「文書偽造の罪」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
編集の要約なし
2行目:
'''文書偽造罪'''(ぶんしょぎぞうざい)は[[刑法]]第17章「文書偽造の罪」に規定される罪。文書に対する公共の信用が[[保護法益]]である。講学上[[社会的法益]]に対する罪に分類される。広義の文書偽造罪としては、詔書偽造等の罪(154条)、公文書偽造等の罪(155条)、虚偽公文書作成等の罪(156条)、公正証書原本不実記載等の罪(157条)、偽造公文書行使等の罪(158条)、私文書偽造行使等の罪(159条)、虚偽診断書等作成罪(160条)、偽造私文書等行使罪(161条)、[[電磁的記録不正作出及び供用の罪]](161条の2)がある(なお、一部の犯罪については、他人の[[氏名]]や[[印影]]などを表示すると罪名の冒頭に「有印」の文字が加わる)。
 
[[刑法学]]上は、[[偽造]]の他に[[変造]](後述)や偽造文書の行使(後述)も一括して文書偽造罪として論じるのが一般的であるので、以下、本項でもこれにならう。
 
== 保護法益 ==
15行目:
:また、文書は原本に限らず、コピーもまた偽造罪の対象となる文書性を有するとされている(最判昭和51年4月30日刑集30巻3号453頁等)。これは、コピーであっても本罪の保護法益である「公共の信用」が害される場合がありうるためである。
 
*[[図画]](法律の世界では「とが」と発音する。
:上記にいう文書のうち、[[象形的符号]]を用いたものをいう。
 
== 行為 ==
30行目:
::その結果作成された文書を、虚偽文書という。
*[[変造]]
:真正に成立した文書に変更を加えることをいう。ただし、預金通帳の預入れ年月日だけを改ざんした場合など、本質的でない部分を改変する場合に限られる。本質的部分を改変した場合は、新たな文書を作成したのと同じであるから、偽造となる。<!--「本質的部分」というのは具体的にどのようなものを指すか?-->
:*有形変造
::権限のない者が、真正文書を改変することをいう。
46行目:
 
=== 公文書偽造等の罪 ===
通常の公文書の偽造等を処罰する犯罪類型である。
通常の公文書の偽造等を処罰する犯罪類型である。*行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処せられる(刑法155条1項)。また、公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、同様である(刑法155条2項)。 公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する(刑法155条3項)。
*また、公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、同様である(刑法155条2項)。
*公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する(刑法155条3項)。
 
=== 虚偽公文書作成等の罪 ===
*公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、刑法154条、155条の規定の例によって処罰される(刑法156条)。

[[公務員]]が犯罪の主体となる([[身分犯]])。非公務員が[[間接正犯]]によった場合では本罪は成立せず(最判昭和27年12月25日刑集6巻12号1387頁)、[[公正証書原本不実記載]]等の罪の成立の可能性が問題となるに留まる。
 
=== 公正証書原本不実記載等の罪 ===
*公務員に対し虚偽の申立てをして、[[登記簿]]、[[戸籍簿]]その他の'''権利若しくは義務に関する公正証書'''の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処せられる(刑法157条1項)。
*公務員に対し虚偽の申立てをして、[[免状]]、[[鑑札]]又は[[旅券]]に不実の記載をさせた者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する(刑法157条2項)。これらの罪については未遂も罰せられる(刑法157条3項)。
:債務整理などの前に「財産隠し」のために不動産の所有権移転登記をする例があるが、このような場合は「不実記載」ではない。
:不動産登記は「当事者たちから法に定める手続きに従った登記申請があった」ことを証明する制度であって登記内容が真実であることを証明する制度ではない。従ってどのような意図・悪意があろうとも、正当な当事者による登記は'''無形偽造'''と同じなので処罰対象とはならない。
:もちろん、その意図・悪意が他人を騙す・差押えを免れる手段だと明らかになった時には、[[詐欺]][[競売妨害]]などの罪として処罰されるし、登記を信じて取引をした者は保護される。
 
=== 偽造公文書行使等の罪 ===
64 ⟶ 70行目:
 
=== 私文書偽造行使等の罪 ===
*行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する(刑法159条1項)。
*他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、同様である(刑法159条2項)。
*刑法159条1項と2項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処せられる(刑法159条3項)。
 
=== 虚偽診断書等作成罪 ===
*[[医師]]が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、三年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処せられる(刑法160条)。 医師が主体となる[[身分犯]]である。
 
=== 偽造私文書等行使罪 ===
刑法159条(私文書偽造行使等)と160条(虚偽診断書等作成)の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処せられる(刑法161条1項)。未遂も罰せられる(刑法161条2項)。
 
<center>