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コレラ(2009年9月15日 (火) 21:09 MelancholieBot )より転記
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このような経緯から、2005年現在、コレラの原因になるものは「コレラ毒素を産生するO1型またはO139型のコレラ菌」であると考えられている。O1型の大部分と、O139型のごく一部がこれに該当する。
 
==細菌学的特徴と分類==
===細菌学的特徴===
コレラ菌は、[[ビブリオ科]]ビブリオ属に属する[[グラム染色|グラム陰性]]菌である。大きさは0.3×2µm程度で、湾曲した[[コンマ]]状桿菌の形態を示す。これは、本来[[ヘリコバクター・ピロリ]]などと同様にらせん状に伸長する形態が、その回転数が0.5-1回程度であるためにコンマ状に見えるものであると考えられ、このため、らせん菌の一種として分類される場合もある。
 
ビブリオ科の細菌の特徴として、[[腸内細菌科]]と同様、通性嫌気性で[[ブドウ糖]]を[[発酵]]する[[グラム染色|グラム陰性]]菌であるが、菌体の一端に1本の[[鞭毛]](極鞭毛)を持つ点で腸内細菌科とは区別される。この極鞭毛によって水中で活発に運動する。''Vibrio''という属名は、この運動性にちなんでラテン語のvibro(英語の vibration: 振動)から名付けられた。[[ショ糖]]を分解する性質や、タンパク質の分解性に基づく「コレラ赤反応」と呼ばれる生化学試験などから、他のビブリオ属の細菌と鑑別される。増殖可能な[[水素イオン濃度|pH]]は6-10であるが特にアルカリ性の環境を好む。他の海産性ビブリオと異なり[[塩化ナトリウム]]が存在しなくても増殖は可能であるが、0.5%の塩化ナトリウム濃度が増殖に至適の条件である。コレラ菌は比較的抵抗力の弱い菌であり、[[酸]]や乾燥、日光、高温に弱く、容易に不活化する。
 
コレラ菌は自然界ではもっぱらヒトの腸内だけで増殖するため、水中などの環境や食品内ではほとんど分裂増殖を行わない。このような環境で、コレラ菌は数日から数週間程度生残可能である(水中なら1日、海水では〜3週間、食品中では室温で1-2日、冷蔵で1週間程度)が、これは細菌が自然環境で生残する期間としては短い部類に属する。ただし、コレラ菌はこのような生存に適さない環境下では、そのストレスによって[[バイオフィルム]]を形成する菌に変化(相変異)して、バイオフィルム中で長期の生存を図っていると考えられている。特にエルトール型O1コレラ菌は、古典型に比べてバイオフィルムを形成しやすく、このことがエルトール型による流行が長期化する理由の1つだと考えられている。また、コレラ菌は環境が悪化すると[[VNC_(微生物学)|VNC]]と呼ばれる状態に変化することも知られており、環境中で一見不活化したようにみえてもVNC状態に移行しただけで、何らかの原因によってそこから「蘇生」することがわかっている。これらのことがコレラ流行が終息して患者がいなくなった数年後でも、また再びコレラが流行を起こす理由に関与していると考えられている。
 
コレラ菌には大小2本の[[染色体]]が存在する。これは[[真正細菌|細菌]]の中では例外的な特徴である。以前はすべての細菌について染色体数は1つだと考えられていたが、同じビブリオ属の[[腸炎ビブリオ]]が2本の染色体を持つことが最初に発見され、その後コレラ菌も同様であることが明らかになった。コレラ菌の生存や病原性に関与する遺伝子の多くは大きな染色体に存在しており、小さな染色体には機能や由来が判明していない遺伝子が多く含まれている。
 
=== 血清型 ===
コレラ菌は、その[[細胞壁]]にある外膜のリポ多糖の[[抗原]]性(O抗原)によって、2005年現在205種類に分類されている。また鞭毛にも抗原性(H抗原)があるが、H抗原には1つの型しか存在しない。このためコレラ菌はその[[血清型]]によって「O1(型)コレラ菌、O2コレラ菌…」と区分される。1991年までは、コレラの原因になるものはO1型だけであったため、これを'''O1コレラ菌'''、それ以外(O2以降)を'''非O1コレラ菌'''と呼び、前者のみがコレラの原因になるものとして区別されてきた。
 
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このO1型と非O1型に分類する考えは、1992年にコレラ毒素産生O139型コレラ菌が発生したことによって見直しを迫られているが、分類名称としては未だによく使用されている。
 
