
1990年代までオンライン小説の書籍化作品で異世界転生ものはなく、2000年代にもないとされる{{Sfn|飯田|2021|p=64}}。1999年頃から個人サイト内で開始した『[[レイン (小説)|レイン]]』{{Sfn|飯田|2021|p=81}}、2000年に小説投稿サイト「[[Arcadia (小説投稿サイト)|Arcadia]]」開設、2002年11月に『[[ソードアート・オンライン]]』が個人サイト内で開始、2003年に「Arcadia」にオリジナル小説投稿掲示板が設けられ、2004年4月に『[[ゼロの使い魔]]』が刊行、2006年7月にテレビアニメが放送されてヒット、[[二次創作物|二次創作]]含めて2000年代後半以降の異世界へ行く作品に繋がる流れがあったが、2000年代前半には書籍の形としてはみえていなかった{{Sfn|飯田|2021|p=66}}。
 
2000年代半ばからの第二次[[ケータイ小説]]ブームが「小説家になろう」にも波及、雑誌で同サイト発作品の紹介や投稿作に恋愛ものが増加、2007年に恋愛小説専門の「ラブノベ」が開設、ケータイ小説がなければ2010年代のオンライン小説の書籍化ブームは起こらなかったとの見方もある{{Sfn|飯田|2021|p=89}}。「小説家になろう」運営側は異世界ファンタジーだけを推したわけではないとしていることが多いが、それは最初の数年のだけで、書籍化がよくあることとなってからの方が作品内容の偏りが激しいとみられ、2010年代の多数の書籍化の流れによってサイトから人気作の多様性が失われた{{Sfn|飯田|2021|pp=89-90}}。
[[高木敦史]]はパターン化された展開が揶揄されているが面白い状況だと言い、20世紀末に音楽業界でインディーズバンドが人気によりメジャーデビューした結果、インディーズバンドが似たようなものばかりになったことと類似しており、自らも同じ思いだったが振り返ると格好いいのは格好いいし活動を続けている人もいることから新発見されて人が集まり更に新しいものが生まれるのは健全だとしている<ref>{{Cite news |和書|title=現役のラノベ作家が、現在の「なろう系ブーム」を考えてみた(2/5) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-10-13 |author=高木敦史 |authorlink=高木敦史 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67733?page=2 |accessdate=2020-04-17 |publisher=講談社 }}</ref>。
 
2009年には後にオンライン小説の書籍化に繋がる新レーベル、[[エタニティブックス]]([[アルファポリス]])や2010年11月に「小説家になろう」発で最初に書籍化された異世界転生もの『レイン』を創刊ラインナップに据えた[[レジーナブックス]]の存在や{{Sfn|飯田|2021|pp=90-91}}、『[[アクセル・ワールド]]』『ソードアート・オンライン』の刊行、この時期はまだオンライン小説がライトノベルのメインではなく、「小説家になろう」にも兆しはあったが異世界転生もののイメージではなく、同サイトがなろう系全盛になってラノベだと捉えられるようになったのは2000年代後半から2010年代初めまでの間に偶然いくつかの動きが重なったからであると飯田一史はみている{{Sfn|飯田|2021|p=91}}。
[[水野良]]は、[[ディストピア]]のカウンターとしてある[[ユートピア]]ともいえるのが、なろう系異世界ファンタジーだとしている<ref>{{Cite news|和書|date=2017-12-07|title=【『ロードス島戦記』水野良×『ペルソナ5』橋野桂:対談】 ゴブリンを倒していた若者が最終的に世界を救う話は、ファンタジーならではの“純化”である【新生・王道ファンタジーを求めて①】 |newspaper=電ファミニコゲーマー |publisher=マレ |url=https://news.denfaminicogamer.jp/interview/171207/2 |accessdate=2020-04-23 }}</ref>。また、ゲーム的ファンタジー作品が多いのは知っている世界のイメージをベースとして各作品でオリジナリティを出していくのは読者の知識がそのまま使用可能で、設定の説明が少なく物語に集中しやすく設定周りがアウトソーシングされており、素晴らしいシステムだと評価した<ref>{{Cite news |和書|title=ゲーム好きの少年が考えた世界観が「ロードス島戦記」へ。日本のファンタジーシーンに大きな影響を与えた水野 良氏にインタビュー|newspaper=4Gamer.net |date=2018-12-29 |url=https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20181226095/index_2.html |accessdate=2020-07-13 |publisher=Aetas }}</ref>。
 
=== 2010年代 ===
日本国外では異世界ものはあるがそれに加えて転生するのはあまりなく、他国では現実世界にファンタジー要素が出現するが、転生が多くないのは[[西村博之]]は概念として難しく、それ自体は面白くないため日本からそれほど輸出されてないとみている<ref>{{Cite news|和書|date=2019-09-24|title=ひろゆきに聞いてみた コンテンツのこと、それを取り巻く情報環境のこと。|「クールジャパンは足を引っ張ってるだけ」 |newspaper=KAI-YOU.net |publisher=カイユウ|url=https://premium.kai-you.net/article/113 |accessdate=2020-04-23 }}</ref>。
「小説家になろう」発で異世界へ行くなろう系的な初期のヒット作として『[[ログ・ホライズン]]』があり、同サイト初のアニメ化作品でもある<ref name="iida">{{Harvnb|飯田|2021|p=49}}</ref>。ただ、同作の1話あたりの文字数は多く、オンライン小説でよくある1話は短いがその中で盛り上がるセオリーからは外れ、同サイト掲載の『[[オーバーロード (小説)|オーバーロード]]』も同様だった<ref name="iida" />。2010年代初めは投稿作や書籍化もまだそれほど多くはなかったが、以降に大幅増したことで2013、4年頃にはセオリーに則らない手法でランキング入りする難易度は上昇していた{{Sfn|飯田|2021|p=49-50}}。
 
[[東日本大震災]]後、「Arcadia」はサイトの閉鎖騒動により掲載していた作品、参加していた作家が「小説家になろう」へ流れ出た{{Sfn|飯田|2021|p=30}}。「Arcadia」や個人サイト発の小説は減少、オンライン小説の書籍化のイメージとして「小説家になろう」発だとの認識が強くなるのは『[[魔法科高校の劣等生]]』の書籍版が2011年7月に刊行されてからで、同作を機に小説新人賞ではなくサイトへ投稿する者も少なくなくなり、以降は商業作家への道として今まであった新人賞と「小説家になろう」が二大ルートとなり、売上や確率では同サイト発作品の方が安定、ライトノベル読者の年齢層が上がる一因となった{{Sfn|飯田|2021|p=55-56}}。ただ、『魔法科高校の劣等生』は異世界に行くのではなく近未来日本の学園が舞台で、後に『[[魔王学院の不適合者 〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜]]』のような作品も登場するが、タイトルの命名の仕方以外でフォロワーが続いて多数出現したとはいえない{{Sfn|飯田|2021|p=56}}。
作中名詞が既存の英語名であることがよくあり、オリジナルの名前を設定してもいいのではないかとも批判されているが、野間口修二は異世界らしさは筆者にとってどうでもよく、オンリーワン、その作品ならではという考えは優先度が低く、共有された世界観の中で創作することを[[大塚英志]]は1989年の『[[物語消費論]]』で予言していると指摘、独創性がない共有された世界観があるからこそがなろう系において意味があるのだとしている<ref name="nomaguti" />。また、[[東浩紀]]が導入した[[データベース消費]]の最新型がなろう系で行われていることで、テンプレートストーリーは東のいう見えないデータベースの一部ともいえ、なろう系データベースとも呼べる見えないきちんとした形のないDBにアクセス、読者含めて設定を取捨選択することで作品作りが行われていると考えている<ref>{{Cite web |和書|title=物語消費からデータベース消費へ |website=ウェブ表現研究講義用資料 |date=不明 |author=野間口修二 |url=http://nomawebstudy.web.fc2.com/2017_3rd_data1.html |accessdate=2020-09-14 }}</ref>。ラ研は読者が独自の世界観などにあまり興味がなく、一番惹かれるのが主人公がいかに活躍するかでそれと無関係な設定に凝ると逆効果だとしている<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方。なろう、ラノベの世界観作りと設定解説の3つのコツ |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-10-13 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/10/13/45865/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。これらについて[[山本弘 (作家)|山本弘]]はそういった人はなろう系以外をほとんど読んだことはなく、[[エドガー・ライス・バローズ]]の『[[火星のプリンセス]]』『[[ターザン・シリーズ|ターザン]]』は設定が難解だと捉えられておらず、昔の読者と比べて現代日本人の知能が大きく低下しているわけではないと考えている<ref>{{Cite web |和書|title=100年前の異世界転生小説 - 火星のプリンセス など |website=シミルボン |date=2018-01-28 |author=山本弘 |authorlink=山本弘 (作家) |url=https://shimirubon.jp/columns/1687394 |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。
 
