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en:Lymphatic system 01:14, 29 August 2008 (UTC) を翻訳。日本語版部は「簡易解説」で残存。Aotakeさんすみません。先程翻訳修了に気づきました。
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{{medical}}
[[Image:Lymphatic system.png|thumb|ヒトのリンパ系]]
{|style="float:right"
|+'''リンパ系'''
|-
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|[[Image:Illu lymphatic system-ja.jpg|thumb|right|リンパ系のイメージを示した図]]
|}
脊椎動物において'''リンパ系'''(リンパけいlymphatic system)はリンパ液と呼ばれる清明な液を運搬する導管ネットワークである。リンパ液が通過するリンパ組織もこれに含まれる。リンパ節を筆頭としてリンパ組織が見出される器官は多く、扁桃腺のように消化管に付随したリンパ濾胞もその一つである。リンパ系はまた脾臓、胸腺、骨髄、消化管に付随したリンパ組織といったリンパ球の循環や産生を行う全ての構造を含む。今日われわれがリンパ系と言っているものはラドベックとバートリンが初めて独立に記述した。
 
血液の溶解成分は体内の細胞や組織に直接混ざり合うことはない。まず組織液と混ざり、次に細胞に入る。リンパ液というのはリンパ管に流れ込んだ組織液のことである。リンパ液は血液のようにポンプで体内を流れるわけではなく、大体骨格筋の収縮によって流れる。
 
リンパ系には3つの相互に関連した機能がある。組織から組織液を取り除く働きが1つ。吸収された脂肪酸と脂質を乳糜として循環系まで運ぶ働きが1つ。最後に、単球や、抗体産生細胞などのリンパ球をはじめとする免疫細胞を産生する働きである。
 
様々な器官のリンパ排液についての研究は、がんの診断と治療の点から重要である。リンパ系は体内の多くの組織に物理的に近いところに位置しているため、体内の様々な部位の間で転移と呼ばれるプロセスを起こしてがん細胞を運んでしまう。がん細胞はリンパ節を通過するからそこで捕らえることができる。もしそこでがん細胞を破壊できないなら今度はリンパ節が2次性腫瘍の病巣となる恐れがある。
 
リンパ系に病気や何らかの異常が起きると、腫脹や他の症状が現れる。リンパ系の異常は体の感染症への抵抗力を損なう。
 
<!-- 日本語版部 -->
<!-- [[Image:Lymphatic system.png|thumb|ヒトのリンパ系]] -->
== 簡易解説:リンパ系 ==
'''リンパ系'''(リンパけい、淋巴系)は、[[リンパ器官]]([[リンパ節]]、[[リンパ管]]、[[胸管]]など)からなる複雑なシステムで、[[リンパ液]]の生成及び、組織から[[循環系]]への移動にあずかる。また[[免疫系]]において大きな役割をはたす。
 
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リンパ液の元は[[毛細血管]]から漏出した[[血漿]]が細胞間隙にて[[組織液]]となったものである。血漿は[[静水圧]]によって毛細血管から押し出され、組織液に混じる。ほとんど(90%程度)の組織液は[[浸透圧]]によって血管内に戻るが、一部(10%程度)は細胞間に残り、組織液の量は次第に増加することになる。その結果余剰が生じ、余剰部分はリンパ管の中に拡散し、リンパ系によって循環系に戻されることになる。要するに、リンパ液はリンパ系にとりこまれた組織液そのものである。
 
=== リンパ液の循環 ===
リンパ系は第二の循環系として機能している。リンパ系ではリンパ節の白血球が体を癌細胞、真菌、細菌、ウイルスから守っている。ポンプ(心臓)を中心とした閉じた管からできている血管系と違って、リンパ系は開放循環系である。リンパ系にかかる圧力は低く、液の流速も遅い。リンパ系の圧力は[[蠕動]]、[[骨格筋]]の収縮によってもたらされ、リンパ管には[[静脈]]と同じく、逆流防止の[[半月弁]]がある。リンパ液の移動は主に骨格筋の収縮を原動力とするが、周期的な管壁の収縮もリンパ液のリンパ管への移動を助ける。毛細リンパ管は集合しつつ次第に太くなり、右の上半身からのリンパ液は右リンパ管に、他の部位からのリンパ液は[[胸管]]に集まる。これらは右及び左の[[鎖骨下静脈]]に流れ込み、血液循環系と合流する。
 
