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'''イオン化傾向'''(イオンかけいこう、{{lang-en-short|ionization
== 概要 ==
溶液中にある単体と別の元素のイオンとが存在するとき、両者の間で[[酸化還元反応]]が生じると、単体は酸化されてイオン化するのに対してもう一方は還元されて単体として析出する。このとき「還元された元素より酸化された元素の方がイオン化傾向が大きい」ということになる。どちらが酸化されどちらが還元されるかは[[酸化還元電位]]の大小に依存するので、この電位の順に元素を並べたものがイオン化傾向の順となる。
イオン化傾向が小さいほどイオンは還元され金属として[[析出]]しやすくなる。また、イオン化傾向が大きい金属単体でも[[融解塩電解]]などで得ることができる。
なお、イオン化傾向とは別な指標に[[イオン化エネルギー]](イオン化エンタルピー・イオン化エントロピー)という指標がある。それは原子核に束縛されている電子が電離するのに必要なエネルギー値であり、文字通り原子のイオン化のしやすさの指標である。しかし、酸化還元反応の進む方向は単にイオン化エネルギーの大小だけではなく、イオンの溶液中での安定性や電気化学活量など[[化学平衡]]として反応が進む方向を決定づける他の因子に大きく影響される。
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== 金属のイオン化傾向 ==
イオン化傾向は水溶液中における水和イオンと単体金属との間の[[標準酸化還元電位]]の順であらわされる。このとき水和金属イオンは無限希釈状態である仮想的な1 mol
ここで <math>F</math> は[[ファラデー定数]]、<math>z</math> はイオンの電荷である。
金属のイオン化傾向を大きいものから順に配列すると以下のとおりになる(電位は<ref name=binran>日本化学会編 『改訂4版 化学便覧 基礎編』 丸善</ref>による)。ただし( )内はギブス自由エネルギー変化からの計算値(<ref name=Parker>D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal, The NBS tables of chemical thermodynamics properties, ''J. Phys. Chem''. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982)</ref>による数値)。
{|
| [[リチウム]] (Li), || Li<sup>+</sup>(aq) + e<sup>
|-
| [[セシウム]] (Cs), || Cs<sup>+</sup>(aq) + e<sup>
|-
| [[ルビジウム]] (Rb), || Rb<sup>+</sup>(aq) + e<sup>
|-
| [[カリウム]] (K), || K<sup>+</sup>(aq) + e<sup>
|-
| [[バリウム]] (Ba), || Ba<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[ストロンチウム]] (Sr), || Sr<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[カルシウム]] (Ca), || Ca<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[ナトリウム]] (Na), || Na<sup>+</sup>(aq) + e<sup>
|-
| [[マグネシウム]] (Mg), || Mg<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[アルミニウム]] (Al), || Al<sup>3+</sup>(aq) + 3 e<sup>
|-
| [[マンガン]] (Mn), || Mn<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[タンタル]] (Ta), || Ta<sub>2</sub>O<sub>5</sub>(s) + 10 H<sup>+</sup>(aq) + 10 e<sup>
|-
| [[亜鉛]] (Zn), || Zn<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[クロム]] (Cr), || Cr<sup>3+</sup>(aq) + 3 e<sup>
|-
| [[鉄]] (Fe), || Fe<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[カドミウム]] (Cd), || Cd<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[コバルト]] (Co), || Co<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[ニッケル]] (Ni), || Ni<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[スズ]] (Sn), || Sn<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[鉛]] (Pb), || Pb<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| ([[水素]] (H<sub>2</sub>)), || 2 H<sup>+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[アンチモン]] (Sb), || Sb<sub>2</sub>O<sub>3</sub>(s) + 6 H<sup>+</sup>(aq) + 6 e<sup>
|-
| [[ビスマス]] (Bi), || Bi<sup>3+</sup>(aq) + 3 e<sup>
|-
