「メチル水銀」の版間の差分

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== 解説 ==
「メチル水銀」は単一の物質の呼称ではなく、水銀原子に[[メチル基]]が結びついている化合物の総称である。最広義ではジメチル水銀 '''(CH<sub>3</sub>)<sub>2</sub>Hg'''やメチルエチル水銀などのジアルキル水銀を含むが、単にメチル水銀といった場合はモノメチル水銀 '''CH<sub>3</sub>HgX'''(X = Cl, OH など)を指す場合が多い。モノメチル水銀には[[塩化メチル水銀]]、[[臭化メチル水銀]]、[[水酸化メチル水銀]]、[[酢酸メチル水銀]]、[[硝酸メチル水銀]]などがある。いずれも[[毒|毒性]]が強い。特にモノメチル水銀は、[[生物濃縮|生体蓄積性]]のある有機金属[[陽イオン]]種で、日本における[[水俣病]]の原因物質として知られている。モノメチル水銀は通常、常温で固体であり、ジメチル水銀は常温で液体である。またメチル基がトリフルオロメチル基である変種もあり、ジメチル水銀のメチル基が両方ともこれである場合、融点が大きく上昇し、常温で固体となる。塩化メチル水銀の蒸気圧については異説があり、[[ナフタレン]]より昇華しにくいとするものと、水に近い蒸気圧を持つとする[[西村肇]]の説があり、相互で1000倍以上の違いがある。仮に西村の説を採るならば、ジメチル水銀並みに注意深く管理をしなければきわめて危険な試薬ということになる。
 
なお、塩化メチル水銀の蒸気圧については異説があり、[[ナフタレン]]より昇華しにくいとするものと、水に近い蒸気圧を持つとする[[西村肇]]の説があり、相互で1000倍以上の違いがある<ref>[http://jimnishimura.jp/tech_soc/kan/25th/2.html 『水俣病の科学』第三章の要約] - 西村肇のサイト</ref>。仮に西村の説を採るならば、ジメチル水銀並みに注意深く管理をしなければきわめて危険な試薬ということになる。しかし、西村の掲載している図表は塩化メチル水銀の沸点が100度を少し上回ることを示すものであり、一方で塩化メチル水銀の融点が170℃であることをあわせて考えると、矛盾が生じることになる<ref>[http://jimnishimura.jp/compre/re_minamata_des/1.html 岡本・有馬 往復書簡1]によれば、西村自身が蒸気圧を測定したことになっている。</ref>。なお塩化メチル水銀の蒸気圧の話は、西村の著書で[[毎日出版文化賞]]を受賞した『水俣病の科学』におけるチッソ工場の水銀排出の原因の説明の根幹となる部分であるが、なぜ既存データと1000倍も異なる数値が採用されているのかは不明である。
 
[[水質汚濁防止法]]や水質の[[環境基準]]等で定める'''アルキル水銀'''とは、[[メチル基]] (CH<sub>3</sub>-)、[[エチル基]] (C<sub>2</sub>H<sub>5</sub>-) 等の[[アルキル基]] (C<sub>n</sub>H<sub>2n+1</sub>-) と水銀が結びついた有機水銀化合物の総称を言う。自然界では、[[海底火山]]の噴火で生成される事もある。
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メチル水銀は脂溶性の物質であるため[[生物濃縮]]を受けやすい典型的な毒物である。そのため、[[食物連鎖]]の高次を占める捕食者に高度に濃縮されて蓄積される。メチル水銀はまず[[プランクトン]]の体内で濃縮される。プランクトンから小魚、より大きな魚と順次に捕食され、それらの体内でメチル水銀はさらに濃縮されることとなる。生体内からのメチル水銀の排出は遅いため、生体蓄積の程度は高くなる。大きな肉食魚の場合、小魚の100倍ものメチル水銀を保持することになる。これにより最終捕食者の人間等に[[水俣病]]が発生した<ref name="九州大学大学院農学研究院" /><ref>原田 正純、「水俣病」、『世界大百科事典』、第2版CD-ROM版、平凡社、1989年</ref>。また、米国の[[アメリカ食品医薬品局|FDA]]は[[胎児]]に対する有機水銀の影響を理由に、[[妊娠|妊婦]]がマグロ、金目鯛などの海産物を摂取制限するように勧告している<ref>[http://www.fda.gov/bbs/topics/ANSWERS/2001/advisory.html AN IMPORTANT MESSAGE FOR PREGNANT WOMEN AND WOMEN OF CHILDBEARING AGE WHO MAY BECOME PREGNANT ABOUT THE RISKS OF MERCURY IN FISH (2001).], Center for Food Safety and Applied Nutrition, FDA, 2001.</ref>。
 
概して、金属水銀または無機水銀化合物やフェニブチル水銀などの高級アルキル水銀、フェニル水銀など、他の水銀化合物が急性の[[腎毒性]]が強く現れるのに対して、メチル水銀類やエチル水銀類などの低級アルキル水銀の場合は脳関門を通るために、[[中枢毒性]]が強く現れることが特徴的である<ref name="世界大百科水銀" />。ただしブチル水銀も脳内に蓄積するが、中枢神経症状は起こらないとされる
 
水溶性の無機水銀や水銀単体が、生体内で[[メチルコバラミン]]によって[[メチル基|メチル化]]されることによってメチル水銀は生じる。このとき生じるのは CH<sub>3</sub>Hg<sup>+</sub> もしくは CH<sub>3</sub>HgOH である。なお、生体内ではメチル水銀が脱メチル化されて無機水銀となる反応も同時に起こっている。