「ヤコビ行列」の版間の差分

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<ref name=shima>島 和久 (著)「多変数の微分積分学」近代科学社 (1991/09)</ref>
<ref name=warn>Frank W. Warner; "Foundations of Differentiable Manifolds and Lie Groups (Graduate Texts in Mathematics)"Springer New York (2010) </ref> は、一変数スカラー値関数における接線の傾きを、多変数関数に拡張したものである。ヤコビ行列の行列式は、ヤコビアンと呼ばれる。
多変数ベクトル値関数 '''f''' の点 '''p''' におけるヤコビ行列は、'''f''' の偏微分商/偏導関数を並べてできる[[行列]]で、次のように表される。
 
<math>
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{{\left. \frac{\partial {{f}_{m}}}{\partial {{x}_{1}}} \right|}_{\textbf{p}}} & \cdots & {{\left. \frac{\partial {{f}_{m}}}{\partial {{x}_{n}}} \right|}_{\textbf{p}}} \\
\end{matrix} \right)
 
</math> 
 
'''ヤコビ行列'''は、一変数関数における接線の傾きを高次元に拡張したものであり、'''ヤコビアン'''は、変数変換による面積や体積の変化の比率を符号つきで表すもので、[[重積分]]の変数変換に現れる。いずれも、[[解析学]]、[[多様体]]論などで基本的な役割を果たすほか、[[最適化問題]]等の応用分野でも重要な概念である。
 
 
== 定義 ==
'''D''' を、''n'' 次元[[ユークリッド空間]] '''R'''<sup>''n''</sup> の[[開集合]]とし、'''f''' を '''D''' 上で定義され、'''R'''<sup>''m''</sup> に値を取る[[微分法#多変数関数の微分法|微分可能]]な多変数ベクトル値関数とする。'''f''' が '''D''' 上の点 '''p''' で微分可能であるとは、
<math>\underset{\mathbf{x}\to \mathbf{p}}{\mathop{\lim }}\,\,\,\left( \frac{\mathbf{f}(\mathbf{x})-\left( \mathbf{A}(\mathbf{x}-\mathbf{p})+\mathbf{f}(\mathbf{p}) \right)}{\left\| \mathbf{x}-\mathbf{p} \right\|} \right)=0</math>
をみたす <math>n\times m</math> 行列 <math>\textbf{A}</math> が存在することであるが、この<math>\textbf{A}</math>を '''f''' の '''p''' におけるヤコビ行列と定義し、''J''<sub>'''f'''</sub>(''p'') と表記する。
 
''f'' が ''D'' 全域で微分可能な場合、''p'' に対して ''J''<sub>''f''</sub>(''p'') を対応させる写像 <math>J_f: p \mapsto J_f(p)</math> についても、ヤコビ行列と呼ぶ。
なお、'''R'''<sup>''m''</sup>から'''R'''への[[射影]] <math>\pi_i</math> (''i'' = 1, 2, ... ''m'') について <math>f_i = \pi_i \circ f</math> とすると、''J''<sub>'''f'''</sub>(''p'') は
 
なお、'''R'''<sup>''m''</sup>から'''R'''への[[射影]] <math>\pi_i</math> (''i'' = 1, 2, ... ''m'') について <math>f_i = \pi_i \circ f</math> とすると、''J''<sub>'''f'''</sub>(''p'') は
 
<math>
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と等しいことが知られている。
 
''m'' = ''n'' の場合、ヤコビ行列は正方行列となり、その[[行列式]]を考えることができる。ヤコビ行列の行列式 |''J''<sub>''f''</sub>| を、'''ヤコビアン'''(または'''ヤコビ行列式'''、'''関数行列式''')と呼ぶ。|''J''<sub>''f''</sub>| は以下のような記号で表記されることもある。
:<math>
|J_f|=\cfrac{\partial(y_1, \ldots, y_n)}{\partial(x_1, \ldots, x_n)}
</math>
 
