「ネクロノミコン」の版間の差分

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アラビア人「[[アブドル・アルハズラット]]」(アブドゥル・アルハザードや、アブド・アル=アズラットと記される場合もある)が著わしたとされる架空の[[魔道書]]。複雑多岐にわたる魔道の奥義が記されているとされ、それ故か魔道書そのものに邪悪な生命が宿ることもあるという。『[[チャールズ・ウォードの奇怪な事件]]』ではジョセフ・カーウィンが(『イスラムの琴([[カーヌーン]])』の偽題で)所有し、「時を越え」たり「地下の大軍を出現させ」たりする準備をなした。カーウィンの所有した魔道書は襲撃によって失われたはずであったが、なぜか現代に舞い戻る。また、『ダニッチの怪』では、不完全な英語版が異世界からの怪物を召喚させるために用いられ、逆にそれを撃滅するためにも用いられた。
 
{{要出典範囲|ラヴクラフトは、[[イブン・アスィール]]の『完史』の西欧語タイトル「クロニコン」<ref group="注">19世紀後半にライデンからトルンベリの校訂になる ''Chronicon, quod perfectissimum dicitur'' が公刊された。</ref>から着想を得ていたとされている|date=2009年12月}}。またラヴクラフトがこの魔道書の表題をギリシャ語としつつも起源をアラビアとしたのは『[[アルマゲスト]]』の表題の逸話から着想を得たものであり、ヨーロッパでは[[ローマ帝国]]崩壊後に原書が失われてしまった[[クラウディオス・プトレマイオス|プトレマイオス]]による同書がアラビアに伝わって保存され、発展し、[[ルネサンス]]期に[[アラビア科学]]として逆輸入された歴史的事実を踏まえたものであると、知人に宛てた手紙の中で説明している<ref name="全集5_pp348">{{Cite bookHarvnb|和書ラヴクラフト|1987|Ref=CITE_ラヴクラフト1987|pp=348-349}}</ref>。かくして失われた古代の知識という雰囲気を作り出すための道具立てとなった。
|last=Lovecraft
|first=Howard P
|authorlink=ハワード・フィリップス・ラヴクラフト
|translator=大瀧啓裕
|title=ラヴクラウト全集
|origyear=1937
|origmonth=2
|edition=第9版
|date=1987-07-10
|publisher=[[東京創元社]]
|series=[[創元推理文庫]]
|isbn=4-488-52305-6
|volume=5
|pages=348-349頁
|chapter=作品解題 ネクロノミコンの歴史
}}</ref>。かくして失われた古代の知識という雰囲気を作り出すための道具立てとなった。
 
ネクロノミコンは架空の書物であり、本来はクトゥルフシリーズの中でのみ語られてきた存在であったが、現代においては魔道書物の代名詞的存在として様々なメディアでその名前を目にすることができる。
 
== 来歴 ==
ラヴクラフトが作中に記した来歴によれば、狂える詩人アブドル・アルハズラットにより、[[730年]]に[[ダマスカス]]において書かれた「'''アル・アジフ'''」(もしくはキタブ・アル=アジフ:キタブは本/書の意)が原典であるとされる。アジフは、アラブ人が魔物の鳴き声と考えた夜の音(昆虫の鳴き声)をあらわした言葉である<ref name="全集5_pp311">{{Harvnb|ラヴクラフト|1987|Ref=CITE_ラヴクラフト1987|pp=311-322}}</ref><ref name="wikisource_HistoryOfTheNecronomicon">{{Cite bookwikisource|和書History of the Necronomicon|Howard Phillips Lovecraft|nobullet=yes|en}}</ref>。「ネクロノミコン」の表題は[[ギリシャ語]]への翻訳の際に与えられたもので、ギリシャ語の{{Lang|el|Νεκρός}}(Nekros 死体) - {{Lang|el|νόμος}}(nomos 掟) - {{Lang|el|εικών}}(eikon 表象) の合成語であり、「死者の掟の表象あるいは絵」の意とされる<ref name="全集5_pp348" />。アルハズラットは執筆後、ダマスカスの路上で白昼、目に見えない怪物に生きたまま、むさぼり食われたと言われる<ref name="全集5_pp311" /><ref name="wikisource_HistoryOfTheNecronomicon" />。
|last=Lovecraft
|first=Howard P
|authorlink=ハワード・フィリップス・ラヴクラフト
|translator=大瀧啓裕
|title=ラヴクラウト全集
|origyear=1938
|edition=第9版
|date=1987-07-10
|publisher=[[東京創元社]]
|series=[[創元推理文庫]]
|isbn=4-488-52305-6
|volume=5
|pages=311-322頁
|chapter=資料:『ネクロノミコン』の歴史
}}</ref><ref name="wikisource_HistoryOfTheNecronomicon">{{Cite wikisource|History of the Necronomicon|Howard Phillips Lovecraft|nobullet=yes|en}}</ref>。「ネクロノミコン」の表題は[[ギリシャ語]]への翻訳の際に与えられたもので、ギリシャ語の{{Lang|el|Νεκρός}}(Nekros 死体) - {{Lang|el|νόμος}}(nomos 掟) - {{Lang|el|εικών}}(eikon 表象) の合成語であり、「死者の掟の表象あるいは絵」の意とされる<ref name="全集5_pp348" />。アルハズラットは執筆後、ダマスカスの路上で白昼、目に見えない怪物に生きたまま、むさぼり食われたと言われる<ref name="全集5_pp311" /><ref name="wikisource_HistoryOfTheNecronomicon" />。
 
