「ミュオンスピン回転」の版間の差分

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'''ミュオンスピン回転'''(—かいてん、略称:[[μSR]]; ミューエスアール)とはミュオンスピン回転/緩和/共鳴法の総称であり、[[スピン]]偏極]]した[[ミュオン]]([[ミューオン]]、[[ミュー粒子]]とも呼ばれる)
を物質に注入し、ミュオンスピンの感じる内部磁場の大きさや揺らぎを実時間で捕らえることにより物質の様々な性質を明らかにする手法であり、[[核磁気共鳴]] (NMR) などと類似の有力な物性研究の手段である。
 
== 原理 ==
ミュオンは[[パイ中間子]]の自然崩壊(平均寿命26ナノ秒)で生成するが、この崩壊過程は[[弱い相互作用]]によるため[[パリティ]]が保存されず、結果としてミュオンのスピンは生成時の運動方向にほぼ100%偏極している。従って、パイ中間子の崩壊時に一定の方向に飛び出すミュオンを集めることにより、自然に100%スピン偏極したイオンビーム([[粒子線]])を得ることができる。ミュオンスピン回転法ではこのようにスピン偏極したミュオンを調べたい試料に注入し、注入した時刻を時間原点としてミュオンスピンの運動を観察する。
 
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このように、ミュオンスピン回転法を物性研究に用いるためには多数のミュオンを供給できる施設が不可欠である([[宇宙線]]のような強度では実用にならない)が、この目的のために[[中間子工場]]と呼ばれる加速器施設が世界数カ所に建設され、その利用が研究者に開放されている。
 
== 特徴 ==
他の研究手法と比べてみた場合のμSRの特徴としては、あらゆる試料に直接ミュオンをイオン注入して観測することが可能なこと、1ナノ秒から数十ミリ秒といった、丁度[[中性子散乱]]とNMRの間に位置する[[時間領域]]のスピン揺らぎに敏感であること、更に0.01μBといった小さな[[磁気モーメント]]を容易に検出できることなどがあげらる。また、中性子散乱と相補的に、空間的に乱れた磁気的状態の研究に対してもっとも威力を発揮する。銅酸化物[[高温超伝導体]]の母物質が反強磁性体である事を最初に示したのはμSR法であり、これにより物性研究の手段としてのμSRが広く知られるようになった。また、最近では実験技術の進歩により、μSRを用いて[[マイスナー効果#第一種超伝導体と第二種超伝導体|第二種超伝導体]]の[[磁束状態]]における磁束まわりの磁場分布を詳細に観察し、磁場侵入長など[[超伝導]]状態を記述する重要な物理量を引きだすことも可能になっている。
 
一方、物質中でのミュオンは陽子あるいは水素原子の軽い[[放射性同位体]](ミュオンの質量は陽子のほぼ9分の1)と見なす事ができ、それ自体が興味深い研究の対象となっている。なぜなら、物質の中には水素が重要な役割を果たす例が数多くあり、特に半導体の例でよく知られているように、微量の水素で物質の性質が劇的に変わる場合もあるが、実は微量の水素ほど捉えにくい元素もないからである。水素同位体としての[[ミュオニウム]](水素原子の陽子をミュオンで置き換えた原子)の電子状態は、0.5%という小さな同位体補正を除いて水素原子のそれと全く同等と見なす事ができる。そのため物質中のミュオニウムの電子状態を調べる事は、同じ条件下の水素原子を調べる事に等しい。ミュオニウムは「放射性」で極めて高感度に検出する事ができるので、物質中におかれたミュオニウムの電子状態をμSRで研究する事により、水素原子の電子状態について詳しく知る事ができるということになる。さらに、液相、気相中にミュオニウムを生成する事により、水素が関わる化学反応の動力学をリアルタイムで観測する事も可能になっている。
 
== 関連==
* [[ミュオン]]
* [[中間子工場]]
* [[核磁気共鳴]]
* [[中性子散乱]]
* [[ミュオニウム]]
 
[[Category:素粒子物理学|みゆおんすひんかいてん]]