== 性質 ==
ヤコビ行列は、実数変数実数値関数に関する微分係数の、自然な拡張となっている。特に、''n'' および ''m'' を 1 としたとき、(1, 1) 型行列と実数を同一視することにより、ヤコビ行列と微分係数は一致する。
ヤコビ行列は '''f''' の '''p''' における [[一次近似]] であり、[[接平面]]間の[[線型写像]]とみなせる。このため、写像の合成を行列積で計算でき、 '''g''' が '''f''' (p) を含む領域 '''E''' から '''R'''<sup>''l''</sup> への関数であり、'''f'''(''p'') において微分可能であるとき、
<math>J_{g \circ f}(p) = J_g(f(p)) \cdot J_f(p)</math>
が成り立つ。これは、合成関数の微分に相当する。
また、''m'' = ''n'' のとき、'''f''' の '''p''' におけるヤコビ行列は正方行列であるが、ヤコビ行列が非退化である場合 (ヤコビ行列の[[階数]]が''n'' であるとき)、'''f''' は 局所的に全単射となる、つまり、 ''p'' を含むある領域 '''D'''<nowiki>'</nowiki> について、'''f''' の '''D'''<nowiki>'</nowiki> への制限
<math>h := f|_{D'}: D' \rightarrow f(D')</math>
が[[全単射]]となり、
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となる ([[逆関数定理]])。
 
上の行列の性質について、それぞれ行列式をとることにより、
== ヤコビアンの性質 ==
: <math>|J_{f \circ g}| = |J_f||J_g| </math>
''m'' = ''n'' の場合、ヤコビ行列は正方行列となり、その[[行列式]]を考えることができる。ヤコビ行列の行列式 |''J''<sub>''f''</sub>| を、'''ヤコビアン'''(または'''ヤコビ行列式'''、'''関数行列式''')と呼ぶ。|''J''<sub>''f''</sub>| は以下のような記号で表記されることもある。
であり、
:<math>
: <math>|J_{f^{-1}}| = 1 / |J_f|</math>
|J_f|=\cfrac{\partial(y_1, \ldots, y_n)}{\partial(x_1, \ldots, x_n)}
従って、逆関数のヤコビアンは |''J''<sub>''f''<sup>-1</sup></sub>| = 1 / |''J''<sub>''f''</sub>| となる。もし、|''J''<sub>''f''</sub>| = 0 となるような点 ''S'' があれば、その点で |''J''<sub>''f''<sup>-1</sup></sub>| は定義できない<!-- ため、その点での逆関数は存在しない。従って、対応は 1 対 1 にはならず、点 ''S'' に於ける座標変換は不可能となる -->。この時の ''S'' を[[特異点]]という。ヤコビアンは、特異点を見つけるのにしばしば用いられる。
</math>
 
ヤコビアンに関する次の関係式が得られる。
:<math>|J_{f \circ g}| = |J_f||J_g| </math>
従って、逆関数のヤコビアンは |''J''<sub>''f''<sup>-1</sup></sub>| = 1 / |''J''<sub>''f''</sub>| となる。もし、|''J''<sub>''f''</sub>| = 0 となるような点 ''S'' があれば、その点で |''J''<sub>''f''<sup>-1</sup></sub>| は定義できない<!-- ため、その点での逆関数は存在しない。従って、対応は 1 対 1 にはならず、点 ''S'' に於ける座標変換は不可能となる -->。この時の ''S'' を[[特異点]]という。ヤコビアンは、特異点を見つけるのにしばしば用いられる。
 
'''ヤコビ行列'''は、一変数関数における接線の傾きを高次元に拡張したものであり、'''ヤコビアン'''は、変数変換による面積や体積の変化の比率を符号つきで表すもので、[[重積分]]の変数変換に現れる。いずれも、[[解析学]]、[[多様体]]論などで基本的な役割を果たすほか、[[最適化問題]]等の応用分野でも重要な概念である。
 
== 極座標系に関する具体例 ==