なろう系テンプレートストーリーの形成は、『ゼロの使い魔』をベースにして、転生する主人公だけをオリジナルキャラクターにした作品などの二次創作に端を発したとされる<ref name="KAI-YOU" />。二次創作が「小説家になろう」で後に制限されてからも、その文化はサイトに残り続けて人気作が現れればそれとよく似た作品が投稿されることになり<ref name="gendai3" />、[[津田彷徨]]は筆者が似せているのではなく和歌の[[本歌取]]のように解釈による二次創作文化が根底にあり、それを専門的な能力、知識がなくても補助ソフトがあればゲーム制作が可能なことを例に「[[ツクールシリーズ|ツクール]]的作品作り」だと言い、話を書くときに参考になる様々なパーツが共有されているのである<ref>{{Cite news |和書|title=なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?(2/4) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-04-19 |author=津田彷徨 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64174?page=2 |accessdate=2020-04-19 |publisher=講談社 }}</ref>。西洋ファンタジーRPG風の世界観が多いのは「小説家になろう」より先に人気だった「Arcadia」で『アクセル・ワールド』『[[ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか]]』『[[幼女戦記]]』『オーバーロード』といった作品が人気だった影響が大きく<ref name="bunka2">{{Harvnb|子どもの文化|2020|p=16}}</ref>、同時期に書き下ろしで出版されていたラノベは『[[生徒会の一存]]』『[[僕は友達が少ない]]』などの学園を舞台とした日常が描かれた作品が中心だったため、最初からファンタジー作品を商業出版するのが難しく、それを書きたい人がオンライン小説に流れていたことや『ソードアート・オンライン』がヒットしたことも投稿サイトとラノベの関係性の面で大きな意味を持つ{{Sfn|子どもの文化|2020|pp=16-17}}。ルーツの1つに『[[ハリー・ポッターシリーズ|ハリー・ポッター]]』が人気となったことを挙げる向きもある<ref name="gendai4">{{Cite news |和書|title=村上春樹とラノベのあいだ 〜新作『騎士団長殺し』を楽しむ前に(2/3) |newspaper=現代ビジネス |date=2017-02-27 |author=さやわか |authorlink=さやわか |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/51036?page=2 |accessdate=2020-07-23 |publisher=講談社 }}</ref>。
=== 筆者、読者 ===
2017年時点でネット上に掲載されている作品を読むのは10-20代の若者が多いが、それを書籍化されたものを購読しているのは30-40代が多く、若者は時間を割いてもまだ洗練されていない作品を探すがその上の世代は編集者が目を通して推敲、校正された作品を買って読み、それは1980年代のライトノベル創世記の頃からファンタジー小説好んでいた人で、願望を反映した展開が多いため30-40代の主人公が異世界へ行く作品も増えた<ref name="bookbang">{{Cite web |author=Book Bang編集部 |date=2017-09-26 |url=https://www.bookbang.jp/article/537594 |title=「なろう系」小説は誰が買っているのか? 主人公も「アラフォー」に |website=Book Bang |publisher=新潮社 |accessdate=2020-06-07}}</ref>。上記のよくあるパターンに加えて中年主人公の作品の存在には安易、世も末だとの見方もあるが、Book Bangでは筆者には出版社の小説コンテストに落ちた人も多く、切り捨てられた人たちの小説が多くの読者に楽しまれているのは事実で、書籍化して売上が大きいと読者が求めるものを提供するのも自分たちの役目だったと改めて考えさせられていると、ある編集者の話を掲載している<ref name="bookbang" />。[[羽海野渉]]はライトノベルを卒業して読み出す大人向けラノベが[[ライト文芸]]で、卒業しなかった読者が中高生ではなくより上の成人主人公の物語を欲し、自分が理想とする物語がないのであれば書けばいいとなったことで大人主人公が増加、なろう系異世界作品誕生のきっかけの1つだとみている<ref>{{Cite news |和書|title=「なろう」に「カクヨム」…今なお衰えないWeb小説のムーブメントとその起源|newspaper=KAI-YOU.net |date=2017-07-17 |author=羽海野渉 |authorlink=羽海野渉 |url=https://premium.kai-you.net/article/250 |accessdate=2020-09-13 |publisher=カイユウ }}{{Registration required}}</ref>。平井幸はなろう系が男性向けだと思われがちだが女性読者も一定数いるとしている<ref>{{Cite news |和書|title=Vol.1 個人発サイトがエンタメ/出版業界を席巻する理由|newspaper=KAI-YOU.net |date=2019-05-31 |url=https://premium.kai-you.net/article/53 |accessdate=2020-09-13 |publisher=カイユウ }}{{Registration required}}</ref>。構造が単純であるため2018年頃から小学生に人気が出ているといわれている<ref>{{Cite web |和書|title=ラノベで絶対やってはいけない3つのタブー! |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-03-02 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/03/02/43381/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。
 
2012年10月に開始した『[[無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜]]』は2013年10月から2019年2月まで「小説家になろう」累計ランキングで1位を維持、オンライン小説の書籍化が本格的になる前からオファーが殺到、このジャンルの代名詞{{Sfn|飯田|2021|p=84}}、パイオニアとされている<ref name="animageplus" />。以降の作品にはトラック転生や中世ファンタジーの異世界へいくといった類型が同作がベースとなっているものも多いとみられるが同作はなろう系でよくあるゲーム的要素は皆無で<ref>{{Cite news |和書|title=そうだ アニメ,見よう:第126回は「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~」。異世界転生モノのパイオニアがついに登場 |newspaper=4Gamer.net |date=2021-03-18 |url=https://www.4gamer.net/games/533/G053388/20210310083/ |accessdate=2021-04-03 |publisher=Aetas }}</ref>、飯田一史からは最強の力や転生前の知識を役立てたり複数の女性と愛し合うのはよくあるパターンだが快感を与え続けないと読者離れするため鬱展開が望まれていない作品ではなく{{Sfn|飯田|2021|p=85}}、主人公のルディが落ち込んだり前世の記憶を思い出して傷付くシーンもあり、ピンチがない、勝利が約束された戦いや試練ばかりではなくハードさがあり{{Sfn|飯田|2021|p=86}}、簡単に快楽を{得るばかりではない、今度こそ生き抜くという意思があり、よくある上昇志向や承認欲求とは無縁だと指摘されている{{Sfn|飯田|2021|p=87}}。
日刊工業新聞は社説で「“なろう系”とされる作品の傾向は、満たされない欲求を補うことだ。(中略)現代の若者の潜在的な不満を見いだすことができるかもしれない」としている<ref name="newswitch" />。ニコニコニュースORIGINALでは「叶わないはずの夢が異世界で叶う」という魅力が影響して、無意識になろう系異世界転移作品を求めている可能性や、共通する“お約束”があるからこそ毛色が違っても深く考えず楽しめ、そこにわくわく感や非現実感も合わさって惹きつけられると考えている<ref name="niconico" />。高原秀樹も現実ではうまくいかない悩みは誰でもあるとみられ、異世界なら活躍できるかもしれないと思ったことも多いはずでそれを叶えてくれることに共感したり、チート展開が人気なのも無双したい願望の人が多く、中途半端ではなくチートの方が爽快感があり、爽快感が重要なのはどのエンターテインメントでも共通なのかもしれないとみている<ref>{{Cite news |title=異世界もの:ネット小説発のアニメが人気 キーワードは“共感” |newspaper=まんたんウェブ |date=2017-7-17 |url=https://mantan-web.jp/article/20170714dog00m200028000c.html |accessdate=2020-7-23 |publisher=MANTAN }}</ref>。元より特定の層に向けたジャンルであり<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方講座。おもしろくない小説の特徴とは?「万人受けを狙った物」 |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-08-03 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/08/03/45094/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>、ラ研は主人公=読者であるため主人公を賞賛することで読者は心地よくなり、承認欲求こそが現代で誰もが一番求めることで、『[[転生したらスライムだった件]]』を例にリーダーとしての苦悩が描かれないのは、尊敬される快感を壊しかねない真逆のことだからとしている<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方講座「主人公を褒める!」ジャンルを問わず人気を出す秘訣 |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-08-12 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/08/12/45214/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。また、本ジャンルは男性版[[シンデレラ・ストーリー]]で<ref>{{Cite web |和書|title=なろう小説とは男性版シンデレラ・ストーリー!なろう小説の本質 |website=ライトノベル作法研究所 |date=2018-05-26 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2018/05/26/40502/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>、中にはラノベ恋愛不要論、ヒロイン不要論もあり、読者が自己投影するのは主人公のみでヒロインは脇役に過ぎず、それが出番を食うと面白くなくなるとも考えられている<ref>{{Cite web |和書|title=大ヒットラノベのたったひとつの共通点!小説の基本は主人公に気持ちよく自己投影させること |website=ライトノベル作法研究所 |date=2020-06-11 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2020/06/11/46732/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。そして、読者は主人公以外に興味がないとも言い切り、それを中心に活躍する徹底が重要であるという<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方。読者が最も興味ない物「設定」最も興味のあるもの「主人公(自分)」 |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-10-12 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/10//12/45850/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。
 