現存する版本の多くは17世紀版で、[[ハーバード大学#図書館|ハーバード大学ワイドナー図書館]]、[[ビブリオテーク・ナショナル|パリ国立図書館]]、[[ミスカトニック大学]]付属図書館、ブエノスアイレス大学図書館などに所蔵が確認されているが<ref name="全集5_pp311" /><ref name="wikisource_HistoryOfTheNecronomicon" />、完全なものは世界に5部しか現存していないと設定されている。
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*14xx年頃 [[ドイツ]]で[[ゴチック]]体版が刊行される。
*1500~1550年頃 [[イタリア]]でギリシャ語版が出版される。
*1560~1608年頃 [[ジョン・ディー]]博士により、ラテン語版をもとに[[英語]]に翻訳される。なお「ダニッチの怪」での描写によれば英語版は製本されず、後に不完全な写本が散逸したとされる<ref>{{Harvnb|ラヴクラフト|1987|Ref=CITE_ラヴクラフト1987|p=257}}</ref><ref>{{Cite bookwikisource|The Dunwich Horror/Chapter V|Howard Phillips Lovecraft|nobullet=yes|和書en}}</ref>。
|last=Lovecraft
|first=Howard P
|authorlink=ハワード・フィリップス・ラヴクラフト
|translator=大瀧啓裕
|title=ラヴクラウト全集
|origyear=1929
|edition=第9版
|date=1987-07-10
|publisher=[[東京創元社]]
|series=[[創元推理文庫]]
|isbn=4-488-52305-6
|volume=5
|pages=257頁
|chapter=ダニッチの怪
}}</ref><ref>{{Cite wikisource|The Dunwich Horror/Chapter V|Howard Phillips Lovecraft|nobullet=yes|en}}</ref>。
*16xx年頃 ラテン語版をもとに[[スペイン語]]に翻訳される<ref name="全集5_pp311" />。
 
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古くは1946年にニューヨークの古書店がラテン語版『ネクロノミコン』を販売目録のなかに(ジョークで)追加し、新聞で報道されるほどの騒ぎとなった。
 
1973年には、アウルズウィック・プレスが<ref name="ヘイ1994_p109">{{Harvnb|ヘイ|1994|Ref=CITE_ヘイ1994|p=109}}</ref>贋作と明言した上で『アル・アジフ』を出版。これは全ページをアラビア風文字(?){{#tag:ref|学研の『魔道書ネクロノミコン』におけるロバート・ターナーによる寄稿の中では「古代ドゥリア語の不可解な文字」として言及されている<ref name="ヘイ1994_p109" />。|group="注"}}の無意味な羅列で埋め尽くしただけのもので、コレクターズアイテム以上のものではなかった。
 
