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'''脳血管障害'''(のうけっかんしょうがい, Cerebral Vascular Disorder: CVD)、'''脳血管疾患''' (Cerebrovasucular Disease: CVD) は、[[脳梗塞]]と[[脳出血]]、[[クモ膜下出血]]に代表される脳の病気の総称である。他に、[[もやもや病]]、[[慢性硬膜下血腫]]等も脳血管障害に分類される。
 
また、脳血管障害のうち急激に発症したものは、脳血管発作 (Cerebrovascular attack: CVA) または'''脳卒中''' (Stroke, Apoplexy) と呼ばれる。俗に言う、「当たった」という状態である<ref>を「あたるとも読む。例:「:「[[中風]]」=「」=「風にあたる。</ref>。俗にヨイヨイとも。
個々の疾患については、各々を参照のこと。
 
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スクリーニングの項目だけでも脳血管障害のかなりの情報を得ることができる。殆どの脳血管障害が片麻痺を主訴とするため、これを想定する。まず顔面に麻痺が存在しない頸部以下の[[片麻痺]]であれば[[脊髄]]レベルの血管障害と考えることができる。片麻痺と対側に顔面麻痺がある場合、すなわち交代性麻痺であれば[[脳幹]]障害である。脳幹障害は[[気管内挿管]]の必要が高くなる。咽頭反射の消失など[[球麻痺]]症状、交代性麻痺はいずれも気管内挿管を積極的に考える状態である。
頭部CTCTを緊急で行う必要がある(救急室のマネジメントとしては脳出血と診断がついた時点で局在診断は行っても治療方針としては影響は出ない。)。あいまに行う神経診断としては脳神経の検査である。脳神経Ⅰ~ⅣI - IV麻痺ならば[[中脳]]、脳神経Ⅴ~ⅧV - VIII麻痺ならば[[橋]]、脳神経Ⅸ~ⅩⅡIX - XII麻痺ならば[[延髄]]が責任病巣である可能性が高い。片麻痺と同側に顔面麻痺が認められる場合は皮質下レベルか皮質レベルの障害である。この場合テント上病変であるので瞳孔偏位が存在すればそれだけで偏位方向の皮質レベルの障害である(瞳孔偏位はテント上病変では病側を向き、テント下病変では健側を向く)。瞳孔偏位が認められなければ、皮質症状が認められるか、認められないかで鑑別する。皮質症状が存在すれば皮質レベルの障害であり、皮質症状が存在しない、あるいは感覚障害が存在しなければ皮質下レベル、即ちラクナ梗塞である。[[皮質症状]]は優位半球の皮質症状としては[[失語]]が有名であり、劣位半球皮質症状としては
障害血管の目安としてはそれ以外の[[高次機能障害]]、[[失認]]、[[失行]]、[[半側空間無視]]があげられる。また両側[[大脳皮質]]の機能として、[[複合感覚]]もあるため、これも皮質症状とする。広範な皮質症状としては[[意識障害]]もあげられる。
障害血管に関しては皮質レベルの障害の場合は前部大脳循環系の障害が疑わしい。下肢の障害が強ければ[[前大脳動脈]]領域、顔面や上肢の障害が強ければ[[中大脳動脈]]領域、[[同名半盲]]や[[幻視]]が認められれば[[後大脳動脈]]領域が疑わしい。皮質下、特に[[内包]]、[[視床]]、[[大脳基底核]]は穿通枝によって主に灌流されているため、皮質症状が存在しなかったり、感覚麻痺を伴わない運動麻痺や運動麻痺を伴わない感覚麻痺はラクナ梗塞を疑う。
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===救急室における画像診断学===
{| class="wikitable"
!nowrap|画像!!nowrap|超急性期脳出血!!nowrap|超急性期脳梗塞
|-
|発症直後所見||発症直後からT2WI、DWIにて信号変化が認められる||発症直後は所見は認められない。
