「ちきり伊勢屋」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
4行目:
易者白井左近は易が上手く、知人の[[旗本]]中川右馬之丞の災難を予言して一命を助けたことから、連日のように診てもらいに多くの人が来て大繁盛である。
 
八月の暮れ、麹町の質屋ちきり伊勢屋の若旦那傳次郎が自身の縁談を見てもらいに来るが、左近は傳次郎に死相が現れているのを見とがめ、来年の二月十五日の正九刻に死ぬことを告げる。傳次郎の亡父の生前のむごい商いの祟りが自身にふりかかったものでどうすることもできない。残された人生、自棄にならず善行を積んで来世に望みをつなぐことしかないと告げる。
 
絶望した傳次郎は店の者に事情を話し、次の日から江戸を歩きまわり貧しい者を助けることになる。赤坂の喰違坂で首をくくろうとする哀れな母親と娘に百両与えるなど、江戸じゅうの貧し目につた者や聞きつけた者に財産惜しげもなく金子分け与えるが、いかんせん莫大な資産だけになか減らない。ではいっそのこと茶屋遊びをしようと吉原、柳橋を遊び倒し、ようよう財産が尽き果てるころに、店の者に手当を渡して暇をやり身軽となるころいよいよ左近が予言した自分の命日が近づく。 
 
数日前から芸者や[[幇間]]を呼んで酒盛りをし、近所に自身の葬礼を知らせるうち二月二十五日がやってきた。金にあかした葬儀が始まる。立派な死に装束で棺桶に入るがどうしたことか死ねない。菩提寺で大和尚にねんごろな読経をあげてもらい、墓に埋めようとしてもまだ生きている。「おい。あたしはまだ生きているよ。」「冗談じゃない。もう引導を渡しちゃんたんですよ。」「そんなのいらないよ。」「こまった仏様だね。」「葬式の強飯もってこいよ。腹が減ったよ。」「もうありませんよ。」「じゃあ、鰻かなにかあつらえておくれ。」「冗談いっちゃいけねえ。」「便所行きたくなってきた。出しておくれ。」これでは葬式どころではない。
 
結局生きてしまい全財産を失った傳次郎は友人宅を泊まり歩くがいつまでもそんな暮らしもできず、とうとう宿無しとなってしまう。九月になって、傳次郎は[[高輪]]の[http://大木戸 大木戸]で白井左近に出くわし、占いが外れこんな目に合ったと抗議すると、左近は、「あなたが首くくりの母娘を助けたことで父親の悪行の呪いが解けたのだ。八十まで長生きする。」「冗談言っちゃいけませんやね。金もないのに八十まで生きろってんですか。」「いや、品川のほうに幸福があるからそこへ行くことだ。わたしも人の死相を見たばかりに奉行所に呼ばれて江戸払いとなり、大木戸で細々と暮らしている。ここに二分の金がある雨降り風間というくらいだから持って行きなさい。」と
云うので傳次郎は折角なので半分の一部金を持って[[品川]]にやってくる。
 
16行目:
[[Category:落語の演目]]
 
そこで遊び仲間の伊之助に出会う。伊之助も道楽が過ぎて感動勘当され品川で日やといの仕事をしているのであった。二人は駕籠屋になりどうにかこうにか生計を立てるようになる。そんなある晩のこと、一人の幇間を駕籠に乗せるが、これが依然贔屓してやった一八であった。「おい、一八!」「何だ。・・・駕籠屋なぞに一八呼ばわりされる筋合いはねえや。」「フン。俺の顔を見忘れたかい。・・・ちきり伊勢屋だ。」「あっ!・・・若旦那!・・・どうも」とどちらが客かわからない。傳次郎は「お前の羽織も帯もおれが呉れてやったんだな。」「へい。そのせつはどうも。」「じゃあ。俺に返してくれ。・・お、そうだ一両貸してくれねえか。」「へい。かしこまりました・・・とほほ、こんなところで追剥に合うとは。」
 
この着物と帯を酒に変えようと、ある質屋に持っていくと、女主人が美しい娘を連れて現れ、「もし、伊勢屋の傳次郎様ではいらっしゃいませんか。」「へい。どなたでいらっしゃいますか。」「私どもは以前赤坂で助けてもらったものでございます。」「ああ・・・そう云えば」「おかげで命も助かり。今、こうしていれるのもみなあなたのおかげでございます。改めてお礼を申し上げます。」「何、わたくしは白井左近の言うままにして全身代失ってこんな有様でございます。」「いいえ。あなたも長生きをしたらいいことがございます。・・・つきましてはうちの娘、ふつつかな者でございますが、嫁にもらってもらえますまいか。もういちどちきり伊勢屋のノレンを挙げてもらえればこんなうれしい事はございません。」