=== 脂質の運搬 ===
[[リンパ管]]は [[乳糜管]]とも呼ばれ、[[消化管]]の表面に沿って分布する。[[小腸]]で吸収された[[栄養素]]はほとんどが[[門脈|肝門脈]]を通って[[肝臓]]に流れ込みそこで処理されるが、脂質はリンパ液に乗って胸管を通り静脈まで運ばれる。小腸からの脂質を多く含むリンパ液は[[乳糜]]と呼ばれる。脂質は一旦体循環に乗った後で肝臓において処理される。
 
=== リンパ器官 ===
リンパ器官を構成する付随的なリンパ組織には[[胸腺]]、[[脾臓]]、[[リンパ節]]、[[パイエル板]]、[[扁桃]]、[[虫垂]]、赤色[[骨髄]]がある。これらの器官を足場にして、[[B細胞]]や[[T細胞]]、及び[[マクロファージ]]、[[樹状細胞]]など他の免疫細胞が体を循環する。他にも、[[細網内皮系]]と呼ばれるものがある。[[病原体]]が体内に侵入したり、体が[[抗原]](スギ花粉のような)に晒されたりすると、抗原がリンパ液に移動し、リンパ液はリンパ管を通って近傍のリンパ節に運ばれる。リンパ液の中の細菌、癌細胞といった異物はリンパ節で除去される。マクロファージおよび樹状細胞が病原体を貪食・処理し、[[リンパ球]]に対して抗原提示を行う。病原体を認識するとリンパ節は腫大し、産生された免疫細胞が新たに加わって生体防御にあたることになる。
<!-- 日本語版部ここまで -->
 
== 構成 ==
リンパ系はかいつまんで述べると運搬系とリンパ組織からなる。運搬系はリンパ液を運び、毛細リンパ管、リンパ管、右リンパ本幹および胸管などからなる。
 
リンパ組織は何を置いても免疫応答に係わり、リンパ球や他の白血球からなる。それらはリンパ液が通過する結合組織の網状構造にどっぷりつかっている。リンパ球が濃厚に存在して塊のようになっているリンパ組織部位はリンパ濾胞として知られている。リンパ組織の構成は、リンパ節として構造的な構成が行き届いているものか、あるいは粘膜関連リンパ組織として知られる構造的に緩やかな構成を取る''リンパ濾胞''のいずれかである。
 
== リンパ液の生成 ==
{|style="float:right"
|+'''毛細血管の微小循環'''
|-
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|[[Image:Illu_capillary_microcirculation-ja.jpg|thumb|250 px|right|血液からの組織液の生成]]
|}
血液は栄養素や組織にとって重要な代謝産物を供給し、組織はそれらを代謝して老廃物を出すので血液はそれを集める。それには血液と組織の間でそれぞれの構成成分を交換する必要がある。しかしこの交換は直接的ではなく、血液によって作られる''組織液''という仲介を経て行われる。組織液(ISF)は細胞間の間隙に存在し、細胞の直接的な環境をなす液である。血液およびこれを取り巻く細胞が組織液との間で絶え間なく物質の交換および除去を行うので、組織液の構成成分は絶えず変化している。組織液と血液間では水や溶解成分は自由に行き来(拡散)できるので、互いに動的平衡にある。両液間の交換は毛細血管と呼ばれる小血管の壁を通して行われる。
 
{|style="float:left"
|+'''組織占有部の毛細リンパ管'''
|-
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|[[Image:Illu_lymph_capillary-ja.png|thumb|300 px|left|組織液からのリンパ液生成(盲管となっている毛細リンパ管[深緑色の矢印で示す]にどうやって組織液が入って行くか)]]
|}
組織液は高い血圧によって毛細管の動脈(心臓から出て来ている)末端で生成される。そして''その大部分''は静脈末端と小静脈に還ってくる。残った液(10~20%)は毛細リンパ管にリンパ液として入る。したがってリンパ液は生成当初は組織液と同じ成分からなる水のような清明な液である。しかしリンパ節を通過して血液と接触すると細胞(特にリンパ球)やタンパク質を次第に多量に含むようになる。
 
