「共有物分割」の版間の差分

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{{Law}}
'''共有物分割'''(きょうゆうぶつぶんかつ)とは、ある[[動産]]又は[[不動産]]を2人以上で[[共有]]している場合において、その共有状態を解消すること。[[民法]]では[[b:民法第256条|256条]]から[[b:民法第262条|262条]]までに規定が存在する。また、共有物分割禁止の定めは、[[不動産登記]]において登記事項とされている([[不動産登記法]]59条6号)。
 
== 民法における論点 ==
=== 分割請求 ===
*概要
:日本の民法は単独所有(単有)を原則としているため、各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができる([[b:民法256条|民法256条]]1項本文)。ただし、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約ができる(民法256条1項ただし書)。これを「共有物分割禁止の定め」や「共有物不分割特約」などと呼ぶ。この契約は更新できるが、その期間は更新の時から5年を超えない範囲でなければならない(民法256条2項)。
 
*期間の意義
:5年を超える期間を特約した場合、[[不動産質権]]の存続期間([[b:民法第360条|民法360条]]1項)や[[売買#買戻し|買戻し]]の期間([[b:民法第580条|民法580条]]1項)と異なり、短縮できる規定が存在しないため、無効と解されている。同じことは、[[根抵当権]]の[[根抵当権#根抵当権の確定|元本確定期日]]についても言える([[b:民法第398条の6|民法398条の6]]第3項)。
 
*分割請求の例外
:[[b:民法第256条|民法256条]]の規定は、[[相隣関係|相隣者]]の[[共有]]に属すると推定される、[[境界線]]上に設けられた[[境界標]]・囲障・障壁・[[溝渠|溝]]・[[堀]]([[b:民法第229条|民法229条]])については適用されない([[b:民法第257条|民法257条]])。
 
=== 分割の方法 ===
*現物分割
:例えば、米1トンを倉庫に保管して2人で[[共有]]している場合、これを500キログラムずつに分けて、それぞれの単有とする方法である。[[土地]]についても現物分割ができる(手続きについては[[#不動産登記]]を参照)。
 
*価格賠償
:車1台を2人で[[共有]]している場合、これを2つに分けることはできない。そこで、どちらか一方の単有とし、他方には金銭などの財産的補償をすることができる。これが価格賠償である。<!--建物についても、分割はできない(合体の登記の反対?)のでこの方法によると思うが、表示の登記については専門外なので不明。-->
 
*代金分割
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=== 裁判による分割 ===
*概要
:当事者間での協議が調わないときは、分割を[[裁判所]]に請求できる([[b:民法]]258条|民法258条]]1項)。協議が調わないときとは、現実に協議をしたが不調に終った場合のみならず、共有者の一部が協議に応ずる意思がないために、全員で協議をすることができない場合を含む(最判昭和46年6月18日民集24巻5号550頁)。裁判による分割の場合、現物分割が原則であるが、[[競売]]による代金分割もすることができる(民法258条2項)。
 
*価格賠償
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:分割の対象となる共有物が多数の不動産である場合、一括して分割の対象とし、分割後の各部分を各共有者の単独所有とすることも許される(最大判昭和62年4月22日、既出)。
 
:例えば、甲・乙両土地をそれぞれA・Bが2分の1ずつ[[共有]]している場合において、原則は甲・乙両土地をそれぞれ分割し、A・Bがそれぞれ甲土地を2分の1、乙土地を2分の1に分割したものを単独に所有するべきであるが、甲土地全部をAの単独所有に、乙土地全部をBの単独所有とすることもできるという意味である。これは現物分割ではなく、価格賠償(土地で補償した)とされている。
 
*遺産分割との関係
:[[相続]]開始後[[遺産分割]]前に、共同[[相続人]]の1人から遺産を構成する特定不動産の[[共有]]持分権を譲り受けた者が、共有関係の解消のためにとるべき手続きは、遺産分割審判ではなく共有物分割訴訟である(最判昭和50年11月7日民集29巻10号1525頁)とした判例がある。
 
=== 担保責任 ===
各共有者は、他の共有者が分割によって取得した物について、売主と同じく持分に応じて[[担保責任]]を負う([[b:民法第261条|民法261条]])。
 
=== 森林法違憲判決 ===
[[森林法]]旧186条本文は、[[共有]]森林につき共有物分割請求権を一定の場合に禁止していたが、この規定は[[日本国憲法第29条|憲法第29条]]2項に違反するとされた(最大判昭和62年4月22日、既出)。
 
== 不動産登記 ==
=== 共有物分割 ===
本稿においては、土地について分割をする場合について述べる。
 
==== 現物分割 ====
A・B[[共有]]の一筆の土地を現物分割する場合、まず土地につき[[分筆]]をする(明治33年2月12日民刑126号回答)。分筆された土地はそれぞれA・B共有のままであるから、一方にB持分全部移転登記をし、もう一方にA持分全部移転登記をする(昭和36年1月17日民甲106号回答)。これで、A単独所有の土地とB単独所有の土地ができる。
 