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[[脳梗塞]]の画像所見について述べる。
;CT
:X線[[コンピュータ断層撮影|CT]]では、まず何よりも[[脳出血]]との鑑別が重要である。脳出血ではよほど小さなものでない限り超急性期から血腫が明確な高吸収域として確認できるからである。さらに脳梗塞では'''初期(早期)虚血変化'''(early CT sign)と呼ばれる所見がみられることがある。early CT signとしては[[レンズ核]]陰影の不明瞭化、[[島皮質]]の不明瞭化、皮髄境界(皮質と[[白質]]の境界)の不明瞭化、[[脳溝]]の消失(狭小化)が有名である。これらの変化がMCA領域の1/3を超えるとき(1/3MCA領域)は血栓溶解療法の治療適応外となるため、近年では初期虚血変化有無の判定が重要となっている。やや時間が経過すると、壊死した脳の腫脹がみられることがある。そして、壊死した組織は発症数日すると軟化してCT上暗くなるが、これらの所見はどれも発症急性期にははっきりしないものである。
;MRI
:[[核磁気共鳴画像法|MRI]]ではより早期から所見を捉えることができる。'''T2強調画像'''で病変が高信号になる([[細胞]]の腫脹をみている)のが発症約6時間でみられるほか、'''拡散強調画像(DWI)'''では高信号を約3時間後から認めることができるとされる。概念上はDWIにて高信号を示している部位はすでに不可逆的な変化を示していると考えられており、その周囲に可逆的な部位である[[ペナンブラ]]が存在すると考えられている。しかしDWIの高信号域の多くは梗塞巣に一致するが淡い病変の中に可逆性の病変が含まれることもあることが知られている。逆に超早期はDWIでも偽陰性を示すことはしばしば認められる。発症24時間以内でも5%ほどの偽陰性が知られている。特に発症6時間以内の椎骨動脈灌流域で偽陰性が多く20%も認められる。特に延髄病変で多いとされている。逆に大脳皮質での偽陰性は低く2%程度である。初回のDWIにて高信号が認められなくとも経過、症状から脳梗塞が強く疑われた時は24時間後に再度撮影するのが望ましい。その場合は3mm程度の薄いスライスでb value 2000以上で行うと検出率が高くなる。
 
{| class="wikitable"
!nowrap|病期!!nowrap|病態!!nowrap|DWI!!nowrap|ADC-MAP!!nowrap|T2WI!!nowrap|CT
|-
|発症直後(0~1(0 - 1時間)||閉塞直後の灌流異常||所見なし||所見なし||所見なし||所見なし
|-
|超急性期(1~24(1 - 24時間)||細胞性浮腫||高信号||低信号||所見なし||early CT sign
|-
|急性期(1~7(1 - 7日)||細胞性浮腫と血管性浮腫||高信号||低信号||高信号||低吸収
|-
|亜急性期(1~3(1 - 3週間)||細胞壊死にてマクロファージ浸潤と血管新生から徐々に浮腫軽減||高信号から徐々に低信号へ||低信号から徐々に高信号へ||高信号||低吸収からFEを介して低吸収へ
|-
|慢性期(1か月~) - )||壊死、吸収、瘢痕化||低信号||高信号||高信号||髄液濃度
|}
上記表は脳梗塞におけるMRIの典型的経時的変化である。超急性期は細胞性浮腫のため拡散係数が低下し、それはDWIにて高信号、ADC-MAPで低信号という形で表現される。急性期では毛細血管のBBBの破綻により血管性浮腫が起る。血管性浮腫により単位組織あたりの水分量が増加するためT2WIにて高信号を示すようになる。急性期に再灌流により血管性浮腫が増悪し、著明な[[脳浮腫]]や[[出血性梗塞]]を起こすこともある。亜急性期になると細胞壊死と血管壊死により拡散係数が上昇してくるため、一時期見かけ上正常化(pseudo-normalization)する。