「ゼロ (言語学)」の版間の差分

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[[言語学]]の'''ゼロ'''は「~が付か、発音上は存在しない」という否定文を「ゼロ○○付く」という肯、特の理論換えて存在すために用いられと見なすものである。記号は Ø であ便宜上の[[概念]]
 
例えば、[[英語]]の cats {{ipa|kæts}} と fish {{ipa|fɪʃ}} において、[[複数]]を表すのは前者は {{ipa|s}} だが、後者は何も無い。この何も無いのを、ゼロがあると見なし、複数形の[[接尾辞]]がそれぞれ -{{ipa|s}} と -Ø であるとする。
==例==
*ゼロ形態素:語形はそのままで別の品詞として用いられる(転成)場合に「ゼロ形態素がつく」という。例えば[[木]]の一種の[[あすなろ]]は「明日(に)なろう」という語句にゼロ形態素がついて名詞化したと表現する。
*ゼロ格語尾:以下は[[ドイツ語]]の[[所有限定詞|所有代名詞]]の[[格変化]]表である。男性単数主格、中性単数主・対格ではmein-の後に音が無いが、これを「男性主格形では語尾がつかない」でなく「男性主格形はゼロ語尾がつく」のように表現する。Øが記号に用いられる。
 
[[本居宣長]]は、『詞の玉緒』([[1779年]])で、「は」、「も」、「徒(ただ)」の[[係り結び]]が[[終止形]]になることを示した。この「徒」は助詞が付かない場合を意味し、ゼロに当たる。
<table border="1" cellspacing="0" cellpadding="5">
<tr bgcolor="#CCCCCC" align="center"></td><td><br></td><td colspan="3" align="center">単数</td><td>複数</td></tr>
<tr bgcolor="#CCCCCC" align="center"></td><td>格</td><td>男性</td><td>女性</td><td>中性</td>
<td><br></td></tr>
<td>主</td><td>mein-'''Ø'''</td><td>mein-'''e'''<br/></td><td>mein-'''Ø'''</td><td>mein-'''e'''<br/></td></tr>
<td>属</td><td>mein-'''es'''</td><td>mein-'''er'''<br/></td><td>mein-'''es'''<td>mein-'''er'''<br/></td></tr>
<td>与</td><td>mein-'''em'''</td><td>mein-'''er'''<br/></td><td>mein-'''em'''<td>mein-'''en'''<br/></td></tr>
<td>対</td><td>mein-'''en'''</td><td>mein-'''e'''<br/></td><td>mein-'''Ø'''<td>mein-'''e'''<br/></td></tr>
</tr>
</table>
 
ただし、ゼロを乱用してはならない。ゼロが唯一の形態であるような[[形態素]]を設けることは避けるべきである<ref>{{ Citation
*ゼロ関係代名詞:the book I read yesterday のように[[英語]]で[[関係代名詞]]がないが節が名詞を修飾する場合にゼロ関係代名詞を伴う関係節と表現する。
| contribution=ゼロ
*ゼロコピュラ:「これ何?」という文では「これは何であるか」に見られる「である」が無いが意味は同じである。この「である」が無い状態をゼロコピュラがついていると表現する。
| editor-last=亀井孝
| editor2-last=河野六郎
| editor3-last=千野栄一
| title = 言語学大辞典
| volume = 6
| pages = 840
| publisher=三省堂
| place=東京
| year=2005
}}</ref>。例えば、英語で単数形の接尾辞として Ø を設ける必要性は無い。例外なく接尾辞が無いのであるから、そのような接尾辞は存在しないと見なすほうが簡潔である。
 
== ゼロ接辞 ==
ある[[接辞]]の体系の中で、一部に接辞が現れない場合、接辞 Ø を設けるほうが簡潔である。以下に[[ドイツ語]]の[[所有限定詞]] mein の[[格変化]]を示す。男性単数主格および中性単数主対格では mein が使われるが、これを接尾辞 -Ø が付いていると考える。
 
{| class="wikitable" style="text-align: center"
! rowspan="2" | &nbsp; !! colspan="3" | 単数 !! rowspan="2" | 複数
|-
! 男性 !! 女性 !! 中性
|-
! 主格
<td>主</td><td>| mein-'''Ø'''</td><td> || mein-'''e'''<br/></td><td> || mein-'''Ø'''</td><td> || mein-'''e'''<br/></td></tr>
|-
! 属格
<td>属</td><td>| mein-'''es'''</td><td> || mein-'''er'''<br/></td><td> || mein-'''es'''<td> || mein-'''er'''<br/></td></tr>
|-
! 与格
<td>与</td><td>| mein-'''em'''</td><td> || mein-'''er'''<br/></td><td> || mein-'''em'''<td> || mein-'''en'''<br/></td></tr>
|-
! 対格
<td>対</td><td>| mein-'''en'''</td><td> || mein-'''e'''<br/></td><td> || mein-'''Ø'''<td> || mein-'''e'''<br/></td></tr>
|}
 
== ゼロ格 ==
[[日本語]]では、[[文]]中の[[名詞]][[句]]には[[格助詞]]が必要である。例えば「を」は[[対格]]の[[標識]]である。
* ご飯'''を''' 食べた。
だが[[口語]]では格助詞を省略できる。これは、格助詞 Ø が付いていると見なせる。これがゼロ格である<ref>{{ Citation
| last=角田太作
| title=世界の言語と日本語
| pages=13
| publisher=くろしお出版
| place=東京
| year=1991
| isbn=4-87424-054-2
}}</ref>。
* ご飯 '''Ø''' 食べた。
 
== ゼロコピュラ ==
[[コピュラ]]の変化の中で、一部コピュラを使わない場合がある。例えば[[ロシア語]]では、現在時制ではコピュラを使わず単に主語と補語を並べる。これをゼロコピュラがあると見なす。同様に、[[ハンガリー語]]では三人称現在でコピュラが省略されることがあり、これもゼロコピュラと見なせる。
 
日本語では、疑問文ではコピュラ「だ」が消えるが、これをゼロコピュラと見なせる。
{| class="wikitable"
! &nbsp; !! 常体 !! 敬体
|-
! 平叙文
| これは本'''だ'''。 || これは本'''です'''。
|-
! 疑問文
| これは本 '''Ø''' か。 || これは本'''です'''か。
|}
 
== ゼロ関係代名詞 ==
英語で、人間でない[[目的語]]を示す[[関係代名詞]]は that または which であるが、省略しても良い。省略した場合、関係代名詞 Ø があると見なせる。これをゼロ関係代名詞と呼ぶ。
* the book '''that''' I read yesterday
* the book '''Ø''' I read yesterday
 
== 参考文献 ==
<references/>
 
[[Category:形態論|せろ]]
 
[[br:Merk mann (yezhoniezh)]]
[[en:Zero (linguistics)]]
{{language-stub|せろ}}