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'''漢字'''(かんじ)は、古代[[中国]]に発祥を持つ[[文字]]で、[[中国語]]を表記するための伝統的な文字、あるいは中国から[[日本]]へ輸入され、またはそれに類する形態・機能を持つ[[日本語]]の表記に使われる文字を指す。また同様に中国から輸入して各個発展した日本以外の周辺国([[漢字文化圏]])の文字も含む。日本や中国以外の漢字圏諸国(朝鮮や19世紀までのベトナムなど)で独自に発明された'''漢字体の文字'''を[[国字]]と呼ぶ(日本における国字は、和字・倭字・皇朝造字・和製漢字などとも呼ばれる)。日本語における'''漢字'''は、[[文部省]]の[[国語国字問題|漢字制限]]([[当用漢字]]、[[常用漢字]]、[[教育漢字]])を受けているものの、[[表音文字]]である“かな”([[平仮名]]、[[片仮名]])と並んで主要な文字となっている。
 
漢字は従来、[[表意文字]](ideogram)に分類されてきたが、実際には漢字の95%近くが[[形声文字]]であり、意味だけを表すとは言い難く、最近では1[[音節]]1[[形態素]]の構造を持つ中国語の[[単語]]を表すとする[[表語文字]](logogram)に分類すべきとされる。1音節を表す文字という点から見れば[[音節文字]]である日本語の[[仮名]]とも近い関係にある。
 
漢字は、中国・[[台湾]]・[[大韓民国|韓国]]・[[シンガポール]]などで、文字表記のための手段として用いられている。しかし近年の各国政府の政策で、漢字を簡略化したり使用の制限などを行なったりしたため、現在では、完全に文字体系を共有しているわけではない。また字形なども違っている。
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== 文字の特徴 ==
 
英語の[[アルファベット]]が、一つの音価を表記する[[音素文字]]であるのに対し、漢字は通常、一つ意味([[形態素]])と一つの[[音節]]を表す。一字が一義を表すことだけを重視して[[表意文字]]としてきたのであるが、これは古代中国語の一音節が一つの意味を表す[[孤立語]]的な言語構造に由来するのであって、正確には音と意味両者を表記する[[表語文字]]である。ただしつまり古代中国語のなかでも[[外来語]]や[[オノマトペ]]には2音節1形態素の構造をもつものあり、これ1語[[連綿語]]と表してう。連綿語は意味は一つるのであるが、。また1音節数に従って漢を表す文二字が当てという点かる。たとえ葡萄・琵琶・彷彿・恍惚などが[[音節文字]]である。こ日本語場合の一つの漢字はもう一つの漢字[[仮名]]区別されるような一つの意味をたな関係にある
 
このような漢字の特徴から伝統的な中国の言語学では漢字を形・音・義の三要素によって分析がなされてきた。
 
== 字形 ==
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==字音==
===構成===
字1字は中国語の1[[音節]]を表す。中国語の音節構造は「(子音)+母音+(子音)」である。[[英語]]のように多重子音はない。また母音は3重母音まである。
 
中国の伝統的な音声言語学である[[音韻学]]の分類では、語頭子音・ゼロ子音を'''[[声母]]'''
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=== 日本漢字音 ===
日本漢字音には[[呉音]]・[[漢音]]・[[唐音]]・[[慣用音]]がある。漢音は[[遣唐使]]や入唐僧が首都の[[長安]]で学んだ[[隋]]や[[唐]]の長安音である。呉音はそれ以前に日本に定着していた漢字音であり、唐音は唐宋音とも呼ばれ、[[鎌倉時代]]以降に断片的に伝わった当時の字音である。慣用音は間違って定着したと分かったものを[[大正時代]]以降こう呼んでいる。このうち最も体系的なのは漢音で『広韻』や『集韻』と対応関係が見られる。
 
日本漢字音の特徴は、中国語ですべて1音節であるものが、2音節化されるものが多いことである。また語末の[[破裂音]][k][p][t]([[入声]])は次に来る語の語頭が[[破裂音]]や[[摩擦音]]である場合を除いて母音挿入され「ク・キ・フ・ツ・チ」となった。このうち[p]に母音挿入した「フ」は日本語の[[ハ行転呼]]現象と相まって「ツ」や「ウ」に変化している。語末の軟口蓋鼻音[ŋ]は母音化され「ウ・イ」となった(唐音では「ン」)。
日本においては、ひとつの漢字には多くの異なる発音があることが多い。また、ある発音を持つ漢字が多数あることも珍しくない。
また古代中国語には清音([[無声音]])・濁音([[有声音]])の対立とともに[[有気音]]・[[無気音]]の対立があったが、日本語にはこの対立がないため字音に反映されていない。また[[声調]]が保持されておらず、このため同音異義語が多くなっている。
 
