「三人吉三廓初買」の版間の差分

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== 概要とあらすじ ==
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お嬢吉三、和尚吉三、お坊吉三の3人の盗賊が、百両の金と短刀「庚申丸」をめぐる[[因果応報]]で差し違えて死ぬまでを描いた[[白浪物]]である。「大川端庚申塚の場」が特に有名で、大川端で「おとせ」という[[娼婦|夜鷹]]から[[小判]]百両を奪ったお嬢吉三、それに対し、その金をよこせと横車を張るお坊吉三、立ち回りをはじめた2人に割って入った和尚吉三の3人が意気投合して、『[[三国志演義]]』の「[[桃園の誓い]]」の故事にちなみ、[[梅]]の下で[[義兄弟]]の契りを結んだところから話がはじまる。「大川端庚申塚の場」におけるお嬢吉三の「月も朧(おぼろ)に白魚の、かがりも霞む春の空…こいつあ春から延喜(えんぎ)<ref>「[[縁起]]」の意。</ref>がいいわえ」の七五調の長い[[台詞|セリフ]]が有名である。『八百屋お七』に登場する[[八百屋お七|お七]]、[[巣鴨]]の吉祥院の所化弁長、吉三郎を、3人泥棒に仕立ててドラマ化が図られており、百両と名刀「庚申丸」の所在が転々とするうちに、3人の吉三をめぐってそれまで隠されていた複雑な人間関係が徐々に明らかになっていく。
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初演は隣の座の[[中村芝翫 (4代目)|四代目中村芝翫]](当時は[[中村福助]]<ref>同年(1860年、[[万延]]元年)7月に四代目中村芝翫を襲名した。</ref>)の人気に食われ、興行としてはあまり当たらなかったというが、黙阿弥にとっては会心作であり、みずからの代表作と考えていたといわれる。
 
本作には、初演された年の[[干支#干支による紀年|干支]]が60年に一度巡ってくる[[庚申]](こうしん、かのえさる)であることから、3人の盗賊を、「見ざる」「言わざる」「聞かざる」の[[三猿]](庚申の仏、青面金剛に従う猿)にたとえ、セリフのなかに「庚申の夜の話草」<ref>60日ごとの庚申の夜は体内の[[三尸]]の虫が天帝に悪事を報告しないよう、眠らず[[徹夜]]で話をするという[[道教]]思想を源流とする[[習慣]]([[庚申待]])を意味している。江戸時代以降、各地で[[庚申待|庚申講]]がもたれるなど[[庚申信仰]]が庶民にも広く普及した。</ref>があるなど、[[江戸時代]]の[[民間信仰]]の影響が見られる。
 
黙阿弥は旧作の『網模様燈籠菊桐』(通称「小猿七之助」)の登場人物であるお坊吉三にあと2人の吉三を絡ませ、さらに八百屋お七の狂言を[[パロディ]]化している。また、お嬢吉三は「女装の美少年」という設定で、黙阿弥作品では「[[都鳥廓白波|忍ぶの惣太]]」(『都鳥廓白波』)の花子、「[[青砥稿花紅彩画|白波五人男]]」(『青砥稿花紅彩画』)の[[弁天小僧]]などでも用いられた重要な[[モチーフ]]である。特に本作では、お嬢とお坊とが恋仲に陥るという倒錯した設定となっており、幕末の爛熟した世相を物語っている。
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和尚の妹おとせには十三郎という恋人がいるが、実は2人は幼い時に生き別れた[[双生児]]の兄妹であったという[[エピソード]]がある。江戸歌舞伎では[[近親相姦]]を「[[畜生道]]」という名でしばしば取り上げ、『[[四谷怪談]]』や「[[与話情浮名横櫛|切られお富]]」(『与話情浮名横櫛』)などでも題材化されている。本作では、2人の関係を知った和尚と父の伝吉の苦悩、おぞましい事実を知らずに[[来世]]での幸福を夢見て和尚の刃に果てる2人の悲劇を絡ませて、劇の内容に深みを持たせている。このように本作は、百両の金と刀そして運命に翻弄される人々を描き、単なる白浪物に終わらない人間ドラマとして評価されている。
 
また舞台演劇としては、三者三様のいでたちで盗賊として活躍するさまが、高い視覚的効果をあげていると評価される。
 
なお、翻案された映画作品に『[[快盗三人吉三]]』([[1954年]])、[[市川雷蔵]]主演の『お嬢吉三』([[1959年]])、演劇には[[明治座]]による「三人吉三-江戸青春-」([[2003年]])、漫画に[[山田南平]]『[[まなびや三人吉三]]』([[2004年]]-[[2006年]])などがある。
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== 外部リンク ==
* [http://www5b.biglobe.ne.jp/~kabusk/sakuhin52.htm 三人吉三の三すくみ](評論)
* [http://www5b.biglobe.ne.jp/~kabusk/dentoh6.htm 試論:黙阿弥の「七五調」の科白術](評論)
* [http://www.gutenberg21.co.jp/kichisa.htm デジタル書店"グーテンベルク21"「三人吉三廓初買」] (お嬢吉三の「大川端庚申塚の場」の名セリフを収載)
* [http://www.waseda.jp/enpaku/gallery/gallery.html 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館ウェブ・ギャラリー](「その他」のなかに3代歌川豊国による[[浮世絵]]を収載)
* [http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/edc_dic/dictionary/dic_sa/dic_sa_06.html 歌舞伎事典「三人吉三廓初買」](「大川端庚申塚の場」の画像を収載<[[2001年]]12月、[[国立劇場]]>、<small>お嬢=七代目市川染五郎、和尚=九代目松本幸四郎、お坊=四代目中村梅玉</small>)