「テレコネクション」の版間の差分

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[[Image:QBO Cycle observed.png|thumb|right|300px|テレコネクションの例。赤道を中心とした南北各20度くらいの低緯度帯上空の成層圏では、2~3年周期で揃って風向が逆転する現象が発生する(QBO)(QBO)。西風は白色、東風は灰色に塗ってある。]]
'''テレコネクション'''([[英語]]:teleconnection)、:teleconnection)あるいは'''遠隔相関'''、'''遠隔結合'''とは離れた2つ以上の地域で[[気圧]]が[[シーソー]]のように伴って変化する現象である。
 
== 定義とメカニズム ==
テレコネクションに厳密な定義は無いが、テレコネクションとされているパターンのほとんどではおおよそ2つ以上の地点で気圧が中長期的に伴って変動している。天気や気象状況が伴って変わる場合テレコネクションということもあるがこれは気圧のテレコネクションによって起こるもので、天気そのものが伝播することは無いのであまり正しくない使い方である。
 
例えば[[春]]や[[秋]]の[[日本]]の天候として[[高気圧]]と[[低気圧]]が交互にやってきて、[[晴れ]]や[[雨]]が周期的に移り変わる時期がある。テレコネクションと似た周期性を持っているが、このような変動は変動がある時期にしか起こらずそのほかの時期は全く見られないことなどからテレコネクションとはいわない。
 
現在日本においては、「遠隔相関」「遠隔結合」よりも「テレコネクション」のほうが良く使われる。これらの語はともに「離れた地点で何らかの現象が伴って変化する」という意味で、気圧の変化という意味は持っていない。そのため、[[物理学]]の分野や通信・情報技術の分野でも使用されることがある。これらと区別する意味も含め地球規模で大気の流れが変わることから大気変動、大気振動とも呼ばれる。
 
気圧差が拡大・縮小することによって[[気温]]・[[降水量]]・[[大気循環]]などが変化し、[[異常気象]]をもたらすことがある。
 
広義には[[モンスーン]](季節風)を発生させる大気循環なども含めることがあるがモンスーンにおいては気圧が毎年規則正しく変動するのに対し南方振動などは不定期に数十日~数十年ごとに変動するものであり、両者は性質が異なる。
 
テレコネクションは、[[ロスビー波]]のような長周期の[[大気波]]の伝播によって発生する。ロスビー波は大陸・海洋の温度差や地形の高低差によって大気が揺すぶられて生じる自由振動の波の1つでロスビー波のエネルギーが伝わる方向に低気圧、高気圧のパターンが周期的に見られる。ロスビー波の伝播する時間スケールが長いため、テレコネクションに伴う気圧変動は数日~数年もの周期であると考えられている。このほか、[[重力波]]などさまざまな原因が指摘されているが未解明な部分も多い。
 
海洋の大規模な循環([[熱塩循環]])においても、テレコネクションのように海洋の流れが伴って変わる現象が見つかっている。
 
== テレコネクションの発見と研究 ==
[[18世紀]]後半、ある[[デンマーク]]人の日記にデンマークの冬が例年より寒いと[[グリーンランド]]は例年より暖かく、その逆もあり得るということが記されていた。[[10世紀]]後半から[[15世紀]]ごろには、北欧に点在した[[ヴァイキング]]の間でこのことが知られていたと考えられている。[[20世紀]]に入って[[ヤコブ・ビヤークネス]]は、現在でいう「テレコネクション」の大まかなメカニズムを示した。その後、[[1924年]]に[[ギルバート・ウォーカー]]はこの現象に「[[北大西洋振動]]」と名付け、その後長い間研究が進められた。[[1970年代]]から[[1980年代]]にかけて[[エルニーニョ・南方振動|エルニーニョ]]に関連した研究が進み、[[太平洋]]赤道域の海水温異常が世界各地の異常気象と連動する仕組みが詳細に解明され始めた。
 
