「急性放射線症候群」の版間の差分

削除された内容 追加された内容
m 急性放射線症」をこのページあてのリダイレクト「急性放射線症候群」へ移動: 文献における正式な疾患名に訂正。
全般的に追記。なお放射線障害#急性放射線障害および被曝#急性放射線障害の最新版からの転記部分を含む。
1行目:
{{Medical}}
{{Infobox Disease
{{出典の明記|date=2011年3月}}
| Name = {{PAGENAME}}
'''急性放射線症'''(きゅうせいほうしゃせんしょう、{{lang-en-short|acute radiation syndrome}} '''急性放射線症候群'''とも)とは、「人体急性全身被曝」(人体が短時間のうちに大量の[[放射線]]に[[被曝]]すること)によって数カ月以内に引き起こされる症状である。
| Image = Hiroshima girl.jpg
一般的に、1[[グレイ_(単位)|Gy]]以上の急性全身被曝を受けたときに発症する。全身被曝ではなく部分被曝(体の一部のみが大量被曝)をしただけの場合は、患部の切除等をするだけで急性放射能症を起こさずに済む。
| Caption = [[広島市への原子爆弾投下]]による皮膚障害からの回復期にある少女。
*3〜10[[シーベルト]]で骨髄死を起こし、[[白血病]]などになる。
| DiseasesDB =
*10〜100[[シーベルト]]で腸死を起こし、3日~4日で死亡する。10シーベルト以上の人体急性全身被曝をした場合の生存率はほとんどない。
| ICD10 = {{ICD10|T|66||t|66}}
*100[[シーベルト]]以上を被曝すると中枢神経死を起こして数時間~1日以内に全身けいれんなど中枢神経症状を起こして死亡する。
| ICD9 = {{ICD9|990}}
| ICDO =
| OMIM =
| MedlinePlus = 000026
| eMedicineSubj = article
| eMedicineTopic = 834015
| MeshID = D011832
}}
'''急性放射線症候群'''({{Lang-en|acute radiation syndrome, '''ARS'''}})は、電離[[放射線]]を[[被曝]]した後、急性期(数日〜数ヶ月)に発生する障害。''電離放射線被曝による'''''早期障害'''({{Lang-en-short|early injury by ionizing radiation}})のもっとも主たるものである。
 
== 病態 ==
{{Medical-stub}}
主に細胞死によって生体器官の機能が損なわれて生じる急性の障害である。ごく少量の被曝では影響が現れず、一定の[[しきい値|しきい]]線量を超えて被曝すると障害が現れる。多量の放射線を浴びるとほぼ確実に障害が現れるため、確定的影響と呼ぶ場合もある。
 
ある程度多量な放射線を浴びたときには[[皮膚]]・[[粘膜]]障害や[[骨髄]]抑制(造血細胞が減少し[[白血球]]や[[赤血球]]が減少すること)、[[脊髄]]障害は必発であり、また莫大な放射線を浴びた場合には死に至る。これらの障害は、それぞれどの程度の被曝量から生じるかの[[閾値]]がだいたい決まっており、その値よりかなり低いならば、まず起きる可能性を考えなくてよい類のものである。そのため、急性放射線障害のことを確定的影響と呼ぶ場合もある。
{{DEFAULTSORT:きゆうせいほうしやせんしよう}}
 
[[アルファ線]]や[[ガンマ線]]のような[[電離放射線]]を水に照射すると、[[電離]]作用により[[ラジカル (化学)|ラジカル]]、[[過酸化水素]]や[[イオン対]]等が発生する。ラジカルはきわめて急速な化学反応を起こす性質を持つ。人体の細胞中の水にラジカルが生じると、細胞中の[[デオキシリボ核酸|DNA]]分子と化学反応を起こし、[[遺伝情報]]を損傷する。
DNAは2重のポリ核酸の鎖からなっているが、その片方だけが書き換えられたのであれば、酵素のはたらきにより、もう一方のタンパク質の鎖を雛型として数時間のうちに修復される。しかし、2本の鎖の同じ箇所が書き換えられた場合は修復はきわめて難しくなる<ref>「放射線 その利用とリスク」地人書館、エドワード・ポーチン著、中村尚司訳、昭和62年4月10日初版第1刷</ref>。損傷が修復できる限度を越えると、細胞分裂不全となり自死してしまう。こうして細胞が必要なときに補充されず、臓器の機能を維持する数の細胞が確保されないと、[[放射線障害]]としての症状が現れるのである。
 