==コレラ毒素==
コレラ菌は自然界ではもっぱらヒトの腸内だけで増殖するため、水中などの環境や食品内ではほとんど分裂増殖を行わない。このような環境で、コレラ菌は数日から数週間程度生残可能である(水中なら1日、海水では〜3週間、食品中では室温で1-2日、冷蔵で1週間程度)が、これは細菌が自然環境で生残する期間としては短い部類に属する。ただし、コレラ菌はこのような生存に適さない環境下では、そのストレスによって[[バイオフィルム]]を形成する菌に変化(相変異)して、バイオフィルム中で長期の生存を図っていると考えられている。特にエルトール型O1コレラ菌は、古典型に比べてバイオフィルムを形成しやすく、このことがエルトール型による流行が長期化する理由の1つだと考えられている。また、コレラ菌は環境が悪化すると[[VNC_(微生物学)|VNC]]と呼ばれる状態に変化することも知られており、環境中で一見不活化したようにみえてもVNC状態に移行しただけで、何らかの原因によってそこから「蘇生」することがわかっている。これらのことがコレラ流行が終息して患者がいなくなった数年後でも、また再びコレラが流行を起こす理由に関与していると考えられている。
 
コレラ菌には大小2本の[[染色体]]が存在する。これは[[真正細菌|細菌]]の中では例外的な特徴である。以前はすべての細菌について染色体数は1つだと考えられていたが、同じビブリオ属の[[腸炎ビブリオ]]が2本の染色体を持つことが最初に発見され、その後コレラ菌も同様であることが明らかになった。コレラ菌の生存や病原性に関与する遺伝子の多くは大きな染色体に存在しており、小さな染色体には機能や由来が判明していない遺伝子が多く含まれている。
 
===コレラ毒素===
コレラ菌のうち、コレラの原因になるものはすべて'''コレラ毒素'''(コレラトキシン、コレラエンテロトキシン)と呼ばれる毒素を産生する。O1コレラ菌の大部分と、O139コレラ菌の一部がこれに該当し、これらの菌がヒトの腸管内で作り出すコレラ毒素が、直接の病原因子として腸管に作用し(腸管毒、エンテロトキシン)、下痢や[[脱水 (医療)|脱水症状]]などコレラ特有の症状を引き起こす。
 
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== 病原性 ==
 
==病原性==
[[File:PHIL 1939 lores.jpg|thumb|250px|コレラ菌に侵された患者。漂母皮化が見られる]]
コレラ菌は、患者の糞便や吐瀉物に汚染された水や食物を通じて拡散する。摂取されたコレラ菌は、酸に弱いため胃酸により多くが死滅するが、
 
 
== 参考文献 ==
*[http://www.city.yokohama.jp/me/kenkou/eiken/idsc/disease/cholera1.html 横浜市衛生研究所 コレラについて]
*{{cite journal |author=Zhang R, Scott D, Westbrook M, Nance S, Spangler B, Shipley G, Westbrook E |title=The three-dimensional crystal structure of cholera toxin |journal=J Mol Biol |volume=251 |issue=4 |pages=563–73 |year=1995 |pmid=7658473 |doi=10.1006/jmbi.1995.0456}}
*[http://micro.fhw.oka-pu.ac.jp/microbiology/g-negative/ct.html コレラ毒素]
*{{cite journal |author = Heidelberg, J. F., ''et al.'' | title = DNA sequence of both chromosomes of the cholera pathogen ''Vibrio cholerae'' |journal = Nature |volume= 406 |issue= 6795|pages=477-483 |year=2000|doi=10.1038/35020000| id=PMID 10952301}}
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[[vi:Vibrio cholerae]]
[[zh:霍亂弧菌]]
 
{{medical}}
{{Infobox Disease
| Name =コレラ
| Image =Cholera bacteria SEM.jpg
| Caption =コレラ菌
| Width =300px
| DiseasesDB =29089
| ICD10 ={{ICD10|A|00||A|00}},
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| MeshID =D002771
}}
'''コレラ'''('''Cholera'''、虎列剌)は、[[コレラ菌]](''Vibrio cholerae'')を病原体とする経口[[感染症]]の一つ。日本では「[[感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律]]」(感染症新法)で[[三類感染症]]に指定されている。日本ではコレラ菌のうちO1、O139血清型を原因とするものを行政的にコレラとして扱う。
 
