「貨幣数量説」の版間の差分

 
 
こでの頃[[アーヴィング・フィッシャー|フィッシャー]]の交換方程式や、マーシャル(ピグー)あるいはその批判的継承者である[[ジョン・メイナード・ケインズ|ケインズ]]のケンブリッジ方程式が提案される。フィッシャーは著書『貨幣の購買力(1911)』で交換方程式を提唱するが、その書評でケインズや[[W・C・ミッチェル|ミッチェル]]が批判したのをはじめ、後に[[ドン・パティンキン|パティンキン]]<!--Relative Prices,Say's Law,And The Demand For Money(1948)-->らの批判を受ける。
 
フィッシャーの交換方程式は極めて明瞭で、一見するとMとPに極めて強い相関関係が予想される。しかしその根拠としてVとTが硬直的(変わらない、あるいはほとんど変わらない)ことが前提となっている。VやTが柔軟に動くものであれば、実際Mが増減してそれがPの変動をもたらしたとしても、「なぜそうなるのか」はフィッシャーの交換方程式では全く説明がなされていない。MV=PTはつねに確実に成立する(恒等式)だろうが、なぜ成立するのか全く説明できない、あるMの水準に対してVやTが何故か相応な値をとって、結果Pが相応な水準になっている、としか言えない。
[[ミルトン・フリードマン|フリードマン]]に代表される[[マネタリスト]]は、T/Vの構造に長期的な安定傾向を見いだし、短期的には貨幣の中立性が満たされないことはあるが、長期的には満たされるとする。このため貨幣量が増加すると一時的に実質GDPまで拡大することはありうるが、長期的には実質GDPは完全雇用できまる水準に低下し、物価Pの上昇をもたらすだけだと考える。T/Vは一回あたりの発注ロット数の平均値をあらわすが、フリードマンは経済の期待成長力や期待収益率の多寡によって、1回あたりの受発注量が増減することは短期的に観察できる事実であるが、長期の統計においては安定した関係にあると実証した(この功績でノーベル賞を受賞)<!--netary History of the United States, 1867-1960, with Anna J. Schwartz, 1963-->。
 
交換方程式は取引経済の実態そのものの数式化であり、かならず両辺が一致する(恒等式)。限定された期中における交換(フロー)のみに着目した恒等式には、来期以降の不確実性に対する予測やそれに対する準備(貯蓄)という概念を一見必要としない明瞭さがある。一方でケンブリッジ方程式は貨幣選好kにもとづいて現金残高は特定の水準PYに対しても変動する(方程式)。マーシャルのkは経済全体がどの程度の含み資産をもっているか、経済成長力(自然利子率)がどの程度か、投資収益率(名目利子率)がどの程度か、などといった状況にも左右されるかもしれない。
 
フィッシャーの交換方程式と、マーシャルのケンブリッジ方程式は、本来まったく別のアプローチから通貨量と物価のかかわりを記述したものであり、単純に同一視してk=1/Vなどと短絡することはできない。そもそも流通速度(PT/M)の逆数が貨幣選好であると読み換えることの根拠は無い。しかしTとは相殺取引(売ったものを同値で買い戻す)等を前提としなければ、国富・国民経済計算の観点からは実質的な価値(実質GDP=Y)そのものであり、また統計的にはMやPは共通した統計量であり、二つの方程式を統合した分析は信用サイクルの分析などに重要な示唆をあたえている。
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