「自家不和合性 (植物)」の版間の差分

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typo 異形と異型、雄性と優性、同一文中に混在はつらい^^;
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'''自家不和合性'''(じかふわごうせい、英語:self-incompatibility, SI)は、[[被子植物]]の自家受精を防ぐ数種類の[[遺伝|遺伝的]]性質の総称である。ある[[植物]][[個体]]の正常に発育した[[花粉]]が同じ個体の正常な[[柱頭]]に[[受粉]]しても[[受精]]に至らないこと、あるいは正常[[種子]]形成に至らないことを自家不和合と呼ぶ<ref group="*" name="bio">『岩波生物学辞典』</ref><ref group="*" name="mol">『分子細胞生物学辞典』</ref>。一般的に両性花<ref group="#" name="morph">花の形態の用語<br />両性花 - 雄蕊と雌蕊を同時に持つ花。<br />単性花 - 雄蕊のみと持つ花(雄花)と雌蕊のみ持つ花(雌花)。<br />異形花 - 同一植物種の中で異なった形を持つ花(個体内・個体間で異なる)。広義には雄花・雌花も含み、そのほかに異花柱花(異蕊花)を含む。<br />二形花・三形花 - 異形花柱花の種類。2種類あるいは3種類の異なる形の花をつける個体が異なっている。それらは雄蕊・雌蕊の長さ・形の違いを持っている。</ref>で観察されるが、[[クリ]]・[[ヘーゼルナッツ]]などの雌雄同株異花などでも観察される<ref group="*" name="agro">『新編農学大辞典』</ref>。
 
自家不和合性の植物では、同一または類似の[[遺伝子型]]を持つ個体の柱頭に[[花粉]]が到達しても、花粉の発芽・[[花粉管]]の伸長・[[胚珠]]の受精・受精胚の生育のいずれかの段階が停止し、結果として種子が形成されない。雌蕊と花粉との間の自己認識作用によって起こる事象であり<ref group="*" name="mol" /><ref group="*" name="tech">『最新農業技術事典』</ref><ref group="*" name="watanabe2002">「アブラナ科自家不和合性におけるS遺伝子座の分子遺伝学的解析」</ref>、その自己認識は柱頭上([[アブラナ科]]・[[キク科]])、花柱内([[ナス科]]・[[バラ科]]・[[マメ科]])、子房内([[アカシア]]・[[シャクナゲ]]・[[カカオ]])で行われる<ref group="*" name="agro" />。
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以下のメカニズムは、事例が豊富ではなく、科学研究においての注目も限られている。したがって、いまだに知見は不十分である。
 
[[ファイル:Distyly primula.jpg|250px|right|thumb|異花柱花の例'' Primula vulgaris''<br /> [[サクラソウ属]]における二形花性。それぞれ別の個体から採取。異花柱花を持つ植物は異型接合性を増加させる。 (1)花弁, (2)萼片, (3)雄蕊(葯部分), (4)雌蕊(柱頭部分)]]
;異形花型自家不和合性
:異花柱花<ref group="#" name="morph" />には、前述したものと異なる自家不和合性メカニズムが存在し、それを異形花型<ref group="#" name="morph" />自家不和合性(heteromorphic self-incompatibility)と呼ぶ。このメカニズムは、より一般的な同形花型自家不和合性(homomorphic self-incompatibility)のメカニズムとは進化的な関係はないであろう<ref name="ganders1979">Ganders, F. R. (1979). "The biology of heterostyly." ''New Zealand Journal of Botany'' '''17''': 607-635.</ref>。
:ほとんど全ての異花柱性[[タクソン|タクサ]]は、ある程度は自家不和合性の傾向を持っている。異花柱花の自家不和合性に対応する[[遺伝子座]]は、花の形態の[[多型]]に対応する遺伝子座と強く[[遺伝的連鎖|連鎖]]しており、これらの[[形質]]は共に遺伝する。二形花性<ref group="#" name="morph" />は二つの対立遺伝子を持つ単一遺伝子座で決定され、三形花性<ref group="#" name="morph" />はそれぞれ2つの対立遺伝子を持つ2つの遺伝子座で決定される。異形花型自家不和合性は胞子体型であり、つまり花粉を作る植物が持つ2つの対立遺伝子が、花粉の自家不和合性反応を決定する。自家不和合性遺伝子座は、花粉でも雌蕊でも一方が他方に対して優性を示す対立遺伝子2種類のみを、常に含む。自家不和合性対立遺伝子の変異は、花の形態の変異に対応している。したがって、一つの形態の花の花粉は、もう一つの形態の花の雌蕊のみで可稔(受精可能)となる。三形花では、各々の花は2種類の雄蕊を持つ。その形態が異なる雄蕊がつける花粉は、3種類の形態の花のうち1種類の形態のみを受精させることができる<ref name="ganders1979"/>。
:二形花性植物の集団は、ss(劣性ホモ接合型)とSs(ヘテロ接合型)で示される2種類の自家不和合性遺伝子型だけを含む。受精はそれら遺伝子型相互間だけで可能であり、各々の遺伝子型それ自体は自家生殖できない<ref name="ganders1979"/>。この制限のため2つの遺伝子型の比率は 1:1に維持されており、それらの遺伝子型の植物は、普通は空間的には無作為に散らばっている<ref>Ornduff, R., and S. G. Weller (1975). "Pattern diversity of incompatibility groups in Jepsonia heterandra (Saxifragaceae)." ''Evolution'' '''29''': 373-5.</ref><ref>Ganders, F. R. (1976). "Pollen flow in distylous populations of Amsinckia (Boraginaceae)." ''Canadian Journal of Botany'' '''54''': 2530-5.</ref>。三形花性植物は、S遺伝子座に加えて、2つの対立遺伝子を持つM遺伝子座を持つ<ref name="ganders1979"/>。可能となる遺伝子型の数はより多くなるが、それぞれの不和合性タイプの個体数の比率は 1:1に保たれている<ref>Spieth, P. T. (1971). "A necessary condition for equilibrium in systems exhibiting self-incompatible mating." ''Theoretical Population Biology'' '''2''': 404-18.</ref>。
 
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* [[磯貝彰]](2004年)「[http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/08/04081601/012/020.pdf 植物自家不和合性の分子基盤]」(pdf)『[http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/12/04121501/furoku/034.htm 膜蛋白質を介したシグナル伝達の構造的基盤]』[[文部科学省]]、2009-03-07閲覧。
* [http://users.rcn.com/jkimball.ma.ultranet/BiologyPages/S/SelfIncompatibilty.html Self-Incompatibility: How Plants Avoid Inbreeding](英語サイト「自家不和合性:植物はどのように近親交配を避けるか」)
* [http://www-biol.paisley.ac.uk/bioref/Genetics/Primula_heterostyly.html Heterostyly in cowslip](英語サイト「サクラソウ属植物の異花柱性」)
* レビュー記事
** Charlesworth, D., X. Vekemans, V. Castric, and S. Glémin(2005). "[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=16159321 Plant self-incompatibility systems: a molecular evolutionary perspective]" ''New Phytol.'' '''168'''(1):61-69.