「新幹線500系電車900番台」の版間の差分

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|減速度(非常)=
|編成定員 = 非営業車両
|全長 = 26,000 mm(先頭車)<ref name="WIN350 spec" /><br />25,000 mm(中間車)<ref name="WIN350 spec" />
|全幅 = 3,380 mm<ref name="WIN350 spec" />
|車体高 = 3,300 mm
|軌間 = 1,435 mm
|編成重量 = 252 t<ref name="WIN350 spec" />
|電気方式 = [[交流電化|交流]] 60Hz 25,000V<ref name="WIN350 spec" /><br />([[架空電車線方式]])
|主電動機 = [[かご形三相誘導電動機]]<br />WMT923, WMT924
|編成出力 = 300kW×24 = 7,200kW<ref name="WIN350 spec" />
|歯車比 = 2.64
|台車 = 軸箱支持方式ボルスタレス台車<br />WDT9101(軸梁式)<br /> WDT9102(コイルばね+円錐積層ゴム式)<br /> WDT9103(ミンデン式)
|駆動装置 =[[WN駆動方式]]
|制御装置 = [[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御]]([[ゲートターンオフサイリスタ|GTOサイリスタ素子]])
|ブレーキ方式 = [[回生ブレーキ|回生併用]][[電気指令式ブレーキ|電気指令式空気ブレーキ]](応荷重装置付き)
|保安装置 = [[自動列車制御装置#ATC-1型(東海道・山陽型)|ATC-1型]]
|製造メーカー =[[川崎重工業車両カンパニー|川崎重工業]]<br />[[日立製作所]]
|備考 =
}}
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'''新幹線500系電車900番台'''(しんかんせん500けいでんしゃ900ばんだい) は[[西日本旅客鉄道]](JR西日本)が[[1992年]]([[平成]]4年)に開発した、最高速度350[[キロメートル毎時|km/h]]での営業運転に必要なデータを収集するために運用された6両編成の高速[[試験車|試験]][[電車]]であり、[[新幹線500系電車]]の原型となった車両である。ただし、[[新幹線の車両形式|形式称号]]こそ500系900番台の[[鉄道の車両番号|車両番号]]が付与されているが、外見的・構造的に共通点はあまりない。
 
また'''WIN350'''という[[車両愛称|愛称]]があり、る。これは'''''W'''est Japan Railway's '''In'''novation for the operation at '''350'''km/h''(350km/h運転のためのJR西日本の革新的な技術開発)の略である。
 
== 開発の背景 ==
この電車の開発の背景には、JR西日本の所管する[[山陽新幹線]]は[[東海道新幹線]]ほど鉄道の[[市場占有率|シェア]]が高くなく、航空路線に対抗するため列車の速度向上が不可欠であったことが、この電車の開発の背景としてある。そのため、JR西日本では[[1990年]](平成2年)に新幹線高速化プロジェクトを立ち上げ、技術的検討を行ってきた。目標速度は350km/hであり、その技術的検証を実車により行うことを目的に製造された。
 
== 歴代新幹線唯一の“900番台試作車” ==
この電車は将来量産車が500系として登場することを前提として製造されたため、500系の試作車という扱いになっている。そのため、純然たる試験車両として9XX形を名乗ることはなく、また量産車とは形態がかなり異なるため[[プロトタイプ#鉄道車両|量産先行車]]としての(500系)9000番台を称することもなかったため、歴代新幹線車両の中では唯一“試作車”としての'''900番台'''となっているのが特徴的である。一般的に[[在来線]]車両の場合、900番台の試作車は量産車登場後に量産車化改造等を行い営業運転で使用されるケースがほとんどであるが、その開発目的の特殊性および、外観や編成両数等の量産車との余りに多い相違点(外観や編成両数等)から営業運転に就くことは最初から考慮されておらず、試験を終えると500系量産車就役前に[[廃車 (鉄道)|廃車]]となった。
 
== 設計上の基本方針 ==
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主回路制御方式は、[[新幹線300系電車|300系]]と同じ[[ゲートターンオフサイリスタ|GTOサイリスタ]][[半導体素子|素子]]による[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御]]である。量産車では4両で1ユニットとされたが、WIN350は6両編成であることから3両を1ユニットとした全[[動力車|電動車]]方式である。編成は、[[博多駅|博多]]寄りから1号車とし、'''500-901''' (M'<small>1C</small>) - '''500-902''' (M'<small>1p</small>) - '''500-903''' (M<small>1</small>) - '''500-904''' (M<small>2</small>) - '''500-905''' (M'<small>2p</small>) - '''500-906''' (M<small>2C</small>) である。
 
車体形状は、試験車であり営業用には使用しないことから、高さを大幅に縮めて車体高3,300mmとしており、300系と比べて35cmも低い。最大幅は3,380mmであるので、高さよりも幅の方が広いという平たい車体である。ただし、車体高さによる影響を調べるため、屋根上に模擬屋根を仮設することも可能であった。
 
