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[[Image:William-Adolphe Bouguereau (1825-1905) - Flora And Zephyr (1875).jpg|thumb|250px|[[ギリシ神話]]における西風の神ゼピュロスと花の女神[[フロラ|フローラ]]([[ウィリアム・アドルフ・ブグロー]]筆、1875年)]]
'''アネモイ'''(<small>[[古典ギリシア語]]</small>:{{lang|grc|'''Ἄνεμοι''', Anemoi}}, 「[[風]]」の意)は、[[ギリシア神話]]の風の[[神]]たちである。東西南北の各方角を司っており、各々が様々な季節・天候に関連付けられていた。
[[ギリシャ神話]]における'''アネモイ'''('''{{unicode|Άνεμοι}}'''、[[ギリシャ語]]で「[[風]]」の意味)とは、東西南北の各方角を司る[[風]]の[[神]]たちであり、各々が様々な季節と天候に関連付けられていた。アネモイたちはある時には単なる一陣の突風として表現され、またある時には翼を備えた人間として擬人化され、更にまたある時には、『[[オデュッセイア]]』において[[オデュッセウス]]にアネモイを与えた風神[[アイオロス]]の厩舎に繋がれた[[ウマ|馬]]として描写された。ギリシャの詩人[[ヘシオドス]]の言によれば、しばしばアイオロスと関連付けられている占星術の神格[[アストライオス]]と、暁の女神[[エーオース|エオス]]が、アネモイたちの父母であった。
 
[[ギリシャ神話]]における'''アネモイ'''('''{{unicode|Άνεμοι}}'''、[[ギリシャ語]]で「[[風]]」の意味)とは、東西南北の各方角を司[[風]]の[[神]]たちであり、各々が様々な季節天候関連付けられていた。アネモイたちある時には単なる一陣の突風として表現され、またある時にときは翼を備えた人間として擬人化され、更にまたあ時には、『[[オデュッセイア]]』において[[オデュッセウス]]にアネモイを与えたは、風神[[アイオロス]]の厩舎に繋がれた[[ウマ|馬]]として描写された。ギリシャの詩人[[ヘシオドス]]の言によれば、しばしばアイオロスと関連付けられている占の神[[アストライオス]]が父で、暁の女神[[エーオース|エオス]]が、アネモイたちの父母であった
4人の主要なアネモイの内、'''ボレアス'''は冷たい冬の空気を運ぶ北風であり、'''ノトス'''は晩夏と秋の嵐を運ぶ南風であり、'''ゼピュロス'''は春と初夏のそよ風を運ぶ西風であった。東風の'''エウロス'''はいかなるギリシャの季節とも関連付けられておらず、ヘシオドスによる『[[神統記]]』や[[オルペウス]]の賛歌の中で言及されていない唯一の上位のアネモイである。更に、しばしば北東、南東、北西、南西の風を表現する下位の4アネモイが言及される。
 
4人の主要なアネモイの内、は4柱いる。'''ボレアス'''は冷たい冬の空気を運ぶ北風であり、'''ノトス'''は晩夏と秋の嵐を運ぶ南風であり、'''ゼピュロス'''は春と初夏のそよ風を運ぶ西風であった。東風の'''エウロス'''はいかなるギリシャの季節とも関連付けられておらず、ヘシオドスによる『[[神統記]]』や、後代の『[[オルペウス]]賛歌の中で言及されていない唯一の上位のアネモイである。更にこのほかしばしば北東、南東、北西、南西の風を表現する下位の4アネモイが言及される。
[[ローマ神話]]においてアネモイにあたる神格は'''ヴェンティ'''('''Venti'''、[[ラテン語]]で「風」の意味)である。ヴェンティたちはアネモイたちとは別の名前を持つが、その他の点では、その性質を借用し習合したギリシャの対応する風神たちと非常によく似ていた。
 
[[ローマ神話]]においてアネモイにあたる神格は'''ェンティ'''('''Venti'''、<small>[[古典ラテン語]]</small>:Venti, 「風」の意)である。ェンティたちはアネモイたちとは別の名前を持つこそ異なるが、その他の点では、その性質を借用し習合したギリシャの対応する風神たちと非常によく似ていた。
 
== 上位のアネモイ ==
=== 北風ボレアス ===
[[Image:Boreas Oreithyia Louvre K35.jpg|thumb|left|250px|ボレアスによる[[オレイテュイア]]略奪。[[プーリァ州]]、紀元前360年頃の[[赤像式陶器]]]]
ギリシャ神話において、'''ボレアス'''('''{{unicodelang|grc|Βορέας, Boreas}}''')は冬を運んでくる冷たい[[北]]風の神である。ボレアスの名は、「北風」あるいは「むさぼりつくす者」を意味する。
 