| [[銅]] (Cu), || Cu<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[水銀]] (Hg), || Hg<sub>2</sub><sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[銀]] (Ag), || Ag<sup>+</sup>(aq) e<sup>
|-
| [[パラジウム]] (Pd), || Pd<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[イリジウム]] (Ir), || Ir<sup>3+</sup>(aq) + 3 e<sup>
|-
| [[白金]] (Pt), || Pt<sup>2+</sup>(aq) + 2 e<sup>
|-
| [[金]] (Au), || Au<sup>3+</sup>(aq) + 3 e<sup>
|}
{{-}}
[[タンタル]]および[[アンチモン]]などは[[イオン半径]]が小さく電荷が大きいため、水和イオンは非常に[[加水分解]]しやすく、強[[酸性]]においても安定に存在し得ないため[[酸化物]]との電位で代用している。[[白金]]および[[金]]などの水和イオンも非常に加水分解しやすく、特に金については単純な水和イオンは存在しないとされているため<ref name=Cotton> FA コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年</ref>、正確な値とはいえない。
== 覚え方 ==
いずれもイオン化傾向の大きい順である。
=== 陽イオン ===
; 貸そうかな、まああてにするな、ひどすぎる借金
: 貸そう (K) か (Ca) な (Na)
; カリウム狩るなっと間があるぜ? 鉄にすな、水道、水銀、銀、白金金▼
:
; 《理智の「ルビ・カバー」》、《巣と炉》、《仮名の魔具》、《アルの漫画》、《合えんた黒夢》、《鉄門と木庭に》、《鈴園の水》、《アンチ尾藤》、《水銀》、《銀色パラパラ》、《白い金》▼
▲;カリウム狩るなっと間があるぜ? 鉄にすな、水道、水銀、銀、白金金
: <font color ="#999999">''《''</font>理智 (Li) <font color ="#999999">''の「''</font> ルビ (Rb)<font color ="#999999">''・''</font> カ (K) バー (Ba)<font color ="#999999">''」》、《''</font> 巣と炉 (Sr)<font color ="#999999">''》、《''</font> 仮 (Ca) 名 (Na)<font color ="#999999">''の''</font> 魔具 (Mg)<font color ="#999999">''》、《''</font> アル (Al)<font color ="#999999">''の''</font> 漫画 (Mn)<font color ="#999999">''》、《''</font> 合えん (Zn)<font color ="#999999">''た''</font> 黒夢 (Cr)<font color ="#999999">''》、《''</font> 鉄 (Fe) 門 (Cd)<font color ="#999999">''と''</font> 木庭 (Co) に (Ni)<font color ="#999999">''》、《''</font> 鈴 (Sn) 園 (Pb)<font color ="#999999">''の''</font> 水 (H)<font color ="#999999">''》、《''</font> アンチ (Sb) 尾 (Bi) 藤 (Cu)<font color ="#999999">''》、《''</font> 水銀 (Hg)<font color ="#999999">''》、《''</font> 銀色 (Ag) パラパラ (Pd)<font color ="#999999">''》、《''</font> 白い (Pt) 金 (Au)<font color ="#999999">''》''</font>▼
▲;《理智の「ルビ・カバー」》、《巣と炉》、《仮名の魔具》、《アルの漫画》、《合えんた黒夢》、《鉄門と木庭に》、《鈴園の水》、《アンチ尾藤》、《水銀》、《銀色パラパラ》、《白い金》
▲:<font color ="#999999">''《''</font>理智 (Li) <font color ="#999999">''の「''</font> ルビ (Rb)<font color ="#999999">''・''</font> カ (K) バー (Ba)<font color ="#999999">''」》、《''</font> 巣と炉 (Sr)<font color ="#999999">''》、《''</font> 仮 (Ca) 名 (Na)<font color ="#999999">''の''</font> 魔具 (Mg)<font color ="#999999">''》、《''</font> アル (Al)<font color ="#999999">''の''</font> 漫画 (Mn)<font color ="#999999">''》、《''</font> 合えん (Zn)<font color ="#999999">''た''</font> 黒夢 (Cr)<font color ="#999999">''》、《''</font> 鉄 (Fe) 門 (Cd)<font color ="#999999">''と''</font> 木庭 (Co) に (Ni)<font color ="#999999">''》、《''</font> 鈴 (Sn) 園 (Pb)<font color ="#999999">''の''</font> 水 (H)<font color ="#999999">''》、《''</font> アンチ (Sb) 尾 (Bi) 藤 (Cu)<font color ="#999999">''》、《''</font> 水銀 (Hg)<font color ="#999999">''》、《''</font> 銀色 (Ag) パラパラ (Pd)<font color ="#999999">''》、《''</font> 白い (Pt) 金 (Au)<font color ="#999999">''》''</font>
=== 陰イオン ===