車体構造は、[[アルミニウム合金]]の大型押し出し形材を使用した[[ハニカム構造]]を採用しており、軽量化を図っている。床下の機器は車体の床に取り付け後、塞ぎ板でカバーされており、本体の構造も含めて300系に近い構造である。車体は、窓や扉の段差の騒音への影響を調査するため、窓の全く(またはほとんど、または全くない車両と窓をフル装備した車両(4号車)を設定している。側扉は、3号車と4号車に1対ずつ設備する。先頭部の形状は両端で異なる形状とし、比較検討ができるようにしている。1号車は極力平滑化したタイプ、6号車はさらに先頭部の勾配をなだらかにして、[[操縦席|運転台]]部を[[キャノピー]]状に張り出させた形状である。
 
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台車は、軸箱支持方式の異なる3種類(901と905がWDT9101、902と906がWDT9102、903と904がWDT9103)を装備しており、いる。[[かご形三相誘導電動機|電動機]]の軽量化ともあいまって、[[新幹線100系電車|100系]]に比べて約4割の軽量化に成功している。台車では、曲線で[[空気バネ]]により車体を傾斜させる制御と、[[アクチュエータ|アクチュエーター]]によって振動を防ぐ制御の2種のアクティブ制御の試験を行なった。電動機はWMT923とWMT924の2種、歯車比は2.64である。
 
パンタグラフは、3種3基を搭載 (901, 902, 905) できるようにしていたが、集電性能の向上ではなく、低騒音パンタグラフの試験・開発が主な目的である。走行試験は2基または1基のパンタグラフを上げて行なわれた。
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=== 集電装置周囲の変化 ===
低騒音形パンタグラフの開発に当たっては、[[ドイツ]]・[[シーメンス]]のシングルアーム型パンタグラフ(初代V型)に翼型舟体を搭載して試験を行った。しかし、負の揚力によって走行中に折りたたまれるという事態も発生した<ref>{{Cite book|和書|editor=南谷 昌二郎|title=山陽新幹線 関西・中国・北九州を結ぶ大動脈|year=2005|publisher=JTBパブリッシング|pages=p.120|id=ISBN 9784533058820}}</ref>。量産車に採用される翼型パンタグラフの他に、後に[[新幹線700系電車|700系]]で採用されるシングルアームパンタグラフ(2代目V型)も試験され、耐久試験も行われていた。しかし、高速度領域における騒音低減効果が小さいため、採用されなかった<ref name="p.122">{{Cite book|和書|editor=南谷 昌二郎|title=山陽新幹線 関西・中国・北九州を結ぶ大動脈|year=2005|publisher=JTBパブリッシング|pages=p.122|id=ISBN 9784533058820}}</ref>。
 
集電装置からの騒音を低減するため、新造時には[[新幹線300系電車|300系]]に似た箱型のカバーが搭載されていた。集電装置からの騒音は低減できたものの、カバーが大きくなったために、カバーそのものから発せられる騒音と[[トンネル微気圧波]]が増加した<ref>{{Cite book|和書|editor=南谷 昌二郎|title=山陽新幹線 関西・中国・北九州を結ぶ大動脈|year=2005|publisher=JTBパブリッシング|pages=p.121|id=ISBN 9784533058820}}</ref>。その後、カバーから発せられる騒音を減らすために、集電装置の前後をできるだけ長いスロープとしたカバーが試験された。これを使用することによって、ひし形パンタグラフの場合でも300km/hにおいて環境基準を満たすことができたが、重量増加という問題が解決できず、低騒音形パンタグラフを使用することによってカバーの小型化・軽量化を図る方向に方針転換した<ref name="p.122" />。
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=== 車両の保存 ===
[[1995年]](平成7年)に本車を使用した試験は終了し、量産先行車(W1編成)の登場後、[[博多総合車両所]]にてお別れセレモニーを行った後、[[1996年]](平成8年)5月31日付けで廃車となり、両先頭車両を除いて解体された。残った先頭車は、博多寄りの500-901がJR[[米原駅]]近くの[[鉄道総合技術研究所]](JR総研)風洞技術センターの敷地内に、[[新大阪駅|新大阪]]寄りの500-906が博多総合車両所に保存されており、いずれもイベント時を除き非公開)されていである。
 
なお、営業車両での500系の最高速度を350km/hとした場合パンタグラフから発生する風切り音のため騒音が環境庁(現在の[[環境省]])の騒音基準(線路中央から20メートルで75[[デシベル]]以下)を超えてしまうことが判明した。車体傾斜装置が未搭載で曲線区間通過時の遠心力の問題が未解決であったことも考慮され、300km/hが量産車での営業最高速度とされた。
 
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ファイル:WIN350-7.JPG|500-906運転席
ファイル:WIN350-8.JPG|速度計<br />400km/hまで目盛りがある
ファイル:WIN350-9.JPG|マスコンハンドルは14ノッチまである
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