「内丹術」の版間の差分

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「道」とは「気」を存在させる根源であり理法であり、気は万物を構成する要素とされる。根源としての道は、形而下では気として現われ[[陰陽五行思想|陰陽五行]]の運行原理を内在するものとしており、宇宙の万物は気によって構成されて現実に存在できるという世界観が成立する<ref name="気の思想">{{Cite book|和書|author=小野沢精一、福永光司、[[山井湧]]、編 |year=1978 |title=気の思想 中国における自然観と人間観の展開 |publisher=東京大学出版会 |isbn=4-13-016008-7}}</ref><ref name="陰陽五行説">{{Cite book|和書|author=根本幸夫、根井養智 |year=1991 |title=陰陽五行説 その発生と展開 |publisher=薬業時報社 |isbn=4-8407-1841-5}}</ref>。
 
内丹術の修煉とは、本来純粋な気を宿して生まれ、生から死への過程で欲望などで損耗しつつある人体の気を「内丹」として再生させ、気としての自己の身心を生成論的過程の逆行、存在論的根源への復帰のコースにのせ、利己たる存在を超えて本来の自己に立ち戻り<ref name="気・修行・身体">{{Cite book|和書|author=[[湯浅泰雄]] |year=1986 |title=気・修行・身体 |publisher=平河出版社 |isbn=4-89203-121-6}}</ref>、天地と同様の永遠性から、ついには道との合一に至るという実践技法である。
 
修煉の基本原理は、身体を火を起こす[[炉]](かまど)に見立て、[[丹田]]を[[鼎]](なべ)とし、意識と呼吸をふいごにして、精・気・神(広義の気)を原料(薬物)として投入することで、内丹を作り出すことにある。修煉理論は、古代から研究されてきた気の養生術を、易経の宇宙論と陰陽五行の複合的シンボリズムと[[中医学|中国医学]]の身体理論に基づき<ref>{{Cite book|和書|author=坂出祥伸「解説・金仙證論とその丹法」、 |year=1987 |title=煉丹修養法 附・道語字解 |publisher=たにぐち書店}}</ref>外丹術の術語を借りて、総合してできあがったものと考えられる。この内丹は、身体を強健にし、生命力を高め、身心に潜在する力を開発し、不老長生、心を統御し、智慧の果を得て、運命を超克することで、道を体現することを可能とする<ref name="内丹の修練法の原理と効用">{{Cite web |url=http://www2s.biglobe.ne.jp/~xianxue/DandX/DandX4-2.htm |title=内丹の修練法の原理と効用 仙学研究舎 |accessdate=2010-10-04}}</ref>。
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'''存思'''は様々な対象を想起して気を操作する技法である。隋代の『諸病源候論』は[[五臓六腑|五臓]]の病に対して相当する光の色を存思して病を癒す法などが記載されている。宋初の『雲笈七籤』には、神々や[[洞天福地]]や日月星辰などを思い浮かべて気を取り入れる法などが説かれている。身中に体内神があたかも存在するかのように存思して長生を図る法が[[魏 (三国)|魏]]晋の上清派の『黄帝外景経』などにみえる。<ref name="道教と養生思想" /><ref name="道教事典" />
 
'''房中'''は男女という陰陽の交わりの術である。1973年に馬王堆三号漢墓から「[[房中術]]」の貴重な文献六点が発掘された。この文献の成立年代は春秋戦国時代にさかのぼるという。漢代には道教に取り込まれ長生の秘術とされた。房中術の「還精補脳」の技法と内丹の関連性を指摘する研究者もいる。房中術は陰丹とも呼ばれた<ref>{{Cite book|和書|author=坂内栄夫「唐代の内丹思想 -陰丹と内丹-」、 |year=2000 |title=講座 道教 第三巻 道教の生命観と身体論 |publisher=雄山閣出版 |isbn=4-639-01669-7}}</ref>。後代には、房中術を取り入れた系統の内丹術も存在する
 
'''胎息'''は胎児が体内にいた時のように、鼻や口に依らないで気を取り入れることを目標にした呼吸法の一種である。呼吸法の歴史は古く、春秋戦国時代の『荘子』「刻意篇」には「吹呴呼吸、吐故納新」<ref>刻意篇「吹呴呼吸、吐故納新、熊經鳥申、為壽而已矣」。{{Cite book|和書|author=金谷治 |year=1979 |title=荘子 第2冊 外篇 |publisher=岩波書店 |series=岩波文庫 |isbn=4-00-332062-X}}</ref>と記されている。胎息は『[[後漢書]]』「方術伝」に方術士・王真が行ったとの記述がある。晋の『抱朴子』「釈滞篇」にも具体的な修行の様子が説明されている。宋初の『雲笈七籤』には多くの胎息経が所収されている。<ref name="中国人の宗教・道教とは何か">{{Cite book|和書|author=松本浩一 |year=2006 |title=中国人の宗教・道教とは何か |publisher=PHP研究所 |series=PHP新書 |isbn=4-569-65771-0}}</ref><ref name="道教事典" />
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内丹術や気功の重視する精・気・神<ref name="気・修行・身体" />は広義には同じ気で様態の違いとしており、他の修行体系にある複数の身体が層や次元をなして存在する身体観とは異なった、中国伝統の一切を[[気]]とする'''一元的身体観'''である<ref name="気の中国文化" />。
 
修煉は、一般的に個人で行い「禁欲」を原則とする「'''清修'''」である。基本的には[[結跏趺坐]]などの「'''坐法'''」で脊柱を上へ伸ばし、命門を開き、臍下に手を重ね置くスタイルを取る。この際、内視(半眼微笑で丹田を内側から見下ろす)を行うことや、男性は左手を、女性は右手を上に重ねておくなどといった細かい要訣がある。男女の身心の違いから修煉法が異なるという(男丹・女丹)。本来は意念を使わず、入静状態の中で僅かに丹田を診る(聞く)のみだが、近代にはイメージ等を使って功を早める方法をとる流派が多く誕生している。しかしイメージ等を使う場合は[[偏差 (気功)|偏差]]になる危険性が多く、伝統的流派では否定されている。
 
内丹術は一般に'''静'''かに心を落ち着けて[[坐禅]]のような静的姿勢で修煉を行う。これを「静功」と呼ぶ。心と体は静かで、気は動いていなければならないとして「外静内動」という。静功は心を静かにさせ意念を高めやすいが、気を強化することは難しい面がある。一方、身体を'''動'''かすことを主体とする気功や導引は、動作によって内気の運行を促進する。筋骨は精気から形づくられたものであり、経絡を構成して気血を流通させる。筋骨を鍛えることは精気を強め、肢体を動かすことは経絡をよく開いて気の疎通をはかどらせる効果がある。この時、体は動いても心は静かであることを求めるので「外動内静」という。静を主体とする功法と、動を主体するものは単独では不足する面があり、両者を修煉することで効果を高めることができる。陳泥丸の丹書『翠虚篇』は、動中に静を求めて、静中には為すこと有り、として動静を共に行い掌握することを説いており、内丹術での「'''動静結合'''」を要求している<ref>{{Cite book |和書 |author=马济人 |year=1992 |title=実用中医气功学 |publisher=上海科学技术出版社 |isbn= |isbn=7-532-32720-5}}</ref>。