2つある一次リンパ器官は一つが胸腺でもう一つは骨髄である。これらは免疫細胞が作られ成熟する場所である。二次リンパ器官はまとまって嚢状になっているかあるいは散らばった状態で存在するリンパ組織からなる。嚢状組織になっているものには脾臓やリンパ節があり、拡散状のものには消化管付随リンパ組織および扁桃腺がある。
 
== リンパ液の循環 ==
チューブ状の管はリンパ液を血液に戻し、最終的には、血液から組織液が作られたときに失った分量を補う。これらの流路はリンパ管(リンパ腺)と呼ばれる。
 
=== リンパ管の一般構造 ===
リンパ管の一般構造は血管の構造をベースとしている。内壁面は上皮組織型の平坦な細胞1層からなる上皮が覆い、その細胞は内皮細胞と呼ばれる。この細胞層は液を機械的に運搬する役割をもつ。その下には基底膜があるが不連続なつながり方なので液漏れが多い。内皮細胞のまわりをぐるっと取り巻いて平滑筋の層があり、縮まったり(収縮したり)緩んだりして内腔の口径を変化させる。最も外側の層は繊維性の組織からなる外膜である。ここに説明した一般構造は大きなリンパ管にのみ見られるものである。小さなリンパ管には数少ない層しかない。最も小さな管(''毛細リンパ管'')には筋層と外側の外膜がない。これらは先に伸びて行くと他の毛細管と合し、そうするうちに成長して太くなる。そしてまず外膜をまとい、次に平滑筋をまとう。
 
リンパ液の導管系は大まかに言って2種類の管からなる。''起始部リンパ管''として専ら組織液からリンパ液を集める機能をもった''前リンパ管''あるいは''毛細リンパ管''が一つ。もう一つはリンパ液を流れさせる大リンパ管である。
 
心臓血管系と違ってリンパ系は閉鎖系ではなく、中枢ポンプももたない。リンパ液の流れは蠕動、弁、近くの骨格筋が収縮する際の圧縮作用、動脈の拍動による。これらによる圧力は低いにも拘わらず流れは起きる。
 
=== 毛細リンパ管 ===
{|style="float:left"
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|[[Image:Lymph_vessel-ja.png|thumb|200px|left|リンパ管を流れるリンパ液にかかる推進力]]
|}
リンパ液循環は盲管(一端が閉じている)で始まる。これは表面の透過性が高い毛細リンパ管で、組織液の圧力が十分に高いとき液が互いの間を通過できるようにボタンのようなつなぎ目をもった内皮細胞から作られている。これらボタンのようなつなぎ目は血小板内皮細胞接着分子-1(PECAM-1)のようなタンパク質フィラメントからなる。ここに配備されているバルブ系は、吸収したリンパ液が組織液のほうに漏液しないようにする。管の内腔に沿ってリンパ液が逆行しないようにする半月弁の系がもう一つある。毛細リンパ管は互いの間を接合するものを多数もっており繊細なネットワークを形作っている。
 
運動の際に起こる、管壁のリズムをもった収縮も、液がもっと小さなリンパ管、つまり毛細管に引き込まれるのを助けるようだ。組織液が組織に腫れをもたらす場合、浮腫と呼ばれる。体に張り巡らされた循環経路の系がつながって行くうち、液は次第に大きなリンパ管へと運ばれ、最後に右リンパ本幹(体の上半身のリンパ液に対して)および胸管(体の残りの部分のリンパ液に対して)に達する。両管とも右および左鎖骨下静脈で循環系に液を運び込む。この系はリンパ節の白血球と協同し、体を、がん、カビ、ウイルス、細菌の感染から防いで守る。この系は二次循環系として知られている。
 