==病原体==
[[Image:Cholera Toxin.png|thumb|コレラ毒素]]
[[コレラ毒素]]を産生するコレラ菌によって発症する。コレラ菌のff中でO1型の大部分とO139型のごく一部がこれに該当する。
 
コレラ菌は、コンマ状の形態の[[桿菌]]で、[[鞭毛]]により活発に[[運動]]する。従来、[[アジア型]](古典型)と[[エルトール型]]が知られていたが、[[1992年]]に新たな菌であるO139が発見された。強い感染力があり、特にアジア型は高い死亡率を示し、[[ペスト]]に匹敵する危険な感染症であるが、ペストと異なり、自然界ではヒト以外に感染しない。流行時以外にコレラ菌がどこで生存しているかについては諸説あり、[[海水]]中、人体に[[不顕性感染]]の形で存在する、あるいは[[甲殻類]]への[[寄生]]が考えられる。
 
最も重要な感染源は、患者の糞便や吐瀉物に汚染された水や食物である。[[消化管]]内に入ったコレラ菌は、[[胃]]の中で多くが胃液のため死滅するが、少数は[[小腸]]に到達し、ここで爆発的に増殖してコレラ[[毒素]]を産生する。コレラ菌自体は小腸の上皮部分に定着するだけで、[[細胞]]内には全く侵入しない。しかしコレラ毒素は上皮細胞を冒し、その作用で細胞内の水と[[電解質]]が大量に流出し、いわゆる「'''米のとぎ汁様'''」の猛烈な[[下痢]]と[[嘔吐]]を起こす。
 
==症状==
[[潜伏期間]]は5日以内。普通は2~3日だが、早ければ数時間である。症状が非常に軽く、1日数回の下痢で数日で回復する場合もあるが、通常、突然腹がごろごろ鳴り、水のような下痢が1日20~30回も起こる。下痢便には塩分が混じる。また、「米のとぎ汁」のような白い便を排泄することもある。腹痛・発熱はなく、むしろ[[低体温]]となり、34度台にも下がる。急速に脱水症状が進み、血行障害、[[血圧]]低下、[[頻脈]]、[[筋肉]]の痙攣、虚脱を起こし、死亡する。極度の脱水によって[[皮膚]]は乾燥「[[洗濯婦の手]]」、しわが寄り、「[[コレラ顔貌]]」と呼ばれる特有の老人様の顔になる。
 
治療を行わなかった場合の死亡率はアジア型では75~80パーセントに及ぶが、エルトール型では10パーセント以下である。胃切除がある場合は胃酸による殺菌効果が無いため菌が小腸に達しやすく危険である。現在は適切な対処を行なえば死亡率は1~2パーセントである。
 
==治療方法==
* 水分の補給
[[Image:Cholera rehydration nurses.jpg|thumb|経口輸液を受けるコレラ患者]]
コレラにおいて直接の死亡原因になるのは、大量の下痢と嘔吐による水と[[電解質]]の損失によっておきる[[脱水症状]]である。このため、失われた水と電解質を補給することでコレラによる死亡はきわめて効果的に抑制できる。
 
患者に意識がある軽症例の場合には、'''[[経口輸液]]'''(oral rehydration)と呼ばれる方法によって治療が可能である。経口輸液とは、[[経口補水塩|ORS]](Oral rehydration solution)と呼ばれる電解質液(水1リットルに対して、[[ブドウ糖]] 20g、[[塩化ナトリウム]]3.5g、[[炭酸水素ナトリウム]]2.5g、[[塩化カリウム]]1.5gの割合で溶解したもので、スポーツ飲料で代用可)を与え、排泄した下痢と等量を飲ませるものであり、これによって未治療では80%に及ぶ死亡率は1~2%にまで改善され、重篤化しやすい小児でも10%以下になる。患者が意識を失う重症例では、点滴による[[静脈内輸液]]で水分と電解質の補給を行う。これらの輸液による治療はコレラ菌そのものの排除には直接つながらず、患者からは大量のコレラ菌が排出されつづけるが、時間の経過によって患者がコレラ菌に対する免疫を獲得すると症状も緩解し、コレラ菌の排出も収まる。
 
古い時代では現在の様な経口輸液が確立されておらず、専ら[[食塩]]を溶かした塩水を飲用させる事でこれに変えた。幕末の『コロリ』流行の際には、蘭方医学に基いた[[西洋医学]]書に記されていた塩水飲用法を用いて治療を行った事で、死亡率を著しく低下させる事に成功した事例も残っている([[海水]]を薄めて与えるなど)
 