ボレアスは非常に強力な神であり、それと同様に粗暴であった。ボレアスはしばしばほら貝を持ち突風にうねる外套を纏い、もじゃもじゃ頭に顎鬚を生やした、翼のある老人として描写された。[[パウサニアス]]はボレアスは足の代わりに蛇の下半身を持っていると記しているが、通常の絵画においては、彼は人間の足を持つ翼ある神として描かれている。
 
ボレアスは馬と密接に関連付けられている。ボレアスは雄馬の姿を取り、[[トロリオス]]の王[[エリクトニオス]]の雌馬たちとの間に12匹の仔馬をもうけたと言われている。これらの仔馬は、作物を踏みにじることなく穀物畑を走り抜けることができたと伝えられている。[[ガイウス・プリニウス・セクンドゥス|大プリニウス]]は『博物誌』の4章35節および8章67節において、雌馬の臀部を北風に向けて立たせれば、雄馬なしに仔馬を種付けできるのではないかと考え述べている。
 
ギリシャ人はボレアスの住居は[[トラキア]]にあると考えており、ヘロドトスとプリニウスは[[ヒュペルボレイオス|ヒューペルボリア]](「北風の向こうの国」の意)として知られる、人々が幸福を完うしつつ非常な長命を保って暮らしている北方の地域について記述している。
 
また、ボレアスはイリソス河から[[アテナイ]]の王女[[オレイテュイア]]を略奪したとも伝えられている。オレイテュイアに惹かれたボレアスは、最初は彼女の歓心を得んとして説得を試みていた。この試みが失敗に終わると、ボレアスは生来の荒々しい気性を取り戻し、イリソス河の河辺で踊っていたオレイテュイアを誘拐した。ボレアスは風でオレイテュイア彼女を雲の上に吹き上げてトラキアまで連れ去り、彼女との間に二人の息子[[ゼテス]]と[[カライス]]および二人の娘[[キオネー|キオネ]]と[[クレオパトラー|クレオパトラ]]をもうけた。
[[Image:Boreas Oreithyia Louvre K35.jpg|thumb|left|250px|ボレアスによる[[オレイテュイア]]略奪。[[プーリァ州]]、紀元前360年頃の[[赤像式陶器]]。]]
また、ボレアスはイリソス河から[[アテナイ]]の王女[[オレイテュイア]]を略奪したとも伝えられている。オレイテュイアに惹かれたボレアスは、最初は彼女の歓心を得んとして説得を試みていた。この試みが失敗に終わると、ボレアスは生来の荒々しい気性を取り戻し、イリソス河の河辺で踊っていたオレイテュイアを誘拐した。ボレアスは風でオレイテュイアを雲の上に吹き上げてトラキアまで連れ去り、彼女との間に二人の息子[[ゼテス]]と[[カライス]]および二人の娘[[キオネー|キオネ]]と[[クレオパトラー|クレオパトラ]]をもうけた。
 
この時より以降、アテナイの人々はボレアスを姻戚による親類と見なすようになった。アテナイが[[クセルクセス1世|クセルクセス]]により脅かされたとき、人々はボレアスに祈りを捧げ、ボレアスは暴風で400隻のペルシアの船を沈めたと伝えられている。同様の出来事がその12年前に起こっており、[[ヘロドトス]]は以下の様に記している。
 
{{cquote|私はペルシア人が暴風により錨を取られたというのが本当であるかについて断言することはできないが、アテナイの人々はボレアスが以前に彼らを救ったようにして、この奇跡を起こしたのであると信じている。そして、アテナイの人々は故郷に帰還すると、イリソス河にボレアスの神殿を建造した。}}
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「私はペルシア人が暴風により錨を取られたというのが本当であるかについて断言することはできないが、アテナイの人々はボレアスが以前に彼らを救ったようにして、この奇跡を起こしたのであると信じている。そして、アテナイの人々は故郷に帰還すると、イリソス河にボレアスの神殿を建造した。」
</blockquote>
 
オレイテュイアの略奪はペルシアとの戦争前後のアテナイで有名であり、頻繁に古甕の文様として描かれていた。これらの文様においては、ボレアスはチュニックを着込み、しばしば霜に覆われて逆立ったもじゃもじゃの髪を持つ、髭の男として描写された。オレイテュイアの略奪は[[アイスキュロス]]の失われた戯曲『オレイテュイアー』の題材となっている。
 
より後の時代の記録では、ボレアスは[[ビュート]]および[[リュクルゴス]](母親は別の女性)の父親であり、松の[[ニュンペー|ニンフ]]である[[ピテュス]]の愛人であった。
 
