「人工生命」の版間の差分

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==概要==
厳密にはこれらの[[工作物]]を[[生物]]として認めるかどうかについては[[生命]]の定義にもり疑問も残るが、生命のように振舞いをするものをもってこのように定義する。
 
主に「生命とは何か」という[[哲学]]的な[[命題]]に端を発する学術分野で、研究対象は大まかに、[[コンピュータ]]上に形成されるソフトウェア、既存の[[細胞]]機構に類似した機構を採用したウェットウェア、[[機械]]類で形成されたハードウェアの存在様式が想定されている。
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個体生命が集合して、初めて生命として機能するという[[生態系]]的なアプローチも多く、その一方では細胞レベルの[[単細胞生物]]の集合体である[[個体]]を創造するアプローチも存在している。
 
これらアプローチは、既存の生命機構を[[抽象化]]した上で、何かの人工物にその行動様式や機能を模倣させて、その立ち振る舞いを研究したり、単純な機能セットを構築した上で組み合わせて個体として機能しうるか?とものであるが、さらにはそれら「個体」を集団として、生態系を構築する試みもされている。
 
==ソフトウェア==
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また、経済学や社会学に関するエージェントについても、[[創発]]的特性に基づくものを総称して「人工生命」と呼ぶことがある。これら「人工生命」の共通点は、個体群による繰り返しの考え方である。つまり、エージェントが世代を重ね、[[突然変異]]などによって時と共により良く適合するようになっていく。
 
[[ライフゲーム]]が良く知られているが、さらには突然変異による進化説的なアプローチから、他の生命から生まれた生命が他の生命を捕食したり依存して繁栄するかどうかを観察できるソフトウェアも存在する。
進化学者の[[トム・レイ]]は、[[Tierra (コンピュータプログラム)|Tierra]]という遺伝子の突然変異をシミュレートしたソフトを開発し、人工生命研究の先駆けとなった。
 
個体の一生は、わずか数秒から数分といった過酷な進化過程を経て、種族として生き延びるものや、強靭(きょうじん)で長命な個体の誕生まで、様々な淘汰にる変化で多彩な生物層を形成する場合がある。
 
観察者が介入して、[[インタラクティブ]]に[[人為選択]]による進化を促進させるソフトウェアも多い。
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* 「強い人工生命(Strong Alife)」の立場から[[ジョン・フォン・ノイマン]]は「生命とは、あらゆる媒体から独立して抽出できるプロセスである」としている。[[トム・レイ]]は、[[Tierra (コンピュータプログラム)|Tierra]]が生命をコンピュータ上でシミュレートしているのではなく、合成していると主張した。
* 「弱い人工生命(Weak Alife)」の立場では、生命プロセスを化学物質から分離できないと考える。この立場の研究者は、生命現象の潜在的な機構を理解するために生命プロセスを真似しようとする。すなわち「我々は本質的には何故なぜこの現象が発生するか知らないが、それを単純化すれば…」といった立場である。
 
=== 技術 ===
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ソフトウェアによる人工生命は多くの批判にさらされてきた。[[1994年]]、[[ジョン・メイナード=スミス]]は人工生命研究を「事実に基づかない科学(fact-free science)」であると批判した{{要出典}}。しかし、[[サイエンス]]や[[ネイチャー]]などの学術誌に最近掲載される人工生命に関する論文<ref>{{cite web |url=http://myxo.css.msu.edu/cgi-bin/lenski/prefman.pl?group=al |title=Evolution experiments with digital organisms|accessdate=2007-01-19}}</ref>に示されるように、徐々に学界の主流にも人工生命技術が受け入れられつつあり、特に[[進化]]の研究でその傾向が強い。
 
一般に人工生命の研究は[[計算機科学]]の分野で盛んであり、生物学者が人工生命を研究するということほとんどない。計算機科学の中でも人工生命の研究に懐疑的な立場もある。
 
=== 主なシミュレータ ===
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==ウェットウェア==
現在、単細胞生物のような機能的巨大有機分子を生み出すこと出来できないが、外部からのエネルギーを得て、自分の構成要素を環境から取り入れ、[[自己複製]]的に分裂するものの研究が進んでいる。
 
すでに、2003年の段階で[[塩基配列]]より人工[[ウイルス]]を約2週間で合成することには成功している。ただしウイルスは他の生物[[細胞]]内に侵入して自身の複製を行わせないと増殖できないため、生命の範疇に含めるかどうかには議論の余地がある。これは米代替バイオエネルギー研究所が1200万ドルの予算で2002年から行っている研究の一端で、5386塩基対を持つものだが、単純な微生物(単体で生存・繁殖する能力を持つ)は100~1000倍の遺伝情報を持つため、単純にこの手法が人工単細胞生物に応用できるわけではいが、将来的には[[ナノマシン]]技術の一つとして、特定の機能を持たせた人工単細胞生物の医療分野における活躍も期待されているほか、特定の物質を分解ないし無毒化する機能を持つ人工微生物による環境保全や、所定の分子構造を持つ生産物(燃料用[[アルコール]]から[[医薬品]]まで様々)をもたらすことも期待できるだろう。
 
===ウェットウェアに対する懸念===
ただ、人工ウイルスでも既に問題が指摘されている。韓国より報告のあったブタの遺伝情報のサンプルから、十数年前に開発された人工ウイルスの遺伝情報が検出されたというものだ(→[http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20050310302.html])。ウイルスは感染の過程で宿主の遺伝情報に自身の遺伝情報を書きむため、[[進化学]]にもウイルス感染による遺伝子書き換えの影響を指摘する[[ウイルス進化説]]があり、もし人工ウイルスが環境中に流出した場合、どんな生物に感染しうるのかや、どんな影響があるのかが予測しがたい。
 
なお[[バイオテクノロジー]]的な技術によって改変された生物(LMO:Living Modified Organism)の漏出に関しては[[生物の多様性に関する条約]]に含まれる「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(通称:[[生物の多様性に関する条約#カルタヘナ議定書|カルタヘナ議定書]])」において監視対象として制限されているが、生命そのものを製作した場合に於いても、同様の監視と漏出防止のための努力が求められるだろう。
 
また人工微生物もナノマシン同様に、[[ナノマシン#ナノマシンの危険性|グレイ・グー]]の可能性が指摘できる。特に単なる機械装置とは違って、人工生命が環境中にある素材から自己複製が可能な場合、あらかじめ無限増殖を予防する措置も必要と考えられている。
 
2010年、クレイグ・ベンターはmycoplasmaのゲノムの断片を合成、近縁種の細胞に移植し、増殖する人工細菌を作成することに成功した。
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==ハードウェア==
[[画像:Robosnakes.jpg|thumb|right|蛇型ロボット]]
古くは[[コンフリクト]]の解消に他の介在を求める[[ウォルターの亀]](1950年代)にも、その片鱗(へんりん)を見ること出来できるが、玩具化され市販されたものでは[[メカニマル]]もある。
メカニマルは単純に動物の動作を模倣したもので、知覚・思考能力は皆無だが、生物の工学的アプローチによる行動要式の解析は、その後多くの生物学者が注目しており、娯楽産業界はハリウッド等でも、特殊効果技術の一端として、「本物ソックリの動作をする機械」の研究が進んでいる。
 
その一方で、多関節機械に単純な目的意識を与えて、肉体に当たる機械部分を自由に制御させ、その結果を元に自己学習を行い、運動機能を改善させようという試みもある。
学習開始直後は満足に進むことも出来ない存在が、学習を繰り返すうちに、[[バタフライ泳法]]のようなダイナミックな移動方法を習得した事例もある。
 
==参考文献==