「タイヤ」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
編集の要約なし
12行目:
 
== 歴史 ==
[[1867年]]に車輪の外周にゴムを取り付ける手法がもちいられるようになり、それまでの金属、木の車輪から脱皮する事になる。当時のゴムタイヤは空気入りではなく、ソリッドゴム(総ゴム)タイヤであった。
 
空気入りタイヤは[[1845年]]に[[イギリス]]の[[ロバート・ウイリアム・トムソン]]が発明し、特許を取得をしていたが、実用化には至らず、[[1888年]]にスコットランドの獣医師[[ジョン・ボイド・ダンロップ]]が自転車用の空気入りタイヤを実用化するまで待たなければならなかった。
18行目:
自動車用の空気入りタイヤとしては、[[フランス]]人の[[アンドレ・ミシュラン]]、[[エドゥアール・ミシュラン]]のミシュラン兄弟が、[[1895年]]に開催された[[パリ]]から[[ボルドー]]までを往復する、全行程1200kmのレースに使用したのが最初である。このレースでミシュラン兄弟は100回近いパンクにもめげず、規定時間を超過しながらも完走した。
 
耐久性に問題があったとは言え、乗り心地、グリップ力、安定性に格段に優れていることを証明した空気入りタイヤは、これ以降急速に普及する事になる。
 
== 成分 ==
37行目:
タイヤには、大きく分けて2種類の構造を持ったタイヤがある。タイヤ内部のカーカス(後述)がタイヤの回転方向に対して垂直になっている「'''ラジアルタイヤ'''(以下ラジアル)」と、斜め方向になっている「'''バイアスタイヤ'''(以下バイアス)」である。一般的にいって、バイアスは居住性(俗にいう'''乗り心地''')に優れ、一方のラジアルはバイアスに対して操縦性・走行安定性が優れており、更に[[トレッド_(タイヤ)|トレッド]]変形が少なく耐摩耗性に優れタイヤ自体の発熱も少ないなどの利点があるが、バイアスと比較してタイヤ自体の強度(特にサイドウォールの強度)が劣りがちであり、それを強化する為にカーカスの外周にベルト(ブレーカーコードとも呼ばれ、カーカスに対する[[箍]]の役割を果たす)を巻き付ける工程を追加しなければならず、その分高価となりやすい。
 
かつてはタイヤといえば普通はバイアスタイヤを指していたが、ラジアルタイヤは[[1947年]]にミシュランがラジアルタイヤを最初に実用化し、レースには[[1978年]]には[[フォーミュラ1|F1]]で最初に使われたのが最初であった<ref>[http://www.jama.or.jp/lib/jamagazine/200702/06.html JAMAGAZINE [[2007年]]2月号]-[[日本自動車工業会]]]</ref>。その後ラジアルの耐久性や操作性が向上し、大量生産による量産効果で価格も下がったために、車やバイクでは2008年現在ほとんどラジアルであり、バイアスは[[スペアタイヤ]]や小型バイク、[[農業機械]]、[[建設機械]]等の一部に使われる程度である。なお、バイアスタイヤの性質をよりラジアル側に近づける為に、バイアスタイヤのカーカス配置で外周にブレーカーコードを配してトレッドの強化を行った'''バイアスベルテッドタイヤ'''(ベルテッドバイアス)も存在する。
 
スチールラジアルタイヤに入れられている鋼線(鋼)とゴムは接着性が良くないので、銅メッキが施されている。この技術的課題の克服が、スチールコード入りのラジアルタイヤの実用化に時間を要した一因である。[[加硫]]によってゴムに数%含まれる硫黄と銅が強力なイオン結合を形成する。1970年代以降のスチールコードは銅メッキで、現在はより強度があるブラス(真鍮)メッキになった。近年は鋼線とゴムとの接着をナフテン酸コバルトというものを介在させる界面活性剤で解決する方法が見付かったが、環境に悪影響を与える可能性があるので普及には時間がかかる見込みである。
また、スチールコードの代わりに[[アラミド繊維]]を使用する例もある。[[ばね下質量]]が減るため[[路面追従性]]が向上する。
 