よくみられる女性の奴隷が登場する最初の人気作は2012年11月から刊行された『[[異世界迷宮でハーレムを]]』である{{Sfn|飯田|2021|p=225}}。2013年頃は転生すると赤ちゃんや若者になることが多かった{{Sfn|飯田|2021|p=98}}。またその頃のライトノベルは[[ラッキースケベ]]はあっても恋愛要素がないのは珍しかったが次第に珍しくなくなっていった{{Sfn|飯田|2021|p=100}}。
[[川上量生]]はなろう系を「欲望充足型コンテンツ」と表現して「努力すると感情移入ができない」とする傾向に言及、また川上は「むしろ、努力したら(必ず)成功するっていう方がファンタジー」ともした<ref name="4Gamer" />。津田彷徨は「どの作品もまるで金太郎飴のように、“平凡”な主人公が“異世界転生”をして文明度の劣る世界で“現代知識”をひけらかし“ハーレムを築く”という、非常に明確な『願望充足型』作品の一ジャンル」とされることが多く<ref name="gendai3" />、「小説家になろう」で主人公に不幸が訪れる展開になるとアクセス解析で明確に読者離れがわかり、それゆえにストレスがかかる展開が排除<ref>{{Cite news |和書|title=なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?(3/4) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-04-19 |author=津田彷徨 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64174?page=3 |accessdate=2020-04-19 |publisher=講談社 }}</ref>、「異世界日記」とも呼ばれるこのジャンルは言い得て妙なるもので現実味を感じる程度の過剰すぎないギリギリの幸福が続き、ストーリーが緩やかに上昇していくことが読者を満足させる最適解の1つで、なろう系が[[空気系|日常系]]の延長線上にもあるとしている<ref>{{Cite news |和書|title=なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?(4/4) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-04-19 |author=津田彷徨 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64174?page=4 |accessdate=2020-04-19 |publisher=講談社 }}</ref>。ラ研はなろう系が[[冒険小説]]の皮をかぶった日常系であり、主人公が負けない安心感が重要だとしている<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方。なろう系とは「冒険小説の皮を被った日常系」安心感が重要 |website=ライトノベル作法研究所 |date=2020-04-01 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2020/04/01/46531/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。野間口修二は[[E・M・フォースター]]が提唱した[[フラット/キャラクター論]](キャラの傾向を2種類に大別した分類)を当てはめるとなろう系で不快な性質が少しでも行き過ぎると猛批判されるのはなろう系のフラット/キャラクターの設定がかなり低いか許容範囲がかなり狭いのではないかとする<ref>{{Cite web |和書|title=キャラクター論 〜二つの観点から〜 |website=ウェブ表現研究講義用資料 |date=不明 |author=野間口修二 |url=http://nomawebstudy.web.fc2.com/2017_10th_data1.html |accessdate=2020-09-14 }}</ref>。2020年に好書好日は「アバターになってそもそも現実から逃げ込んでしまう、『なろう系作品』」と言い、それについて[[西島大介]]はこのジャンルを「自分じゃないキャラでその世界で遊ぶ」とし、[[新型コロナウイルス感染症の世界的流行 (2019年-)|新型コロナウイルス感染症の流行]]の中でアバター世界を壊してまでわざわざリアル出会いたいのかとも考えられるが、映画『[[マトリックス (映画)|マトリックス]]』で主人公がどんなに汚くてもロボットに支配された世界より外のリアルワールドが良いと考えたことから、なろう系は閉塞感を生むだけで今後は通じなくなる可能性を指摘、脱アバター、コロナ禍をぶっちぎる想像力でないとフィクションは難しくなってくるのではないかとみている<ref>{{Cite web |和書|title=西島大介さん「ヤング・アライブ・イン・ラブ 完全版」インタビュー 「異常な日常」でフィクションが果たす役割とは |website=好書好日 |date=2020-07-31 |url=https://book.asahi.com/article/13567769 |accessdate=2020-09-20 |publisher=朝日新聞社 }}</ref>。
 
2010年代初めに増加したグルメものが一大ジャンルとして形成、それまでの文庫ライトノベルでグルメものはあまりなく、ヒット作は2008年開始の『[[ベン・トー]]』程度で、同作は食を美味しく楽しむのではなく値引きされた弁当を巡る戦い、コメディだった{{Sfn|飯田|2021|p=122-123}}。少年漫画や少女漫画でグルメものは見受けられるが、子供は視覚的に料理を楽しめるが字だけで想像して楽しむ力が途上であるか、他に興味があって小説ではあまり支持されないが、大人は字だけでも楽しめる需要があると考えられる<ref name="iida3">{{Harvnb|飯田|2021|p=123}}</ref>。内容は主に2つあり、現実世界にはいない生物を食材として料理を作って楽しむパターンと現代にある料理を異世界に暮らす者たちに食べて楽しんでもらうパターンがある<ref name="iida3" />。
 
2012年に設立された[[ヒーロー文庫]]([[主婦の友インフォス]])がなろう系作品を書籍化すると初期には全作重版率100パーセントの目覚ましい売り上げを記録すると、以前よりあった文庫ライトノベルレーベルになろう系的な異世界へ行く作品が広まり<ref>{{Cite news|和書|author=飯田一史|date=2020-11-4|title=ラノベ市場、この10年で読者層はどう変わった? 「大人が楽しめる」作品への変遷をたどる(1/2)|newspaper=リアルサウンドブック|publisher=blueprint |url=https://realsound.jp/book/2020/11/post-648572.html |accessdate=2021-04-03 }}</ref>、2013年10月『[[この素晴らしい世界に祝福を!]]』([[富士見ファンタジア文庫]])が刊行、ヒットした{{Sfn|飯田|2021|p=106}}。同作は文庫ライトノベル読者を得たいためか、主要キャラクターの年齢を10代にしたことでオンライン版の読者から反発もあったが10代を含め新規読者を得ることに成功した{{Sfn|飯田|2021|p=179}}。大人とよくラノベを読む10代の読者両方を得た成功例で、なろう系が文庫ラノベに寄せたことで既存の読者に受け入れられ、2014年1月に刊行した『[[Re:ゼロから始める異世界生活]]』などもヒット、『この素晴らしい世界に祝福を!』が既存の[[角川スニーカー文庫]]から刊行されたことに特に意味があり、業界では「なろう系と今までの文庫ラノベは別物」という考えの変化が決定的となり、各レーベルに「小説家になろう」の書籍化が大量投下、オリジナルの異世界へ行く作品も出版され、文庫もベースのまま[[四六判]]単行本で出版する新レーベル創刊にも繋がった{{Sfn|飯田|2021|p=180-181}}。これによって年齢層の上昇(大人の増加)と若者のラノベ離れも発生、2010年代始めまでの文庫と四六判の読者層の違いがなくなった{{Sfn|飯田|2021|p=181}}。またこの2作品もこのジャンルのテンプレートに沿っていないことから「アンチなろう系」と呼ばれた<ref>{{Cite news|和書|date=2020-08-11|title=異世界ものは何がそんなに面白いのか? 『リゼロ』長月達平×『オバロ』丸山くがね対談 |newspaper=ダ・ヴィンチニュース|publisher=KADOKAWA |url=https://ddnavi.com/interview/647325/a/ |accessdate=2021-04-03 }}</ref>。
 
2014年月から刊行された『[[転生したらスライムだった件]]』は「小説家になろう」累計ランキング1位に躍り出て、2010年代に関連書籍含め2000万部を売り上げた同年代最大のライトノベルヒット作となった<ref name="iida5">{{Harvnb|飯田|2021|p=229}}</ref>。同作を書いた[[伏瀬]]は[[電撃小説大賞]]に応募も考えていたため、飯田一史は2000年代までならライトノベルのトップであった電撃が才能を逃したと指摘、また2009年に[[ライト文芸]]向きの作家や作品が流れ出るのを防止するために[[メディアワークス文庫]]を創刊したが2010年代にオンライン上に書き手が流れていき、書籍版は他社からの刊行が多くなったのも電撃が苦境となった理由の1つで、一部作品や作家を除いて同社は2019年に[[電撃の新文芸]]創刊まで[[アスキー・メディアワークス|メディアワークス]]はオンライン小説の書籍化にあまり積極的ではなく、文庫ライトノベルのトップであったがゆえの自負による技術革新とのジレンマだったとみている{{Sfn|飯田|2021|pp=228-229}}。
 