; のっそり王さんくるぶし痛い▼
: の (NO<sub>3</sub><sup>-</sup>) っそ (SO<sub>4</sub><sup>2-</sup>) り王 (OH<sup>-</sup>) さんくる (Cl<sup>-</sup>) ぶ (Br<sup>-</sup>) し痛 (I<sup>-</sup>) い
; 昇竜の水は、演習用▼
▲;のっそり王さんくるぶし痛い
:
▲;昇竜の水は、演習用
== イオン化傾向の問題点 ==
標準酸化還元電位、ギブス自由エネルギーに基くイオン化傾向は、イオンの状態をイオン間の相互作用のはたらかない無限希釈を基準としているため、通常の実験的濃度において必ずしもこの順序が保持されるとは限らず、特に電位の接近している[[スズ]]と[[鉛]]などの順序はあまり意味を成さないとの意見もある<ref>渡辺 正 「イオン化列は仮想の世界
水溶液中において酸などとの反応性の観点では[[イリジウム]] (Ir) および[[タンタル]] (Ta) が最小とされるが、酸化還元電位の点では必ずしもそうはいえない。これは表面に緻密な酸化皮膜を生成するといった[[不動態]]形成、あるいは速度論的な関与が無視されていることによる。
さらに古くから問題にされてきた[[カルシウム]]と[[ナトリウム]]の順序であるが、議論の的となったのはナトリウムが水とより激しく反応するにも拘わらずイオン化傾向は Ca > Na である点である。金属から水溶液中の[[水和]]イオンへの変化を考察するためには、'''原子化'''→'''イオン化'''→'''イオンの水和'''という過程を考慮しなければならない。カルシウムおよびナトリウムでは以下のようになる。▼
▲さらに古くから問題にされてきた[[カルシウム]]と[[ナトリウム]]の順序であるが、議論の的となったのはナトリウムが水とより激しく反応するにも拘わらずイオン化傾向はCa > Naである点である。金属から水溶液中の[[水和]]イオンへの変化を考察するためには、'''原子化'''→'''イオン化'''→'''イオンの水和'''という過程を考慮しなければならない。カルシウムおよびナトリウムでは以下のようになる。
{| class="wikitable" style="float:left; text-align: center"
! 金属 !! 昇華熱 Δ''H''<sub>sub</sub><ref name=Parker /> !! イオン化エネルギー Δ''H''<sub>ion</sub><ref name=Parker /> !! 水和熱 Δ''H''<sub>hyd</sub><ref name=binran />
|-
| 反応式 || M(s) → M(g) || M(g) → M<sup>n+</sup>(g) + n e<sup>
|-
| [[カルシウム]] || 178.2 kJ mol<sup>
|-
| [[ナトリウム]] || 107.32 kJ mol<sup>
|}
{{-}}
以上は[[エンタルピー]]変化であり、また水和熱の実測値は陽イオンと陰イオンとの合計であり、これらの分割は水和熱が ''z''<sup>2</sup>/''r''(電荷の2乗/イオン半径)に比例するとの仮定に基くものであるため精密性に欠く部分があり、数値全体が正確であるとはいえないが、定性的には以下のことがいえる。ナトリウムの方がカルシウムよりも遊離状態のイオンを生成しやすいが、電荷が大きいカルシウムイオンは水和熱の絶対値(エンタルピー変化が負に大きいほど強く水和)が大きくイオン化エネルギーを打ち消し結果的に水和イオンの生成ギブス自由エネルギーを押し下げ、ナトリウムと逆転している。▼
同様に[[アルカリ金属]]間の比較では[[セシウム]] (Cs) が反応性の上では最大であるが、イオン半径は Cs<sup>+</sup> > Rb<sup>+</sup> > K<sup>+</sup> > Na<sup>+</sup> > Li<sup>+</sup> であり、それゆえ[[リチウム]]は反応性が最小であるにも拘わらず、イオン半径が最も小さいため水和熱の絶対値が大きく結果的に電位が最も低くなっている<ref>長島弘三、佐野博敏、富田 功 『無機化学』 実教出版</ref>。以上のようにイオン化傾向は必ずしも反応性の順序を反映しているとはいえない部分があり、定性的な議論に用いるに留めるのが望ましい。▼
▲以上は[[エンタルピー]]変化であり、また水和熱の実測値は陽イオンと陰イオンとの合計であり、これらの分割は水和熱が''z''<sup>2</sup>/''r''(電荷の2乗/イオン半径)に比例するとの仮定に基くものであるため精密性に欠く部分があり、数値全体が正確であるとはいえないが、定性的には以下のことがいえる。ナトリウムの方がカルシウムよりも遊離状態のイオンを生成しやすいが、電荷が大きいカルシウムイオンは水和熱の絶対値(エンタルピー変化が負に大きいほど強く水和)が大きくイオン化エネルギーを打ち消し結果的に水和イオンの生成ギブス自由エネルギーを押し下げ、ナトリウムと逆転している。
▲同様に[[アルカリ金属]]間の比較では[[セシウム]] (Cs) が反応性の上では最大であるが、イオン半径はCs<sup>+</sup> > Rb<sup>+</sup> > K<sup>+</sup> > Na<sup>+</sup> > Li<sup>+</sup>であり、それゆえ[[リチウム]]は反応性が最小であるにも拘わらず、イオン半径が最も小さいため水和熱の絶対値が大きく結果的に電位が最も低くなっている<ref>長島弘三、佐野博敏、富田 功 『無機化学』 実教出版</ref>。以上のようにイオン化傾向は必ずしも反応性の順序を反映しているとはいえない部分があり、定性的な議論に用いるに留めるのが望ましい。
== 電池 ==
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== 参考文献 ==
{{
== 関連項目 ==
* [[電気陰性度]]
* [[犠牲電極]]
* [[ローマンネイル]]
* [[標準電極電位]]
{{DEFAULTSORT:いおんかけいこう}}
[[Category:イオン]]
[[category:元素]]
{{Sci-stub}}
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