拡散強調画像ではT2 shine throughの影響をうけて亜急性期後半まで高信号が持続する。この現象があるために拡散強調画像で高信号でも拡散係数の低下や脳梗塞超急性期と言えずとすることができず、ADC-MAPを併用して評価する。発症2週間ほどでCTでも血管性浮腫の軽減により一時的に病変が等吸収になる。しかし不明瞭化はしておりFE(fogging effect)と言われる。亜急性期では軟膜髄膜吻合による側副血行路の発達や代償性の灌流増加にて比較的小さな梗塞巣内の出血が認められることがあり、T2*にて低信号を示す。これは急性期の出血性梗塞と異なり、重篤な神経症状の増悪を招くことはないが、ラクナ梗塞の場合はこれらの所見がある場合は抗血小板薬投与をしない方が無難とされている。その後は慢性期所見としてT2WI高信号となるが、組織欠損の程度によりFLAIR画像で低信号化したりする。細胞外液腔の開大によるものである。
98行目:
脳血管障害では遠隔部に二次性が起ることが知られている。代表例を示す。
{| class="wikitable"
!nowrap|二次性変化!!nowrap|所見
|-
|皮質脊髄路のワーラー変性||[[皮質脊髄路]]に障害があるとその遠隔部で4週後よりT2短縮、10週頃よりT2延長。DWIでは2日から8日程度で信号変化が認められる。
115行目:
[[脳内出血]]の画像所見について述べる。
;頭部CT
:血液が血管外に流出すると凝固して血漿成分が吸収されるためヘモグロビン濃度が上昇する。そのためCTでは高吸収域を示し、診断は比較的容易である。
;頭部MRI
:超急性期は脳出血と脳梗塞の鑑別もMRIにて行うことができる。但し、CTでもほぼ脳出血の検出能は変わりはないとされている。
{| class="wikitable"
!nowrap|画像!!nowrap|超急性期脳出血!!nowrap|超急性期脳梗塞
|-
|発症直後所見||発症直後からT2WI、DWIにて信号変化が認められる||発症直後は所見は認められない。
130行目:
MRIの意義はヘモグロビンの生化学的状態が鑑別できることである。
{| class="wikitable"
!nowrap|病期!!nowrap|ヘム鉄の性状!!nowrap|磁性!!nowrap|局在!!nowrap|T2WI!!nowrap|T1WI!!nowrap|CT
|-
|超急性期(24時間以内)||オキシヘモグロビン||Fe2+/反磁性||赤血球内||軽度高信号||軽度低信号||高吸収域
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最も有名なくも膜下出血のCT所見にペンタゴンといわれる[[鞍上槽]]への出血が知られているが、これは頭蓋内内頚動脈動脈瘤破裂の場合によく認められるもので、それ以外の動脈瘤破裂によるクモ膜下出血ではこのような画像にはならない。また破裂動脈瘤の30%ほどに脳内出血を合併すると言われている。[[脳動脈瘤]]の好発部位としては前交通動脈(Acom)、中大脳動脈の最初の分枝部、内頚動脈-後交通動脈(IC-PC)とされている。前交通動脈瘤では前頭葉下内側および[[透明中隔]]に、IC-PCでは側頭葉に、中大脳動脈瘤では外包および側頭葉、前大脳動脈遠位部動脈瘤では[[脳梁]]から[[帯状回]]に脳内血腫を形成する。高血圧性の脳内出血と明らかに分布が異なるほか、原則として近傍に[[クモ膜下出血]]を伴っている。亜急性細菌性心内膜炎や絨毛がんなどでは動脈瘤を合併し、クモ膜下出血、脳内出血を合併することが知られている。以下に出血部位から責任動脈瘤を推定する方法を纏める。
{| class="wikitable"
!nowrap|破裂部位!!nowrap|出血の広がり
|-
|前交通動脈||[[大脳縦裂]]前部、交叉槽、脚間槽などから[[シルビウス裂]]まで左右対称的に存在、透明中隔腔内の血腫が特徴的である。