テレコネクションによって気圧が変動すると世界各地で[[大雨]]、[[洪水]]、[[旱魃]]、高温、低温、[[竜巻]]や[[熱帯低気圧]]の増加・減少などの[[異常気象]]が発生し人的被害、社会的・経済的被害をもたらすためいくつかの気象機関や専門研究機関がテレコネクションの発生を予測しようと試みている。PDO、QBO、TBO、SAOなど周期が決まっているものは比較的容易に予測ができるように思われるが複数のテレコネクションパターンがそれぞれ影響し合っているため、周期がずれたり規模(気圧の変動幅や変動する地域)が異なったりすることが多い。これは周期が決まっていないENSOなどでも同様である。しかしある程度の決まったパターンが判明しており、テレコネクションによる異常を捉えるために世界規模で気温・気圧・風向・風速・水温などの監視体制ができている。国際的な取り組みとしては[[1985年]]から10年間行われた[[熱帯海洋・全球大気研究計画]](TOGA)(TOGA)によって太平洋赤道域を中心とした監視体制が作られたほか、[[アメリカ海洋大気圏局]]が北米や北大西洋、北太平洋などに監視網を作っている。また各国機関の研究基地が多数点在する[[南極]]においても、さまざまな観測データをテレコネクションの監視に利用しようとする動きがある。
 
近年、[[地球温暖化]]([[気候変動]])に関する研究が進む中でテレコネクションやそれに伴う周期的な天候変動が地球の気候に大きな影響を及ぼしていることが分かった。長期的な気象予報の分野では、予報の誤差の原因となるテレコネクションによる天候変動を考慮した予報に関する研究が進んでいる。
 
ただテレコネクションを数値で表現し、[[数値予報モデル]]を用いて再現・予報するのは現段階では困難である。[[大気波]]の伝播は数式に表すことができるが、それがテレコネクションに変わっていく詳細な仕組みがまだ解明されていないためである。現段階でテレコネクションの予測方法は、規則性から予測する方法と発生の兆候を捕らえる方法の2つにとどまっている。テレコネクションによる天候の偏移は従来からの規則性をもとに行われる気象予報が大きく外れるリスクであり、予報上の重要な問題となっている。
 
== 主なテレコネクション・パターン ==
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!名称!!略称!!遠隔相関する地域!!周期
|-
![[エルニーニョ・南方振動]]
|ENSO||インドネシア近海/ペルー沖の太平洋||rowspan="3"|不定期
|-
65行目:
![[半球間振動]]
|IHO||北半球/南半球||style="white-space:nowrap"|3ヶ月~12・13年
|-
![[ダイポールモード現象]]
|DM<br>IOD||インド洋赤道域東部/インド洋赤道域西部||rowspan="6"|不定期
|-
![[太平洋・日本パターン]]
|PJ||日本/西太平洋赤道域||rowspan="6"|不定期
|-
![[太平洋・北米パターン]]
77 ⟶ 80行目:
![[ユーラシアパターン]]
|EU||ヨーロッパ/東アジアなど
|-
![[ダイポールモード現象]]
|DM<br>IOD||インド洋赤道域東部/インド洋赤道域西部
|-
!style="white-space:nowrap"|[[インド洋全域昇温]]パターン
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== 参考文献 ==
*[http://www.geog.or.jp/journal/back/pdf114-3/p460-484.pdf 季節~数十年スケールからみた気候システム変動] 山川修治,Journal of Geography 114(3)114(3) 460-484, 、[[2005年]]
*[http://www.data.kishou.go.jp/kaiyou/shindan/sougou/html/2.3.html 海洋の健康診断表「総合診断表」 2.3 エルニーニョ現象] 気象庁,2007年1月31日
*[http://www.data.kishou.go.jp/kaiyou/shindan/sougou/html/col_2.3.html 【コラム】 エルニーニョ現象の予測技術] 気象庁,、[[2006年]][[3月7日]]
*[http://kobam.hp.infoseek.co.jp/meteor/iso.html 季節内振動(ISO)(ISO)] 気象用語集
*[http://www.jamstec.go.jp/frsgc/jp/publications/news/no15/jpn/result1.html 大気の半球間振動] FRONTIER
*[http://bun.i.hosei.ac.jp/museum/html/kiyo/49/yoko/satou.pdf 地球温暖化への再考] 佐藤典人
102行目:
*[http://www.cpc.ncep.noaa.gov/data/teledoc/telecontents.shtml Northern Hemisphere Teleconnection Patterns] NWS・気候予報センター 北半球のテレコネクション
*[http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/db/elnino/index/dattab.html ENSO監視指数] 気象庁
*[http://www.jst.go.jp/pr/announce/20071214-2/index.html マッデン・ジュリアン振動(MJO)の再現実験に成功] [[科学技術振興機構]]
 
{{大気循環}}