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'''失調'''(しっちょう)とは、医学用語で、ある機能が調節を失うこと。様々な機能について用いられ、複数の英語またはラテン語の訳語になる。運動失調、自律神経失調症、統合失調症など語尾に用いられることが多い。これに対して単に失調という場合は、英語の ataxia の訳語'''運動失調'''と同義に用いられることが最も多いが、incontinence(または incontinentia)の訳語として、失禁と同義に用いられることもある<ref>ステッドマン医学大辞典第4版、メジカルビュー社、1997年</ref>。
 
[[運動]]が円滑に行われるためには多くの[[筋肉]]の協働、協調が必要だが、その協調を欠いた状態が失調と呼ばれる。個々の筋肉の力は正常であるが運動は拙劣にしか行えなくなる。筋力の正確な[[コントロール]]ができず、敏速反復運動や運動の急速な抑制が不能になる真の運動失調である小脳性失調の他、[[深部感覚]]が損なわれた後索失調(脊髄性失調、知覚性失調)、[[平衡感覚]]が損なわれた前庭迷路性失調がある。
 
== 運動失調 ==
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=== 運動失調の原因 ===
正常な随意運動は[[大脳皮質]]運動領から遠心性運動路、[[錐体路]]、[[末梢神経]]、さらに筋肉、運動器までのいずれかに損傷があれば遂行されない。[[脳卒中]]後の[[片麻痺]]による筋トーヌス([[骨格筋]]が常に保持する一定の[[緊張]]度)の亢進や、[[パーキンソン病]]で認められる筋固縮(筋硬直)や、糖尿病性多発神経炎の末梢性感覚障害などにおいては運動が円滑に行われず不安定で、失調を呈する。しかし運動失調を起こす最も代表的な疾患は[[小脳]]疾患である。小脳虫部の疾患では[[平衡感覚#平衡機能障害|平衡機能障害]]体幹失調が起こり、小脳半球の疾患では筋トーヌス低下、協調運動障害、拮抗運動障害、運動測定障害が起こり、他にも共同運動障害、指先の巧緻運動障害、蹣跚歩行、偏倚歩行など様々な障害が現われ、結果として運動失調を呈する。
 
運動失調は全身性疾患または神経疾患によって起こりえる。全身疾患としては過労、ビタミン欠乏、起立性低血圧が知られている。神経疾患としては、小脳障害、前庭障害、脊髄後索障害、末梢神経障害の可能性がある。[[小脳]]障害であれば[[小脳徴候]]、[[前庭]]障害ならば内耳症状や[[眼振]]、脊髄[[後索]]障害ならばロンベルグ徴候などで診断をすることができる。
 
診察手順としてはまずは[[ロンベルグ徴候]]を調べる。ロンベルグ徴候陰性ならば'''小脳性運動失調'''(小脳失調)である。疾患としては小脳[[梗塞]]などが代表的である。ロンベルグ徴候陽性ならば[[深部感覚]]障害を調べる。深部感覚障害がなければ、前庭障害の可能性が高い。深部感覚障害があれば表在感覚障害を調べる。表在覚障害がなければ脊髄後索障害と考えられる。これは'''感覚性運動失調'''と呼ばれる。感覚が失調をきたすのではなく、あくまで感覚が原因で運動失調をきたすことであり、注意を要する。表在覚の障害もあれば、末梢神経障害である。
 
この他に大脳皮質が原因となり、特に[[前頭葉]]性の障害であるとされる大脳性運動失調症がある。
 
=== 神経中枢系障害の部位別分類 ===
運動失調を引き起こす神経中枢系障害の部位別に分類すると大脳性運動失調症、小脳性運動失調症、前庭性運動失調症、脊髄性運動失調症となる。
==== 大脳性運動失調症 ====
大脳性運動失調症(英:cerebral ataxia、独:cerebrale Ataxie)は大脳皮質、特に[[前頭葉]]性の障害によって起こる。[[脳血管障害]]性病変、脳[[萎縮]]、[[外傷]]、[[腫瘍]]、[[ピック病]]、[[慢性硬膜下血腫]]などがあり、度々問題視される。失調性歩行の他、精神機能の低下が認められる。
 
