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**アクラシス綱 Acrasiomycetes
***アクラシス亜綱 Acrasiomycetidae
****'''アクラシス目''' AcrasialesAcrasiales(→[[アクラシス類]])
***ジクチオステリウム亜綱 Dictyostelidae
****'''ジクチオステリウム目''' DictyostelialesDictyosteliales(→[[タマホコリカビ類]])
 
しかし、その後の現生生物学分野の進歩により、これらはより系統的に遠いものと考えられるようになっており、細胞性粘菌をまとめる意味は分類学的には存在しないと考えられる。現在ではタマホコリカビ類は[[アメーボゾア]]に含め、ここには変形菌類も所属する。他方、アクラシス類は[[ヘテロロボサ]]と言う別の系統に属するとされる。
 
いずれにせよ、この両者は、5界説ではともに[[原生生物]]界に所属させるものの中で、変形菌や[[ミドリムシ]]と同様に真核生物の進化の早い段階に分化した古い系統の生物と考えられている。詳細は各群の項を参照されたい
 
==タマホコリカビ類==
{{生物分類表
| 色 = khaki
| 画像 = [[Image:Dictyosteliu lifecycle.PNG|250px]]
| 画像キャプション = タマホコリカビ類の生活環
| 名称 = タマホコリカビ類
| ドメイン = [[真核生物]] [[:w:Eukaryota|Eukaryota]]
| 門 = [[アメーボゾア]] [[:w:Amoebozoa|Amoebozoa]]
| 綱 = [[コノーサ綱]] [[:w:Conosea|Conosea]]
| 亜綱 = (訳語なし)[[:w:Stelamoebia|Stelamoebia]]
| 目 = '''タマホコリカビ目 [[:w:Dictyostelid|Dictyosteliida]]'''
| 下位分類名 = 下位分類
| 下位分類 =
;Schaap et al. (2006)
* Parvisporids
* Heterostelids
* Rhizostelids
* Dictyostelids
| 和名 = ~タマホコリカビ、他
| 英名 = Dictyostelids
}}
タマホコリカビ類は、細胞性粘菌として知られた生物の代表的なものである。特にキイロタマホコリカビはモデル生物として非常によく知られている。
 
=== 概説 ===
タマホコリカビ類(Dictyostelid)は、小型で単細胞のアメーバ状の栄養体でありながら、ある時期にそれが集合して多細胞の子実体を作る生物である。アメーバの時期と子実体となる時期がある点で変形菌と共通しているが、多核体を形成する変形菌の変形体とは異なり、常に細胞性をなくさないため、細胞性粘菌という。ただしこの群の名の下に含められた生物には全く異なる二系統があることが判明したため、現在はこの名を分類群の名としては用いない。しかし細胞性粘菌の名の下に取り扱われた生物は大部分がこの群のものであり、現在でもこの群のものをを指して言うことが多いと思われる。もう一つの群はアクラシス類である。
 
== 特徴 ==
栄養体は小型のアメーバであり、周囲に糸状仮足を出してゆっくりと動く。アメーバが集合して生じた偽変形体やそれが移動する移動体は肉眼でも見分けがつく。子実体は長い柄があり、種によっては数mmにもなる。土壌や植物枯死部などを培養すると、ケカビなどに混じって出現することがあり、その際には伸び出した子実体や、寒天培地上にはい出した移動体などを肉眼で十分に確認できる。しかし、脆弱なので、乾燥した空気に触れるとすぐにしおれる。野外で確認するのは難しいであろう。
 
===生活環===
細胞性粘菌の[[子実体]]は細い柄の先に球形の[[胞子]]のかたまりが乗る、という簡単なものである。その外見や大きさは、[[ケカビ]]などによく似ているが、柄が細胞に分かれているので、区別できる。
 
胞子は発芽すると小さな[[アメーバ]]となり、周囲の[[微生物]]を摂食して成長、分裂を繰り返す。
 
周囲の餌を食い尽して飢餓状態に置かれたアメーバは集合を始め、全体として小さなナメクジの様な多細胞体となる。これを移動体あるいは偽変形体と呼ぶ。アメーバの集合するとき、それらは互いに接触して、ある種の流れのような形を取る特徴がある。
 
移動体は基質上をはい回った後、柄を構成する細胞が基質上から次第に上へと積み上がって円柱形の柄を構成し、胞子になる細胞はそれをはい登って、その先に胞子のかたまりを生じて[[子実体]]となる。ただし、純然たる移動体が形成され、基質をはい回るのはキイロタマホコリカビなどごくわずかで、多くの種ではアメーバが集合を完了した時点で柄の形成が始まり、偽変形体は短い距離を基質に柄の基部を残しながら移動し、次いで立ち上がって子実体となる。
 