2014年10月に始まった『[[真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました]]』が登場したことで「追放もの」が定着するきっかけとなる<ref name="iida4">{{Harvnb|飯田|2021|p=242}}</ref>。なお、それ以前に『[[盾の勇者の成り上がり]]』『[[ありふれた職業で世界最強]]』のような主人公が追い出された後に追い出した側より優位に立つ作品は存在したが、よくある「追放もの」とは違う点もあり、その2作は仲間とになる前に追放され、その宣告もなく、『盾の由者の成り上がり』については[[貴種流離譚]]だと飯田一史は指摘している<ref name="iida4" />。
 
2015年5月開始の『[[蜘蛛ですが、何か?]]』は2010年代後半以降の[[グランドホテル方式|群像劇]]ライトノベルの代表作に挙げられる{{Sfn|飯田|2021|p=292}}。2015、6年頃より主人公がとても強く、簡単に勝ち進んでいく作品が増加した<ref>{{Cite news |和書|title=「今度こそはきちんと生き抜く」…超人気作『無職転生』の“圧倒的切実さ”の正体 |newspaper=現代ビジネス |date=2019-09-14 |author=飯田一史 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/79231?page=3 |accessdate=2021-04-03 |publisher=講談社 }}</ref><ref>{{Cite news |和書|title=【特集】『弱キャラ友崎くん』×『千歳くんはラムネ瓶のなか』最新刊同時発売記念 屋久ユウキ×裕夢 青春ラブコメ対談インタビュー |newspaper=ラノベニュースオンライン |date=2019-10-18 |url=https://ln-news.com/articles/100685 |accessdate=2021-04-03 |publisher=Days }}</ref>。
 
2016年に「小説家になろう」のランキングで異世界へ行く作品がそれ以外と分離された<ref name="animeanime" />。同年には同サイトと[[文学フリマ]]が共催した短編小説賞で異世界転生、転移以外との条件が存在、2017年にレーベル[[NOVEL 0]]が開催した「大人が読みたいエンタメ小説コンテスト」では異世界転生以外ならどのジャンルでも可だと条件がつけられ、そういった作品が多数存在するためか小説のコンテストでは制限する動きがあった<ref name="P+D" /><ref>{{Cite news |和書|author=キャリコネニュース編集部 |date=2017-05-18 |url=https://news.careerconnection.jp/?p=35597 |title=ラノベコンテストで「異世界転生NG」の縛り広がる ネット民「これは朗報」と歓迎 |website=キャリコネニュース |accessdate=2021-04-03 |publisher=グローバルウェイ }}</ref><ref>{{Cite news |和書|title=小説募集「異世界転生以外で」 KADOKAWAのコンテストが話題に|newspaper=J-CASTニュース |date=2017-5-20 |url=https://www.j-cast.com/2017/05/20298397.html?p=all|accessdate=2021-04-03}}</ref>。
 
2016年末にはオンライン小説は伸びているがレーベルが多過ぎ、似たような内容が多いため飽和状態だとされていた<ref>{{Cite news |和書|title=本の王子様:ラノベ年間トップは「ソードアート・オンライン」 “電撃祭り”も規模は縮小 |newspaper=まんたんウェブ |date=2016-12-23 |url=https://mantan-web.jp/article/20161223dog00m200022000c.html |accessdate=2021-4-3 |publisher=MANTAN }}</ref>。2018年には人気が下火になるも『転生したらスライムだった件』のアニメが大ヒット<ref>{{Cite news |和書|title=なぜいま“異世界漫画”が売れるのか? 普通の漫画と違う「決定的な理由」とは |newspaper=文春オンライン |date=2020-11-27 |url=https://bunshun.jp/articles/-/41633?page=2 |accessdate=2021-4-3 |publisher=文藝春秋 }}</ref>、漫画版を連載する『[[月刊少年シリウス]]』の[[講談社]]は『[[進撃の巨人]]』完結後の業績を心配する声もあった中で会社を支えるほどとなったのは2000年代までのライトノベル及び出版業界の常識では考えられないことだった<ref name="iida5" />。
 
== 諸分野との関係性 ==
異世界を舞台にした作品はなろう系のヒット以前にも存在するが、[[ライトノベル]]のジャンルで異世界へ行く場合がほとんどなのは前例がなく、他のライトノベル以上に厳密なルールがある<ref>{{Cite web |和書|title=ライトノベルのルールと文法――“萌え系”小説の「お約束」とは? |website=P+D MAGAZINE |date=2019-03-29 |url=https://pdmagazine.jp/background/light-novel-rule/ |accessdate=2020-09-14 |publisher=小学館 }}</ref>。平井幸は二次創作との類似を指摘し、一次創作で読者があまり納得できない、こうすればよかったと思って作り上げた主人公の動きがなろう系異世界作品で、MAGKANは主人公の名前を自由に設定可能な[[ドリーム小説]]に通ずる部分も感じられるとしている<ref name="MAGKAN" />。また平井はネット小説がゆえに流行を取り組むのが早く、文章が読みやすいようにサイト運営側や筆者が調整しやすいことも挙げた<ref name="MAGKAN" />。
 
大橋崇行は、パターン化された展開を踏まえて誰でも手軽に小説を書くことができるとし、「異世界」に飛ばされた主人公が持つ能力は筆者の得意分野を活かして他作品と差別化できる部分であるものの、寄席の興行の[[大喜利]]のように組み合わせによってどう進むかという点で楽しまれるとみている<ref name="gendai2" />。その一方で大橋は、小説投稿サイトにおいて利用者の中でコミュニティが形成され、受け手送り手両方が外へ出ていくことが難しくなり強固な形で進展するパターン化したものから外れると読まれ難くなるが、同ジャンルの筆者と読者との間の凝集性が今までの小説より緊密になり、異世界ものが広まった1つの要因だとみている<ref>{{Cite news |和書|title=「異世界モノ」ライトノベルが、現代の「時代劇」と言えるワケ(4/7) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-09-14 |author=大橋崇行 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67125?page=4 |accessdate=2020-04-17 |publisher=講談社 }}</ref>。
 
また、大橋はなろう系が現代の[[時代劇]]であるとしており、時代劇の舞台である[[江戸時代]]の街は史実とは異なる上に展開がパターン化されている点から、後世に形成された理想的なファンタジー世界であるパターン化された異世界だと考え、想像力の源が現代ではゲーム的な世界だとすると異世界が理解がしやすいと分析した<ref>{{Cite news |和書|title=「異世界モノ」ライトノベルが、現代の「時代劇」と言えるワケ(6/7) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-09-14 |author=大橋崇行 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67125?page=6 |accessdate=2020-04-17 |publisher=講談社 }}</ref>。[[MF文庫J]]編集部副編集長の池本昌仁は最初から作品内容を説明するのは難しいためフォーマットが必要で時代劇はお上や岡っ引きの存在は誰もが知っていることで成立しており、本ジャンルが平成、令和の時代劇であるとしている<ref name="aera">{{Cite news |和書|title=「なろう系小説」が映し出す日本の空気 人生「何も起きない」諦めに近い価値観が反映(2/3) |newspaper=AERA.dot |date=2021-02-19 |author=老川菜綾 |authorlink=老川菜綾 |url=https://dot.asahi.com/aera/2021021700024.html?page=2 |accessdate=2020-02-21 |publisher=朝日新聞出版 }}</ref>。「追放もの」、「ざまぁ」作品についてmoemeeは異世界に行くのが起承転結の承だが、「ざまぁ」では起で、追放した側が自業自得な結果となり、主人公が無視や適当にあしらったり情けをかけることもあるが、それよりも見下していた相手に縋り付く無様な姿が最大の「ざまぁ」ポイントで読者にカタルシスを与え<ref name="moemee" />、『[[水戸黄門]]』『[[半沢直樹]]』のような[[勧善懲悪]]ストーリーで、その手の作品で悪人の悪事がどうやってバレるのか、屈辱を受けるのかが楽しみな人も多いとみられ、その点では流行して当然のジャンルといえるかもしれないとする<ref>{{Cite news |和書|title=なろう最新の流行「ざまぁ系」って一体どんなジャンル? 検証まとめ - Part 2 |newspaper=moemee |date=2020-08-11 |url=https://moemee.jp/?p=11051&page=2 |accessdate=2020-09-20 |publisher=弘洋 }}</ref>。
 
宇野常寛は[[ハーレクイン (出版社)|ハーレクイン]]のような定番として完全に定着し、『[[アベンジャーズ (マーベル・コミック)|アベンジャーズ]]』のような現実を抽象化して表現した映し鏡的作品となろう系は対立しており、『アベンジャーズ』は持てる者、リア充という現実のプレイヤーの人たちのための物語で、どれだけ努力しようが何になることもできず自ら世界に手を触れられないと絶望している人たち物語が本ジャンルであるとしたが、後に[[韓国ドラマ]]『[[愛の不時着]]』の存在により修正し、同作品は家族から孤立した財閥令嬢がベンチャー企業を成長させて実力で後を継ごうとし、彼女がパラグライダーで北朝鮮に不時着して出会ったイケメン将校かつピアニストというチート青年に助け出されて恋に落ちるという展開を「財閥令嬢の私が北朝鮮に不時着したらイケメン将校に愛された件」と表現、北朝鮮の文化が面白おかしく扱われ韓国の現代知識を持ったヒロインが変わった方法で役立っていくのはグローバルエリート的、『アベンジャーズ』的な持てる者の物語になろう系のノウハウがリア充側に持って行かれているとしている<ref name="planets" />。
 