=== リンパ管 ===
毛細リンパ管はリンパ液をより太い収縮性のリンパ管に移す。このリンパ管は弁も平滑筋ももっている。これらは''集合リンパ管''と言われる。集合リンパ管がより多くの毛細リンパ管から、割り当てられた役目であるリンパ液収集を行ううち、これらはもっと太くなる。そしてリンパ節に入っていくので輸入リンパ管と呼ばれる。ここでリンパ液はリンパ節組織で濾過され輸出リンパ管に送り込まれる。輸出リンパ管は(右リンパ本幹あるいは胸管)のようなリンパ管に直接つながるものがあるし、輸入リンパ管として、他のリンパ節につながるものもある。右リンパ本幹、胸管は鎖骨下浄水化静脈に流入してリンパ液を血流に戻す。
 
リンパ管の機能的単位は''リンパアンギオン''(''lymphangion'')として知られている。これは2つの弁の間の断片で、長さ:半径比に依存した収縮性をもち、液を前方に押し出す収縮性の容器のような働き、あるいはリンパ液がその場に留まるよう抵抗する管の働きももつ。
 
== リンパ組織 ==
リンパ系に関連したリンパ組織は感染症や腫瘍の広がりから体を守る免疫作用に係わる。リンパ組織は、様々な種類の白血球、中でもリンパ球が最も多いが、それらが網の目状に絡んで存在している結合組織からなる。
 
リンパ組織はそこに含まれるリンパ球の発達・成熟段階によって第1、第2、第3と分けられる。胸腺および骨髄は第1リンパ組織で、リンパ球の産生と初期の選択に係わる。第2リンパ組織はリンパ球と反応する外来性分子または不活性な分子の変化したもの(抗原)に環境を提供する。例としてはリンパ節、扁桃腺のリンパ濾胞、粘膜内リンパ組織(MALT)に関連したパイエル板などがある。第3リンパ組織はきわめてわずかなリンパ球しかもたない。炎症をもたらすような抗原に曝されたときのみ免疫的な役割を果たす。その際には血液やリンパ液からリンパ球を呼び寄せる。
 
=== リンパ節 ===
 
{|style="float:right"
|+'''リンパ節の構造'''
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|[[Image:Illu_lymph_node_structure-ja.png|thumb|350px|left|リンパ節と輸入および輸出リンパ管]]
|}
リンパ節はまとまりのあるリンパ組織の集合体でリンパ液は流れの途中でここを通過し血液に還る。リンパ節はリンパ系に沿って間隔を置いて位置している。いくつかの輸入リンパ管はリンパ液を運び込み、そこでリンパ節の構造物によってろ過される。そうして輸出リンパ管を通って出て行く。
 
リンパ節の構造物は、外側の''皮質''と呼ばれる部分にあるリンパ濾胞と、内側の''髄質''と呼ばれる部分からなる。髄質は''門''として知られている部分を除き、まわりを皮質ですっぽり取り囲まれている。門はリンパ節の表面にくぼみとなっており、もしこれがないならリンパ節は球体か卵形のところ豆形を呈している。輸入リンパ管はリンパ節のここから直接発している。リンパ節に血液を供給している動脈と静脈は門を通って出入りする。
 
リンパ濾胞はリンパ球がびっしりと詰まった集合体で、リンパ球の数、大きさ、それに配置はリンパ節の機能的な段階にしたがって変化する。例えば、濾胞は外来抗原に出合うと眼に見て大きくなる。B細胞の選択はリンパ節の胚中心で起こる。
 
リンパ節は特に、胸部の縦隔、首、骨盤、腋窩(脇の下)、鼠径部(股間)、それに消化管の血管に付随して多く見られる。
 
== 脂肪酸運搬系の機能 ==
乳糜管と呼ばれるリンパ管は胃腸管、特に小腸の内面壁にある。小腸に吸収された他の大部分の栄養素は門静脈を経由して門脈系に注ぎ込まれて、肝臓に運ばれ処理されるが、脂質(脂肪)は、胸管を経由して血液循環系に運ばれ、リンパ系に渡される。小腸のリンパ管由来の成分豊富なリンパ液は乳糜と呼ばれる。血液が循環すると、液体は体の組織の中に染み出していく。この液体は細胞に食物を運び老廃物を血液に戻すので重要である。循環系に注ぎ込まれた栄養素は大循環を通って肝臓で処理される。リンパ系は一方向系であって、組織液を運んで血液に戻す。
 