==== 価格賠償 ====
*すべての土地が[[共有]]のケース
:A・B共有の一筆の土地につき、Aの単独所有としBには金銭補償をする場合、当該土地につきB持分全部移転登記をすればよい。
 
:A・B共有の甲・乙両土地につき、甲土地についてはAの単独所有とし、乙土地についてはBの単独所有とする場合(登記研究442-84頁)、甲土地につきB持分全部移転登記をし、乙土地につきA持分全部移転登記をすればよい。
 
*特殊なケース
:甲土地はA・Bの[[共有]]だが、乙土地はAの単独所有である場合につき、甲土地をAの単独所有とし、乙土地をBの単独所有として補償することもできる。この場合、甲土地につきB持分移転登記をし、乙土地につき所有権移転登記をすればよい。
 
*その他の実例
:持分と異なる割合で[[共有]]とする分割もできる(昭和44年4月7日民三426号回答)。例えば、A(持分5分の3)・B(持分5分の2)共有の土地を分筆し、一方はAの単独所有とし、もう一方の土地をA(持分5分の1)・B(持分5分の4)の共有とすることもできるという意味である。
 
:A・B・C・D[[共有]]の土地を分筆し、一方をA・Bの共有とし、もう一方をC・Dの共有とすることもできる(登記研究143-49頁)。また、44名で共有している不動産につき、そのうち2名の共有とする持分移転登記の申請は受理される(登記研究367-136頁)。
 
:一方、[[権利能力なき社団]]の代表者個人名義で[[所有権]]の登記がされている不動産につき、当該社団の他の構成員に対して共有物分割を原因とする[[所有権移転登記]]はすることができない(登記研究403-78頁)。
 
==== 代金分割 ====
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==== 前提の登記 ====
実質上はA・B[[共有]]であっても登記記録上A・B共有となっていない場合、前提として[[更正登記]]等をしなければならない(昭和53年10月27日民三5940号回答)。また、[[登記義務者]]の登記記録上の[[住所]]が現在の住所と異なる場合、前提として[[登記名義人表示変更登記]]をしなければならない(登記研究573-123頁)。
 
==== 登記申請情報(一部) ====
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:共有物分割の協議成立日を日付とし、「平成何年何月何日共有物分割」と記載する。[[不動産登記法]]は、[[民法]]又は民法の特別法に根拠があるならそのまま登記原因とできる趣旨だからである。登記原因を「財産分割」とすることはできない(昭和34年10月16日民甲2336号電報回答)。
 
:ただし、既述特殊なケースの場合の乙土地については、「平成何年何月何日共有物分割による交換(又は贈与)」とする。乙土地は共有物分割そのもので[[所有権]]が移転したわけでないからである。
 
*登記申請人(不動産登記令3条1号)
:持分を得る者を[[登記権利者]]とし、失う者を[[登記義務者]]と記載する。[[法人]]が申請人となる場合、代表者の氏名も記載しなければならない(不動産登記令3条2項)。
 
*添付情報(不動産登記規則34条6号、一部)
:[[所有権移転登記]]の原則どおり、[[登記原因証明情報]]([[不動産登記法]]61条)、[[登記義務者]]の[[登記識別情報]](不動産登記法22条本文)又は[[登記済証]]及び[[印鑑証明書]](不動産登記令16条2項又は18条2項、書面申請の場合)を添付する。[[登記権利者]]の[[住所証明情報]](不動産登記令別表30項添付情報ロ)も添付しなければならないとするのが先例(昭和32年5月10日民甲917号回答)である。なお、[[法人]]が申請人となる場合は更に[[代表者資格証明情報]](不動産登記令7条1項1号)も原則として添付しなければならない
 
:[[農地]]の共有物分割の場合、[[農地法]]3条の許可書(不動産登記令7条1項5号ハ)を添付しなければならない(昭和41年11月1日民甲2979号回答)。
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:不動産の価額の1,000分の20である([[登録免許税法]]別表第1-1(2)ハ)が、当該共有物分割による持分移転登記の前に当該土地につき[[分筆]]登記がされており、当該共有物分割による持分移転登記の申請が、当該分筆登記をした他の土地の全部又は一部の持分移転登記と同時に申請された場合、当該共有物分割による持分移転登記に係る土地の価額のうち当該他の持分移転登記において減少する当該他の土地の持分の価額に対応する部分(登録免許税法施行令9条1項<ref>[http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%93%6f%98%5e%96%c6%8b%96%90%c5&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S42SE146&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1 登録免許税法施行令] (総務省法令データ提供システム)</ref>)は、不動産の価額の1,000分の4となる(登録免許税法別表第1-1(2)ロ)。
 
:具体的に言えば、A・B[[共有]]のある土地を甲土地と乙土地に分筆し、甲土地はA所有に、乙土地はB所有にするとき、甲土地について共有物分割によるB持分移転全部登記を申請する際、乙土地のA持分移転全部登記も同時に申請するなら、甲土地の課税価格のうち乙土地において減少したA持分の価格に相当する分は、1000分の4とするという意味である。
 
