「成層圏」の版間の差分

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[[en:Stratosphere]]
[[大気の鉛直構造]]における[[対流圏]]と[[中間圏]]の間にある層、すなわち[[対流圏界面]]約9~17kmから[[成層圏界面]](成層圏と中間圏のの境目)約50kmの間にある層を'''成層圏'''(stratosphere)という。
 
成層圏の一番の特徴といったら、やはり温度分布であろう。対流圏や中間圏では高度とともに温度が低くなるのに対して、成層圏では高度とともに温度が上昇する。成層圏下部、すなわち対流圏と成層圏の境の対流圏界面付近では気温が約-70℃前後あるのに対して、中間圏と成層圏の境の成層圏界面付近では-15℃から0℃にもなることがあるほど高温である。ただし、一言に上空へ行くほど高温といっても成層圏の温度上昇率は一定ではない。まず、対流圏界面の高さを10kmとすると、ここから上に20kmくらいまでの温度は対流圏界面とほぼ等温状態が保たれる。そこから約15kmくらいまでは温度がわずかに上昇する層があり、さらにそこから成層圏界面までは温度が急激に上昇する。成層圏で高度とともに温度が上昇するのは、成層圏の中に存在する[[オゾン層]]が太陽からの[[紫外線]]を吸収するからである。しかし、面白いことに[[オゾン]]濃度が一番高いのは高度約20~25km付近だが、実際に成層圏内で温度が一番高いのは高度約50km付近である。この理由は、オゾン濃度がどうであれ上部のオゾン層ほど濃度の高い紫外線を吸収することもでき、また、上層ほど空気密度が低いことから温度の上昇率も大きいためである。この理由から成層圏では実際のオゾン濃度が一番高い付近よりも上に温度が最大の場所があるのだ。
 
そもそも成層圏と聞くと、この層は対流圏のような[[擾乱]]のある層ではなく安定した成層のように聞こえる。たしかに対流圏のような[[気象現象]]はないが、実際には完全な成層でもない。成層圏の発見はおよそ100年以上前にもさかのぼるが1901年に[[フランス]]の[[気象学者]]テースラン・ド・ボール(1855年~1913年)が[[気球]]観測によって対流圏とは構造がやや異なった層があることを発見し、翌年に発表した。その発表内容は、成層圏は対流圏とは異なり成層圏下部は温度が低く、上部は温度が高いというものであった。したがって、下部に重い気体が、上部に軽い気体があるため、上下の混合は起こらないと推定したことから当時はこの層は成層であると考えられてきた。これが現在の成層圏という名前の由来である。その後、[[高層気象]]観測の技術も発達し成層圏の本格的な研究により、実際は成層圏でも上下の混合が起こっており、成層圏内でも風が吹いていることが分かった。
 
成層圏内での風の分布は非常に面白い。まず、成層圏の下部では対流圏上部の[[偏西風]]の影響を受け、おおむね西風が吹いている。次に成層圏中部・成層圏上部では次のような現象が見られる。夏は皆さんご存知のように、[[極]]付近では[[白夜]]という現象が起きる。したがって、夏では太陽があたる時間は[[中緯度]]付近及び[[低緯度]]付近よりも[[高緯度]]の方が多いということになる。成層圏の大気はオゾンを含むので一日中太陽があたっている極付近では大気がどんどん暖められ、極付近は高圧状態になる。逆に程度では相対的に低圧である。この不安定を解消するために[[高圧部]]から[[低圧部]]に向けて気流が生じる。ただしこの気流は[[コリオリの力]]の影響を受けて結果的に東風になる。したがって、成層圏中部・上部の夏では特別な場合を除いて常に東風、すなわち[[編東風]]が吹いているのである。これを[[成層圏編東風]]と呼ぶ。また冬には、逆の現象が起きる。極付近では夏とは逆に一日中太陽があたらない状態なので低緯度付近と比べて低温、すなわち低圧となる。よって、低緯度から高緯度に向けて気流が生じ、コリオリの力を受けて偏西風となるのだ。これを[[成層圏偏西風]]という。この現象は冬に西風、夏に東風という現象なので季節によって変化する風、すなわち[[季節風]]と捉えることができる。したがってこの現象を[[成層圏のモンスーン]]と呼ぶ。成層圏偏西風の風速が最大なとこえでは約50m/sあり、成層圏編東風の風速が最大なところでは約50m/s程度の風が吹いている。
 
このように成層圏は名前のように成層ではなく、立派な[[大気擾乱]]があるのだ。ただし、今述べたことは通常の場合だが、他にも[[成層圏突然昇温]]などといった現象のときには、例えば成層圏偏西風が東風になるなどの興味深いことは起きるが、このようなときを除いては上で述べたことが起きていると考えてもらってよい。