== リンパ系の病気 ==
リンパ浮腫はリンパ液の蓄積によって引き起こされる腫れである。これはリンパ系が障害を受けた場合、あるいは先天性の異常によっても起こる場合がある。通常四肢に異常が認められるが、顔、首、腹部に異常が認められる場合もある。この病気の患者は推定1億7千万人いるとされ、進展の程度により3段階に分けられる。
*'''第1段階''':四肢の腫れ部位を押すとくぼみが残り元に戻るまでしばらくかかる。繊維形成(硬化)はほとんどないので回復はしばしば見られる。部位を高く上げることで腫れは引く。
*'''第2段階''':押してもくぼみは残らない。高く上げても腫れは引かない。放置すると繊維化が進む。
*'''第3段階''':この段階はしばしば象皮病と呼ばれる。一般に下肢に限られリンパ浮腫が長期にわたって放置された場合に起こる。治療はわずかな改善をもたらすが、回復は困難である。
 
リンパ節腫大のよく見られる原因の中には、感染や、伝染性単核球症およびがん、例えば、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、がん性細胞のリンパ系を介した転移がある。象皮病ではリンパ管の感染によって皮膚の肥厚が起こり皮下組織の増大が、特に下肢や生殖器に起こる。最もありふれているのがリンパ系フィラリア症として知られている寄生虫症によるものである。リンパ管肉腫は悪性の軟部組織腫瘍(軟部組織肉腫)で、リンパ管腫はしばしばターナー症候群に付随して現れる良性腫瘍である。リンパ管平滑筋腫症はリンパ管の平滑筋の良性腫瘍で肺に見られる。
 
== リンパ組織の発達 ==
リンパ組織は胚発生の5週目終わりまでには発達し始める。リンパ管は発達を始めた中胚葉起源の静脈から発生したリンパ嚢から生ずる。
 
最初に現れるリンパ嚢は内頸静脈と鎖骨下静脈の連結部の、対になった頸部リンパ嚢である。頸部リンパ嚢からは毛細リンパ管叢が胸部、上肢、首、頭に広がる。この毛細リンパ管叢の中には大きく広がってそれぞれの領域でリンパ管を生成するものもある。頸部リンパ嚢それぞれは、少なくとも一つの頚静脈との連結を保持し、左側のリンパ嚢は胸管上部が占める部域に伸びて行く。
 
次に現れるリンパ嚢は小腸腸間膜の根元に生じる対でない後腹膜リンパ嚢である。これは未熟大静脈と中腎管から発達する。毛細管叢とリンパ管が後腹膜リンパ嚢から腹部内臓と横隔膜へと広がっていく。リンパ嚢は乳糜槽との連結は確立するがまわりの静脈との連結は失う。
 
最後のリンパ嚢は対になった臀部リンパ嚢で、腸骨静脈から発達する。臀部リンパ嚢は、腹壁や骨盤、および下肢の毛細管叢とリンパ管を生成する。臀部リンパ嚢は乳糜槽と合して近くの静脈との連結は失う。
 
全てのリンパ嚢は、乳糜槽が発達する嚢前部を除いて間葉細胞の侵入は免れず、リンパ節のグループになるような変化を受ける。
 
脾臓は胃の背部腸間膜の層の間の間葉細胞から発達する。胸腺は第3鰓嚢の突起から生じる。
 
== 歴史 ==
[[Image:Galen.jpg|thumb|300px|right|パーガマムのクラウディウス・ガレニウス131~201AD。ガーレンのほうがよく知られる。古代ギリシャの医者]]
ヒポクラテスはBC5世紀にリンパ系について初めて言及した人物の一人であった。彼の著作『関節について』で、彼はリンパ節について簡潔に一文で述べた。ローマの医者であったエフェススのルーファスはAD1~2世紀に、腋窩、鼠径部、腸間膜のリンパ節を胸腺とともに見出した。リンパ管に最初に言及したのはBC3世紀のエジプトの解剖学者ヘロフィリアスであったが、間違った結論として、乳糜管(腸のリンパ管)のことを『リンパ管の吸収管』と言っており、さらにこれは肝門静脈に入って肝臓に行くとも述べた。ルーファスとヘロフィリアスの発見はギリシャの医師ガーレンによってさらなる宣伝がなされた。ガーレンはAD2世紀にサルやブタの解剖を行った観察から乳糜管や腸間膜のリンパ節について記述した。
 