ローマ神話においてボレアスに相当する神格は'''アクィロー'''('''Aquilo''')(Aquilo)あるいは'''アクィロン'''('''Aquilon''')(Aquilon)であった。北風の神に与えられたより珍しい別名としては、[[おおぐま座]]の七つ星(septem(septem triones)triones)に由来する'''セプテントリオ'''('''Septentrio''')(Septentrio)があった。セプテントリオは、「北方」を意味する英語 septentrional の語源でもある。
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=== 南風ノトス ===
'''ノトス'''('''{{unicodelang|grc|Νότος, Notos}}''')は、ギリシャ神話における[[南]]風の神である。ノトスは[[夏至]]を過ぎ[[シリウス]]が昇る時期に吹く乾燥した暑い風と関連付けられており、晩夏と秋の嵐を運んでくると考えられ、農作物の破壊者として恐れられていた。
 
ローマ神話においてノトスに相当する神格は、厚い雲と霧、湿気を運ぶ[[シロッコ]]の化身'''アウステル'''('''Auster''')(Auster)であった。
 
=== 東風エウロス ===
'''エウロス'''('''{{unicodelang|grc|Εύρος, Euros}}''')は、不吉な[[東]]風をギリシャ神話の神である。エウロスは暖気と雨を運んでくる神と考えられており、さかさまになって水をこぼしている壺がエウロスの象徴であった。
 
ローマ神話においてエウロスに相当する神格は'''ウルトゥルヌス'''('''Vulturnus''')(Vulturnus)であった。この神はローマ神話において後に[[テヴェレ川]]の神格となった川の神[[ウォルトゥルヌス]](Volturnus)とは別の神であり、混同してはならない
 
=== 西風ゼピュロス ===
[[Image:Hyakinthos.jpg|thumb|250px|right|ゼピュロスと[[ヒュアキントス]]。[[タルクイーニア]]、紀元前480年頃の[[赤像式陶器]]]]
'''ゼピュロス'''('''{{unicodelang|grc|Ζέφυρος, Zephyros}}''')ギリシャ神話における[[西]]風の神である。アネモイの中で最も温和なゼピュロスは、春の訪れを告げる豊穣の風として知られている。ゼピュロスは[[トラキア]]の洞窟に住んでいると考えられていた。
 
ゼピュロスは異なる物語の中で、幾人もの妻を持っていたと伝えられている。ゼピュロスは姉妹である虹の女神[[イリス]]の夫であると言われていた。ゼピュロスは別の姉妹である女神[[クロリス]]を誘拐し、彼女に花の女神の地位を与えた。クロリスとの間に、ゼピュロスは果実の神[[カルポス]]をもうけた。ゼピュロスは兄弟であるボレアスと、クロリスの愛を巡って争い、最後にクロリスの歓心を勝ち取ったと伝えられている。更に別の姉妹にして愛人でもあった[[ハーピー|ハルピュイア]]の一人である[[ポダルゲー]](ケライノーとしても知られる)との間に、[[アキレウス]]の馬である[[バリオスとクサントス]]をもうけたとも伝えられている。
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[[エロス]]と[[プシュケ]]の物語では、ゼピュロスはエロスのためにプシュケをエロスの洞窟に送り届けていた。
 
ローマ神話においてゼピュロスに相当する神格は、植物と花々の支配者である'''ファウォーニウス'''('''Favonius''')(Favonius)であった。「ファウォーニウス」この語は「好意」意味であり、またローマにおける一般的な人名でもあった。
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== 下位のアネモイ ==
[[アテナイ]]の[[ホロロゲイオン]](風神の塔)のように、少数の古代の資料には下位の4柱のアネモイが散見できる。ヘシオドスやホメロスが記述しているように、元来はこれらの下位のアネモイたちは[[テューポーン]]によって生み出された邪悪で粗暴な精霊'''アネモイ・ツェテュエライ'''('''{{unicodelang|Άνεμοιgrc|Ἄνεμοι θύελλαι, Anemoi Thyellai}}'''、ギリシャ語で, 「嵐」の意味)であり、雄の[[ハーピー|ハルピュイア]]であるツェテュエライであった。これらのアネモイがアイオロスの厩舎に繋がれており、ほか四人4柱の天上のアネモイは繋がれていなかった。しかしながら、後世の記述者は二種のアネモイを混同して習合させてしまい、上の区分はほとんど忘れ去られた。
 