航空機用タイヤについては、すでにバイアスによる生産技術がある程度確立していたこともあり、離着陸を繰り返す過酷な状況で働くための安全性が求められたため、自動車やバイクでラジアルが広まった後もバイアスが使われ続けたが、2000年以降は航空機のような過酷な状況下用途でも十分な耐久性と安全性を持ったラジアルが生産されるようになっている<ref>[http://www.designnewsjapan.com/news/200604/17aero_yokohama-gomu.html]、[http://www.bridgestone.co.jp/info/news/2008032101.html]</ref>。因みに航空機で初めてラジアルタイヤを採用したのは、軍用機は[[F-15E (航空機)|F-15E]][[戦闘爆撃機]]で、民間機では[[エアバスA320]](ブリヂストン製)である。
 
またかつてはタイヤの内部に空気を閉じ込めるチューブを入れることを前提とした'''チューブタイヤ'''が主流であったが、現在はホイールとタイヤのみで空気を保持する'''チューブレスタイヤ'''が主流となっている。ただし現代でもチューブタイヤは自転車やオフロード・トラッカー系のバイクや旧車風のバイク、果ては[[トラクター]]などの一部の農業機械や一部の建設機械で使われ続けている。これはホイールリムをスポークが貫通していることや、空気圧を低くセッティングするなどの理由により、ホイールとタイヤのみでは気密を保てないためである。
 
[[ファイル:Tire scheme.svg|thumb|220px|タイヤ断面図]]
69行目:
[[File:Tires mark.gif|thumb|right|220px|メトリック表示]]
; メトリック表示
: 今日の自動車用タイヤに広く見られる表記である。「205/55 R16 91W」とあった場合、205=タイヤの幅 (mm)、55=偏平率 (%)、R=タイヤ構造(ラジアル)、16=リム径(インチ)、91=そのタイヤが支えられる荷重を示した指数(ロードインデックス)、W=そのタイヤで保証される最高速度 (270km/h) を表している。数値の単位は、リム径はインチ表示されるが、タイヤの幅はミリメートルで表示される。偏平率とは、サイドウォール部分の幅をタイヤ幅との割合で表したものである(タイヤに関しては偏平率と書く。[[扁平率]]と書くと意味が違ってしまうので注意。)。なお、偏平率が低い(幅に対して高さが低い)ものほど操縦安定性、ブレーキ性能、高速走行時のグリップ性能が向上し、コーナリング時などの限界速度が向上し、高速走行でも安全に走行可能になるが、反面、乗り心地が硬くなり、路面の凹凸などを喰らいやすく走行音も大きくなる傾向があるので、乗用車用の場合、快適性や経済性重視であれば偏平率の高い (65 - 82%) ものを、スポーツ走行性能重視であれば偏平率の低い (30 - 60%) ものを選択する必要がある。
 
; インチ表示
109行目:
** 適正な空気圧の半分程度の圧力になると、タイヤが凹んでいることが目で見て分かるようになる。この状態で運転を続けると[[スタンディングウェーブ現象]]が発生し、タイヤが破裂([[バースト]])することがあり、大変危険である。
** 指定の空気圧より低めの圧力の空気が入っている場合、タイヤの接地面積が増加する(※必ずしも制動力・駆動力が増加する訳ではない)。つまり、グリップの向上を招くが、半面、タイヤが撓み易くなるのでコーナリング性能の悪化を招く。また、タイヤトレッドは両肩部から磨耗していく。接地面積が増える為、転がり係数の低下を招き、燃費が悪くなる。
** タイヤとホイールは内圧により密着性を増している為、場合によってはホイールからタイヤが外れるという事もありうる。
 