[[高木敦史]]はパターン化された展開が揶揄されているが面白い状況だと言い、20世紀末に音楽業界でインディーズバンドが人気によりメジャーデビューした結果、インディーズバンドが似たようなものばかりになったことと類似しており、自らも同じ思いだったが振り返ると格好いいのは格好いいし活動を続けている人もいることから新発見されて人が集まり更に新しいものが生まれるのは健全だとしている<ref name="gendai5" />。
 
[[水野良]]は、[[ディストピア]]のカウンターとしてある[[ユートピア]]ともいえるのが、なろう系異世界ファンタジーだとしている<ref>{{Cite news|和書|date=2017-12-07|title=【『ロードス島戦記』水野良×『ペルソナ5』橋野桂:対談】 ゴブリンを倒していた若者が最終的に世界を救う話は、ファンタジーならではの“純化”である【新生・王道ファンタジーを求めて①】 |newspaper=電ファミニコゲーマー |publisher=マレ |url=https://news.denfaminicogamer.jp/interview/171207/2 |accessdate=2020-04-23 }}</ref>。そして、ゲーム的ファンタジー作品が多いのは知っている世界のイメージをベースとして各作品でオリジナリティを出していくのは読者の知識がそのまま使用可能で、設定の説明が少なく物語に集中しやすく設定周りがアウトソーシングされており、素晴らしいシステムだと評価した<ref>{{Cite news |和書|title=ゲーム好きの少年が考えた世界観が「ロードス島戦記」へ。日本のファンタジーシーンに大きな影響を与えた水野 良氏にインタビュー|newspaper=4Gamer.net |date=2018-12-29 |url=https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20181226095/index_2.html |accessdate=2020-07-13 |publisher=Aetas }}</ref>。大橋崇行は先に挙げた『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』や『[[スレイヤーズ]]』『[[ロードス島戦記]]』といった作品を1990年代から2000年代に好んだ世代で、同時期に若者だった人がRPGの物語を知っている前提で読んでおり、オンライン小説の執筆投稿と受容にはゲーム的要素が教養として作用しているとみている{{Sfn|子どもの文化|2020|p=17}}。
 
[[三宅陽一郎]]と[[宮路洋一]]はAIによる物語の自動生成のように王道から外れた新鮮で突飛な展開がまさになろう系ファンタジーだとしている<ref>{{Cite news|和書|date=2019-11-20|title=発想より技術が先行する時代におけるゲームAIの役割:『ゲームAI技術入門』刊行記念特別対談レポート(後編) |newspaper=モリカトロンAIラボ|publisher=モリカトロン |url=https://morikatron.ai/2019/11/1120game_ai_tech2/ |accessdate=2020-11-16 }}</ref>。
 
== 筆者、読者層 ==
2017年時点でネット上に掲載されている作品を読むのは10-20代の若者が多いが、それを書籍化されたものを購読しているのは30-40代が多く、若者は時間を割いてもまだ洗練されていない作品を探すがその上の世代は編集者が目を通して推敲、校正された作品を買って読み、それは1980年代のライトノベル創世記の頃からファンタジー小説好んでいた人で、願望を反映した展開が多いため30-40代の主人公が異世界へ行く作品も増えた<ref name="bookbang">{{Cite web |和書|author=Book Bang編集部 |date=2017-09-26 |url=https://www.bookbang.jp/article/537594 |title=「なろう系」小説は誰が買っているのか? 主人公も「アラフォー」に |website=Book Bang |publisher=新潮社 |accessdate=2020-06-07}}</ref>。上記のよくあるパターンに加えて中年主人公の作品の存在には安易、世も末だとの見方もあるが、Book Bangでは筆者には出版社の小説コンテストに落ちた人も多く、切り捨てられた人たちの小説が多くの読者に楽しまれているのは事実で、書籍化して売上が大きいと読者が求めるものを提供するのも自分たちの役目だったと改めて考えさせられていると、ある編集者の話を掲載している<ref name="bookbang" />。ライトノベルの読者に30-40代が多いとする言及は2006年時点で存在するが中高生を対象とした2019年度第65回学校読書調査の1か月で読んだ本に挙がった「小説家になろう」関連作が全てアニメ化されており、アニメを見ている一部読者が原作をグッズとして触れているとみられ、2000年代にラノベを読み漁っていた中高生ような人は限られている<ref name="bunka2" />。筆者も30-40代が多く、売れるためには流行に乗るのはやむなしと割り切り、適応できるからであるとみられる<ref>{{Cite news |和書|title=「異世界転生」小説、実はトレンドがめちゃめちゃ変化していた…! |newspaper=現代ビジネス |date=2021-02-21 |author=大橋崇行 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/80375?page=5 |accessdate=2021-04-03 |publisher=講談社 }}</ref>。
 
大人向け、大人主人公の作品が増えたことで中高生はそれには手を出さないようになり、作り手も大人向けが多くなり、飯田一史は2010年代以降のライトノベルは[[若者文化|ユースカルチャー]]から広い世代向けの[[サブカルチャー]]に変化したと言い、その結果、それまでの読者が離れてラノベ市場の規模が半減、[[電子書籍]]市場では漫画と違ってラノベは紙版と同じとはいえず、合わせてもピークより減少した{{Sfn|飯田|2021|p=115}}。ただ、単行本と合算すれば小さくなっていない{{Sfn|飯田|2021|p=313}}。1冊の価格が1000円以上であることも読者の年齢層を押し上げた一因となった<ref>{{Cite web |和書|date=2020-04-10 |url=https://www.pixivision.net/ja/a/5459 |title=女性に共感されるヒロインは一緒に働きたい人?『聖女の魔力は万能です』インタビュー |website=pixivision |publisher=ピクシブ |accessdate=2021-04-03}}</ref>。[[羽海野渉]]はライトノベルを卒業して読み出す大人向けラノベがライト文芸で、卒業しなかった読者が中高生ではなくより上の成人主人公の物語を欲し、自分が理想とする物語がないのであれば書けばいいとなったことで大人主人公が増加、なろう系異世界作品誕生のきっかけの1つだとみている<ref>{{Cite news |和書|title=「なろう」に「カクヨム」…今なお衰えないWeb小説のムーブメントとその起源|newspaper=KAI-YOU.net |date=2020-07-17 |author=羽海野渉 |authorlink=羽海野渉 |url=https://premium.kai-you.net/article/250 |accessdate=2020-09-13 |publisher=カイユウ }}{{Registration required}}</ref>。「悪役令嬢」ものに続き「公爵令嬢」「聖女」が主人公の作品も増加したことが一因となって投稿者や読者に女性も多くなり{{Sfn|子どもの文化|2020|p=15}}、平井幸もなろう系が男性向けだと思われがちだが女性読者も一定数いるとしている<ref>{{Cite news |和書|editor=[[米村智水]] |title=Vol.1 個人発サイトがエンタメ/出版業界を席巻する理由|newspaper=KAI-YOU.net |date=2019-05-31 |url=https://premium.kai-you.net/article/53 |accessdate=2020-09-13 |publisher=カイユウ }}{{Registration required}}</ref>。構造が単純であるため2018年頃から小学生に人気が出ているといわれている<ref>{{Cite web |和書|title=ラノベで絶対やってはいけない3つのタブー! |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-03-02 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/03/02/43381/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。ブームにより、[[コミカライズ]]の際は若手だけでなくベテラン漫画家にも依頼が来るようになった<ref>{{Cite news|和書|date=2020-09-11|title=話題性より「ならでは感」。次にくるマンガはどう創る?『ヲタ恋』『ニーチェ先生』…マンガ編集者座談会 |newspaper=ダ・ヴィンチニュース|publisher=KADOKAWA |url=https://ddnavi.com/interview/666851/a/ |accessdate=2020-11-16 }}</ref>。
 