;カイキアス
'''カイキアス'''は:[[北東]]の風を司るである。カイキアスは雹を散りばめた盾を構えた髭の男として描写され、カイキアスの名はギリシャ語で「邪悪」を意味する {{unicodelang|grc|κακία}} に由来する。カイキアスは美徳の精霊[[アレーテ]]の姉妹である悪徳の精霊の名前でもある。ローマ神話におけるカイキアスに相当する神格は、'''カエキウス'''('''Caecius''')(Caecius)であった。
 
;アペリオテス
'''カイキアス'''は[[北東]]の風を司る神である。カイキアスは雹を散りばめた盾を構えた髭の男として描写され、カイキアスの名はギリシャ語で「邪悪」を意味する{{unicode|κακία}}に由来する。カイキアスは美徳の精霊[[アレーテ]]の姉妹である悪徳の精霊の名前でもある。ローマ神話におけるカイキアスに相当する神格は、'''カエキウス'''('''Caecius''')であった。
'''アペリオテス'''は:[[南東]]の風を司るである。この風神は農民に特に有益な恵みの雨をもたらすと考えられており、アペリオテスはしばしば、多くの花々や穀物を覆い隠した明るい色の布を纏い、雨靴を履き果物籠を抱えた姿で描写される。アペリオテスは綺麗に髭をそり、巻き毛を生やし、親切そうな表情を浮かべている。アペリオテスは下位の神であったため、しばしば東風の神エウロスと習合させられた。ローマ神話におけるアペリオテスに相当する神格'''スブソーラーヌス'''('''Subsolanus''')(Subsolanus)は、しばしばウゥルトゥルヌスに代わり東風の神であるとも考えられていた。<!-- Apeliotes is also the name of a New Zealand unmanned aerial vehicle flight control system. -->
 
;スキロン
'''アペリオテス'''は[[南東]]の風を司る神である。この風神は農民に特に有益な恵みの雨をもたらすと考えられており、アペリオテスはしばしば、多くの花々や穀物を覆い隠した明るい色の布を纏い、雨靴を履き果物籠を抱えた姿で描写される。アペリオテスは綺麗に髭をそり、巻き毛を生やし、親切そうな表情を浮かべている。アペリオテスは下位の神であったため、しばしば東風の神エウロスと習合させられた。ローマ神話におけるアペリオテスに相当する神格'''スブソーラーヌス'''('''Subsolanus''')は、しばしばウゥルトゥルヌスに代わり東風の神であるとも考えられていた。<!-- Apeliotes is also the name of a New Zealand unmanned aerial vehicle flight control system. -->
'''スキロン'''は:[[北西]]の風を司るである。スキロンの名は[[アッティカ]]の祭事暦における春の終わりの三ヶ月であるスキロポリオンと関係がある。スキロンは冬の始まりを表す大釜を傾ける髭の男として描写される。ローマ神話におけるスキロンに相当する神格は'''カウルス'''('''Caurus''')(Caurus)あるいは'''コールス'''('''Corus''')(Corus)である。<!-- Corus was also one of the oldest Roman wind-deities, and numbered among the di indigetes ("indigenous gods"), a group of abstract and largely minor numinous entities. -->
 
;リプス
'''スキロン'''は[[北西]]の風を司る神である。スキロンの名は[[アッティカ]]の祭事暦における春の終わりの三ヶ月であるスキロポリオンと関係がある。スキロンは冬の始まりを表す大釜を傾ける髭の男として描写される。ローマ神話におけるスキロンに相当する神格は'''カウルス'''('''Caurus''')あるいは'''コールス'''('''Corus''')である。<!-- Corus was also one of the oldest Roman wind-deities, and numbered among the di indigetes ("indigenous gods"), a group of abstract and largely minor numinous entities. -->
'''リプス'''は:[[南西]]の風を司るであり、しばしば船の艫を支えた姿で描写される。ローマ神話におけるリプスに相当する神格は、[[イタリア]]の南に[[アフリカ]]があったことから、'''アフリクス'''('''Africus'''、ラテン語で(Africus, 「アフリカの風」の意味)と呼ばれていた。この名前は、アフリカ大陸の名の語源となった[[北アフリカ]]の部族アフリに由来する。
 
== 関連項目 ==
'''リプス'''は[[南西]]の風を司る神であり、しばしば船の艫を支えた姿で描写される。ローマ神話におけるリプスに相当する神格は、[[イタリア]]の南に[[アフリカ]]があったことから、'''アフリクス'''('''Africus'''、ラテン語で「アフリカの風」の意味)と呼ばれていた。この名前は、アフリカ大陸の名の語源となった[[北アフリカ]]の部族アフリに由来する。
* [[アイオロス]]
* [[アストライオス]]
* [[エーオース]]
 
== 参考文献 ==