==字義==
読み方は「[[音読み]]」と「[[訓読み]]」の2種類に大別される。
===字義の特徴===
漢字1字は大体において1つの[[形態素]]を表す。これは古代中国語の1音節が1形態素を表すためである。ただし、古代中国語のなかでも[[外来語]]や[[オノマトペ]]には2音節1形態素の構造をもつものがあり、これを[[連綿語]]という。連綿語は意味は一つであるが、音節数に従って漢字二字が当てられる。たとえば葡萄・琵琶・彷彿・恍惚などがある。この場合の一つの漢字はもう一つの漢字と区別されるような一つの意味をもたず、[[表音文字]]的な要素が強い。逆に1音節2形態素を表す語もある。これはもともと二つの音節であったものが縮約されて1音節になったものである。これを[[縮約語]]といい、漢字1字が当てられる。たとえば之於(シオ)→諸(ショ)、不可(フカ)→叵(ハ)、而已(ジイ)→耳(ジ)などである。この場合、一つの漢字に二つの意味があることになる。
 
単語がその意味を歴史的・地理的に変化させるのと同様、語を表している漢字はその字義を歴史的・地理的に変化させている。
音読みは、中国起源の読み方であり、[[呉音]]、[[漢音]]、[[唐音]]の3種類があり、さらに読み間違いなどが広がった[[慣用音]]がある。
 
===字義研究史===
5-6世紀頃の漢字の輸入は、中国南部の呉地方からであるとされる(ただし韓国人は[[韓国]]から日本に伝わったものだと主張する)。この際に伝わった漢字の読み方は今日「呉音」と呼ばれる。他に、[[奈良時代]]に盛んに送られた[[遣唐使]](主な渡航先は北部の[[長安]])では、日本に伝えられた漢字の読みとは異なる読みが普通であったことから、奈良時代から[[平安時代]]にかけて、現在「漢音」と呼ばれる読み方が輸入される。更に[[鎌倉時代]]から[[室町時代]]にかけて、[[禅僧]]や[[関連書]]の伝来と共に「唐音」と呼ばれる読み方が伝わった。
字義は本義・引申義・仮借義などに分けられて分析されてきた。字義を研究する中国伝統の学問は[[訓詁学]]である。
 
'''本義'''とはその字がもつ基本的な意味である。歴史的に考察すれば語源ということになる。本格的な本義研究は[[後漢]]の[[許慎]]『[[説文解字]]』に始まる。その方法は字形から本義を探るというものである。これを'''形訓'''とも呼ぶ。六書という造字法が本義分析に大きな役割をはたした。それは20世紀甲骨文字の研究に際しても大きな役割を果たしている。また後漢末、[[劉煕]]の『[[釈名]]』は、本義を音声に求めた。これを'''声訓'''という。たとえば「日(ジツ)は実(ジツ)である。光輝いて充実しているからである」「月(ゲツ)は欠(ケツ)である。満ちて欠けるからである」といったものである。声訓の方法論は宋代以降の「右文説」や20世紀カールグレンや藤堂明保の音声による語源分析に発展していった。
ただし実際には、漢音・唐音以外の伝統的な読み方が、時代・地域などを考慮されず、まとめて「呉音」とされてきた経緯がある。
 
'''引申義'''とは、本義から引き伸ばされて、つまり派生してできた意味である。たとえば「長」の本義は長短の意味で距離的に「ながい」ことを表すが、引申されて長久の意味、時間的にながいことも意味するようになる。さらにそれは植物の生長の意味に引申され、さらに人間の成長を意味するようになり、長幼の区別を生じ、長老、首長へと引申されていったと考えられる。引申義の研究は、現代の語彙研究に相当する。それは古典の注釈で使われて訓詁学から発展し、[[前漢]]には[[同義語]]を分類した『爾雅』という書物にまとめられ、これにより古語や俗語などが系統的に整理された。また[[前漢]]の[[揚雄]]は『方言』を著し、同時代の地域言語を列挙して共通語でまとめている。
訓読みは、個々の漢字が表す意味を、すでに存在していた日本語と関連づけることであり、日本語の表記にも用いた。この際の漢字の読み方が、現在の訓読みの起源となっている。訓読みは日本だけで行われているのではなく、中国語の[[方言]]語彙を漢字の意味と結びつけて読んだり、韓国語で訓読みした例もあるが、一般的なものではない。
 
'''仮借義'''(かしゃぎ)とは、ある語を表すのに同音または音が近い字を借用することを[[仮借]](かしゃ)というが、字義のなかで仮借によってできたものをいう。たとえば「求」の本義は「かわごろも」であるが、「もとめる」の意味をもつ同音語に仮借された。やがて「もとめる」の方が基本義となってくると本義は「裘」という別に漢字を作られれるようになった。仮借は『説文解字』の六書で用字法の一つにあげられたものである。これにより字義に本義と全く関係のないものがあることを説明できる。
場合によっては、漢字のみからなるある特定の語に2通りの読み方がある場合がある。例えば「仮名」という語には、仮の名前を意味する「カメイ」という読みと、ひらがなとかたかなを総称する文字の分類語である「カナ」という読みとがある。
 
