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'''数学的帰納法'''(すうがくてききのうほう、mathematical induction)は、有限回の議論で[[可算自然数]]無限個の対象する命題を証明するための[[数学]]の論法の一つである。次のような手順で自然数全体に関する[[命題]] ''P''(''n'') (''n''∈'''N''') が[[真]]であるすべての自然数に対して成り立つことを、次のような手順で[[証明]]するであるをいう
:#''P''(0) は真であるが成り立つ
:#任意の[[自然数]] ''k'' に対し,Pて、''P''(''k'') が真であれば,P⇒ ''P''(''k'' + 1) も真であるが成り立つ
:よって任意の自然数 ''n'' について ''P''(''n'') は真であるが成り立つ
イメージとしては、2 により次々と次の命題の正しさが"伝播"されていくことになる。つまり、1. によりまず ''P''(0) は正しく、''P''(0) と 2. により ''P''(1) は正しく、''P''(1) と 2. により ''P''(2) は正しく、以下これが果てしなく続いていく。このことによって任意の自然数 ''n'' について ''P''(''n'') が正しいことが保証される。
 
なお、数学的「[[帰納]]法」という名前がつけられているが、数学的帰納法の解法プロセス自体は帰納法ではなく[[演繹]]法である。先に述べた、2. により次々と次の命題の正しさが"伝播"されていった結果証明されていく様子が帰納のように見えるためこのような名前がつけられたにすぎない。
 
== 等価なも数学的帰納法原理 ==
数学的帰納法の正しさは厳密に自然'''を特徴づけ学的帰納法の原理'''により保障され。数学的帰納法原理とは次一つで、以下のような命題と等価である。
:次の条件をみたす自然数の集合 ''A'' は、自然数全体の集合 '''N''' と等しい:
#[[ジュゼッペ・ペアノ|ペアノ]]の自然数論の[[ペアノの公理|公理]]の一つである次の趣旨の命題:自然数は 1, 2, 3, … しかない。
:#0 ∈ ''A'' 。
#自然数の任意の空でない集合 ''S'' に対し、''S'' には最小元が存在する。
:#''A'' は ''S''(''n'') = ''n'' + 1 で定義される関数 ''S'' : '''N''' → '''N''' に関して閉じている。
この原理を用いると、数学的帰納法の正しさは次のようにして示すことができる。すべての自然数 ''n'' に対して ''P''(''n'') が成り立つことを示したいとする。いま、
#''P''(0) が成り立つ。
#任意の自然数 ''k'' に対して、''P''(''k'') ⇒ ''P''(''k'' + 1) が成り立つ。
が示されたとしよう。ここで ''A'' = { ''n'' ∈ '''N''' | ''P''(''n'') } とおけば、この 1. と 2. はまさに ''A'' が 0 を要素に持ち、''S'' に関して閉じているということに他ならないので、数学的帰納法の原理より ''A'' = '''N''' である。したがって、すべての自然数 ''n'' に対して ''n'' ∈ ''A''、つまり ''P''(''n'') が成り立つことが示された。
 
自然数を他の対象(集合、実数など)を用いて定義する立場では、自然数全体の集合は、 0 を要素に持ち、後続者演算("+1" をする演算)に関して閉じているような最小の集合として定義されるので、数学的帰納法の原理は[[定理]]として証明される。一方、自然数を公理的に扱う立場([[ペアノの公理]]など)では、自然数に関する公理の一つとして数学的帰納法の原理が採用される。
== 例 ==
任意の自然数 ''n'' について、0 + 1 + 2 + … + ''n'' = ''n''(''n''+1)/2 であることを証明する。自然数 ''k'' によって定まる命題 P(''k'') を 「0 + 1 + … + ''k'' = ''k''(''k''+1)/2 である」 とすればよい。
 
== 数学的帰納法の例 ==
まず、P(0)、つまり「0 = 0(0+1)/2」は正しい。次に、任意の自然数 ''k'' をとる。今、P(''k'') が正しいと仮定すると P(''k''+1) も正しい。実際、P(''k'') より
任意の自然数 ''n'' について、0 + 1 + 2 + … + ''n'' = ''n''(''n'' + 1)/2 であることを証明する。自然数 ''kn'' によって定ま関する命題 ''P''(''kn'') を 「0 + 1 + … + ''kn'' = ''kn''(''kn'' + 1)/2 である」 とすればよい。
 
まず、''P''(0)、つまり「0 = 0(0+1)/2」は正しい。次に、任意の自然数 ''k'' をとる。今、''P''(''k'') が正しいと仮定すると ''P''(''k'' + 1) も正しい。実際、''P''(''k'') より
:<math>0 + 1 + \dots + k + (k+1) = (0 + 1 + \dots + k) + (k+1) = \frac{k(k+1)}{2} + (k+1)</math>
となり、更にこれは
:<math> = \frac{k(k+1)+2(k+1)}{2} = \frac{(k+1)(k+2)}{2}</math>
となるので ''P''(''k'' + 1) が成立する。
 
以上から、数学的帰納法により、任意の自然数 ''n'' について命題 ''P''(''n'') が成立する。(証明終)
 
== バリエーション ==
数学的帰納法には次のようなバリエーションもある。場合によってはこちらを用いた方が議論が容易になる。これらのバリエーションはいずれも同値であるので、本質的には上と変わらない。
 