大脳前頭葉失調症は fronto‐ponto‐cerebellar pathway の障害によるものとされ、表出性[[言語障害]]が多く認められ、fronto‐thalamic pathway が遮断された場合には筋緊張亢進 Gegenbalten、強制把握、[[深部腱反射|腱反射]]亢進を生じ、[[バビンスキー反射]]が現れる。
 
==== 小脳性運動失調症 ====
小脳性運動失調症(英:cerebellar ataxia、独:cerebellare Ataxie)は小脳腫瘍、[[血管]]性障害、変性疾患、小脳萎縮、[[奇形]]などの小脳傷害に伴う症状で、筋力の正確な[[コントロール]]を欠き、敏速反復運動や運動の急速な抑制が不能になる真の運動失調である。小脳虫部の損傷では主として体幹性失調を来し、起立歩行障害(蹣跚歩行)、大歩行を呈し、一般に姿勢、[[体位]]保持が困難で平衡機能障害を起こす。また、小脳半球性障害では四肢の筋トーヌス異常、筋緊張の低下を来し、患側方向への偏倚歩行、蹣跚歩行、協調運動不能、指-指試験や指-鼻試験における誤示、拮抗運動障害、運動測定障害、共同運動障害、指先の巧緻運動障害、ホームズ・スチュアート現象の他、企図[[振戦]]や小脳性言語(断続性、爆発性)が認められる。
 
==== 前庭性運動失調症 ====
前庭性運動失調症(英:vestibular ataxia、独:vestibulare Ataxie)は前庭迷路性失調症ともいう。
前庭機能障害に由来し、その多くは耳科的、内耳性障害性疾患の存在に起因し、もしくはそれらの後遺症として引き起こされたものである。メニエール病、[[突発性難聴]]、また[[ストレプトマイシン]]、[[カナマイシン]]などの[[薬物中毒]]による[[前庭神経]]の障害、[[外傷]]、[[梅毒]]、[[音響性外傷|音響外傷]]、耳硬化症、内耳炎やその続発症などがある。前庭迷路血管に血行障害のある[[めまい#中枢性めまい|中枢性めまい]]にも認められる。一般に[[平衡感覚#平衡機能障害|平衡機能障害]]の状態であり、めまいには耳症状を伴い、方向一定性眼振を示す。
 
==== 脊髄性運動失調症 ====
脊髄性運動失調症(英:spinal ataxia、独:spinale Ataxie)は後索運動失調症ともいう。脊髄後索障害により[[位置覚]]、関節覚、握覚、振動覚、重力覚などの深部感覚や平衡感覚が損なわれ、失調を来すものでる。後索障害ではほとんどの触覚の求心性[[線維]]が[[後根]]から入るため、足底部[[触覚]]障害により床面との接触感覚の認知が不十分となって浮遊感を覚えるためによろけるものとされる。
脊髄側索障害性疾患([[錐体路障害]])、筋委縮性側索硬化症、家族性疼性[[対麻痺]]などで認められるよろけ状態は、腱反射の亢進、[[下肢]]の疼性脱力のために運動が拙劣となって起こるもので、後索障害に認められる真の運動失調とは異なる。フリードライヒ病、亜急性連合性脊髄変性症、脊髄癆などでは後索性失調が見られ、ロンベルグ徴候が陽性となる。
 
== 歩行障害 ==
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*神経内科ケーススタディ ISBN 4880024252
*Q&Aとイラストで学ぶ神経内科 ISBN 4880024635
*『南山堂 医学大辞典』 南山堂 2006年3月10日発行 ISBN 978-4-525-01029-4
 
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