=== 分割禁止の定め ===
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[[不動産登記法]]59条6号に定める登記すべき場合とは、1.契約([[民法]]256条1項ただし書)、2.[[遺言]](民法908条)、3.[[遺産]]についての[[家庭裁判所]]の審判(民法907条3項)、のいずれかにより共有物分割分割禁止の定めが設定された場合である。
 
本稿においては契約により不動産について共有物分割禁止の定めを設定した場合について述べる。この場合、所有権変更登記をすることになる。[[所有権]]が移転したわけではないし、名義人の表示に変更があったわけでもないからである。なお、権利の一部の移転の登記を申請する場合においては共有物分割禁止の定めを一括して申請することができる旨の規定(旧不動産登記法39条の2<ref>[http://law.e-gov.go.jp/haishi/M32HO024.html 旧不動産登記法] (総務省法令データ提供システム・廃止法令)</ref>)は現行法上存在しない。<!--実務書や解従って、権利の一部の移転の登記を申請する場合には、当該定めを登記事項とできなくなったとする資料と、権利見解一部の移転の登記を申請する場合に限らず、権利の全部の移転の場合や設定・保存の場合において当該定めを登記事項とできるようになったとする説(登記インターネット66-148頁等)に分かれており、可能かどうか不明である。-->
 
==== 登記申請情報(一部) ====
*登記の目的(不動産登記令3条5号)
:所有権一部移転登記又は[[共有]]名義の登記の順位番号を記載し(昭和50年1月10日民三16号通達)、例えば「3番所有権変更」のように記載する。「共有物不分割の特約の登記」とすることはできない(昭和49年12月27日民三6686号回答)。
 
*登記原因及びその日付(不動産登記令3条6号)
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*登記申請人(不動産登記令3条1号)
:共有者全員が[[登記権利者]]兼[[登記義務者]]となる講学上いわゆる合同申請を行う([[不動産登記法]]65条)。[[法人]]が申請人となる場合、代表者の氏名も記載しなければならない(不動産登記令3条2項)。
 
*添付情報(不動産登記規則34条6号、一部)
:[[登記原因証明情報]]([[不動産登記法]]61条)、共有者全員の[[登記識別情報]](不動産登記法22条本文)又は[[登記済証]]及び書面申請の場合は[[印鑑証明書]](不動産登記令16条2項・不動産登記規則48条1項5号及び同規則47条3号イ(2)、同令18条2項・同規則49条2項4号及び同規則48条1項5号並びに同規則47条3号イ(2))を添付する(昭和50年1月10日民三16号通達)。なお、[[法人]]が申請人となる場合は更に[[代表者資格証明情報]](不動産登記令7条1項1号)も原則として添付しなければならない
 
:なお、変更登記であるので、この登記を[[付記登記]]でする場合には登記上の利害関係人が存在するときはその承諾を証する情報が必要となるであり[[不動産登記法]]66条[[承諾証明情報]]が添付情報となる(不動産登記令別表25項添付情報ロ)。この承諾証明情報を提供しないと、当該変更登記は[[主登記]]で実行され、利害関係人に共有物分割禁止の定めを対抗できなくなってしまう(不動産登記法4条2項参照)。また、この承諾証明情報が書面(承諾書)である場合には、原則として作成者が記名押印し、当該押印に係る[[印鑑証明書]]を承諾書の一部として添付しなければならない(昭和31年11月2日民甲2530号通達参照)。この印鑑証明書は当該承諾書の一部であるので、添付情報欄に「印鑑証明書」と格別に記載する必要はなく、作成後3か月以内のものでなければならないという制限はない
 
*登録免許税(不動産登記規則189条前段)
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== 参考文献 ==
*青山修 『共有に関する登記の実務』 [[新日本法規出版]]、1998年、ISBN 4-7882-0013-9
*石田喜久夫 『口述物権法』 [[成文堂]]、1982年初版
*香川保一編著 『新不動産登記書式解説(一)』 [[テイハン]]、2006年、ISBN 978-4860960230
*「質疑応答-75253035 共有物分割の登記について」『登記研究』573143号、帝国判例法規出版社(現テイハン19951959年、12349
*「質疑応答-5516 共有物分割の登記の可否」『登記研究』367号、テイハン、1978年、136頁
*「質疑応答-5940 権利能力なき社団の代表者の個人名義として所有権の登記がされている不動産について、共有物分割を登記原因とする所有権の移転登記の可否」『登記研究』403号、テイハン、1981年、78頁
*「質疑応答-6488 二筆の共有地の持分を交換し、単有となる場合の登記原因について」『登記研究』442号、テイハン、1984年、84頁
*「質疑応答-7525 共有物分割の登記と登記名義人表示変更登記の省略の可否」『登記研究』573号、テイハン、1995年、123頁
*法務実務研究会 「質疑応答-91 共有物分割禁止の特約の登記は、権利の一部移転の登記の場合に限るか」『登記インターネット』66号(7巻5号)、民事法情報センター、2005年、148頁
 
[[Category:民法|きようゆうふつふんかつ]]