=== 世相の影響 ===
しばし、本ジャンルは欲望や願望を満たすためにあると言及される<ref name="kadobun" /><ref name="gendai3">{{Cite news |和書|title=なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?(1/4) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-04-19 |author=津田彷徨 |authorlink=津田彷徨 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64174 |accessdate=2020-04-19 |publisher=講談社 }}</ref><ref>{{Cite news|和書|title=消費を斬る ヒットの裏側 「ラノベ」、30~40代男性に人気 「リセット願望」市場開く| date=2018-06-10|newspaper=日経MJ|publisher=日本経済新聞社|page= 2}}</ref><ref>{{Cite news|和書|title=「異世界で大モテ」異例の大モテ 漫画やノベルス出版 5年で50倍| date=2019-07-02|newspaper=朝日新聞|edition=朝刊|publisher=朝日新聞社|page= 24}}</ref>。日刊工業新聞は社説で「“なろう系”とされる作品の傾向は、満たされない欲求を補うことだ。(中略)現代の若者の潜在的な不満を見いだすことができるかもしれない」としている<ref name="newswitch" />。ニコニコニュースORIGINALでは「叶わないはずの夢が異世界で叶う」という魅力が影響して、無意識になろう系異世界転移作品を求めている可能性や、共通するお約束があるからこそ毛色が違っても深く考えず楽しめ、そこにわくわく感や非現実感も合わさって惹きつけられると考えている<ref name="niconico" />。ヒーロー文庫編集者の高原秀樹も現実ではうまくいかない悩みは誰でもあるとみられ、異世界なら活躍できるかもしれないと思ったことも多いはずでそれを叶えてくれることに共感したり、チート展開が人気なのも無双したい願望の人が多く、中途半端ではなくチートの方が爽快感があり、爽快感が重要なのはどのエンターテインメントでも共通なのかもしれないとみている<ref>{{Cite news |title=異世界もの:ネット小説発のアニメが人気 キーワードは“共感” |newspaper=まんたんウェブ |date=2017-7-17 |url=https://mantan-web.jp/article/20170714dog00m200028000c.html |accessdate=2020-7-23 |publisher=MANTAN }}</ref>。[[渡邉大輔 (批評家)|渡邉大輔]]は努力することなく最初から最強な主人公は2000年代以降の[[自己責任]]、[[能力主義]]が過剰に求められる世間のプレッシャーからとにかく離れたい若者の欲望が凄く反映されていると感じている<ref>{{Cite news|和書|date=2021-1-11|title=『鬼滅の刃』大ヒットと『ジャンプ』アニメの隆盛 2020年を振り返るアニメ評論家座談会【前編】|newspaper=リアルサウンド映画部|publisher=blueprint |url=https://realsound.jp/movie/2021/01/post-689160_5.html |accessdate=2021-01-23 }}</ref>。異世界に行った後、元の世界戻りたがったりその方法があることは少なめで、女性向け作品ではわりとあるが男性向けでは少なく、飯田一史はやり直し願望の発露だと指摘した<ref>{{Cite book|author=飯田一史|title=ウェブ小説の衝撃|date=2016|page=77|publisher=[[筑摩書房]]|isbn=978-4480864406}}</ref>。元より特定の層に向けたジャンルであり<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方講座。おもしろくない小説の特徴とは?「万人受けを狙った物」 |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-08-03 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/08/03/45094/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>、ライトノベル作法研究所(以下「ラ研」)は主人公=読者であるため主人公を賞賛することで読者は心地よくなり、承認欲求こそが現代で誰もが一番求めることで、『[[転生したらスライムだった件]]』を例にリーダーとしての苦悩が描かれないのは、尊敬される快感を壊しかねない真逆のことだからとしている<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方講座「主人公を褒める!」ジャンルを問わず人気を出す秘訣 |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-08-12 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/08/12/45214/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。また、本ジャンルは男性版[[シンデレラ・ストーリー]]で<ref>{{Cite web |和書|title=なろう小説とは男性版シンデレラ・ストーリー!なろう小説の本質 |website=ライトノベル作法研究所 |date=2018-05-26 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2018/05/26/40502/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>、中にはラノベ恋愛不要論、ヒロイン不要論もあり、読者が自己投影するのは主人公のみでヒロインは脇役に過ぎず、それが出番を食うと面白くなくなるとも考えられている<ref>{{Cite web |和書|title=大ヒットラノベのたったひとつの共通点!小説の基本は主人公に気持ちよく自己投影させること |website=ライトノベル作法研究所 |date=2020-06-11 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2020/06/11/46732/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。そして、読者は主人公以外に興味がないとも言い切り、それを中心に活躍する徹底が重要であるという<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方。読者が最も興味ない物「設定」最も興味のあるもの「主人公(自分)」 |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-10-12 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/10/12/45850/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。
 
[[川上量生]]はなろう系を「欲望充足型コンテンツ」と表現して「努力すると感情移入ができない」とする傾向に言及、また川上は「むしろ、努力したら(必ず)成功するっていう方がファンタジー」ともした<ref name="4Gamer" />。津田彷徨は「どの作品もまるで金太郎飴のように、“平凡”な主人公が“異世界転生”をして文明度の劣る世界で“現代知識”をひけらかし“ハーレムを築く”という、非常に明確な『願望充足型』作品の一ジャンル」とされることが多く<ref name="gendai3" />、「小説家になろう」で主人公に不幸が訪れる展開になるとアクセス解析で明確に読者離れがわかり、それゆえにストレスがかかる展開が排除<ref>{{Cite news |和書|title=なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?(3/4) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-04-19 |author=津田彷徨 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64174?page=3 |accessdate=2020-04-19 |publisher=講談社 }}</ref>、「異世界日記」とも呼ばれるこのジャンルは言い得て妙なるもので現実味を感じる程度の過剰すぎないギリギリの幸福が続き、ストーリーが緩やかに上昇していくことが読者を満足させる最適解の1つで、なろう系が[[空気系|日常系]]の延長線上にもあるとしている<ref>{{Cite news |和書|title=なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?(4/4) |newspaper=現代ビジネス |date=2019-04-19 |author=津田彷徨 |url=https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64174?page=4 |accessdate=2020-04-19 |publisher=講談社 }}</ref>。ラ研はなろう系が[[冒険小説]]の皮をかぶった日常系であり、主人公が負けない安心感が重要だとしている<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方。なろう系とは「冒険小説の皮を被った日常系」安心感が重要 |website=ライトノベル作法研究所 |date=2020-04-01 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2020/04/01/46531/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。
 
ライトノベルは従来より価格、刊行ペース、文章構成やイラストレーター選びまで平均的な読者の欲望に忠実で効率的に作られているとする見方もある<ref name="eureka">{{Harvnb|ユリイカ|2019|p=106}}</ref>。飯田一史はエンターテインメントは願望充足的な要素が少なからずあるもので、現実とは違うからこそ求められているが、一部の作品は簡単に欲望を満たしてくれることに価値があるのは疑いえないとしている{{Sfn|飯田|2021|p=269}}。大橋崇行は社会反映論を思い起こさせやすいが、異世界での仕事が題材になるのは現代の若者の労働環境と簡単に関連付けられるものではなく『[[ドラゴンクエストIII そして伝説へ…]]』以降のRPGにある職業がゲーム的世界をベースとした小説に持ち込まれているとする方が正しいのではないかとしている{{Sfn|子どもの文化|2020|p=18}}。異世界に行った主人公が順調に物事が進んでいくわけではない作品『この素晴らしい世界に祝福を!』『Re:ゼロから始める異世界生活』『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』のように苦労することになる物語も共感を呼んでおり、なろう系作品を出版しているある社の編集者は転生しても厳しい現実が待っているのがこれほど受け入れられていることに日本社会の空気を感じ、それまでの作品は少年少女の大冒険のように夢が必要だったが商業活動していない筆者の人生を反映、フィクションでもあっても自らは5、10年後も変わらず凄いことなんて起きない諦めが色濃く出ているという<ref name="aera" />。2021年に[[老川菜綾]]は人と接触することを控え、リアルな人間関係を結びにくい時代だからこそ現代では孤独な主人公が異世界で仲間との絆に魅力を感じるのも世相が影響しているかもしれないとしている<ref>{{Cite news |和書|title=「なろう系小説」が映し出す日本の空気 人生「何も起きない」諦めに近い価値観が反映(3/3) |newspaper=AERA.dot |date=2021-02-19 |author=老川菜綾 |authorlink=老川菜綾 |url=https://dot.asahi.com/aera/2021021700024.html?page=3 |accessdate=2020-02-21 |publisher=朝日新聞出版 }}</ref>。
 
[[青柳美帆子]]は悪役令嬢ものに[[角川ビーンズ文庫]]、[[ビーズログ文庫]](いずれも[[KADOKAWA]])によるファンタジーとラブコメディの合体、2000年代後半の[[コバルト文庫]]([[集英社]])であった一人のヒーローに愛される姫嫁や溺愛のように[[少女小説]]の系譜を感じ、その読者の欲望が悪役令嬢ものの中に息づき、継承されているとしている<ref name="guide">{{Harvnb|少女小説ガイド|2020|p=227}}</ref>。ただ「小説家になろう」発作品を少女小説として捉えると作品の受け入れの幅が狭まるのではないかとの批判も考えられ、[[BookLive]]の男性向けライトノベルランキングでは主人公が少女で女性読者も多く、以前なら少女小説レーベルで出版されていたかもしれない『[[本好きの下剋上]]』『[[薬屋のひとりごと]]』がトップ10入り、書籍市場の縮小で対象者が広くなって性別による区別が実質を伴わなくなっているが、それでも少女たちの欲望に全力で応えるエンターテインメントとして少女小説らしさを感じるとする<ref name="guide" />。
 