===治療薬===
[[抗生物質]]による治療は脱水症状の改善とは無関係であるため、直接の効果的治療にはつながらないが、上記の水分補給と組み合わせることで、治療期間を短縮することが可能である。[[テトラサイクリン系抗生物質]]や[[クロラムフェニコール]]などがこの目的で利用されるが、これらに対する[[薬剤耐性|耐性菌]]も増加している。
 
==予防==
[[経口感染]]であるため、飲食に気をつける。
最大の感染源は患者の[[排泄物]]だが、通常の接触では人から人への感染の危険性は低い。
不衛生な食材や調理環境で危険性が高く、流行地域では[[アイスクリーム]]や生もの([[サラダ]]や[[果物]]、十分加熱しない[[魚介類]]など)、生水や氷(凍った生水)は避け、また体調維持に努める。
 
[[ワクチン]]は現在2種類が存在する。
コレラが発生している、または発生する地域への渡航には後者のワクチン接種が賢明である。後者は国内未承認であるが、[[個人輸入]]に対応している[[医療機関]]で申し込むことにより接種可能である。また、現地の薬局で販売されている事もある。
* [[注射]]ワクチン:旧来型のフェノールによる全菌体死菌ワクチン
*:1960年頃実用化された[[ワクチン#不活化ワクチン|不活化ワクチン]]で、アメリカ、日本などで使用されている。5~7日間隔で2回皮下接種する。免疫獲得率50%有効期間6ヶ月と小さい上に14~40%に副反応が見られ、また近年はそれほど致命的でないエルトール型が流行の大半である事などから2001年にWHOが使用中止を勧告し、特殊な例を除いて一般に接種は推奨されていない。
* [[経口]]ワクチン(OCVs):不活化ワクチンと、[[ワクチン#生ワクチン|生ワクチン]]がある。
** WC/rBS:商品名Dukoralで1990年頃[[スウェーデン]]で実用化され、EUやカナダ、南アジア、中南米など各国で認可されている。接種後4ヶ月は[[旅行者下痢]]症の責任菌のひとつである、[[大腸菌#病原性大腸菌|病原性大腸菌]]139型に対する予防効果も実証されている。
*:接種は、1~6週間隔で2回服用する。コレラに対しては2~3年に一度の追加接種、病原性大腸菌139型に対しては3~4ヶ月毎に追加接種を受けることができる。副反応も少なく、有効率は85~97%と報告され、有効期間も2~3年である。
*:不活化コレラ菌と[[リコンビナント]]([[遺伝子]]組み替え体による製法)による[[コレラ菌#コレラ毒素|コレラ毒素]]のBサブユニット(毒素を構成する2つのタンパク質のうち、毒性がない方。図の青い部分)を組み合わせたもの。ベトナムではこれを抜いた安価($0.1)なワクチンが使用されている。イナバとオガワ株の熱処理抗原、エルトール(イナバ)とオガワ株のホルマリン処理抗原の4抗原を含有する。病原性大腸菌139型に効果があるのは、毒素原性大腸菌(ETEC)の毒素(易熱性エンテロトキシン)がコレラ菌のそれと共通点が多いことによる。
** CVD 103-HgR:商品名OrocholまたはMutacolで1995年頃発売された。認可国や有効率・有効期間はWC/rBSと同様。接種は1回で済むが、生ワクチンであるため管理が重要。Aサブユニット生成能力を無くしたイナバ株による、リコンビナント弱毒変異株生ワクチン。
 
日本ではガンマ線照射による照射ワクチンの研究が行われている。熱や薬品による不活化と違い運動性を確保できる点が特徴で、腸管粘膜での抗体産生を促す力が強いという。
 
==コレラの歴史==
[[Image:Cholera.jpg|thumb|コレラを残忍な死神として描いている。]]
[[Image:Cholerabaracke-HH-1892.gif|thumb|コレラ病棟(1892年ハンブルク)]]
コレラの感染力は非常に強く、これまでに7回の世界的流行(コレラ・[[パンデミック]])が発生し、2006年現在も第7期流行が継続している。[[2009年]][[1月29日]]現在、ジンバブエで流行中のコレラの死者が3000人に達し、なお増え続けている。
 