また細胞分裂の周期が短い細胞ほど、放射線の影響を受けやすい([[骨髄]]にある[[造血細胞]]、[[小腸]]内壁の[[上皮細胞]]、眼の[[水晶体]]前面の[[上皮細胞]]などがこれに当たる)。逆に細胞分裂が起こりにくい骨、筋肉、神経細胞は放射線の影響を受けにくい。これを[[ベルゴニー・トリボンドーの法則]]と呼ぶ。
 
== 症候 ==
=== 放射線宿酔 ===
被曝後48時間以内の前駆期に出現するもので、悪心、嘔吐、全身倦怠など、[[二日酔い]]に似た非特異的症状である。自覚症状が出現するのはおおむね1[[グレイ_(単位)|Gy(グレイ)]]以上の全身被曝線量を受けた場合であるが、被曝から発症までの時間と重症度は被曝量によって異なる。
 
=== 臓器特有の臨床症状 ===
; 急性骨髄症候群
: 1[[グレイ_(単位)|Gy]]以上の全身被曝によって出現する。これは、各臓器の幹細胞のなかで骨髄の造血幹細胞がもっとも放射線に対する感受性の高いことによるもので、造血幹細胞が細胞死を来たし、造血細胞が減少する。これにより[[白血球]]と[[血小板]]の供給が途絶えるため、出血が増加すると共に[[免疫]]力が低下し、重症・無治療の場合は30〜60日程度で死亡する。
; 消化管症候群
: 5Gy以上の全身被曝によって出現する。これは[[小腸]]内の[[幹細胞]]が細胞死を来たすことによって[[上皮細胞]]の供給が途絶することによるもので、吸収力低下による[[下痢]]や、[[細菌]]感染が発生し、重症無治療の場合は20日以内に死亡する。
; 中枢神経・心血管症候群
: 30Gy以上という高線量の全身被曝によって出現する。[[中枢神経]]に影響が現れ、意識障害、[[ショック]]症状を伴うようになる。中枢神経への影響の発現は早く、ほとんどの被曝者が5日以内に死亡する。
; [[放射線肺炎]]
: 40Gy以上という高線量の局所被曝によって出現する。80%はステロイド治療に対する反応性を示すが、時に[[肺線維症]]に進展する。
; 皮膚障害
: 皮膚は[[上皮]]基底細胞の感受性が高く、3Gy以上で脱毛や一時的紅斑、7〜8Gyで乾性落屑、15Gy以上で湿性落屑や水疱形成、20Gy以上で潰瘍、25Gy以上で壊死がみられる。ただし,線量率(Gy/時間)と被曝皮膚面積により、これらの症状は変動する。
 
== 予後・治療 ==
{{See also|放射能汚染対策}}
予後は被曝線量に依存しており、LD 50/60(60日以内に被曝した人たちの50%が死亡する線量)は、無治療の場合は3Gy、[[集中治療室|集中治療]]を行なった場合は6〜8Gyとされている。
 
治療としては急性骨髄症候群に対するものが主となり、免疫力低下による[[感染症]]への対策のほか、骨髄機能障害そのものに対する[[造血幹細胞移植]]や[[顆粒球コロニー刺激因子]]の投与が行なわれる。
 
消化管障害に対しては、2011年現在では対症療法が中心である。皮膚障害に対しては皮膚移植が実施される。
 
== 参考文献 ==
<references/>
* {{Cite book|和書|author=衣笠達也|year=2009|title=新臨床内科学 第9版|chapter=放射線障害|publisher=[[医学書院]]|isbn=978-4-260-00305-6}}
* {{Cite book|和書|author=大泉幸雄|year=2010|title=今日の治療指針 2010年版|chapter=放射線による急性放射線障害|publisher=[[医学書院]]|isbn=978-4-260-00900-3}}
 
{{DEFAULTSORT:きゆうせいほうしやせんしようこうくん}}
[[Category:放射線医学]]
 
[[en:Acute radiation syndrome]]