== 論考 ==
=== ストーリー展開 ===
高原秀樹は異世界ものが多数な理由として「読者に近いキャラクターが、ファンタジーRPGのような世界で活躍するというのが感情移入しやすいのかもしれません」と分析した<ref>{{Cite news |title=ヒーロー文庫:“なろう系”ブームで躍進 注目の新鋭ラノベレーベルの裏側 |newspaper=まんたんウェブ |date=2014-11-14 |url=https://mantan-web.jp/article/20141114dog00m200052000c.html |accessdate=2020-3-7 |publisher=MANTAN }}</ref>。
 
上記のようなよくある展開は「[[御都合主義]]」「設定やストーリーが被りがち」「いかにもアニメやゲーム的で努力や葛藤が不必要」「現実を描写していない」、現実では冴えない男が異世界転生でチート級の大活躍で複数の女性に好意を向けられる展開であるため無双する主人公が「俺TUEEE系」と揶揄されたり否定的にもみられるが<ref name="gendai4" /><ref>{{Cite news|和書|author=まにょ|authorlink=まにょ|date=2017-2-19|title=“異世界転生”アニメはなぜ増えた? 『ソードアート・オンライン』以降のWeb小説ブーム(2/2)|newspaper=リアルサウンド映画部|publisher=blueprint |url=https://realsound.jp/movie/2017/02/post-4134_2.html |accessdate=2020-06-05 }}</ref>、[[海法紀光]]は「なろう系のチートというのは、多くの場合『世界をハックする物語』なのだ。うまいハックが重要なのであって、『努力』や『向上心』は付随条件でしかなく、時に邪魔でさえある」と指摘した<ref name="careerconnection">{{Cite news |和書|title=ご都合主義の異世界転生ラノベ「なろう系」が人気 小説を「早解き動画」感覚で楽しむ人が増えている!? |newspaper=キャリコネニュース |date=2017-07-30 |url=https://news.careerconnection.jp/?p=38918&page=2 |accessdate=2020-04-17 |publisher=グローバルウェイ }}</ref>。ライターの[[さやわか]]は現実を描写していないこと自体は欠点ではなく、アニメやゲームの人気のをみるに日本の人気コンテンツの特徴がそれだと肯定した<ref name="gendai4" />。池本昌仁はこの手の作品が広く受け入れられているのはスムーズに話が進むとは限らないリアリティがあるからだとしている<ref name="aera" />。、
 
似た作品ばかりで飽きないのかとの指摘にラ研はなろう系をコーラに例え、定番ドリンクで以前から飲んでいても飽きず、風味を変えてもコーラというベースは変わらず、他に変わった味を出しても売上でコーラにはかなわないからだとしている<ref>{{Cite web |和書|title=ラノベにはオリジナリティはまず必要とされない!テンプレと流行がすべて |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-09-27 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/09/27/45717/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。そして掲載サイトがファミリーレストラン、なろう系がそこで出される定番料理やハンバーガーチェーン店のハンバーガーのように時間をかけて口に合うように最適化され、人気要素以外のよく知らないジャンルに読者が惹かれない<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方。40人以上のプロ作家に取材した創作ノウハウまとめ。プロへの道はたった1日これだけ読めばOK! |date=2019-06-25 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/06/25/44223/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。[[野間口修二]]は大半がよくあるパターン通りでいいという気楽さにより、かつて以上の量の趣味で書かれた[[長編小説]]を形成しているとの見方を示した<ref name="nomaguti" />。作中に登場するギルドは『[[ソード・ワールドRPG]]』の冒険者の酒場のように[[テーブルトークRPG]]がルーツとみられるが、先述の悪役令嬢と同じくなろう系のテンプレート設定の多くはルーツがはっきりとせず、なんとなく自然発生的に形成されてよくあるパターンになったが明確なさきがけはとなる作者はおらず、お約束だけが存在するのである<ref name="nomaguti" />。
 
[[佐藤俊樹]]は似たような設定、キャラクター、絵や文章で溢れかえっているのはアダルトビデオ普及前の[[官能小説]]のようで突然女性の下着が見えたり裸の女性に抱き着かれたりする点も同じで<ref name="eureka" />、ライトノベルはある程度の欲望を満たしていれば後はなんでもありだったのが、[[白鳥士郎]]のいう、かつては天才たちが生み出した流行を模倣して自分に才能があるようにみせればよかったが、新人賞の制度は瓦解、模倣作が増えすぎたことでラノベ売場を地雷原に変え、欲望を垂れ流したものが求められシンプルでわかりやすい、とする発言を踏まえてラノベはそういうものになりつつあり、それが始まったのがなろう系作品の刊行からであるとみている<ref name="eureka2">{{Harvnb|ユリイカ|2019|p=107}}</ref>。佐藤は作家の再デビューの機会になることや<ref name="eureka2" />、欲望の垂れ流し自体は悪くなく、模倣やパクリに関しても無から何かを生み出す天才はめったに出現しないが、なろう系は「ちゃっちい」と感じており、日常でありえない欲望を実現させる逆転世界を書くのが醍醐味、作者の腕の見せ所だが、本ジャンルでは簡単に成り上がったり最強になる、よくある展開が何のひねりもなく繰り返され、主人公が弱い思われていた理由が浅いほど強くなっていく過程が薄いほど最強だから最強という当たり前の事実が残るという夢を描いているようで夢も希望もないと自ら認め、日々付き合わされている現実と結局同じだと批判している{{Sfn|ユリイカ|2019|p=108}}。
 
出版社がネット掲載作品を書籍化するのはサイトで人気が高いものを選ぶため内容が偏り、掲載サイトはノンジャンルであるはずだが評価されるには流行に乗るか少ない可能性に賭けて人気を確立させるしかなく、なろう系が足枷になって自由度が低くになってしまっており、[[山口直彦 (情報工学者)|山口直彦]]はテンプレートの中で創意工夫を楽しみ、[[定型詩]]や様式美的な楽しみ方があるのも否定しないが、埋もれた作品を発掘、磨いて世に出す出版社の本来の仕事も忘れず、書籍とネット文化が対立することなくお互い刺激し合う関係になってほしいと進言した<ref>{{Cite web |和書|title=第2回 なろう作家のひとりごと |website=WEB青い弓 |date=2020-06-11 |author=山口直彦 |authorlink=山口直彦 (情報工学者) |url=http://yomimono.seikyusha.co.jp/senryakuspinoff/spinoff02.html |accessdate=2020-09-14 |publisher=青弓社 }}</ref>。また、投稿作にはジャンルやストーリーの要素を意味するタグが設定され、読者は決まったタグを辿って作品を読むことも偏りの理由となっている<ref name="bunka" />。佐藤俊樹もライトノベルが変化している点としてオンラインで連載されている作品ならランキングで予測がつくためそれに合わせて書籍化や発行部数を決めるのは短期的に効率よく出版できるが、粗製乱造であり、読者離れが起きると否定的で、2000年以降に日本企業で繰り返されたことだと指摘{{Sfn|ユリイカ|2019|p=109}}、作家の育成は失敗することも少なくないためなろう系に頼って損失を減らせるが、賭け金は出版社だけでなく読者にとっても賭けで欲望が合う保証はなく、粗製乱造すれば売り手のリスクは下がるが読者のリスクは上がり、従来のラノベは費用対効果の高さが求められて調整されていき、新たな作家や作品の発掘という成功体験が購買意欲を掻き立てたが、なろう系の粗製乱造は過去の遺産、読者の成功体験の食いつぶしで、ラノベ全体が死に至ると悲観的である{{Sfn|ユリイカ|2019|p=110}}。
 
日本国外では異世界ものはあるがそれに加えて転生するのはあまりなく、他国では現実世界にファンタジー要素が出現するが、転生が多くないのは[[西村博之]]は概念として難しく、それ自体は面白くないため日本からそれほど輸出されてないとみている<ref>{{Cite news|和書|editor=[[新見直]] |date=2019-09-24|title=ひろゆきに聞いてみた コンテンツのこと、それを取り巻く情報環境のこと。|「クールジャパンは足を引っ張ってるだけ」 |newspaper=KAI-YOU.net |publisher=カイユウ|url=https://premium.kai-you.net/article/113 |accessdate=2020-04-23 }}</ref>。韓国の異世界作品では[[漢江]]で自殺するとワープする展開がよくあり、なろう系と呼ばれることもある<ref name="planets" />。
 
