「ハーシーとチェイスの実験」の版間の差分

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ハーシーとチェイスは、[[大腸菌]]を宿主とする[[ウイルス]]である、[[ファージ|T2ファージ]]を用いて実験を行った。このウィルスは[[大腸菌]]に寄生し、内部で増殖すると細菌を崩壊させて外に出てきて、新たな細菌に感染する。ファージはほぼ核酸とタンパク質のみからできており、彼らはこれらのどちらかが遺伝子であると考え、それぞれの振る舞いを追跡することを目指した。そのための目印として[[放射性同位体]]を利用した。
 
彼らは放射性同位体である[[リン]]32(リンはDNA中には存在するが、タンパク質を構成する20種の[[アミノ酸]]には含まれない)を用いてファージのDNAを、[[硫黄]]35(硫黄はアミノ酸の[[システイン]]と[[メチオニン]]中には存在するが、DNAには含まれない)を用いてタンパク質をマークラベルした。
 
具体的には、リン32の場合であれば、まず大腸菌のための[[培地]]で、その成分のリンを放射性同位体としたものを用意し、これにの培地で大腸菌を[[培養]]し増殖させる。これによってその体を構成するリンがすべて放射性同位体である大腸菌ができる。次にこの大腸菌にファージを感染・増殖させると、それによって生じたファージに含まれるリンは放射性同位体からなるものとなる。また、このように放射性同位体によってラベルされた物質を放射性トレーサーと呼ぶ。
 
このようにしてトレーサーでマークしラベルされたファージを彼らは通常の(放射性同位体によってラベルされていない)大腸菌に感染させ、感染した細胞をミキサーで処理し、[[遠心分離#遠心機|遠心機]]を用いて二つの画分に分けると、一方からはタンパク質からなるファージの空の外殻が得られ、もう一方からはファージに感染したバクテリア大腸菌の細胞が得られる。この手法を用い、放射性トレーサーがどちらに見いだせるかを調べた。すると、リン32マークラベルした場合、放射性トレーサーはバクテリア大腸菌の細胞からのみ検出され、タンパク質の外殻からは検出されなかった。
 
また、硫黄35マークラベルした場合は放射性トレーサーがタンパク質の外殻から検出され、感染したバクテリア大腸菌からは検出されなかった。しかも、感染直後に外殻を取り分けた場合にも、大腸菌の内部でファージの増殖が滞りなく進むことも確認された。それによって、バクテリアに感染する遺伝物質はDNAである、ということが裏付けられた。
 
== 背景 ==
当時、ウィルスは[[電子顕微鏡]]によってようやくその形を確認できるようになったところであり、たとえばファージの場合、下に示されている様な細部の構造はまだ知られておらず、単に頭部と尾部に分かれていることが明らかになっていたにすぎない。ウィルスの増殖の仕組みは全くわかっていなかった。細胞培養も未発達であったから、生きた細胞内でしか増殖しないウィルスの研究は困難であり、その中で培養のたやすい細菌を宿主とするウィルスであるファージの存在が研究対象として重視され始めていた。
 
T2ファージの場合、感染後一定時間の後に百個ものウィルス粒子が出現するのであるが、それには数十分しか要せず、これは一般の微生物の増殖よりに比べてかなりさである。この間の経過については、主として2つの説があった。一つは一般の微生物と同様に細胞内で二分裂で増殖するはずだ、というもので、もう一つはウィルスの母体あるいは前駆物質の様なものが細胞内にははじめから存在しており、ファージが感染することで前駆物質が組み立てられてウィルス粒子が出現する、いわば[[触媒]]の様な役割を担う、とするものであった。また、ファージの侵入後、一定時間は有効なファージ粒子が細胞内に存在しない時間があり、これを暗黒期と言うが、これの理由も謎であった。
 
この実験の以前にもファージに放射性同位体でマークして追跡する実験は存在し、その結果、ファージを構成する物質のほとんどが大腸菌由来であることが判明しており、これはこの触媒説を支持する、との見方があった。ハーシーらの実験は、これをより詳細に物質に分けて追跡したものである。
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[[Image:Tevenphage.svg|thumb|T2ファージの構造の概観]]
 
現在では、ファージの構造は頭部の内部のに収められている遺伝物質とそれを包むタンパク質の外殻のみで構成されており、外殻が[[真正細菌|バクテリア]]の外膜に取り付き、自身の遺伝物質を注入することでバクテリアに感染し、空になった外殻をバクテリアに残し、バクテリアの遺伝機構およびタンパク質生産機構でファージを生産させることがわかっっている
 
より一般的には、ウィルスを生物と見なすかどうかの議論はともかく、遺伝子の実体がDNAであることを直接に示した最初の例でもあった。先行する例として[[アベリーとマクラウドとマッカーティの実験(|アベリーらの実験]]があるが、これは直接に遺伝子を確認したのではなく、[[形質転換]]の原因物資を特定したものであった。それが遺伝子であろうとの推測はなされていたが、この実験ではDNAが実際に遺伝子として振る舞うことを確認した点で重要である。