===日本漢字訓===
日本語はかなと漢字を多用する言語であり、(場面によっては他にアルファベットなども用いられる)かなは基本的に表音文字、漢字は表意文字である。そこで、漢字の発音がかならずしもわかりやすくない場合などに、漢字の発音をかなによって併記することがしばしば行われる。これを「読みがな」「ふりがな」「[[ルビ]]」などと呼ぶ。個人を扱う公式の書類の多くは、氏名と読みがなを併記する。子供や外国人を読者として想定している出版物は、漢字にルビがつけられる(片仮名にも平仮名でルビが振られることがある)。
「訓」は、中国においては難解な語を分かりやすい語で説明したり、古語を現代語で置き換えたり、方言を共通語で説明するものであるが、日本では外国語であるため日本語に翻訳することを意味する。外国語であるため日本語の語彙と一対一対応するべくもなく、一つの漢字に多くの字訓が作られたが、やがて漢文を[[訓読]]で素読する習慣と相まって、日本語の一語では説明できないニュアンスは切り捨て、一つの漢字にできるだけ一つの訳語をつけるという一字一訓に固定化するようになっていった。これによって日本では漢字に[[訓読み]]が生まれ、[[和漢混淆文]]を成立させるなど、漢字によって日本語を表記する技術を発展させていった。
 
例えば英語においては、このような習慣は普及していない。英語を母国語とする人にも読み方がわかりにくい英単語は多く存在するが、[[国際音声記号|発音記号]]などにより読みがなが併記されることは稀である。
 
== 漢字文化圏 ==
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日本語における文字の使用は、[[5世紀]]から[[6世紀]]ごろの漢字の輸入とともに始まり、漢字の草体を元に[[平安時代]]初期に平仮名が、漢字の一部を元に片仮名がつくられたとされる。
 
日本においては、ひとつの漢字には多くの異なる発音があることが多い。また、ある発音を持つ漢字が多数あることも珍しくない。
 
読み方は「[[音読み]]」と「[[訓読み]]」の2種類に大別される。
 
音読みは、中国起源の読み方であり、[[呉音]]、[[漢音]]、[[唐音]]の3種類があり、さらに読み間違いなどが広がった[[慣用音]]がある。
 
呉音は、5-6世紀頃の漢字の輸入は、中国の[[六朝時代]]南部の呉地方から直接あるとされる(ただし韓国人[[韓国]]から朝鮮半島を経由して日本に伝わったものだ主張すされ)ただし、れを実証できる証拠はなく、実際に伝わったは、仏典などにもとづく音以前伝統的な読み方は今日が、時代・地域などを考慮されず、まとめて「呉音」と呼ばてきた経緯がある。他に、[[奈良時代]]に盛んに送られた[[遣唐使]](主な渡航先は北部の[[長安]])では、日本に伝えられた漢字の読みとは異なる読みが普通であったことから、奈良時代から[[平安時代]]にかけて、現在「漢音」と呼ばれる読み方が輸入される。更に[[鎌倉時代]]から[[室町時代]]にかけて、[[禅僧]]や[[関連書]]の伝来と共に「唐音」と呼ばれる読み方が伝わった。
 
訓読みは、個々の漢字が表す意味を、すでに存在していた日本語と関連づけることであり、日本語の表記にも用いた。この際の漢字の読み方が、現在の訓読みの起源となっている。訓読みは日本だけで行われているのではなく、中国語の[[方言]]語彙を漢字の意味と結びつけて読んだり、韓国語で訓読みした例もあるが、一般的なものではない。
 
場合によっては、漢字のみからなるある特定の語に2通りの読み方がある場合がある。例えば「仮名」という語には、仮の名前を意味する「カメイ」という読みと、ひらがなとかたかなを総称する文字の分類語である「カナ」という読みとがある。
 
日本語はかなと漢字を多用する言語であり、(場面によっては他にアルファベットなども用いられる)かなは基本的に表音文字、漢字は表意文字である。そこで、漢字の発音がかならずしもわかりやすくない場合などに、漢字の発音をかなによって併記することがしばしば行われる。これを「読みがな」「ふりがな」「[[ルビ]]」などと呼ぶ。個人を扱う公式の書類の多くは、氏名と読みがなを併記する。子供や外国人を読者として想定している出版物は、漢字にルビがつけられる(片仮名にも平仮名でルビが振られることがある)。
 
例えば英語においては、このような習慣は普及していない。英語を母国語とする人にも読み方がわかりにくい英単語は多く存在するが、[[国際音声記号|発音記号]]などにより読みがなが併記されることは稀である。
 
=== ベトナム ===
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=== その他の地域 ===
 
== 系統、書体、字、類似文字、関連文字 ==
 
=== 書体 ===
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* [[楷書体]]
 
=== 字 ===
 
* [[簡化字]](現代中国で簡化字総表の公布により字形が決められた漢字。簡体字ともいう)