「重ね合わせ」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
Wiki ryon (会話 | 投稿記録)
断定的な記述を未解決問題に修正
量子力学の実際で使われているテクニカルな定義に変更。
1行目:
'''重ね合わせ'''(かさねあわせ) superposition とは、[[量子力学]]において、[[量子]]における複数物理系の状態が同時に成立するを波動関数の段階で足しあわせて良いことを意味する言う
 
量子力学では、物理系の状態は波動関数<math>\psi</math>であらわされ、
== 「重ね合わせ」という説明 ==
物理量はその波動関数にはたらく演算子 A で表される。
通常の説明では、二つ以上の状態のいずれか1つに状態が決まっているとは言えないとき、「重ね合わせの状態にある」というふうに言う。つまり、「状態1と状態2の重ね合わせの状態にある」という言い方になり、それ以上の説明はされない。
A が <math>\psi</math> に作用した結果が実数倍になれば、すなわち
ある実数 a に対して
: <math>A\psi_a=a\psi_a</math>
であれば、状態<math>\psi_a</math>で A を測定すると結果が a になる、ということになる。
結果が b になるような状態 <math>\psi_b</math>、すなわち
: <math>A\psi_b=b\psi_b</math>
をとってきたとしよう。量子力学では、
<math>\psi'=\psi_a+\psi_b</math> も系の状態として許されるが、
これは a と b が異なる実数なら、一般には A を作用させても
<math>\psi'</math>の実数倍にはならない。
そのため、この状態で A を観測すると、一定の確率で結果は a または b になる。
このような状態のことを a である状態と b である状態の重ね合わせと言う。
 
重ね合わせという概念は古典力学的には理解し難い不思議なものであるが、
しかし、これでは単に言葉を言い換えただけであり、「重ね合わせとは何か?」という問題にたいする答えにはなっていない。そして、量子力学では、本当にその答えが提示されていない。
現在では[[ベルの不等式]]などの考察を通じて実験にかかるものである。
また、[[量子コンピューター]]では重ね合わせが積極的に利用される。
 
== 問題の追及 ==
本当に二以上の状態が同時に実在しているのか、確率的に複数の状態を取りうるだけで実体は1つなのか、そのどちらが正しいのかは、今のところ分かっていない。そして、理論的に予測するのも難しく、また、実験で確認するのも困難である。そこで、詳細については明確にせずに、「可能性が多重に存在している」とだけ表現されることが多い。多くの物理学者が答えを探しているが、未だに、合意を得られるような答えは見つかっていない。そして、明確な答えが出ないことは[[シュレーディンガーの猫]]の思考実験の問題を引き起こす。
 
<!--
そこで研究者は、「重ね合わせとは何か?」と考えようとする。これには大まかに言って、次の二つの解釈が存在する。
 
* 二つの状態が同時に実現している。
* 二つの状態の一方だけが実現している世界が二つある。
 
これを[[シュレーディンガーの猫]]の問題の例に当てはめると、それぞれ(マクロの世界で)、次のようになる。
 
* 一匹の猫で「生」と「死」という二つの状態が同時に実現している。
* 「生きているネコの世界」と「死んでいる猫の世界」との二つの世界がある。
 
この前者と後者二つの解釈はそれぞれ、[[コペンハーゲン解釈]]および[[エヴェレット解釈]]と呼ばれる。しかしながら、これら二つの解釈のいずれも不自然である。その不自然さを扱ったのが、シュレーディンガーの猫の問題である。
 
つまり、「重ね合わせ」という言葉を使って済ませるのは、シュレーディンガーの猫の問題を回避していることになる。また、この問題を「重ね合わせ」という用語で説明することは、同語反復になっており、問題が循環してしまっている。重ね合わせの問題は[[二重スリット実験]]の問題とも深く関連する。
-->
結局、量子力学の根源的なところでは、まだまだはっきりとした決着が付いていないのである。
<!--
なお、上記では二つを示したが、他にもいくつかの解釈が提唱されている。
 
== 経路積分との比較 ==
[[ファインマン]]の提唱した[[経路積分]]と比較すると、「重ね合わせ」という概念には根源的な問題があることがわかる。それは「数が無限大になる」ということだ。
 
二重スリット実験では、スリットの数は二つであり、重ね合わせの数は二つである。同様に、スリットの数が三つならば、重ね合わせの数は三つである。スリットの数が無限大ならば、重ね合わせの数は無限大である。そして、スリットの数が無限大であるというのは、スリットの刻まれたついたて(壁面)が存在しない、ということだ。これは真空に相当する。つまり、真空という場では、重ね合わせの数は常に無限大になっていることになる。・・・・・・これが無限大の問題だ。
 
この問題に対して、どう考えるか? コペンハーゲン解釈に従うなら、粒子の数が無限個になっていることになるので、不自然である。エヴェレット解釈に従うなら、世界の数が無限個になっているので、やはり不自然である。ファインマンの解釈に従うなら、無限個の経路をたどる量子はそれぞれ無限小になるので、全体として1個であり、不自然さはない。
 
ただし、ファインマンの解釈に従う場合には、「重ね合わせ」という概念そのものを捨てる必要がある。なぜなら、重ね合わせに相当するものは、経路積分の「積分」という概念のうちに含まれているからだ。
 
これら三つの解釈のうち、どれを取るべきかは、いまだ決着が付いていない。
 
== 発想の根源 ==
「重ね合わせ」という概念が現れるのは、「量子は粒子である」という粒子説を前提としているためであることに注意しなければならない。
 
仮に、粒子説を前提としなければ、「重ね合わせ」の概念は特に必要ない。たとえば、波動説を取るのであるならば、波の「重なり」''overlap'' はごく普通のことであるから、量子の「重ね合わせ」 ''superposition'' という特殊な概念は特に必要ない。経路積分の発想を取る場合でも、「重ね合わせ」という概念は必要ない。結局、「重ね合わせ」という概念を取るかどうかは、粒子説の発想を取るかどうかという点に根源がある。
 
なお、現在の量子力学では粒子説の発想が主流である。つまり、量子は一個の単体として扱われ、媒体の位相差である波としては扱われない。ただし、場の量子論では波動説の発想も有力である。経路積分の考え方が他の二つの発想とは異なる結論を出すのも、場の量子論の延長上に経路積分があるからである。
 
-->
== 関連項目 ==
*[[アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックス]]