一部の種では[[有性生殖]]も知られている。飢餓状態で多湿暗条件に置かれた細胞性粘菌のアメーバは[[配偶子]]としての性質を獲得する。性の異なる配偶子が遭遇すると融合して巨細胞となり、周囲の未融合の配偶子を捕食して成長し、マクロシストと呼ばれる休眠細胞となる。マクロシストは休眠後に[[減数分裂]]を行い、発芽すると多数のアメーバを生じる。
 
なお、変形菌の場合には、変形体中の全ての核が[[減数分裂]]を起こし、これを中心に[[原形質]]が分割されて胞子となる。胞子が発芽すると、通常は鞭毛細胞を生じ、これが接合する。この点でも、細胞性粘菌と変形菌は大きく異なっている。
 
=== モデル生物として ===
子実体形成に際し、変形菌ではすべての核が[[胞子]]になる。しかし、細胞性粘菌の場合には、移動体を構成する細胞が、[[胞子]]になるものと死んで子実体の柄を構成するようになるものに[[分化]]する。すなわち、全細胞が、たった二つの型にだけ分化し、しかもその分化が、アメーバ集合から子実体形成までの間に起きるわけである。そのため、細胞性粘菌は[[発生学]]における発生分化の大変便利な[[モデル生物]]として盛んに研究されている。また、単細胞アメーバとして[[cAMP]]や[[葉酸]]への走化性運動を行うため、細胞運動や[[細胞骨格]]の研究にも古くから用いられている。
 
===生息環境===
土壌中にはごくふつうに産する。
植物遺体や、動物の糞などを湿室培養すれば、出現することが珍しくない。
 
===分類===
'''タマホコリカビ'''類は[[アメーボゾア]]に属しており、系統的には他の[[粘菌]]類や様々なアメーバ類と近縁である。一般にタマホコリカビ[[目 (生物学)|目]]をあてるが、その位置は研究者の観点によって様々である。以下に例を2つ示す。
 
#アメーバ動物門(Amoebozoa) -- Smirnov et al. (2005)
#*コノーサ綱(Conosae)
#**タマホコリカビ目(Dictyosteliida)
#タマホコリカビ門(Dictyosteliomycota) -- Dictionary of the Fungi, 9th ed. (2001)
#*タマホコリカビ綱(Dictyosteliomycetes)
#**タマホコリカビ目(Dictyosteliales)
 
これまでに100種近い種が知られており、現在の分類体系は子実体の柄に注目して2科4属に分類するものである。
*''Acytostelium''
*:子実体の柄に細胞がなく中空になっている。''A. leptosomum''など十種ほどが知られている。
*''Coenonia''
*:''Coenonia denticulata''のみが記載されているが、その後発見されたことがなく実在を疑われている。
*タマホコリカビ属 ''Dictyostelium''
*:子実体の柄は分岐しないか、または不規則に分岐して側生する。タマホコリカビ(''D. mucoroides'')、キイロタマホコリカビ(''D. discoideum'')、コタマホコリカビ(''D. lacteum'')など数多く知られている。
*ムラサキカビモドキ属 ''Polysphondylium''
*:子実体の柄が規則的に分岐して輪生する。ムラサキカビモドキ(''P. violaceum'')を始めとして十数種が知られている。
 
ところがSchaap ''et al.'' (2006)はタマホコリカビ類の大半を用いた分子系統解析を行い、子実体の柄はそれほどあてにならず、特にタマホコリカビ属が多系統的であることを示した。これによると、タマホコリカビ類は大きく4つのグループに別れている。
 
#Parvisporids(parvi- '小さい' + spora '胞子')
#:''Dictyostelium''属のうち小さい胞子をつけるものが多い。
#Heterostelids(hetero- '異なる' + steleon '柄')
#:''Acytostelium''属と''Polysphondylium''属を含み、それぞれ比較的まとまりがよい。ただし''Dictyostelium''属が割り込んできたり、ムラサキカビモドキ(''P. violaceum'')が含まれないなど不思議なグループ。
#Rhizostelids(rhizo- '根' + steleon)
#:''Dictyostelium''属のうち子実体が1ヶ所から群生するものが多い。コタマホコリカビ(''D. lacteum'')、コツノマタタマホコリカビ(''D. minutum'')などが含まれる。
#Dictyostelids
#:''Dictyostelium''属のうち比較的大型の子実体が単生するものが多い。タマホコリカビ(''D. mucoroides'')、キイロタマホコリカビ(''D. discoideum'')などの代表的なタマホコリカビ類が含まれる。ムラサキカビモドキ(''P. violaceum'')は比較的ここに近い。
 
