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+"電子吸引性基と電子供与性基"
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'''有機電子論'''(ゆうきでんしろん、electronic theory of organic chemistry)とは化学結合の性質および反応機構を、電荷の静電相互作用と原子を構成する価電子とにより説明する理論である。有機化学の領域では単に'''電子論'''(でんしろん、electronic theory)と呼ばれる。
 
== 概要 ==
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誘起効果はβ位、すなわち共有結合した原子で2つ以上を介した場合は殆どその影響がなくなるのに対して、共役した二重結合系のメソメリー効果はより広い間隔があっても効果の作用を現す。メソメリー効果の例としてアニリンとp-トルイジンの塩基性の違いが挙げられる。p-位に置換したメチル基からの電子供与性を示し、それがM効果により、窒素原子上の電子密度を増やし塩基性が増大したと説明することができる。
 
== 電子吸引性基と電子供与性基 ==
分子の特定の位置について、電子密度を減弱させる効果を持つ置換基の性質を'''電子吸引性'''とよび、逆に増加させる効果を持つ場合の性質を'''電子供与性'''と呼ぶ。このような効果を持つ置換基を'''電子吸引性基'''あるいは'''電子供与性基'''と呼び表す。電子吸引性あるいは電子供与性は単に電気陰性度の差だけでは説明できない。すなわち前述の誘起効果、メソメリー効果等が複合的に作用するので、芳香性や共役系の存在やトポロジー的な位置関係によって現れ方が変わってくる。
 
誘起効果の場合、'''電子吸引性'''のものを'''-I効果'''、'''電子供与性'''の場合を'''+I効果'''と表すが、炭素よりも電気陰性度の高い原子は-I効果を示す。また[[アニオン]]は+I効果を[[カチオン]]は-I効果を示す。
 
メソメリー効果の場合は'''電子吸引性'''のものを'''-M効果'''、'''電子供与性'''の場合を'''+M効果'''と表す。
 
{|border="1"
|-
| || 電子供与性 || 電子吸引性
|-
| 誘起効果
|
+I効果
* -N<sup>-</sup>R &gt; -O<sup>-</sup>
* -O<sup>-</sup> &gt; -S<sup>-</sup>
* (CH<sub>3</sub>)<sub>3</sub>C- &gt; (CH<sub>3</sub>)<sub>2</sub>CH- &gt; CH<sub>3</sub>CH<sub>2</sub>- &gt; CH<sub>3</sub>-
|
-I効果
* -O<sup>+<sup>R<sub>2</sub> &gt; -N<sup>+<sup>R<sub>3</sub>
* -N<sup>+<sup>R<sub>3</sub> &gt; -P<sup>+<sup>R<sub>3</sub> &gt; …
* -O<sup>+<sup>R<sub>2</sub> &gt; -S<sup>+<sup>R<sub>2</sub> &gt; …
* -N<sup>+<sup>R<sub>3</sub> &gt; -NO<sub>2</sub> &gt; -SO<sub>2</sub>R &gt; -SOR
* -SO<sub>2</sub>R &gt; -SO<sub>3</sub>R
* -N<sup>+</sup>R<sub>3</sub> &gt; -NR<sub>2</sub>
* -O<sup>+</sup>R<sub>2</sub> &gt; -OR
* -S<sup>+</sup>R<sub>2</sub> &gt; -SR
* -F &gt; -Cl &gt; -Br &gt; -I
* =O &gt; =NR &gt; =CR<sub>2</sub>
* =O &gt; -OR
* &equiv;N &gt &equiv;CR
* =O &gt; -OR
* &equiv;N > =NR &gt; -NR<sub>2</sub>
* -C&equiv;CR &gt; -CR=CR<sub>2</sub> &gt; -CR<sub>2</sub>CR<sub>3</sub>
|-
| メソメリー効果
|
+M効果
* -C<sup>-</sup>R<sub>2</sub> &gt; -N<sup>-</sup>R& &gt; -O<sup>-</sup>
* -NR<sup>-</sup> &gt; -NR<sub>2</sub>
* -O<sup>-</sup> &gt; -OR &gt; -O<sup>+<sup>R<sub>2</sub>
* -S<sup>-</sup> &gt; -SR &gt; -S<sup>+<sup>R<sub>2</sub>
* -I &gt; -I<sup>+</sup>R
* -NR<sub>2</sub> &gt; -OR &gt; -F
* -SR &gt; -OR
* -I &gt; -Br &gt; -Cl &gt; -F
|
-M効果
* =N<sup>+</sup>R<sub>3</sub> &gt; =NR
* =O &gt; =NR &gt; =CR<sub>2</sub>
* =S &gt; =O &gt; &equiv;N
|}
表のこれらの強度は傾向あるいは相対強度を示している。相反する効果が相乗した場合などでは量子化学的計算などで絶対値を推定する必要がある。
 
例えば、メトキシ基(-OCH<sub>3</sub>)が置換ベンゼンの場合、隣接するオルト位炭素に対しては酸素の電気陰性度によるI効果で僅かに電子密度を減弱させ、メタ位、パラ位にはさほど影響を与えない。それよりも酸素の非共有電子対の押し込みによるM効果でオルト-パラ位炭素への電子密度を増大させる効果の方が支配的である為、メトキシ基は芳香環上の求電子置換反応では'''電子供与性基'''として作用する。
 
==関連項目==