2000年には[[フォード・エクスプローラー]]が、乗り心地を重視するあまり過度に低い空気圧指定をしていたため、高速道路などを走行している際にタイヤが熱を持ち破裂(バースト)を起こす事件も発生している。これを受けてアメリカでは、タイヤの空気圧を常に監視する[[TPMS]]の装着が義務付けられている他、その他の国でも一部高級車やスポーツカーでTPMSは採用されている。
142行目:
航空機などのタイヤは、使用済みのタイヤのトレッド、サイドウォールを張り替える事で何度か再利用されている。<!--成田市にあるジャムコが大手-->また、[[貨物自動車|大型トラック]]や[[バス (車輌)|バス]]では、再生タイヤが後輪に使われていることが多い。特に輸送コスト、とりわけタイヤ関連の維持費を圧縮したいと考えるのはこのような車種を大量に抱えている事業者であり、その要望に応える形としてタイヤメーカーが協調的に関与し、新品タイヤから再生タイヤへの交換、再生タイヤの計画的な補修と廃棄についてのプランが提示されている。タイヤメーカーにとっては新品が売れないという弊害があるものの、それを上回る形で再生タイヤの使用を促して利益を保っている。また、このサイクルを維持する起点として、リトレッドされることを前提にしたタイヤ製品が存在している。再生タイヤの利用は廃棄物を減らす意味で効果的なので、ユーザーとしてはコスト削減とともに、環境破壊を抑制する企業活動を行えるので好都合である。なお新品と同じ形状にすることが困難なためステアリング性能に影響を及ぼす可能性があり、前輪への再生タイヤ装着は勧められていない。
 
一般乗用車での再利用率は非常に低い。コストの問題と、タイヤの構造が再生に不向きなのが主たる原因である。乗用車のタイヤはバスや大型トラックのタイヤに比べて薄手であるため加工する余地がほとんどなく、仮に加工したとしても安全性の確保が難しい。タイヤメーカーは乗用車用タイヤの再生を認めていない。(ただし[[ドリフト走行]]を行う場合には後輪を滑らせるためわざと再生タイヤ(俗にウンコタイヤと呼ばれる)を履く事があるが非常に危険)また、トレッドを張り替える際のパターンに付いて、新品と同様のパターンを付ける事は<!--[[著作権]]-->[[意匠権]]<!--応用芸術たる工業量産製品は意匠権で保護されます。著作権の保護対象は純粋芸術であり、量産品は保護されません-->の関係から、権利者であるタイヤメーカーの許諾が必要であり、安直に再生する事は出来ない。<!--宮城県の弘進ゴムは、200ものパターンを自社所有している。-->
 
加工を伴わない乗用車用タイヤの再利用は、[[スタッドレスタイヤ]]の通年利用('''履き潰し''')である。溝の深さが新品時に比べて半分になったスタッドレスタイヤは雪上を安全に走行する能力を失い、雪上走行用として用いることができなくなる。そのかわり、法律で定められた摩耗限度まで、普通のタイヤとして利用することができる。タイヤメーカーは、スタッドレスタイヤの商品情報を掲載したカタログでこの方法を示している。スタッドレスタイヤは一般的なタイヤに比べて表面が柔軟なため、通常の乾燥路面における乗り心地や操作性が良いと感じる者がいる。しかし、実際には柔らかい[[コンパウンド]]=ハイグリップとは言い難く、むしろ柔らかいがゆえに走行時における[[トレッド (タイヤ)|トレッド]]面の変形が大きく、[[サマータイヤ]]に比べて転がり抵抗が増え燃費が数パーセント悪化する。
149行目:
タイヤは路面を走行する事で次第に摩耗してゆく。この摩耗の際に発生する微細なゴム粉末は粉じんとなって大気中に漂う他、路上の小石やブレーキダストなどの他の粒子と結合して比較的大きな粉末として環境中に残留する事が、[[JATMA]]も参加しているタイヤ業界世界CEO会議の中で調査結果として纏められている<ref>[http://www.jatma.or.jp/news_psd/news1132.pdf JATMAニュース No.1132]</ref>。この調査結果によると、タイヤ摩耗粉による急性の毒性被害は発生しないとされているものの、粒径10ミクロン以下の摩耗粉の健康に対する影響は引き続き調査が必要と結論付けられている。
 