おそらく今後''Dictyostelium''属の分割などを含めた分類体系の変革が必要になると考えられる。
 
=== 参考文献 ===
 
==アクラシス類==
{{生物分類表
| 色 = khaki
<!--| 画像 = [[Image:Percolomonas sp.jpg|250px]]
| 画像キャプション = ''Percolomonas'' sp.-->
| 名称 = アクラシス類
| ドメイン = [[真核生物]] [[:w:Eukaryota|Eukaryota]]
| 界 = [[エクスカバータ]] [[:w:Excavata|Excavata]]
| 門 = '''ヘテロロボサ [[:w:Heterolobosea|Heterolobosea]]''' <small>Page and Blanton, 1985
}}
アクラシス類(Acrasid)は、[[アメーバ]]状の体と、それが多数集まってできる[[子実体]]をその[[生活環]]の中に持つ生物である。いわゆる細胞性粘菌の一つと考えられてきたが、タマホコリカビ類とは系統が異なることが明らかとなり、現在では独立した群として扱われている。最初の発見は1873年である。
 
== 概説 ==
'''アクラシス'''類(無遊子類)は[[ヘテロロボサ]]に属しており、系統的にはタマホコリカビ類やその他の[[粘菌]]類とは全く異なる群である。しかし飢餓状態になると集合して細胞性の子実体を作ることから、タマホコリカビ類とまとめて細胞性粘菌として扱われてきた。属によっては条件により[[鞭毛]]を生じる。
 
アクラシス類の生活環は、胞子からアメーバが発芽して細菌等を捕食して増殖し、飢餓状態に陥ると集合して子実体を形成するというもので、この点ではタマホコリカビ類とよく似ている。しかしアクラシス類のアメーバは比較的大きなナメクジ型(リマックス型)で、前方に葉状仮足をのばして突発的に素速く移動し、多方向的に糸状仮足を出して酔歩するタマホコリカビ類のものとは異なる。また子実体が細胞性である点は共通するが、アクラシス類の場合は柄の細胞も死滅せず、発芽して[[アメーバ]]を生じる能力を保持する点が異なる。
 
== 分類 ==
分類学的には一般にアクラシス[[目 (生物学)|目]](AcrasidaまたはAcrasiales)をあて、これまでに4[[科 (生物学)|科]]6属十数種が知られている。このうち比較的よく研究されているのがジュズダマカビ(''Acrasis rosea'')であり、実際のところ分子系統解析が行われているのはこの種だけである。なお、これらの中にはたとえばミトコンドリアのクリステが管状のものを持つものと板状のものを持つものがあるなど、この群が多系統である可能性も考えられる。
 
*''Acrasis''
*''Copromyxa''
*''Copromyxella''
*''Fonticula''
*''Guttulinopsis''
*''Pocheina'' = ''Guttulina''
*:''Pocheina''はもともと''Guttulina''と命名されていたが、この名前は[[有孔虫]]で先に使われているために改名された。しかし菌類学(植物学)の立場では有孔虫(動物)と属名が一致することは問題にならず、これは不必要な改名で''Guttulina''を使うべきということになる。なお''Guttulina''の和名を「フサハリガイ」とすることがあるが、これは有孔虫の''Guttulina''の和名である。
 
分類学的位置は立場によって変わってくるが、例えば、
#ペルコロゾア門(Percolozoa) -- Cavalier-Smith (2003)
#*ヘテロロボサ綱(Heterolobosea)
#**アクラシス目(Acrasida)
#アクラシス菌門(Acrasiomycota) -- Dictionary of the Fungi, 9th ed. (2001)
#*アクラシス菌綱(Acrasiomycetes)
#**アクラシス目(Acrasiales)
などに位置付けることができる。
 
== 関連項目 ==
* [[タマホコリカビ類]]
* [[アクラシス類]]
* [[キイロタマホコリカビ]]
* [[粘菌同期法]]
 
178 ⟶ 60行目:
| journal = Protist
| year = 2005 | volume = 156 | issue = 2 | pages = 129-142
}}
*{{cite journal
| last = Schaap | first = P.
| coauthors = ''et al.''
| title = Molecular phylogeny and evolution of morphology in the social amoebas
| journal = Science
| year = 2006 | volume = 314 | issue = 5799 | pages = 661-663
}}
*{{cite book
188 ⟶ 77行目:
| id = ISBN 0-8519-9377-X
}}
 
*{{cite journal
| last = Schaap | first = P.
| coauthors = ''et al.''
| title = Molecular phylogeny and evolution of morphology in the social amoebas
| journal = Science
| year = 2006 | volume = 314 | issue = 5799 | pages = 661-663
}}
*{{cite journal
| last = Cavalier-Smith | first = T.
| title = The excavate protozoan phyla Metamonada Grassé emend. (Anaeromonadea, Parabasalia, ''Carpediemonas'', Eopharyngia) and Loukozoa emend. (Jakobea, ''Malawimonas''): their evolutionary affinities and new higher taxa
| journal = Int. J. Syst. Evol. Microbiol.
| year = 2003 | volume = 53 | issue = 6 | pages = 1741-1758
}}
 
[[Category:原生生物|さいほうせいねんきん]]
 
[[deen:DictyosteliumAcrasiomycota]]
[[en:Dictyostelid]]
[[it:Dictyostelium]]
[[pt:Dictyosteliida]]