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{{main|スピングラス}}他、sty
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単に強磁性と言うと[[フェリ磁性]]を含めることもあるが、日本語ではフェリ磁性を含まない狭義の強磁性を'''フェロ磁性'''と呼んで区別することがある。なおフェロ (ferro) は[[鉄]]を意味する。
 
== 物理的起源 ==
 
磁性イオン間の[[交換積分]]が正である場合、[[交換相互作用]]はスピンが互いに揃うように作用し、強磁性を示すことになる。
 
== 強磁性体の性質 ==
 
強磁性体は、ある温度以上になるとスピンがそれぞれ無秩序な方向を向いて整列しなくなり、[[常磁性]]を示すようになる。この転移温度を、'''[[キュリー温度]]'''(Curie Temperature、キュリー点とも言う)と呼ぶ。
 
キュリー温度以上では、[[磁化率]](帯磁率)を&<math>\chi;</math>、[[絶対温度]]を''T''[[キュリー温度|常磁性キュリー温度]]T<submath>C\theta_p</submath>としたとき、
:<math> \chi {\rm{ = }}\frac{C}{{\rm{T - T}}_{\rm{c}theta_p} }</math>
となる。これを、[[キュリー・ワイスの法則]] (Curie-Weiss law) と呼ぶ。''C''は比例定数であり、これはキュリー定数と呼ばれる。
 
== 強磁性体の物理 ==
<math>\chi {\rm{ = }}\frac{C}{{\rm{T - T}}_{\rm{c}} }</math>
 
となる。これを、[[キュリー・ワイスの法則]] (Curie-Weiss law) と呼ぶ。Cは比例定数であり、これはキュリー定数と呼ばれる。
 
==強磁性体の物理==
磁性体とは磁場をかけると磁気を生じる物質であるが、'''反磁性'''、'''常磁性'''、'''強磁性'''の3種類の磁性体の内、ここでは強磁性体がなぜ強磁性を持つのかを中心に関連する現象を説明する。
 
=== 電子スピンによる磁性 ===
 
'''[[不対電子]]'''(ふついでんし)
===電子スピンによる磁性===
'''不対電子'''(ふついでんし)
多くの原子が2つずつ対となる電子を[[電子軌道]]に留めている。これら、対となる電子はその各電子のスピンをそれぞれの電子がお互いに打ち消しあうために、外部から見て磁気は発生しない。つまり[[ヘリウム]]原子は'''1s軌道'''に2つの電子が入って対(つい)となっているので磁気は生じない。[[水素原子]]は1s軌道に電子が1つしかない、つまり'''不対電子'''であるために磁気を生じる。これは、単独の原子の場合であるが、たとえばヘリウム原子は[[イオン]]となってHe<sup>+</sup>の状態では1sに'''不対電子'''が生じるので磁気が生じる。また、水素原子も2つ集まったH<sub>2</sub>という水素分子になれば、共有結合の1s電子がお互いの1s軌道を埋めあうために不対ではなくなり磁気は生じなくなる。水素分子H<sub>2</sub>が酸素原子Oと化合した水分子H<sub>2</sub>Oも水素原子の1s軌道が少し曲がったくらいでは磁気は生じない。
 
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=== 交換相互作用 ===
{{main|交換相互作用}}
原子軌道上のスピンを持った電子が不対電子か対電子かで磁気が生じるか生じないかが決まるのが量子論的なモデルであるが、これとは全くべつな磁性体の見方がある。すべての原子が独立してスピン磁石を持っておりその原子の間にはある決まった規則が存在すると仮定することで、'''反磁性'''、'''常磁性'''、'''強磁性'''の3種類の磁性体の違いを説明するモデルである。つまり、反磁性を示す物質は内部の原子の間で一番近い原子間ではスピン磁石は逆になるという相互作用が働く、強磁性を示す物質は内部の原子の間でお互いのスピン磁石の方向をそろえるように相互作用が働く、という理屈である。
これが'''交換相互作用'''とよばれる。
 