1978年<ref>{{Cite book
1978年<ref group="注">学研の『魔道書ネクロノミコン』にも、THE NECRONOMICON Copyright 1978 by George Hayとある。学研版には第二版への編集序言が記載されている事から1993年版は第二版であると推定される。</ref>、ジョージ・ヘイが、ジョン・ディー版からの翻訳というふれこみで『魔道書ネクロノミコン』を出版。序文を[[コリン・ウィルソン]]が書いている。この本には、実在しているジョン・ディーの暗号文書をコンピュータ解析によって解読したというものが載せられている。その内容は「驚くべき事に」ジョン・ディーの時代より数百年後に描かれたラヴクラフトのクトゥルフ神話の内容と合致している。この「解読結果」が、作者や関係者のネクロノミコンに対する所見や「解読」に至るまでの経緯などと共に、「[[ネクロノミコン断章]]」と銘打たれて収められている。
|author=[[コリン・ウィルソン|Colin Wilson]] et al.
|editor=George Hay ed.
|title=The Necronomicon
|year=1978
|month=5
|language=英語
|publisher=Spearman
|isbn=40-48885978-52305026-60
}}</ref>{{#tag:ref|学研の『魔道書ネクロノミコン』にも、THE NECRONOMICON Copyright 1978 by George Hayとあるが<ref>{{Harvnb|ヘイ|1994|Ref=CITE_ヘイ1994|p=4}}</ref>、学研版には第二版への編集序言<ref>{{Harvnb|ヘイ|1994|Ref=CITE_ヘイ1994|pp=6-8}}</ref>が記載されており、1993年の第二版<ref>{{Cite book
|author=[[コリン・ウィルソン|Colin Wilson]] et al.
|editor=George Hay ed.
|title=The Necronomicon
|origyear=19371978
|origmonth=25
|year=1993
|month=10
|edition=第9版New edition
|language=英語
|publisher=Skoob Books
|isbn=41-488871438-5230516-60
1978年}}</ref group="注">学研から『魔道書ネクロノミコン』にも、THE NECRONOMICON Copyright 1978 by George Hay翻訳ある。学研版いう体裁は第二版への編集序言が記載されなっている事から1993年版は第二版であると推定される。</ref>|group="注"}}、ジョージ・ヘイが、ジョン・ディー版からの翻訳というふれこみで『魔道書ネクロノミコン』を出版。序文を[[コリン・ウィルソン]]が書いている。この本には、実在しているジョン・ディーの暗号文書をコンピュータ解析によって解読したというものが載せられている。その内容は「驚くべき事に」ジョン・ディーの時代より数百年後に描かれたラヴクラフトのクトゥルフ神話の内容と合致している。この「解読結果」が、作者や関係者のネクロノミコンに対する所見や「解読」に至るまでの経緯などと共に、「[[ネクロノミコン断章]]」と銘打たれて収められている。
 
それまでに出版された『ネクロノミコン』に不満を感じていたドナルド・タイスンは、2004年に『ネクロノミコン アルハザードの放浪』を出版。ラヴクラフトが作中において『ネクロノミコン』からの引用として記述した文章を全て盛り込み、より設定に忠実な再現を試みている。
 
他に『ネクロノミコン』のタイトルを持つ有名な書籍として、スイスの[[シュールレアリズム]]画家[[H.R.ギーガー]]が1977年に出版した作品集があり、収録作の一つ「ネクロノームIV」に描かれた異形の怪物が後の『[[エイリアン (架空の生物)|エイリアン]]』のベースになっている。
 
== 文献資料 ==
*「ネクロノミコンの歴史」(『ラヴクラフト全集5』収録) [[ハワード・フィリップス・ラヴクラフト|H・P・ラヴクラフト]]、[[大瀧啓裕]]訳
**1987年7月、 [[東京創元社]][[[創元推理文庫]]] ISBN 4488523056
*『魔道書ネクロノミコン』 ジョージ・ヘイ編、[[コリン・ウィルソン]]序文、大瀧啓裕訳
**(新書版)1994年8月、[[学研ホールディングス|学習研究社]] ISBN 4054003877
**(文庫版)2000年9月、学習研究社 ISBN 405900006X
**(完全版)2007年3月、学習研究社 ISBN 4054032346
*『ネクロノミコン アルハザードの放浪』 ドナルド・タイスン、大瀧啓裕訳
** 2006年1月、学習研究社 ISBN 4-05-402948-5
 
== 脚注 ==
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=== 出典 ===
{{Reflist}}
 
== 文献資料 ==
*「ネクロノミコンの歴史」(『ラヴクラフト全集5』収録) [[ハワード・フィリップス・ラヴクラフト|H・P・ラヴクラフト]]、[[大瀧啓裕]]訳
**<cite style="font-style: normal;" id="CITE_ラヴクラフト1987">1987年7月、 [[東京創元社]][[創元推理文庫]] ISBN 44885230564-488-52305-6</cite>
*『魔道書ネクロノミコン』 ジョージ・ヘイ編、[[コリン・ウィルソン]]序文、大瀧啓裕訳
**<cite style="font-style: normal;" id="CITE_ヘイ1994">(新書版)1994年8月、[[学研ホールディングス|学習研究社]]〈学研ホラーノベルズ〉 ISBN 40540038774-05-400387-7</cite>
**<cite style="font-style: normal;" id="CITE_ヘイ[1994]2000">(文庫版)2000年9月、学習研究社〈学研M文庫〉 ISBN 4-05-900006-X</cite>
**<cite style="font-style: normal;" id="CITE_ヘイ[1994]2007">(完全版)2007年3月、学習研究社 ISBN 4-05-403234-6</cite>
*『ネクロノミコン アルハザードの放浪』 ドナルド・タイスン、大瀧啓裕訳
**(文庫版)2000 200691月、学習研究社 ISBN 405900006X4-05-402948-5
 
== 関連項目 ==
* [[クトゥルフ神話]]
|authorlink=* [[ハワード・フィリップス・ラヴクラフト]]
* [[アブドル・アルハズラット]]
 
{{DEFAULTSORT:ねくろのみこん}}