作中名詞が既存の英語名であることがよくあり、オリジナルの名前を設定してもいいのではないかとも批判されているが、野間口修二は異世界らしさは筆者にとってどうでもよく、オンリーワン、その作品ならではという考えは優先度が低く、共有された世界観の中で創作することを[[大塚英志]]は1989年の『[[物語消費論]]』で予言していると指摘、独創性がない共有された世界観があるからこそがなろう系において意味があるのだとしている<ref name="nomaguti" />。また、[[東浩紀]]が導入した[[データベース消費]]の最新型がなろう系で行われていることで、テンプレートストーリーは東のいう見えないデータベースの一部ともいえ、なろう系データベースとも呼べる見えないきちんとした形のないDBにアクセス、読者含めて設定を取捨選択することで作品作りが行われていると考えている<ref>{{Cite web |和書|title=物語消費からデータベース消費へ |website=ウェブ表現研究講義用資料 |date=不明 |author=野間口修二 |url=http://nomawebstudy.web.fc2.com/2017_3rd_data1.html |accessdate=2020-09-14 }}</ref>。ラ研は読者が独自の世界観などにあまり興味がなく、一番惹かれるのは主人公がいかに活躍するかでそれと無関係な設定に凝ると逆効果だとしている<ref>{{Cite web |和書|title=小説の書き方。なろう、ラノベの世界観作りと設定解説の3つのコツ |website=ライトノベル作法研究所 |date=2019-10-13 |author=うっぴー |url=https://www.raitonoveru.jp/cms2/2019/10/13/45865/ |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。伏瀬もきっちりと世界観を練ると重くなり、そういう小説を読む時間がない人と上手く噛み合ったのがなろう系であるとみている<ref>{{Cite news|和書|date=2019-01-29|title=「転スラ」あえて時流の真逆いく、2クールかけてじっくり描く意義は?伏瀬先生&杉本Pに聞く【インタビュー】 |newspaper=アニメ!アニメ!|publisher=イード |url=https://animeanime.jp/article/2019/01/29/43045_3.html |accessdate=2020-11-16 }}</ref>。これらについて[[山本弘 (作家)|山本弘]]はそういった人はなろう系以外をほとんど読んだことはなく、[[エドガー・ライス・バローズ]]の『[[火星のプリンセス]]』『[[ターザン・シリーズ|ターザン]]』は設定が難解だと捉えられておらず、昔の読者と比べて現代日本人の知能が大きく低下しているわけではないと考えている<ref>{{Cite web |和書|title=100年前の異世界転生小説 - 火星のプリンセス など |website=シミルボン |date=2018-01-28 |author=山本弘 |authorlink=山本弘 (作家) |url=https://shimirubon.jp/columns/1687394 |accessdate=2020-09-19 }}</ref>。
 
野間口修二は[[E・M・フォースター]]が提唱した[[フラットキャラクター論]](キャラの傾向を2種類に大別した分類)を当てはめるとなろう系で不快な性質が少しでも行き過ぎると猛批判されるのはなろう系のフラットキャラクターの設定がかなり低いか許容範囲がかなり狭いのではないかとする<ref>{{Cite web |和書|title=キャラクター論 〜二つの観点から〜 |website=ウェブ表現研究講義用資料 |date=不明 |author=野間口修二 |url=http://nomawebstudy.web.fc2.com/2017_10th_data1.html |accessdate=2020-09-14 }}</ref>。
 
[[柳原伸洋]]は本ジャンルのいくつかの作品には「[[植民地]][[植民地主義|支配]]のまなざし」があり、一例として『転生したらスライムだった件』{{Sfn|平和研究|2019|p=127}}では主人公のリムルが強大な力でモンスターたちを平定、啓蒙して街や国を作っていく快楽がメインで、これは優越感からくる植民地の快楽だと言い、それが作中で消費され、1万人以上の人間(作中でのルビは「ゴミ」)を虐殺して魔王となる展開には[[ダーク・ファンタジー]]的な比喩、社会風刺も一部には存在するが、リムルの「我等に対し、牙を向く者には制裁を。手を差し伸べて来るものには祝福を授けよう」との台詞から殺戮に抵抗はなく、同様の作品に『オーバーロード』『[[デスマーチからはじまる異世界狂想曲]]』などを挙げた{{Sfn|平和研究|2019|p=128}}。ただ、柳原は現代の娯楽作品を植民地主義という言葉で断罪するのは無理があり、倫理や正義から糾弾するのではなく自らも研究と趣味半分ずつ嗜んでいるとし、こういった見方もあると提示している{{Sfn|平和研究|2019|p=129}}。
 
2020年に好書好日は「アバターになってそもそも現実から逃げ込んでしまう、『なろう系作品』」と言い、それについて[[西島大介]]はこのジャンルを「自分じゃないキャラでその世界で遊ぶ」とし、[[新型コロナウイルス感染症の世界的流行 (2019年-)|新型コロナウイルス感染症の流行]]の中でアバター世界を壊してまでわざわざリアル出会いたいのかとも考えられるが、映画『[[マトリックス (映画)|マトリックス]]』で主人公がどんなに汚くてもロボットに支配された世界より外のリアルワールドが良いと考えたことから、なろう系は閉塞感を生むだけで今後は通じなくなる可能性を指摘、脱アバター、コロナ禍をぶっちぎる想像力でないとフィクションは難しくなってくるのではないかとみている<ref>{{Cite web |和書|title=西島大介さん「ヤング・アライブ・イン・ラブ 完全版」インタビュー 「異常な日常」でフィクションが果たす役割とは |website=好書好日 |date=2020-07-31 |url=https://book.asahi.com/article/13567769 |accessdate=2020-09-20 |publisher=朝日新聞社 }}</ref>。
 
=== 筆者、読者 ===
[[三浦建太郎]]は「ああいった“なろう系”のジャンルって、[[中二病]]の極みじゃないですか。でも、中二病の万能感を持ったまま都合のいい世界に行ってチヤホヤされたいという願望は、僕は当たり前だと思うんです。」と肯定的である<ref>{{Cite news|和書|date=2019-07-09|title=【『ベルセルク』三浦建太郎×『ペルソナ』橋野桂&副島成記】ダークファンタジーの誕生で目指した“セックス&バイオレンス”の向こう側 |newspaper=電ファミニコゲーマー |publisher=マレ |url=https://news.denfaminicogamer.jp/interview/190709a |accessdate=2020-04-23 }}</ref>。
 
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== 出典 ==
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== 参考文献 ==
* {{Cite journal|和書|author=ちゆ|authorlink=バーチャルネットアイドル ちゆ12歳|date=2020-06-29|title=ちゆ12歳のひとりエッチ 第111回 悪役令嬢もの|publisher=[[キルタイムコミュニケーション]] |journal=[[二次元ドリームマガジン]] Vol.111 |ref={{SfnRef|二次元ドリームマガジン|2020}}}}
* {{Cite journal|和書|author=柳原伸洋|authorlink=柳原伸洋|date=2019-06-21|title=平和と音 巻末言|publisher=早稲田大学出版部 |journal=平和研究 第51号 |ref={{SfnRef|平和研究|2019}}}}
* {{Cite journal|和書|author=佐藤俊樹|authorlink=佐藤俊樹|date=2019-04-01|title=「なろう」と世界の戦いなら、世界の方を支援したい 上遠野浩平と現在のライトノベル産業|publisher=[[青土社]] |journal=ユリイカ 2019年4月号 |volume=51 |issue=6 |ref={{SfnRef|ユリイカ|2019}}}}
* {{Cite journal|和書|author=大橋崇行|authorlink=大橋崇行|date=2020-12-01|title=「なろう系」小説の現状とファンタジーをめぐる「教養」の変容|publisher=文民教育協会 子どもの文化研究所 |journal=子どもの文化 2020年12月号 |volume=52 |issue=11 |ref={{SfnRef|子どもの文化|2020}}}}
* {{Cite book|和書|author=宮永忠将|authorlink=宮永忠将|title=クリエイターのためのファンタジー世界構築辞典|date=2020|publisher=[[宝島社]]|isbn=978-4299009784|ref={{SfnRef|宮永|2020}}}}
* {{Cite book|和書|author=嵯峨景子|authorlink=嵯峨景子|author2=三村美衣|authorlink2=三村美衣|author3=七木香枝|authorlink3=七木香枝|title=大人だって読みたい! 少女小説ガイド|date=2020|publisher=[[時事通信社]]|isbn=978-4788717046|ref={{SfnRef|少女小説ガイド|2020}}}}
* {{Cite book|和書|author=飯田一史|authorlink=飯田一史|title=ライトノベル・クロニクル2010-2021|date=2021|publisher=[[Pヴァイン]]|isbn=978-4909483874|ref={{SfnRef|飯田|2021}}}}
 
== 関連項目 ==
* [[メアリー・スー]]
 
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[[Category:日本のライトノベル|*なろうけい]]
[[Category:小説家になろう|*なろうけい]]
[[Category:ストーリー類型]]
[[Category:漫画・アニメの表現]]