=== フラストレーション ===
{{main|フラストレーション}}
おそらく反強磁性体内部で起きていると仮定している各電子のスピン方向に関する仮想のストレス。スピン配列での安定度に関して、最も安定になろうとスピン同士が向きを調整した後でも残ったひずみのこと。
反強磁性体内部では周りのスピンに対して反平行になろうとそれぞれが向きを調整するが、立体の中ですべてが反平行にはなれないために、どうしてもひずみが残る。
 
===フェリ磁性体 ===
{{main|フェリ磁性}}
フェリ磁性体とは内部に強磁性体と反強磁性体の部分をあわせ持つ磁性体である。酸化物の磁性体でフェライトと呼ばれるFeO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>、MnO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>、、NiO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>、、CoO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>が代表である。前半分(FeOやMnOの部分)の2価の磁気モーメントだけが残り磁性に寄与するのでこちらは強磁性体となり、後ろ半分(Fe2O3)は3価の鉄イオンのスピン電子が反平行で反強磁性体である。たとえばFeO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>、は1+0=1となって差し引き1つだけが磁気となって現れる。
別にフェリ磁性を示す代表として絶縁性のフェリ磁性体である鉄ガーネット(ザクロ石ともいう)'''M'''<sub>3</sub>・Fe<sub>5</sub>O<sub>12</sub>がある('''M'''にはFeやMnが入る)。具体的にはイットリウム鉄ガーネット(YIG)Y<sub>3</sub>・Fe<sub>5</sub>O<sub>12</sub>である。後半のFe<sub>5</sub>の中では3個と2個のFeが反平行を向いているので、差し引き1個の磁気モーメントが残る。
 
=== ヘリカル磁性体 ===
 
[[Image:ヘリカル磁性体.PNG|thumb|200px|right]]
 
=== ヘリカル磁性体 ===
内部の層ごとに磁性の方向が回るようにずれてゆき、らせんを描くように磁性の向きが変わってゆく磁性体をヘリカル磁性体と呼ぶ。希土類金属に例がある。スピンのフラストレーションを最小にしようと自己組織化した結果最も安定な配向に落ち着いたのがらせんとなった。
 
=== スピングラス ===
{{main|スピングラス}}
金や銀、銅などの非磁性物質に鉄などの電子スピンを持った物質('''磁性不純物'''という)を混ぜると、スピンの向きがばらばらなまま分散する。このまま合金として冷え固まるとアモルファスとなり、まるでガラスの内部で結晶が微小なまま固まったように、微小な電子スピンを持った磁性不純物が、あるところでは強磁性を、あるところでは反強磁性を、ばらばらに示す磁気構造が出来上がる。そのスピンがガラスのように空間的に方向がばらばらになって固まっているので、'''スピングラス'''と言う。それぞれのスピンには周りのスピンに対して'''フラストレーション'''が生じている。
 
=== メタ磁性体 ===
[[Image:メタ磁性体の特性.PNG|thumb|250px|right|'''メタ磁性体の特性''' 急に磁化が進んだ後で飽和してしまう]]
[[Image:メタ磁性体の特性2.PNG|thumb|250px|right|'''メタ磁性体の特性2''' CsFeCl3での磁化特性]]
反強磁性体の一種で、磁化の特性が突然進んで突然飽和してしまうもの。中にはCsFeCl3のように細かなステップになるものもある
 
=== メタ新発見された強磁性体 ===
反強磁性体の一種で、磁化の特性が突然進んで突然飽和してしまうもの。
中にはCsFeCl3のように細かなステップになるものもある。
 
==新発見された強磁性体==
2004年に[[炭素]][[同素体]]でカーボンナノフォームの強磁性体が発表された。室温では数時間後にはその現象は消失してしまったが、低温ではより長く続いた。その物質は半導体でもあり、ホウ素と窒素の等電子化合物(isoelectronic compounds)のような同じような性状の物質も強磁性体ではないかと考えられる。ZnZr<sub>2</sub>という合金も28.5K(-244.65C)では強磁性体となる。
 
== 用途 ==
* [[永久磁石]]
* 高透磁率材料
* 磁気記録媒体
 
== 関連項目 ==
* [[常磁性]]
* [[反強磁性]]