一般的な市販車両で使用されるタイヤ摩耗粉は極めて微細な粒子として発生するが、[[モータースポーツ]]で用いられる[[スリックタイヤ]]などから発生するタイヤカスは、日本では'''[[ウンコ]]'''、アメリカでは'''タイヤマーブル'''<ref>お菓子の[[マーブルチョコレート]]に由来する</ref>とあだ名されるほど大きな粒径で発生する。レコードライン上の舗装にこびりついたタイヤカスは'''ラバーが乗った'''と形容され、グリップ向上の要素として歓迎される反面、路面に乗ることなく剥がれた大径のタイヤカスは時としてサーキットを走行する車両を妨害する程の厄介な障害物となりうる<ref>[http://as-web.jp/news/info.php?c_id=2&no=28349 MOTUL GT-Rのストップ、“犯人”はなんとタイヤカス - AUTOSPORT web]</ref>。[[インディカー]]や[[NASCAR]]等のオーバルレースでは、タイヤマーブルがクラッシュの直接要因となる為、トラック上に多数散乱しているとオフィシャルに判断されると、直ちにレースが黄旗中断され、専用の路面清掃車がマーブルの除去を行う。今日のような[[ワンメイク]]タイヤの使用が主流でなかった時代には、新型のタイヤを装着して[[ファステストラップ]]を叩きだした車両のタイヤカスをライバルチーム関係者が拾い集め、成分の分析を試みることも行われたという。
 
== 入手性の問題 ==
市場に流通するタイヤの種類や寸法は、その時代によって様々に変遷していく。日本においては1970年代以前はインチ表記のバイアスタイヤが主流で、ホイールによってはチューブタイヤのものもしばしばみられた。1980年代以降は殆どがメトリック表記のラジアルタイヤへと移行し、チューブタイヤはほぼ姿を消した。軽自動車においては1980年代末を境に、10インチサイズのバイアスタイヤから12インチサイズのラジアルタイヤに移行していった。インチ表記においてもメトリック表記においても'''規格書上は存在するが、実際に純正採用された例がごく僅か<ref>[[ポルシェ]]や[[フェラーリ]]、或いは[[アメリカ車]]等の[[輸入車]]の[[旧車]]によく見られる、インチが小さめで高扁平率ながらも非常に横幅が広いサイズなど</ref>、或いはほぼ皆無なサイズ'''<ref>極端な[[インチアップ]]の際に使用される18-22インチクラスの35/30扁平タイヤなど</ref>も数多く存在する。
 
こうした変遷の中で近年では新車採用されなくなったサイズや、ごく一部の車種にのみ採用されたサイズのタイヤが市場流通から姿を消す、或いは選択できるタイヤの種類が極端に狭くなるなどの問題がしばしば発生する。前者の代表例がかつて不整地走行車両(特に[[ジープ]])のマッドテレーンタイヤの定番であった'''ゲタ山タイヤ'''であり、2000年代末ごろには各メーカー廃盤となった為、現在の[[陸上自衛隊]]に多数残存する[[73式小型トラック]](旧)においては、廃車抹消された車体のタイヤのうち程度の良いものを予備部品として残しておき、使いまわしている例が見られる。後者の代表例がかつて軽自動車用タイヤの主流サイズであった10インチサイズのバイアスであり、2010年代初頭現在では入手可能なタイヤがラグパターンのサマータイヤに限定されており、スタッドレスタイヤがほぼ皆無となっている現状がある。
 
このような場合、タイヤの規格書を参考にタイヤ外径をなるべく変更しないようにして、ホイールのインチアップを行うことである程度まで対応が可能な場合もあるが、前輪に大口径の[[フリーホイールハブ]]が装着されている場合や、後輪に[[ダブルタイヤ]]で装着されている場合、或いは特殊な[[ナット座ピッチ直径|PCD]]を採用しているなど、何らかの理由で交換用ホイールの入手が不可能な場合には、タイヤの入手性の問題によってその車両の健全な運用に支障をきたす事態が発生する場合もある。
 
== タイヤメーカー ==