17世紀に至るまでガーレンの考えは最も流布されていた。したがって、血液は肝臓で乳糜から産生され、腸と胃によって病気と混ざり合い、他の器官からは様々な気の元を付加され、そして体の全ての器官によって消費されると信じられた。この理論では血液は多数回消費と産生を繰り返さねばならなかった。彼の考えは17世紀まで検討されずに保持されたし、その時代でさえ支持する医者がいた。
 
[[Image:Olaus Rudbeck Sr (portrait by Martin Mijtens Sr, 1696).jpg|thumb|200px|left|オラウス・ルドベック1696年]]
16世紀半ば、ガブリエル・ファーロービウス(ファーロービウス管の発見者)は、今日乳糜管として知られているものを『腸を回って来る黄色物で一杯のもの』と記述した。1563年頃、解剖学教授バートロメオ・ユースタチはウマの胸管を''vena alba thoracis''と記述した。次の画期的な事例は1622年に医師ガスパロ・アセリーがイヌの腸のリンパ管を見つけて''venae alba et lacteae''と命名したことであった。これは今日単に乳糜管として知られる。乳糜管は第4番目の管と呼ばれた(他の3つは、動脈、静脈、神経で、当時神経は管の一種と信じられていた)。そしてガーレンの考えが1つ間違いであることを証明した。つまり乳糜が静脈によって運ばれること。しかしなお乳糜管が乳糜を肝臓に運ぶこと(ガーレンに教えられたように)を信じていた。彼はまた胸管は見出したがそれが乳糜管と連結していることは見逃していた。この連結は1651年にジーン・ペクエットによって見出され確かなものと認められた。彼は白色の液がイヌの心臓で血液と混ざり合うことを発見した。彼は腹部に圧力を加えると流れが上昇したので液は乳糜かも知れないと考えた。彼はこの液が胸管に行くこと、ついで乳糜で満たされた嚢に行くことを突き止めた。この嚢は今日乳糜槽と呼ばれているが、彼は''chyli receptaculum''と呼んだ。彼はさらに研究を続け、乳糜管の内容物は胸管を経由して静脈系に入ることを見出した。こうして乳糜管が肝臓で終わるのではないことが確実に証明され、乳糜が肝臓に行くというガーレンの2番目の考えの誤りが証明された。ヨハン・ベスリンギウスは1647年にヒトの乳糜管の最も初期のスケッチを描いた。
 
[[Image:Thomas bartholin.jpg|thumb|right|150px|トーマス・バートリン]]
血液が肝臓と心臓によって新たに産生されるのでなく体内を循環するという考えはウィリアム・ハーベイの研究の結果として初めて認められた。彼の研究は1628年に出版された。1652年、スウェーデン人オラウス・ルードベック(1630-1702)は、肝臓に、清明な(かつ白色でない)液を含んだ透明な管を発見した。そこでそれを肝臓水管(hepatico-aqueous vessels)と名づけた。彼はまたこの管が胸管につながっていること、また弁をもっていることに気づいた。彼はこの発見をスウェーデン女王クリスチーナの宮廷で発表したが1年間出版しなかった。しばらくして類似の発見がトーマス・バートリンによって出版された。彼はさらに出版して、そのような管は体のあらゆるところにあり、肝臓だけに限らないことを記した。彼もそれらの管を『リンパ管』と名づけた一人である。この経緯はバートリンの弟子の一人マーチン・ボグダントとルードベックの間の激しい論争の発展につながり、ルードベックはバートリンを盗作の罪で告訴した。
 
== 外部リンク ==