アジア型は古い時代から存在していたにもかかわらず、不思議なことに、世界的な流行([[パンデミック]])を示したのは19世紀に入ってからである。コレラの原発地は[[インド]]の[[ガンジス川]]下流の[[ベンガル地方|ベンガル]]から[[バングラデシュ]]にかけての地方と考えられる。最も古いコレラの記録は紀元前300年頃のものである。その後は、7世紀の[[中国]]、17世紀の[[ジャワ]]にコレラと思われる悪疫の記録があるが、世界的大流行は[[1817年]]に始まる。この年[[コルカタ|カルカッタ]]に起こった流行はアジア全域から[[アフリカ]]に達し、[[1823年]]まで続いた。その一部は日本にも及んでいる。[[1826年]]から[[1837年]]までの大流行は、アジア・アフリカのみならず[[ヨーロッパ]]と南北[[アメリカ合衆国|アメリカ]]にも広がり、全世界的規模となった。以降、[[1840年]]から[[1860年]]、[[1863年]]から[[1879年]]、[[1881年]]から[[1896年]]、[[1899年]]から[[1923年]]と、計6回にわたるアジア型の大流行があった。しかし[[1884年]]には[[ドイツ]]の細菌学者[[ロベルト・コッホ]]によってコレラ菌が発見され、[[医学]]の発展、防疫体制の強化などと共に、アジア型コレラの世界的流行は起こらなくなった。
 
だがアジア南部ではコレラが常在し、なお流行が繰り返され、中国では[[1909年]]、[[1919年]]、[[1932年]]と大流行があり、またインドでは1950年代まで持ち越し、いずれも万人単位の死者を出すほどであった。
 
一方、エルトール型コレラは[[1906年]]に[[シナイ半島]]のエルトールで発見された。この流行は[[1961年]]から始まり、[[インドネシア]]を発端に、[[開発途上国|発展途上国]]を中心に世界的な広がりを見せており、[[1991年]]には[[ペルー]]で大流行が発生したほか、先進諸国でも散発的な発生が見られる。1992年に発見されたO139菌はインドとバングラデシュで流行しているが、世界規模の拡大は阻止されている。
<!-- コレラパンデミックは世界規模で継続中であり、その一例にすぎないもの。歴史的意味のある発生事例とは言えない。参考 http://www.who.int/csr/don/archive/disease/cholera/en/
[[2007年]]1月初めに、[[コンゴ共和国]]の首都[[ブラザビル]]から500キロ離れた石油積み出し港ポアンノアーレでコレラ発生が記録された。同国保健当局者は、2月4日、コレラ流行が首都にも及び、4人が死亡し、死者は82人に達したことを明らかにした。
-->
 
==日本におけるコレラ==
日本に初めてコレラが発生したのは、最初の世界的大流行が及んだ[[1822年]]([[文政]]5年)のことで、それ以前にはコレラは見られない。[[朝鮮]]半島を経由したか、[[琉球]]からかは明らかでないが、[[九州]]から始まって[[東海道]]に及んだものの、いかなる理由からか、[[箱根]]を越えて[[江戸]]に達することはなかった。
 
2回目の世界的流行時には波及を免れたが、3回目は再び日本に達し、[[1858年]]([[安政]]5年)から3年にわたり、全国を席巻する大流行となった。いわゆる「安政コレラ」で、江戸だけで10万人が死亡したといわれる(この死者数については、過大である、信憑性を欠く、との説もある)。[[1862年]]には、残留していたコレラ菌により3回目の大流行が発生、56万人の患者が出て、江戸では7万3000人が死亡した。以後、[[明治]]に入っても2~3年間隔で万人単位の患者を出す流行が続き、[[1879年]]、[[1886年]]には死者が10万人台を数え、日本各地に[[避病院]]の設置が進んだ。
[[1890年]]には日本を訪問していた[[オスマン帝国]](現[[トルコ]])軍艦、[[エルトゥールル号]]の海軍乗員の多くがコレラに見舞われた。[[1895年]]には軍隊内で流行し、死者4万人を記録した。
 