=== 背理対偶論法を組み合わせたもの1 ===
[[背理法]]対偶ともとの命題は同値であるという事実を組み合わせて、次のような証明ができる。
:#''P''(0) は真である。
:#''P''(''k'' + 1) が偽であれば、''P''(''k'') も偽である。
:よって任意の自然数 ''n'' について ''P''(''n'') は真である。
 
【補足】2. において、対偶を取ることで、
''P''(''k'') が真であれば、''P''(''k'' + 1) も真である。
という結果が得られるから、前記と同様になる。
 
=== 背理法を組み合わせたもの2 ===
次の証明は、[[無限降下法]]と呼ばれる証明とほぼ同等である。
:''P''(''n'') が成立するしないような自然数 ''n'' が存在すると仮定し、その中で最小のものを ''k'' とする。このとき ''P''(''k'' - 1) たないことを示
:これは矛盾であるから ''P''(''n'') が成立するしないような自然数 ''n'' は存在しない。すなわち、すべての自然数 ''n'' に対して ''P''(''n'') が成り立つ
 
=== 0 以外から始める ===
ある[[整数]] ''a'' から議論を始める。すなわち、次の2つを確かめることにより ''a'' 以上の任意の[[整数]] ''kn'' について ''P''(''kn'') が成立することを示す。
:#''P''(''a'') は真である。
:#''a'' 以上の任意の整数 ''k'' に対し、''P''(''k'') が真であれば、''P''(''k'' + 1) も真である。
:よって ''a'' 以上の任意の自然数 ''n'' について ''P''(''n'') は真である。
 
=== 先立つすべての結果を用いる ===
仮定として ''P''(''k'') だけでなく ''P''(0) から ''P''(''k - 1'') までのすべて(もしくは一部)を用いる。
:任意の自然数 ''k'' をとったとき、''k'' より小さなすべての自然数 ''m'' に対して ''P''(''m'') が真であれば、''P''(''k'') も真である。
:#P(0) は真である。
:#よって任意の自然数 ''kn'' に対し、P(0),ついて P(1), P(2), ..., P(''kP'') が真であれば、P(''kn''+1) 真である。
:よって任意の自然数 ''n'' について P(''n'') は真である。
 
== 超限帰納法 ==
自然数について定義された数学的帰納法は、任意の[[整列集合]]に対して一般化される。この一般化を'''超限帰納法'''という。
:(''SA'', &lt;) を整列集合とし、''P''(''x'') を ''SA'' の元 ''x'' によって定ま関する命題とする。もし次の2つが成立するならば、任意の ''x'' &isin; ''SA'' について ''P''(''x'') は真が成り立つ
:#任意の ''Sa'' &isin; ''A'' をとる。''x'' &lt; ''a'' なる任意の ''A'' の最小 ''mx'' とすれについて ''P''(''x'') が真ならば、''P''(''ma'') である
:#任意''a'' が ''A'' 最小元である場合には ''a'' &isin;より小さい ''Sx'' をとる。は存在しないので、上の 「''x'' &lt; ''a'' なる任意の ''SA'' の元 ''x'' について ''P''(''x'') が真ならば」という条件は"空虚に"(vacuously)真である。したがってこれは ''A'' の最小元 ''m'' に対して ''P''(''am'') 真であるということも含んでいる。
ただし、''a'' = ''m'' の場合には ''a'' より小さい ''x'' は存在しないので、このとき 2 の 「任意の ''x'' &lt; ''a'' について P(''x'') が真ならば」という条件は恒に真であると考えられる。したがって、2 は 1 を含んでおり、あえて 1 を述べなくてもよい。
 
''SA'' = '''N''' の超限帰納法を考えると、'''N''' の最小元は 0 なのでこれは上に述べた数学的帰納法の 「先立つすべての結果を用いる」バリエーションに等しい。
 
== 整礎帰納法 ==
無限下降列が存在しない[[二項関係]]を'''整礎関係'''という。整礎関係が定義された集合に対して次が成り立つ。これを'''整礎帰納法'''という。
: &lt; を集合 ''SA'' 上の整礎関係 &lt; が定義されているとし、''P''(''x'') を ''SA'' の元 ''x'' によって定ま関する命題とする。もし次が成立するならば、任意の ''x'' &isin; ''SA'' について ''P''(''x'') は真である。
::任意の ''a'' &isin; ''SA'' をとる。''x'' &lt; ''a'' なる任意の ''SA'' の元 ''x'' について ''P''(''x'') が真ならば、''P''(''a'') も真である
超限帰納法は整礎帰納法の特殊な場合である。特に、超限帰納法においては、任意の空でない部分集合に'''最小元'''が存在する、という性質が、整礎帰納法においては、任意の空でない部分集合に'''極小元'''が存在する、という性質に対応している。
 
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前述のジョークにはさまざまなバリエーションがあるが、いずれも「少量の増加程度では大差ない。よって数学的帰納法より沢山の増加でも差はない」という誤謬を利用している。
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この「証明」には「''P''(0)(もしくは ''P''(a))」が成り立つことを示しているものの、「''P''(''k'') が成り立つならば ''P''(''k'' + 1) でも成り立つ」ということを示していない。これが根本的に間違いである。
一旦削除。「ハゲ」の定義が曖昧な事が根本原因だと思われる為。
たとえばハゲの定義として「全ての人はハゲ」を採用すれば、
''P''(''k'') が成り立つならば ''P''(''k'' + 1)でも成り立つ」もちゃんと示される。
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85 ⟶ 90行目:
*[[帰納]]
*[[演繹]]
*[[自然数]]
*[[整列集合]]
*[[整礎関係]]
*[[無限降下法]]
*[[再帰]]