このような状況が改善され、患者数も1万人を切ってコレラの脅威が収まるのは1920年代になってからである。その後は、[[第二次世界大戦]]敗戦の混乱期にアジア地域からの引揚者により持ち込まれて560人の死者を出した例や、[[1977年]]に[[和歌山県]]下で感染経路不明のエルトール型の集団発生があった<ref>*{{Cite web
|url= http://www1.iph.pref.osaka.jp/ophl2/upload/109/277wakayama.html
|title=『有田市を中心として発生したコレラ』(大阪府立公衆衛生研究所のサイトです)
|language=日本語
|accessdate=8月9日
|accessyear=2009年
}}</ref>
ほか、海外からの帰国者が発病する孤発例が時折見られる。[[1978年]]以降、[[神奈川県]]の[[鶴見川]]をはじめ、[[埼玉県]]や[[千葉県]]の河川水からコレラ菌が検出される事例はあったが、発病者は生じていないという説もある。しかし、実際には、海外渡航歴のない人の国内感染事例が年間:数~10事例報告されている。これらの中には、コレラ毒素(CT)産生Vibrio cholerae O1汚染食品からの感染とされた事例がある。<ref>*{{Cite web
|url= http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/325/kj3251.html
|title=『国内感染と考えられたコレラ菌O139初発事例-広島市』(Vol.28 p 86-88:2007年3月号)(IASRのサイトです)
|language=日本語
|accessdate=7月28日
|accessyear=2008年
}}</ref>
<ref>*{{Cite web
|url= http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/311/dj3112.html
|title=『2004年12月~2005年9月の間に三重県で発生した死亡事例を含む4例のコレラ』(Vol.27 p 6-7:2006年1月号)(IASRのサイトです)
|language=日本語
|accessdate=7月28日
|accessyear=2008年
}}</ref>
 
また、2001年6月~7月に、隅田川周辺に居住し、日常の煮炊きをはじめ生活用水として公園の身体障害者用トイレの水を利用し、隅田川で採れた亀を数人で調理して食用としていた路上生活者2名がコレラを発病し、2006年6月にも、路上生活者1名がコレラを発病した。いずれも、感染経路は明確でないが、国内で感染したと推測されている。<ref>*{{Cite web
|author=大西健児・高橋華子・相楽裕子
|url= http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/320/kj3201.html
|title=『国内で感染したと推測されるコレラの3事例』(Vol.27 p 273-274:2006年10月号)(IASRのサイトです)
|language=日本語
|accessdate=7月28日
|accessyear=2008年
}}</ref>
 
2007年6月1日から施行された改正感染症法においてコレラは三類感染症に分類された(事実上の格下げ)。この変更に伴って、検疫法の対象病原体から除外され、空港・港湾[[検疫所]]では病原コレラの検出そのものが行われなくなった。したがってコレラ菌は感染症の統計からも除外される事態となり、微生物学者を中心にこの改正を危惧する声が上がっている。
 
==名称==
コレラという名前は、[[ヒポクラテス]]が唱えた[[四体液説]]の中の一要素である、黄色[[胆汁]]を意味するcholeに由来する。四体液説では人間の体液を[[四元素説]]に対応した四種類([[血液]]、[[粘液]]、[[黄色胆汁]]、[[黒色胆汁]])に分類したもので、黄色胆汁は四元素のうち「火」に対応した、熱く乾いた性状を持つものと考えられていた。コレラは当初、この性状に合致する熱帯地方の[[風土病]]だと考えられており、また米のとぎ汁様の下痢が胆汁の異常だと考えられたことから、この名がついた。
 
日本では、最初に発生した[[文政コレラ]]のときには明確な名前がつけられておらず、他の疫病との区別は不明瞭であった。しかしこの流行の晩期には[[オランダ]]商人から「コレラ」という病名であることが伝えられ、それが転訛した「コロリ」や、「虎列刺」、「[[虎狼狸]]」などの当て字が広まっていった。それまでの疫病とは違う高い死亡率、激しい症状から、「[[鉄砲]]」「見急」「三日コロリ」などとも呼ばれた。
 
== 文学 ==
*「コレラ」は[[夏]]の[[季語]]でもある。
 
==参考文献==
*「[[細菌の逆襲]]」[[吉川昌之介]] [[中公新書]]
*「[[日本人の病歴]]」[[立川昭二]] 中公新書
*「[[病気の社会史]]」立川昭二 [[NHKブックス]]、その他多数
 
== 脚注 ==
<references />
 
== 関連項目 ==
*[[伝染病]]
*[[コレラ菌]]
*[[豚コレラ]]
*[[コレラタケ]] - コレラに似た症状を発症する毒キノコとして
 
{{DEFAULTSORT:これら}}
[[Category:感染症]]
[[Category:医療の歴史]]
[[Category:日本の医史]]
 
[[af:Cholera]]
[[ar:كوليرا]]
[[arz:كوليرا]]
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[[vi:Bệnh tả]]
[[war:Kolera]]
[[zh:霍亂]]
[[zh-min-nan:Làu-thò͘-soa]]